調査・研究/発行物

先事新聞 vol.32 今どきのシェアネタ事情

今号のキーワード 今どきのシェアネタ事情

ここ最近、『egg』『小悪魔ageha』『BLENDA』など、ギャル系雑誌の休刊が相次いでいる。これらの雑誌の読者であるギャル系女子たちは、最もトレンドに敏感な消費者であるのと同時に、常に最新の情報をキャッチアップするキュレーターでもある。にもかかわらず、彼女たちの情報源として機能してきたはずの雑誌が次々と休刊に追い込まれており、どうやらその背景には、ソーシャルメディアの存在が大きく影響しているようだ。あるギャル系カリスマモデル曰く、今や最新のファッション情報は、雑誌やブログからではなく、Twitterやinstagramを通じて入手しているのだという。つまり、彼女のネタ元とは、出版社で編集された二次情報ではなく、ソーシャルメディアを通じ仲間同士でシェアし合う一次情報であったり、ブランドからダイレクトに配信される製品情報であったりするわけだ。今、こうしたギャル系女子に限らず、人々の情報選択眼は変化しており、効率的な情報入手手段が日々検証されている。

スマートフォンの急速な普及とともに、ソーシャルメディアの利用率も高まっており、誰もがネタを発信・共有し合える「シェア社会」が浸透しつつある。最近では、複数のソーシャルメディアを使い分けるユーザーも増加傾向にあり、生活者の情報リテラシーは底上げされつつあるといってよい。先日、我々が実施した20代から30代男女へのグループインタビューの中でも、LINE、Facebook、Twitter、instagramなど、ソーシャルメディアのアカウントを複数所有し、各々で形成される人間関係に応じて、シェアするネタやコミュニケーションを使い分けているという話題で盛り上がった。ネット上で気になる画像や動画があればリンク先をシェアし、最新のトレンドスポットに訪れればすぐに感想コメントを投稿するなど、シェアするネタの種類は極めて多岐にわたっているようだ。しかし、よくよくグループインタビューの対象者に話を聞くと、各ソーシャルメディアでシェアされやすいネタには各々傾向があるらしい。そこで、今号の『先事新聞』では、今どきのユーザーは、ソーシャルメディアごとにシェアするネタを使い分けているのではないかといった仮説を立て、各々のソーシャルメディアにおいてどのような傾向が見られるのかを検証することとした。

まず、LINE、Facebook、Twitterのうち、いずれかのソーシャルメディアを利用している10代から50代ユーザーを対象に、各世代200サンプルを回収目標とし(回収サンプル数は924サンプル)、インターネット調査を実施した。ソーシャルメディアを上記の3つに絞った理由としては、NTTアドのオリジナル調査「デジコム調査」において、最も利用率の高いソーシャルメディアであるということ、これまで我々が実施した数々の定性調査においても話題に上る頻度が高いことから、ティピカルなソーシャルメディアと位置づけた。

最も「クローズドなコミュニティー」として認識・利用されているソーシャルメディアはFacebook

グループインタビューにおいて、ソーシャルメディアごとにシェアするネタを使い分ける際、仲間内でのコミュニケーションか、衆人環視下でのコミュニケーションかが主な判断の基準であることが分かった。そこで、それぞれのアカウント所有者に対し、「現在、あなたがお使いのソーシャルメディアはどのようにお使いですか?」と尋ね、投稿の閲覧制限や申請制限を設けている場合を「クローズドなコミュニティー」、特に制限を設けていない場合を「オープンなコミュニティー」とし、各々の利用意向を尋ねることとした(グラフ1参照)。

まず、調査結果をメディア別に見ると、最も「クローズドなコミュニティー」として認識・利用されているのは、Facebookの45.2%であり、続いてLINEの37.5%、Twitter の30.4%となった。ある意味、Facebookは、「クローズドなコミュニティー」か「オープンなコミュニティー」かといったポジションが曖昧であり、見方を換えれば、多機能であるがゆえに多様な使われ方をしていると言えよう。また、Twitterは、「オープンなコミュニティー」として認識・利用されている割合が最も高く、拡散を目的としたコミュニケーションが定着しているようだ。LINEは、ネタの拡散というより、何気ない日常的な会話がメインであるため、ことさら制限を設ける必要がなく、比較的「オープンなコミュニティー」として存在しているようだ。

世代別に見ると、10代は、LINE、Facebookについて、「オープンなコミュニティー」として認識・利用している割合が高い。デジタルネイティブ世代でもある彼等は、コミュニケーションリテラシーが高い反面、まだ学生でもあり、セキュリティーに対する意識が低いと考えられる。また、10代は、学校や家族といった閉じたコミュニティーに縛られており、その反動からか、LINEやFacebookは「オープンなコミュニティー」でありたいといった欲求が強いのかもしれない。一方、20代、30代は、LINE、Facebookともに、「クローズドなコミュニティー」として認識・利用している割合が高く、グループインタビューの中でも、「Facebook上でイベントを告知し、LINEで催促、確認している」など、グループ機能を多用しているといった声が多く聞かれた。また、20代、30代は、LINEについてもグループ機能を多用する傾向にあり、その機能的なメリットとしては、「一番早く連絡を取り合えるから」「既読が表示されるので、返事が無いと催促しやすいから」などが挙げられ、接触頻度の高い仲間とのコミュニケーションツールとして機能しているようだ。

主なSNSの利用制限の有無
関係性の深い他者とのコミュニケーションではLINEを活用

次に、それぞれのアカウント所有者に対し、「現在、あなたがお使いのソーシャルメディアではどのような人と交流していますか?」と尋ねてみた(グラフ2参照)全体的には、「学生時代の友人・知人」「社会人になってからの友人・知人」「家族や血縁関係がある人たち」が高いスコアを示している。メディア別に見ると、LINEは、「学生時代の友人や知人」59.7%、「家族や血縁関係にある人たち」50.3%と、関係性の深い他者が半数を超えており、とりわけ、最も親密な家族間のコミュニケーションツールとしての評価は相対的に高い。LINEは、スタンプや少ない文字数でのやりとりが中心であるため、その利便性は、関係性の深い他者とのコミュニケーションにおいて発揮されるのかもしれない。

一方、Twitterは、「特定の人ではなく、フォローした(された)さまざまな人たち」といった、所謂、顔見知りではない他者が41.7%と最も高い。また、「同じ趣味や嗜好を持つ人たち」も36.3%と高く、ソーシャルな属人性が最も高いメディアであると言えよう。

Facebookは、「学生時代の友人や知人」50.8%、「社会人になってからの友人や知人」40.1%と続き、関係性の深い他者と繋がってはいるものの、「家族や血縁関係がある人たち」に関してはLINEに比べ、20ポイント以上も低い。家族とのコミュニケーションにはあまり適さないと判断されているようだ。

主なSNSの共有情報の内容
Facebookでは人間関係を軸に、Twitterでは共通の興味関心を軸にネタがシェアされている。LINEは、ネタをシェアするというよりは、日常的なコミュニケーションツール?

次に、「具体的には、あなたはソーシャルメディアでどのような情報を共有していますか?」といった問いへの回答のうち、10%以上の項目を各メディアごとに並べて比較してみた(グラフ3参照)。

まず、Facebookで最もシェアされているネタは、「自分で撮影した動画や画像」19.7%であり、続いて「自分の日々の行動記録」18.5%、「旅行記」15.2%となっており、プライベートなネタが主にシェアされている。また、「自分で撮影した動画や画像」については、「オープンなコミュニティー」よりも、「クローズドなコミュニティー」でシェアされている割合が17ポイント以上高い。一方、「特殊な分野の趣味や嗜好に関する情報」については、「オープンなコミュニティー」においても、「クローズドなコミュニティー」においてもシェアされている。Facebook上では、タイムラインといった「オープンなコミュニティー」でシェアするネタと、グループ内といった「クローズドなコミュニティー」でシェアするネタが使い分けられていると考えられる。

Twitterでシェアされているネタの上位には、「ニュースや記事で取り上げられるような話題性のあるできごと」12.7%、「テレビ・雑誌・新聞・ラジオの内容」10.9%といった、マスメディアが発信する二次情報が含まれている。FacebookとTwitterで比べると、前者では人間関係を軸にネタがシェアされており、後者では共通の興味関心を軸にネタがシェアされている。

LINEで最もシェアされているネタは、「自分で撮影した動画や画像」10.9%、「飲み会や食事会の情報」10.8%、「自分の日々の行動記録」10.5%であり、その大半が、仲間同士での会話の延長にあることが分かる。LINEは、ネタをシェアし合うツールというよりは、コミュニケーションツールという意味合いが強いようだ。

主なSNSの共有情報
Facebook上で、10代、30代は特定のネタをシェアしており、20代は多様なネタをバランス良くシェアしている

最後に、「クローズドなコミュニティー」と「オープンなコミュニティー」で使い分けている傾向が強いFacebookについて因子分析を実施してみた。下記の5つの因子は、Facebookのアカウント所有者に対し、35の質問を投げかけ、因子分析により抽出した主要因子である。各世代で比較したものがグラフ4であり、性別で比較したものがグラフ5である。

まず、年代別で見ると、20代は、5つの因子、全てにおいて意識が高い傾向にあり、「オープンなコミュニティー」でシェアするネタと、「クローズドなコミュニティー」でシェアするネタを上手く使い分けていると思われる。一方、10代と30代は、ある特定のネタをシェアする傾向が強い。10代は、「社会情勢・ビジネス関連の情報共有に向いている」という意識が強い一方、その他の因子に対する意識が低い。Facebookを「オープンなコミュニティー」と捉えている10代にとっては、コミュニケーションツールというよりも、日常的なニュースを手に入れるポータルサイトに近い存在であるのかもしれない。30代は、「自分の生活・行動の情報提供(拡散)に向いている」という意識が強い一方、「社会情勢・ビジネス関連の情報共有に向いている」という意識が低い。Facebookを「クローズドなコミュニティー」と捉えている30代にとっては、主にプライベートなネタをシェアし合うコミュニケーションツールであるようだ。40代以上は、全体的に消極的な意識が目立ち、リアルとFacebook上での人間関係が一致しているせいか、「ソーシャル疲れ」を感じているようにも見える。

性別で比較すると、Facebookに対する意識は真逆に近い。男性は「社会情勢・ビジネス関連の情報共有に向いている」「自分の生活・行動の情報提供(拡散)に向いている」という意識が強く、「オープンなコミュニティー」でシェアするネタと、「クローズドなコミュニティー」でシェアするネタを使い分けていると思われる。一方、女性は、「流行・トレンド関連の情報共有に向いている」自分の生活・行動の情報提供(拡散)に向いている」「知人や家族との連絡手段に向いている」といった意識が強く、仲間同士の間で、女子感やリア充を演出し、好感度を高めたいという欲求がうかがえる。このように、Facebook一つを取り上げても、性年代で、シェアネタ事情が異なることが分かる。

Facebookに対する意識

↑このページの先頭へ

「今どきのシェアネタ」、4つのクラスタ

20代、30代男女を対象に実施したグループインタビューに基づき、その場で挙がったコメントを元に「今どきのソーシャルメディア上でシェアされるネタ」を4つの累計に整理してみた。

(1)キワモノ系シェア(男性/クローズドなコミュニティー内)

お騒がせネタ、あるいはハプニング系のネタなど、ややきわどいネタを、Twitterなどやや匿名性の高いソーシャルメディアであえてシェアすることで「仲間内感」を共有する。

(以下、グループインタビューより)

  • 「男20人が一緒にディズニーランドに行きました」っていう投稿を友だちが仕掛けたら、多くの女性にバズられていた。「タブー」を破ったら女性にモテるんだなあ、と羨ましくなった。

(2)ネタバラシ系シェア(女性/クローズドなコミュニティー内)

「Instagram」など、フォロワー数が限定され、趣味性の高い仲間同士でしか繋がらないソーシャルメディアでは、自分のファッションのネタばらし(どこで洋服を買ったか、値段など)を共有する。

(以下、グループインタビューより)

  • Instagramだとユーザーが少ないからなのか、ファッション好きな人が自分のコーディネートをアップしている。
  • 料理の上手い子はFacebookやInstagramにレシピを公開しているので、タイムラインをさかのぼって確認している。

(3)情報武装系シェア(男性/オープンなコミュニティー内)

タイムライン上など、オフィシャル感の高い場では、ビジネスネタやニュースネタ、自己啓発ネタなどをシェアすることで、仕事に対する意欲をアピールする。

(以下、グループインタビューより)

  • フェイスブックは同業他社もいるので、あまりエッジのきいたことは書けない。社内でのコミュニティーはフェイスブックが中心。
  • 興味のないニュースが上の世代からシェアされてくることが多かった。適当に乗っかって合わせなくちゃいけないので、疲れたなぁ。

(4)女子感演出系シェア(女性/オープンなコミュニティー内)

流行りモノの飲食店や新商品、流行のスポットなどに行ったり買ったりした体験を共有することで「新しい、おしゃれなもの好き」の女子感を共有する。

(以下、グループインタビューより)

  • バジルシードの写真をアップしたら、「好き」とか「冷蔵庫に常備している」とかの反応。女子度の高い人は、すでに知っていた。
  • 話題を先取りしたという制覇欲とネタ作りでアップしている。友だちと話すときとかに、仕事のネタではない「ネタの引き出し」を用意しておきたい。
いまどきのシェア事情を理解する2つのキーワード。
「スナオ化」・「無意味に意味を持たせる」。
LINE株式会社 広告事業グループ広告事業部 クリエイティブチームチーフプロデューサー 谷口 マサト氏

私はウェブメディア上で、新商品・サービスなどを紹介する広告コンテンツを制作しています。めざしているのは「広告なのにシェアされるコンテンツ」。ユーザーが広告だとわかっていても、面白くて思わずシェアしてしまいたくなるコンテンツです。

コンテンツの内容によって、どの世代に人気があるのかは変わります。例えばつい最近「“忍者女子”との社内恋愛には気をつけろ!」というコンテンツをアップしました。東芝のノートパソコン「dynabook KIRA L93」の広告です。折りたたんだり、フラットにしたり、分離させたりと、様々なスタイルで使える「dynabook KIRA L93」の商品特徴から、「七変化」というキーワードを考え、忍者女子がオフィスで「七変化」を見せるというストーリーの読み物を作りました。これは話題になり、主にスマートフォンでよくシェアされました。まったくリアリティのない、架空のストーリーが展開するコンテンツはスマートフォンユーザーの嗜好にあっているようです。PCユーザー層に向けては、もう少しリアルな、たとえば、「カップラーメンを独自の盛り付けでどこまで豪華に見せることができるかを検証する」コンテンツなどのウケがよく、こちらは実際にPCでよくシェアされています。

ソーシャルメディアの種類によっても、シェアされるコンテンツの傾向には違いがあると感じています。例えばツイッターはちょっと「お馬鹿」なコンテンツ、フェイスブックでは日常生活の中でも「ちょっとカッコつけられる」話題、はてなブックマークでは、いわゆる「意識高い系」の自己啓発系の読み物や社会的なコンテンツがよくシェアされています。

今のウェブユーザーをつかむためのキーワードが2つあると思っています。それが「スナオ化」と「無意味に意味を持たせる」です。

スマートフォンへのシフトが進んだ結果、「純粋なユーザー」が増え、結果「スナオ化」が進みました。昔のネットユーザーは本当の「オタク」が多く、ちょっと斜に構えた、ひねりの効いた記事の書き方が受けました。でも今は素直に「これいいね」とか「面白いね」と伝える、ストレートな物言いが受けている。これはユーザーの意識が変わったというよりも、スマートフォンの浸透によって「普通」のユーザーが入り込んできた結果だと思います。彼らは、広告とコンテンツが混じりあっていることを、あまり気にしなくなっています。私が作っているような、広告でもありコンテンツでもあるといった記事は、もしかしたら10年前だったら、叩かれ、成立しなかったかもしれないですね。でも今は、ユーザーは面白ければ別に広告であっても気にしない。これが「スナオ化」です。

「無意味に意味を持たせる」ということについてですが、たとえば「LINEスタンプ」などに顕著なのですが、一見すると意味のわからない、意味のないスタンプが意外にウケけている事がある。作り手はどうしても意味のあるスタンプ、オチがあるスタンプを作りたくなってしまうのですが、ウケるとは限りません。ユーザーがスタンプを使う「文脈」を考えればわかりますが、LINEで交わされる親密な会話は、意味のないものが多い。あるメッセージに対して、意味のある答えを返せない、返さない時は多いものです。そんな時には意味のないスタンプに、なにかの意味やニュアンスを込めて送る。スタンプは「見せる」ものではなくて「使う」ものだということなんです。

同じようなことですが、私はあえて記事を「ボケっぱなし」で書くようにしています。明らかにおかしなことを書いているのに、あたかもそれが普通のことであるように、どんどん進んでいく。人によっては不思議な感じがする文章だ、という人もいますが、それは意識してやっているんです。以前、あるクライアントがその文に対して全部「ツッコミ」を入れて返してきたくれたことがありました(笑)。気持ちはわかるんです。そのままでは収まりが悪いですから。でも、それは読んだユーザーが言ってくれること。意味をこめすぎると、ユーザーが「使えなく」なるんです。そのクライアントには説明して「ツッコミ」は全て取り、元に戻しました。

私は、ユーザーの文法、しゃべり方にあわせてコンテンツを作ることを心がけています。商品紹介をするときも、ユーザーならこの商品をどう言うだろう、というスタンスで考えます。「スナオ化」し「無意味に意味を持たせる」ユーザーと、どう寄り添えるのか。そこがポイントだと思っています。

谷口 マサト たにぐち まさと

1972年滋賀生まれ。LINE株式会社 広告事業部 チーフプロデューサー。横浜国立大学の建築学科を卒業後、1996年にいち早くネット業界に入る。制作会社を経て外資系のIT系コンサル会社へ。当時日本で数少ないIA(情報設計)の専門家として、大手コマースサイトのリニューアルを多数担当後、ライブドアへ。現在はLINE株式会社にて、企業とのタイアップ広告企画を担当する。

↑このページの先頭へ

「先事新聞」コラム
第10回 消費者からパトロンの時代へ

先の2014FIFAワールドカップブラジル大会は、日本にとってグループリーグ敗退という残念な結果に終わったが、TV放映も、視聴率的には苦戦した。日本戦を除けば、比較的数字がよかったのは開幕戦とベスト4くらい。真夜中の中継という時差のハンデはあったが、何よりも深刻だったのは、各局が持ち回りで夜7時から放送したデイリーハイライトだ。ゴールデンタイムにもかかわらず、軒並み3~6%。
 ワールドカップ期間中、日本人は日本戦では大いに盛り上がりを見せたものの、一部のコアなファンを除いて、実のところワールドカップそのものにはさして興味はなかったのだ。
 いや、これは何もサッカーだけの問題じゃない。近年、音楽や映画や出版などのコンテンツ産業の多くが、同様の問題に直面している。かつて存在した巨大な中間層――ライトなファン層が減り、代わって少数のコアなファンと、その他大勢の無関心層への二極化が進んでいるのだ。そして無関心層は、ひとたびビッグイベントを目にすると、その勝ち馬に乗りたがる。例えば、連ドラ不況と呼ばれるテレビ界においても、昨年、ドラマ「半沢直樹」が驚異の視聴率を記録したが、それは普段は動かない無関心層が動いた結果である。

音楽市場の先進性――狭く・深く

本来、健全なマーケットとは、多様な価値観を持つ巨大な中間層が存在し、スマッシュヒットが連発する市場である。例えば音楽業界だと、90年代半ばのミリオンセラーが量産された時代がそう。ヒットチャートはドリカムをはじめ、ミスチル、MY LITTLE LOVER、福山雅治、スピッツ、B'z、ZARD、安室奈美恵、SMAP、サザンなどの多彩な名前が並び、ヒット曲が相次いだ。
 ところが、これが近年になると、ヒットチャートの上位はAKB48、嵐、EXILEのほぼ3グループに集約。もはや巨大な中間層は存在せず、ビッグヒットか否かの格差社会。市場規模も90年代の半分まで落ち込んでいる。いや、もっと深刻なのは、最近はヒット曲と言いつつ、昔と違って誰もが口ずさめるわけではないことだ。
 だが――実はそこに音楽市場の“先進性”がある。ワールドカップの日本代表戦やドラマ「半沢直樹」と違い、AKBや嵐のヒットはその他大勢の無関心層が動いた結果ではない。少数のコアなファンが同じCDを複数枚購入したからである。AKBは握手券付き、嵐は特典の違う数タイプを用意するなど手法は様々だが、要は1人のファンに同じCDを複数枚買ってもらう――もはやそれはファンというより、「パトロン」相手の商法である。
 かつてモーツァルトやベートーヴェンの時代、音楽家たちはパトロンである貴族たちからの支援で生計を立てたが、今再び、パトロンからの支援で生計を立てようとしているミュージシャンたちが登場している。かつて存在した巨大な中間層が減った結果、彼らは広く・浅く売ることから、狭く・深く売る手法へと転換したのだ。

夢と深くコミットしたいパトロンたち

そう、巨大な中間層が減りゆく今の時代、生き残りをかけた手段の1つがパトロン商法なのだ。先日、渋谷道玄坂にオープンしたバー「森の図書室」も、そんな時代の変化を予感させる。
 店内は35坪ほどのスペースに3000冊もの蔵書。本が読めて借りられるのはもちろん、DJブースでは音楽がかかり、お酒や軽食も楽しめる、いわば“大人の図書室”だ。先の7月1日のオープン以来、本好きの客で連日大盛況である。
 実はこの店、一般オープン前の2週間ほどは、プレオープン期間として、パトロンたちを招いていた。そう、パトロン――。
 オーナーの森俊介さんは、子供の頃から自分の図書館をつくるのが夢だったという。その思いは年々強まり、30歳を前に一念発起。だが、開店資金が足りず、そこでインターネットを通して夢を語り、パトロンを集める「クラウドファウンディング」に頼ることにした。群集(クラウド)から資金を集める(ファンディング)から、クラウドファウンディング。負担の少ない500円から出資でき、リターンとして会員権や一日店長など様々なサービスが受けられる。目標は10万円だった。ところが――蓋を開けたら、集まったパトロンは1737人、支援総額は953万円。
 巨大な中間層が減り、広く・浅く集客することが難しくなった時代、その一方で、ある分野に特化したコアな客は増えつつある。渋谷で会社帰りに立ち寄れ、お酒や音楽を楽しみながら本を読める“大人の図書室”を作る夢も、ネットを使えば、少なからず賛同者は集まる。しかも彼らは、より深くコミットすることを求めるコアな客だ。
 そう、「志」に魅力があれば、今やパトロンが集まりやすい時代なのだ。

“志”を買う時代へ

そんなパトロンの時代は、コーヒー界にも訪れようとしている。それが、“サードウエーブコーヒー”と呼ばれる米国生まれの新たなコーヒーのムーブメントだ。
 その中心にあるのが、クラリネット奏者だったジェームス・フリーマン氏が2002年8月にサンフランシスコにある自宅ガレージで創業した「ブルーボトルコーヒー」である。その成り立ちから“コーヒー界のアップル”と呼ばれ、GoogleやTwitterの創業者も出資するなど今や全米で大ブーム。今年10月には、東京都江東区の清澄庭園近くに日本1号店を出店する。
 この店の信条は、「個人の香りがするコーヒーチェーン」。スターバックスのようなマニュアル化されたコーヒーではなく、本当に美味しいコーヒーを丁寧に作り、提供すること。彼らは生産者に利益が回るフェアトレードで有機栽培の豆を調達し、焙煎から48時間以内の新鮮な豆だけを使用する。そして注文を受けてから熟練スタッフが1杯ずついれる。手間も時間もかかるので、価格はシアトル系のコーヒーチェーン店より4割ほど高いが、客は承知の上で行列を作る。
 そう、客は美味いコーヒーを求めて、その店を訪れるのだ。居心地の良さや単なる時間つぶしのコーヒー目当てではない。創業者の志に共感し、若干多くお金を支払っても、その店のファンでいたいのだ。志に投資するという意味で、これもまた、新たなパトロン商法の1つと言える。
 市場から巨大な中間層――ライトなファン層が消えゆく今、旧来型の広く・薄くターゲットに訴える手法ではヒットが生まれにくい時代になった。
 だが、その一方で、夢や志に共感してくれるコアなファンに向けて、狭く・深くアプローチすれば、その思いが本物であれば、想定以上のリターンが期待できる時代でもある。
 21世紀型の「パトロン新時代」の到来だ。

草場 滋 くさば しげる 「指南役」代表

エンタテインメント系企画集団「指南役」代表。1995年「ソニー・アート・アーティスト・オーディション」入賞、98年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に『逃走中』(フジテレビ)の企画原案。著書に『11のスタンダード』(実務教育出版)など。

※ 発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。
※ 掲載されている会社名、商品名、サービス名は各社の商標、または登録商標です。

↑このページの先頭へ