特別対談
第8回 日本マーケティング本大賞2025準大賞を受賞
「君は戦略を立てることができるか
視点と考え方を実感する4時間」 より
音部 大輔(EME) × 東 明彦(代表取締役社長)

(左側:東 明彦 NTTアド 代表取締役社長 ・ 右側:音部 大輔 NTTアド Executive Marketing Evangelist)
受賞にあたって
東:この度は、「君は戦略を立てることができるか 視点と考え方を実感する4時間」の日本マーケティング本大賞の準大賞受賞、誠におめでとうございます。受賞後、周囲の方からの反響はいかがでしたか。
音部:おかげさまで、さまざまな反響がありました。マーケティング以外の分野からは「婚活がうまくいった」「キャリアアップや子育てに役立った」など、想定外の喜びの声もいただきました。また、スポーツチームのコーチをされている読者からは「チームの勝ちにつながった」という声もいただきました。
東:「戦略」はマーケティングの枠を超えて、さまざまな場面で応用できるということですね。
戦略の構造は「目的」と「資源」
困難は目的と資源のミスマッチから生まれる
東:音部さんの書籍では、戦略を「目的を達成するための資源利用の指針」と定義されていますね。この考え方について、改めてお聞かせいただけますか。
音部:何かに取り組むときに「しんどいな」「難しいな」「何をどうしたらいいのかよくわからない」と感じることがありますよね。これは大体、目的に対して資源が足りていないサインなのです。
私たちは直感的に、目的に対して資源が不足している状況を「しんどい」と感じるので、素直な反応としては「じゃあ頑張らなくちゃ」となりますが、頑張ることで資源を1割増しにできるかもしれない、それは決して悪くない対応策です。
でも、経験を積んで気付くのは、頑張ったうえでさらに頑張っても何とかならないことが多いということです。
東:頑張るだけでは解決しないということですね。
音部:資源優勢が確立できていない状態のときに「しんどい」と感じるので、まず必要なのは、目的に立ち返ること。「そもそも目的は本当にこれなのか」「目的の再解釈は正しいのか」を問い直す。この2つが正しいのであれば、資源を強化せざるを得ません。
資源強化の方法は、期間を後ろに伸ばす、人の手を借りる、外部の支援を得るなどがあります。つまり、「目的を改めて設定し直す」「目的を再解釈する」「資源を強化する」、この3つのどれかです。
「しんどいな」「難しそうだな」という段階から、少なくともこの3つのどれかという指針が見えてくるので、解決しやすくなるのです。
目的設定の在り方と重要性

目的設定は意外と難しい
東:戦略は目的と資源で構成されますが、そもそも「目的がこれでいいのか」という、目的の適正性について悩むことがあります。目的設定の在り方について、アドバイスをいただけますか。
音部:難しいですよね、目的設定って意外と。例えば、一昨年が4%成長、昨年が5%成長だったとします。では今年は何パーセント成長を目指しますか、と聞かれたら、「5%、あるいは6%かな」と答えるのが自然です。この提案に対して「全然違う」と言われることは、あまりないと思います。
でも、会社全体で見たときに、「我が社は来期30%成長を期待している」という文脈が入ってくると、途端に「5%しか成長していない事業で大丈夫なのか」という話になる。
逆に、全体がマイナス5%の状況なら、「ここで伸びる可能性があるから、ここで補填しよう」となって、「もっと伸びなきゃいけないのでは」という話になります。見え方が全く変わってくるのです。
目的設定とは成功の定義を明確にすること
音部:私が非常に重要だと思っているのは、「本当にそれで成功と言えるのか」という問いです。
目的を達成しているのに、それほど褒められるわけではない、という達成の仕方がたまにあります。それはちょっと寂しいですよね。
関与者含め多くのステークホルダーたちが「素晴らしい、よくやった」と言ってくれるような成功になっていますか、という確認が大切です。
東:目的の自分ごと化も重要ですね。目的を自分ごと化しないと、そもそも目的達成の意欲が湧きません。すべては目的からスタートするので、自分ごと化も戦略の中に入ってくるのですよね。当社では「クリエイティビティ&テクノロジーでCXに強いマーケティング支援会社になる」という目的を掲げていて、NTTグループの中で当社が担うべき役割を考え設定したものです。
「ある場合・ない場合」で考える
音部:「何をもって成功としますか」という問いに加えてもう一つ、「ある場合・ない場合」で考えることができます。
このプロジェクトがある場合とない場合で何が違うか、この差の最大化がそのプロジェクトの役割やひいては目的が見えてきます。
これはブランドについても同じです。ブランドポートフォリオの中で、このブランドがある場合とない場合、何が違うのか。何も違わないのであれば、そのブランドはいらない。そのブランドがなくなることで売上が足りなくなるなら、売上を確保しなければいけないし、利益が困るなら利益が最優先になります。
東:なるほど。組織にも当てはまりますね。
音部:この組織がある場合とない場合何が違うのかを考え、その差を最大化する。その結論として、CXの浸透やCXに基づくオペレーションの改善、売上貢献拡大といったことが出てくるのであれば、NTTアドの「CXに強いマーケティング支援会社になる」というのは、分かりやすい目的の一つになりますよね。
NTTアドならではの資源

東:CXへの貢献を実現するために、NTTアドとしてどのような資源を活用できるのか、音部さんの視点からご意見をいただけますか。
音部:NTTアドは、長らくNTTグループ全体のプロモーション実行に関わってきました。場合によっては複数の事業体を束ねたり、継続的に施策を重ねてきている。CXでは、複数のタッチポイントで消費者やクライアントの認識を管理していくことが重要なので、複数のタッチポイントを立体的に組み合わせる経験を、何十年も重ねてきた知見の持ち方というのは、CXに対する価値が非常に高いと思います。
NTTグループといっても、非常に多様な事業体があります。NTTアドは、1事業のインハウスエージェンシーとは性質が異なる、つまり、NTTアドの特徴は、様々な事業体のインハウスエージェンシーであることなのです。
東:NTTグループはB2B系の事業が多く、まちづくりからエネルギー、さまざまな分野に展開しています。お客さまのカスタマーサクセスのためにDXを活用する役割を担っています。お客さまの事業の中に入り込んで理解を深め、カスタマーサクセスを実現していく。そう考えると、あらゆる業種業態のお客さまが対象になり、DXとDXで得たデータを活用してお客さまの売上やサービスに貢献する、我々はそのようなパートナーになろうとしています。
音部:NTTグループ内の様々な事業体のインハウスエージェンシーであったがゆえに重ねた経験値というのは、多様な事業体への対応力です。それを今度はNTTグループ外のクライアントに向けて、資源優先として確立できるのです。

音部顧問とNTTアドで取り組む「NTTグループ向けCX変革人財育成プログラム」の模様
音部EMEとNTTアドがタッグを組むことの意義
戦略構築において最も重要な目的の設定から明確な戦略とブランド定義を行い、それをNTTのテクノロジーを活用したマーケティング活動の全体設計に落とし込むことができます。これによって、クライアントは効果的かつ効率的なマーケティング活動が遂行できるようになります。戦略から実行まで一貫し、クライアント企業の真のCX創造をご支援していきたいと考えています。
