調査・研究/発行物

先事新聞 vol.31 ネットはラジオの未来を変える!?

今号のキーワード ネットはラジオの未来を変える!?

本年6月にNHK放送文化研究所が発表した全国個人視聴率調査によると、民放FMの週間接触者率は、前年の10.7%から13.7%へ増加しており、とりわけ20代女性、30代男女といった若年層が増加傾向にあるようだ。また、NHKと民放を合わせたラジオ全体の週間接触率についても、2009年以降は漸減傾向が続いていたが、今年は39.4%と前年の36.5%を上回っている。こうした調査結果になった要因としては、『radiko.jp』を始め、インターネット経由で配信されるラジオや、地域性を生かしたコミュニティ放送の活性化等が考えられる。とりわけインターネット経由で配信されるラジオは、普及率の高いパソコンやスマートフォンからも聴取可能となるため、接触者増に大きな影響を与えたと予測される。

ご存じの通り、ここ数年、スマートフォンの所有率は急速な伸びを見せており、中でも、男女10代から20代といった若年層の伸びは著しい。ラジオコンテンツのデジタル化により、オンデマンド配信やポッドキャストなど、自分に合ったスタイルが選べるようになったため、スマートフォンの入手を機にラジオを聴取し始める若者も増えているようだ。元々、ラジオは、発信者をパーソナリティ、聴取者をリスナーと呼び、比較的、インタラクティブなマスメディアとして認識され続けてきた。そして、インターネット経由で配信されるようになり、ラジオとソーシャルメディアとの親和性も高まり、インタラクティブ性はますます高まりつつあると言えよう。発信者側の工夫次第では、「若者のラジオを回帰」を演出することも夢ではない。

今号の『先事新聞』では、まず、インターネット経由で配信されるラジオによって、実際、リスナーの聴取スタイルはどのように変化しているのかを検証する。

(1)ラジオの聴取スタイルの実態

「ラジオに関する調査」と題し、全国10代から60代男女2,000名を対象に、インターネット調査を実施した。まず、普段、ラジオを聴取すると回答した対象者に、その聴取スタイルを尋ねてみたところ、「ラジオ局の放送をリアルタイムで聴く」が46.7%と最も多い(グラフ1)。また、オンデマンド配信やポッドキャストからのダウンドロードも含め、インターネット経由でラジオを聴取している対象者は、全体で20.0%であり、中でも、男性10代から30代が各々約28%と比較的多い。但し、有料の聴取サービスとなると、いずれの世代も利用率はグッと下がり、コンテンツ購入に至るまでのハードルが高いことが分かる。ラジオコンテンツは、どちらかと言えば、ストックメディアとしてよりも、フローメディアとして評価されているようだ。

調査概要
グラフ1 あなたは、ふだん、ラジオ番組をどのように聴いていますか
(2)ラジオの聴取頻度

ラジオ聴取者1,204名に対して様々な設問を投げかけ、性年代別と、「インターネット経由聴取者」「非インターネット経由聴取者」の聴取方法別で、比較検証することとした。

まず、聴取頻度について尋ねてみると、全体では、「月に一回程度」の低頻度が22.5%と多い反面、「ほとんど毎日」といった高頻度も21.3%と多く、ライトリスナーとヘビーリスナーに二極化する傾向が見られた(グラフ2)。また、「ほとんど毎日」のヘビーリスナーは、男性50代以上のシニア層に多く、「月に1回程度」のライトリスナーは女性30代に多い。聴取方法別では、「インターネット経由聴取者」は、「非インターネット経由聴取者」よりも、「ほとんど毎日」のヘビーリスナーが多く、とりわけ50代以上は39.2%と最も多い(グラフ3)。シニア層のヘビーリスナー間で、受信機によるラジオ聴取よりも、インターネット経由によるラジオ聴取の方が既に定着しているようだ。

グラフ2 どれくらいの頻度でラジオ番組を聴いていますか
グラフ3 どれくらいの頻度でラジオ番組を聴いていますか
(3)ラジオの聴取時間

1日あたりの聴取時間を尋ねてみると、全体の平均時間は48.7分であり、男性30代以上と女性40代は平均時間を上回っている(グラフ4)。聴取方法別で見ると、「インターネット経由聴取者」の平均時間は57.6分であり、「非インターネット経由聴取者」の平均時間44.2分よりも長く、とりわけ50代以上の平均時間は74.1分と最も長い(グラフ5)。

以上のように、ラジオの聴取頻度と聴取時間は、「インターネット経由聴取者」の方が多い傾向にあり、いずれも50代以上が牽引している。インターネットとの親和性が高い若年層よりも、ラジオとの親和性が高いシニア層の方が、より積極的に聴取していることが分かる。

グラフ4 1日あたりのラジオ聴取時間はどれくらいですか
グラフ5 1日あたりのラジオ聴取時間はどれくらいですか
(4)ラジオの聴取番組

聴取している番組のジャンルを尋ねてみると、全体では「音楽」が56.3%、「ニュース、交通情報、天気情報」が52.7%、「生活、娯楽情報」が41.9%と上位に挙がった(グラフ6)。聴取方法別では、「インターネット経由聴取者」「非インターネット経由聴取者」ともに「音楽」が56.3%と最も多い(グラフ7)。「非インターネット経由聴取者」とのポイント差が大きいジャンルは、「トーク、漫才、寄席」の18ポイントであり、とりわけ10代から30代の「インターネット経由聴取者」に多い。若年層はトーク番組を好み、ラジオコンテンツに笑いを求める傾向が強いようだ。

グラフ6 どのようなジャンルのラジオ番組を聴いていますか
グラフ7 どのようなジャンルのラジオ番組を聴いていますか
(5)ラジオの聴取端末について

聴取端末について尋ねてみると、全体では「カーラジオ、カーオーディオ」が47.2%と最も多い(グラフ8)。端末ごとに性年代の特徴が見られ、「カーラジオ、カーオーディオ」は男性40代以上、「パソコン」は男性10代から20代、「コンポ・ラジカセ」は女性40代以上、「スマートフォン」は男女10代と男性20代が比較的多い。また、聴取方法別では、「インターネット経由聴取者」は、主に「パソコン」「スマートフォン」で、「非インターネット経由聴取者」は、主に「カーラジオ、カーオーディオ」で聴取していることが分かる(グラフ9)。

グラフ8 ラジオ番組を聴くときに、よく利用している端末をお答えください
グラフ9 ラジオ番組を聴くときに、よく利用している端末をお答えください
(6)ラジオの聴取シーンについて

普段、ラジオをどのようなシーンで聴取しているかを尋ねてみると、全体では「車を運転しながら」が43.4%と最も多い(グラフ10)。シーンごとに性年代の特徴が見られ、「車を運転しながら」は男性40代以上、「自宅でくつろぎながら」は男女10代と女性20代、「自宅で家事をしながら」は女性30代以上、「自宅で仕事、勉強をしながら」は男女10代が比較的多い。また、聴取方法別で見ると、「インターネット経由聴取者」は、「自宅でくつろぎながら」が41.3%、「自宅でWebサイトをみながら」が37.3%とインドア派が多く、「非インターネット経由聴取者」は「車を運転しながら」が52.7%と圧倒的に多い(グラフ11)。つまり、「インターネット経由聴取者」は、主にインドアのオフタイムで、「非インターネット経由聴取者」は、主にオンタイムで聴取しているようだ。また、メールやSNSなど、コミュニケーションツールとの併用率は、10代から30代の「インターネット経由聴取者」が比較的高い。

グラフ10 どのようなシーンで聴いていますか
グラフ11 どのようなシーンで聴いていますか
(7)聴取関連アクションについて

ラジオ聴取に関連したアクションについて尋ねてみると、全体では「聴いた後に、番組で紹介されていた商品・サービスについて、Webで情報収集する」が16.4%、「プレゼントに応募する」が15.4%、「聴きながら、番組で紹介された商品・サービスについて、Webで情報収集する」が13.9%と上位に挙がった(グラフ12)。また、聴取方法別で見ると、「インターネット経由聴取者」は、「聴きながら、番組で紹介された商品・サービスについて、Webで情報収集する」が20.5%、「聴いた後に、番組で紹介されていた商品・サービスについて、Webで情報収集する」が19.3%、「プレゼントに応募する」が19.0%と、ラジオ聴取に関連したアクションが全体平均よりも多く、インターネット経由でラジオを聴取することと、Webサイトを閲覧することとの親和性の高さがうかがえる(グラフ13)。

グラフ12 ラジオ番組を聴いている最中や聴いた後に、次のような行動をしたことがありますか
グラフ13 ラジオ番組を聴いている最中や聴いた後に、次のような行動をしたことがありますか
(8)インターネット経由でラジオを聴取することへの意向

インターネットを経由してラジオを聴取することへの意向率は、全体で41.5%であり、現状の聴取率20.0%を大幅に上回った。とりわけ、男性10代の聴取意向率は、48.1%と最も高い(グラフ14)。さらに、聴取意向理由について尋ねてみると、「好きな時間に聴くことができる」が63.8%、「好きな場所で聴くことができる」が47.0%、「『ながら視聴』が自由にできる」が38.2%と上位に挙がった(グラフ15)。自分のライフスタイルにあった、自由な聴取スタイルが選択できることがインターネット経由でラジオを聴取することの最大のメリットと評価されているようだ。また、「いろいろな国や地域の番組を聴くことができる」に関しては、聴取意向率が聴取率を上回っており、グローバルな観点からラジオを活用したいという意向もうかがえる。

グラフ14 あなたはインターネットラジオを聴きたいと思いますか?
グラフ15 インターネットラジオの魅力は何ですか?インターネットラジオを聴きたい理由は何ですか?

↑このページの先頭へ

「インターネット経由ラジオの可能性」3つの事例

①コンテンツ化

リアルタイムで次々と番組が流れては消えていく。それがラジオ放送の特色であり、番組制作者もリスナーもそれを前提に番組を提供し、聴いてきた。しかし、ラジオのデジタル化によりサーバ上に過去の番組をアーカイブしておけるようになった。すなわち、フローメディアとして評価されてきたラジオを、ストックメディアに変貌させることも可能なのだ。

TBSラジオは、インターネット普及期からラジオという媒体をネット上にどのように流通させていくかに取り組んできたラジオ局の一つだ。各番組のポッドキャスト配信は、今では月間6000万ダウンロードを超える規模を誇る。また有料コンテンツポータル「らじこん」も運営するなど「コンテンツビジネスとしてのラジオ」の可能性を広げている。

変わらぬコンテンツの魅力を、変化するネット上で伝える
TBSラジオ&コミュニケーションズ 編成業務局編成部 三宅正浩氏

「RHYMESTER宇多丸のウイークエンド・シャッフル」や「たまむすび」といった番組のポッドキャスト配信は人気で、中にはポッドキャストでしか聴かない、というリスナーもいらっしゃいます。これは、もともとTBSラジオが「エッジの効いた、聴き応えのある番組」作りを志向しているからではないかと思っています。我々の作る番組はキチンとラジオの前に座って聞かなければならない、うっかり聞き流すことができない、というご意見を頂戴するくらい、コンテンツとしての完成度と密度が高い。ですので、ポッドキャストで落としてスマートフォンでじっくり聴く、というスタイルに結果的にマッチしたのだと思います。決してネット配信ありきで番組を作っているのではない。これは今でも変わらぬ姿勢です。そこを履き違え、技術や仕掛け先行で作った番組は、ネットでも話題になることはありません。コンテンツとしての魅力が先なのです。

とはいえ我々には、インターネットが普及しはじめた頃からネットでの展開をいろいろと試行錯誤してきた歴史もあります。Webサイト上での番組音声配信からはじまって、ポッドキャスト、そして「Radiko(ラジコ)」でのサイマル放送と、テクノロジーの進化・変化に応じて展開方法も変えてきました。中でもポッドキャストは月間6000万ダウンロードを達成、今も利用数は右肩上がりです。世界でも有数のポッドキャスト配信サイトに成長しました。

しかし今後は必ずしもポッドキャストという形にこだわらなくてもいいのではないかと考えています。理由は二つ。一つ目は運営上の課題です。6000万ダウンロードを維持するためのサーバの管理コストは小さなものではなく、運用管理コストの削減は大きな課題となっています。もう一つはビジネススキームの課題。ポッドキャストにおいても、CMをサーバ上で合成して配信するモデルなどを開発したりもしましたが、あまり活発な仕組みを作ることができませんでした。有料配信もそれだけで成立するビジネスモデルではありません。これらをあわせて考えれば、「Youtube」などすでに広告モデルが確立しているサービスに乗り込む形も十分考えられます。

我々はラジオ局ですので、電波による放送がメインだと考えています。ビジネススキームとしてみても、現状では電波での広告収入が大きいことは間違いありません。ネット配信については電波を支え、番組を広く浸透させるPRの役割を持たせつつ、ビジネス的に新たな展開を探るための重要なチャンネルとして位置づけています。技術の進歩やサービスの変化に応じ、今後も様々な取り組みを行っていくつもりです。

②インタラクティブ化

絶妙な「距離感」が聴取者の参加意欲を刺激しているせいか、ラジオはテレビなどと比較してリスナーによるコミュニティを形成しやすい傾向にある。地域に根ざすコミュニティ放送であれば、その傾向はなおさらだ。

群馬県桐生市の「FM桐生」はインターネット経由ラジオやソーシャルメディアの活用により、ラジオの持つインタラクティブ性を加速させ、新たなコミュニティを形成している。

地域の小さなつながりが、そのままネットで拡大する
FM桐生 取締役・NPO法人 桐生地域情報ネットワーク 理事長 塩崎泰雄氏

我々「NPO法人桐生情報地域ネットワーク」は、桐生市および周辺地域の情報化、また情報化を通じたまちづくりの支援をしています。コミュニティ放送「FM桐生」は、その中の一つのツールという位置づけで、2007年に立ち上げました。最初にラジオ局を始めようと思ったのではなく、まちづくりの一環としてラジオ局を作ったことが我々の大きな特色です。

立ち上げて感じたことは「コミュニティ放送はまちづくりと非常に親和性が高い」ということでした。以前から街の歴史や情報をアーカイブしようと地域住民に呼びかけ、写真や情報を収集・蓄積してきましたが、ラジオというメディアを通じて呼びかけると、非常に効率がいい。「Twitter」や「Facebook」などのソーシャルメディアと組み合わせることで、FM桐生を核とした地域コミュニティが形成されたと感じています。今では「Youtube」に500~600の動画がアップされていますが、それらはすべて番組作りを通じて得た、地域の歴史や情報のアーカイブになっているのです。さらに番組作りには積極的に地域住民に参加を呼びかけています。市民制作番組の枠があり、そこでは常時100人以上の市民が番組制作に携わっています。FM桐生は地域がつながる「場」を醸成するコーディネーターの役割を担っていると感じます。

インターネット経由のラジオは開局当時からサイト上で配信しています。最近ではスマートフォンアプリ「i-コミュラジ」などを通じた配信も行っていて、チャンネルは広がっています。コミュニティ放送は「声の届く範囲」を単位としたメディアです。決してマスではない。インターネット経由ラジオはこの「小さなコミュニティ」の特性と魅力をそのままに、遠くの地域と桐生を結んでくれると感じています。例えば北海道や沖縄にもインターネットを介したFM桐生のリスナーがいます。彼らは桐生出身者の場合もありますが、そうではなくラジオ放送を通じて「桐生ファン」になってくれた方もいる。あくまで「桐生」という地域に対する帰属意識や共感性を持ったまま、遠くの地域とつながる事ができるのです。FM桐生を中心に、電波の放送やネットラジオ、またSNSを通じて「小さなグループ」がつながっていく。コミュニティ放送の目指す「広がり方」に、インターネット経由ラジオはうまくマッチすると思っています。

③グローバル化

ラジオをインターネット経由で配信するということは、当然のことながら、世界中からのアクセスが可能になるということだ。現在、日本のサイマル放送サービス「Radiko(ラジコ)」は、アクセス地域で放送しているラジオ局の番組を聞くことができる。

これに対しアメリカ発のネットラジオサービス「Tunein(チューンイン)」は、エリアの制限がなく、世界中どこからでもすべてのラジオ局にアクセスできる。「Tunein」は、今年11月、東京・世田谷のコミュニティFM局「エフエム世田谷」との協業を発表した。コミュニティFMはネットラジオへの参入・グローバル化によって、さらなる広がりを狙う。

「いつでもどこでもだれでも」聞くことのできるラジオへ
エフエム世田谷 取締役 プロデューサー 深井教雄氏

「Tunein」との協業にはいくつかのポイントがあります。前提となるのは「若い世代にどうリーチするか」。20~30代の若い世代は、ラジオ自体を持っていません。車に乗った際に聞くことがあるくらい。その車も若い世代では乗らない方が増えている。つまりインターネット経由ラジオとの協業には、失われてしまったラジオの聴取機会を創出するという大きな目的があるのです。そのためにはデバイスにこだわらず、今の形態に対応した発信をしなければならない。スマートフォンでラジオを聴いてもらう必要があります。「Tunein」との協業により、新たな聴取世代を開拓していくつもりです。

もう一つ大きな要素として、地域の制限を超え、グローバルな情報発信ができるようになったことがあります。もちろん我々はコミュニティ放送ですから、基本的には世田谷の情報を世田谷の地域を中心に発信していく。このスタンスは変わりません。ローカルの情報をグローバルに発信することができるという新たな可能性を活かした展開を、「Tunein」と一緒に考えていきたいと思っています。

「Tunein」 アジア太平洋営業局長 信川 訓卓氏、編成副局長 ケビン・ストラリー氏

「Tunein」は、世界7万の放送局が持つ、200万以上の番組を楽しむことができるサービスです。アメリカで生まれ、ヨーロッパを経て、日本がアジア初のサービス展開となります。我々にとって配信地域の拡大は、大きな意味を持ちます。まずはコンテンツのバリエーションが広がること。海外のラジオ番組は、多くのリスナーにとって魅力的なコンテンツなのです。例えばアメリカのリスナーが聴いているラジオ局の人気ランキング上位には、南米やアフリカの局が入っています。日本のラジオ局も同様に世界で人気を得る可能性は十分ありますし、また日本で海外のラジオ局が聴かれるようになることも期待しています。

地域の拡大によってビジネスの可能性も広がります。我々のビジネススキームは、アプリに配信する広告による収益モデルです。日本ではコンテンツを提供してくださるラジオ局を探すと同時に、広告クライアントの開拓も行っています。地域ごとに配信する広告を変えることができますので、例えば商社など海外展開している企業にとっては、ピンポイントで海外に広告を配信できることは、大きな魅力となります。配信できるエリアを広げることは、このスキームを強化する上で重要なことなのです。

日本での展開はまだ始まったばかりで、試行錯誤の面もありますが、大きな可能性と手応えを感じています。

↑このページの先頭へ

「先事新聞」コラム
売り手と買い手のハーモニーが「場」を作る

先の10月15日、JR九州が構想20年と銘打った豪華寝台列車「ななつ星」が運行を開始した。デザインは同社の観光列車を多数手がけた水戸岡鋭治氏。車内の装飾は木目を基調に豪華絢爛で、一流の調度品が揃う客室は優美そのもの。気品あふれる食堂車では鮨職人がその場で鮨を握り、ラウンジではピアノの生演奏まで楽しめる。
 ハード・ソフト両面でおもてなしを演出する同列車は、まさに「九州版オリエント急行」と呼びたいところだが、そのためにはあと一つ、重要なアイテムを忘れてはならない。それは――洗練された乗客たちの存在である。
 彼らは「ななつ星」の乗車前、あらかじめドレスコードが書かれたマニュアルを渡される。そこには、シーンに応じて「カジュアル」「スマートカジュアル」「セミフォーマル」といった服装が例示され、着てはいけない服装や履物なども明記されている。
 ドラマ「王様のレストラン」の中に、松本幸四郎演ずる伝説のギャルソンがこんな台詞を吐くシーンがある。「これだけは忘れないでください。最高のディナーを味わうためには、お客様の力も必要であることを」――そう、「ななつ星」が九州版オリエント急行と呼ばれるには、サービスを提供する側の努力だけでなく、それを受ける側の努力も欠かせない。双方の奏でるメロディがハーモニーを構成してこそ、真に一流の「空間」は生まれるのだ。
 そう言えば、JR九州がユーザーとハーモニーを奏でたムーブメントは2年前にもあった。「九州新幹線開通」のCMである。鹿児島中央駅から博多駅まで縦断する新幹線に合わせ、沿線住民たちが各々趣向を凝らしたパフォーマンスで歓迎したドキュメンタリータッチの作品。折しも東日本大震災の時期と重なったことから、地域の「絆」を連想させ、大いに感動を呼んだ。遂にはカンヌ国際広告祭の金賞まで受賞した。
 売り手と買い手、更にはその周辺まで巻き込み、一つの世界観を作る。そんな演出ができた商品やサービスは、とてつもない力を発揮する好例である

SNSで「あま絵」が盛り上がった

もう、ドラマが終了して2ヶ月も経つのに、いまだに「あまロス」なる、心にぽっかりと穴の開いた人たちがいる。それほどまでに人々の心を捉えたNHKの朝ドラ「あまちゃん」は、なぜそれほど盛り上がったのか。
 同ドラマは人気脚本家の宮藤官九郎のオリジナル作品で、舞台は岩手県の架空の街“北三陸市”。能年玲奈演じる主人公・天野アキが、周囲の人々に支えられ、海女やアイドルに挑戦するハートフルな物語である。
  人気に火が着いたのは、開始から2ヶ月ほど過ぎたあたりだろうか。きっかけは、TwitterやFacebookなどで見られた、ある現象だった。プロの漫画家たちが自主的に、その日に放送された話をイラストや漫画にして、SNSに上げ始めたのだ。そのムーブメントはたちまち評判を呼び、それまで朝ドラを見たことがなかった一般人も巻き込み、彼らも「あま絵」をこぞって描いた。かくして、連日、SNS上はプロアマ問わずイラストであふれ、同ドラマは社会現象となった。
 あま絵」は決して、NHKが仕込んだものではない。そんなことをしたら、十数人のプロの漫画家たちに払うギャランディは大変なものになる。彼らは純粋にファンとして、趣味からイラストを描き、UPした。ここでも作り手と買い手(視聴者)、更には周囲の人々まで巻き込む“ハーモニー”が奏でられたのだ。

喜びを分かち合いたいという本能

先ごろ、携帯電話の売れ筋ランキングのトップ10をiPhoneが独占したニュースが話題になった。9月にNTTドコモが満を持してiPhoneの取り扱いに参入した影響だろうが、それにしても、なぜ同端末はこんなに強いのか。
 その答えは、やはりあの男抜きには語れない。アップルの創業者、今は亡きスティーブ・ジョブズである。彼が革新的だったのは、新商品発表会の場をマスコミや記者相手ばかりでなく、生中継することでユーザーに直接語りかける場に変えたこと。それにより、売り手と買い手の垣根は低く、その距離は格段に縮まった。
 人間には元来、「喜びを分かち合いたい」という本能がある。ユーザーたちがアップルの中継に見入るのは、新商品の喜びを作り手や仲間たちと共有したいからである。
興味深いデータがある。iPhoneの最新機種「5s」と「5c」が発売された先の9月20日。携帯電話大手3社の主要店舗には徹夜組を含む長い行列が見られた。だが、列の先頭にいた人の中には、わざわざ並んだのにiPhoneを購入しなかった人もいたという。その人物はその理由をこう答えたそう。
「いや、ハイタッチしたかったんです」
売り手と買い手、更にはその周囲の人たちまで巻き込み、ハーモニーを奏でる。そんな「場」を作れた商品やサービスこそ、この厳しい時代を勝ち抜く最良の戦略かもしれない。

草場 滋 くさば しげる 「指南役」代表

エンタテインメント系企画集団「指南役」代表。1995年「ソニー・アート・アーティスト・オーディション」入賞、98年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に『逃走中』(フジテレビ)の企画原案。著書に『11のスタンダード』(実務教育出版)など。

↑このページの先頭へ

編集後記

今回弊社で実施をした「ラジオに関する調査」をまとめると、以下の通りになる。
  • 「インターネット経由聴取者」は、「非インターネット経由聴取者」よりも積極的にラジオを聴取している。
  • ヘビーリスナーは、「インターネット経由聴取者」シニア層に最も多い。
  • 若年層の「インターネット経由聴取者」は、スマートフォンを通じて聴取する割合が比較的多く、お笑い系やトーク番組を好む。
  • 「インターネット経由聴取者」は主にインドアのオフタイムで、「非インターネット経由聴取者」は主にオンタイムで聴取する。
  • 「インターネット経由聴取者」は、Webサイト閲覧等、番組内容と関連したアクションを起こしやすい。
  • インターネット経由での聴取意向率は、男性10代が最も高い。
  • 「インターネット経由聴取者」は、グローバルな視点でラジオを活用したいとも感じている。

インターネット経由で配信されるラジオは、スマートフォン普及の追い風もあり、Webサイトとの親和性や自由な聴取スタイルが選択できるという点において、改めてメディアとしての価値が見直されはじめている。しかしながら、現在、ヘビーリスナーの多くはシニア層であり、高い聴取意向率を示している若年層を今ひとつ取り込めずにいる。シニア層の聴取者とは、若かりし頃、電リク(電話でリクエストすること)やハガキ投稿など、「インタラクティブなマスメディア」としてラジオを楽しんできた世代だ。ご存じの通り、ラジオは司会進行役を「パーソナリティ」と呼ぶほど、発信者と聴取者の心理的距離感が近いとされる。であるならば、スマートフォンとソーシャルメディアの利用率が高く、インタラクティブなコミュニケーションを好む若者たちに、ラジオはもっと好かれて良いはずだ。マーケティングの基本タームが、まさにインタラクションへ移行する今こそ、「若者のラジオ回帰」を実現する絶好のタイミングと言える。

『先事新聞』編集部
※ 発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。
※ 掲載されている会社名、商品名、サービス名は各社の商標、または登録商標です。

↑このページの先頭へ