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先事新聞 vol.27 イエナカ・タブレット

今号のキーワード イエナカ・タブレット
イエナカ・タブレット

ご存じの通り、スマートフォンが起爆剤となり、多種多様なデバイスがマーケットを賑わせている。今、「高い機能性と可搬性の兼備」こそが、人々がデバイスを選ぶ際のキーファクターとなっているようだ。

NTTアドでは、首都圏在住の20代から50代男女2,000名を対象に「各種デバイスの利用実態」を調査した。まず全体で最も利用率の高いデバイスは、「ノートパソコン」で61.5%。「デスクトップパソコン」を10ポイント以上引き離していることから、いかに現代の生活者が可搬性を重視しているかがうかがえる(図1参照)。さらに「フィーチャーフォン」が36.9%、「スマートフォン」が33.1%と続くが、携帯電話に関しては「スマートフォン」が破竹の勢いで追い上げているようだ。パソコンは「デスクトップ」から「ノート」へ、携帯電話は「フィーチャーフォン」から「スマートフォン」へという潮流が生まれつつあり、こうした傾向は「時間や場所にとらわれず、インターネットを楽しみたい」というニーズの表れと言えよう。

他方、話題性の高さに反比例して、利用率が10.8%と伸び悩んでいるのが「タブレット端末」だ。新聞や雑誌との親和性の高さや、教育・医療現場等への利活用など、提供者側にとっては極めてポテンシャルの高いデバイスだが、生活者にとってはその「独特のポジショニング」が理解しづらい商品のようだ。果たして「タブレット端末」の既存ユーザーたちは、どのようなシーンで、どのように活用しているのだろうか。

まず「タブレット端末利用者」の内訳を見ると、各世代10%前後とバラツキはほとんど見られないが、性別で見ると相対的に男性の方が女性よりも利用率が高い。具体的な利用シーンを尋ねると、「ノートパソコンよりも可搬性が高く、スマートフォンよりも可読性に優れている」特長から、一見、アウトドアでの利用率が高いかと思いきや、「リビングでひとり」が54.4%と最も高いスコアを示した(図2参照)。さらに「リビングで家族と」の43.3%、「ベッドやソファで横になりながら」の40.9%と続くが、いずれも「イエナカ(空間)+プライベート(時間)」での利活用が上位を占める結果となった。

その要因としては、「スマートフォンの機能性が飛躍的に向上した」ことも考えられる。生活者の間では「アウトドアでデバイスを利活用するなら、持ち運びしやすいスマートフォン」という選択意識が強まり、いつの間にか「タブレット端末」は「インドア用デバイス」として分類されていったのかもしれない。結果的に「リビングで家族と画像を共有したり」「ソファでくつろぎながらネットサーフィンしたり」と、「パソコン」とは異なる利活用法、つまり「イエナカ生活を、よりスマートに過ごすためのデバイス」として支持されていったようである。

「タブレット端末」は、その独特の商品ポジションにより、未利用者にとってはベネフィットを想起しづらい。そのため既存利用者による口コミが、商品価値のコンテキストを形成していくわけだが、そういった意味では、「ユーザー自身がベネフィットを創発する」、ある意味「イノベーティブなデバイス」と言えよう。しかも、前述の調査結果でもご紹介した通り、「デスクトップパソコン」から「ノートパソコン」へといった傾向を見るに、より「可搬性」に優れ、程よい「機能性」が確保されている「タブレット端末」が「ポストパソコン」となる可能性も十分に考えられる。

今回、我々NTTアドでは、このような傾向を「イエナカ・タブレット」と題し、既存利用者への日記調査を実施した。「イエナカ」において、「タブレット端末」をどのように利用しているのかを掘り下げて検証してみたいと思う。

調査概要

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イエナカ・タブレット 6つの事例
※10代、30代、50代の男女計6名に日記調査および聞き取り調査を実施。(2012年5月9日~15日)
10代/タブレットが「あたりまえ」にある暮らし
CASE STUDY 1
情報収集のスタイルが変わった。
[プロフィール]
18歳・男性/父・母と同居

いつもリビングのテーブルの上にタブレットが置いてあります。もともとは母にノートパソコン代わりにと半年くらい前に買ったものですが、しばらくすると家族で使うようになりました。僕は今年の4月から大学法学部に通い始めたので、今は勉強に使うことが多いですね。語学の辞書や六法全書として使ったり、授業に出てきた用語を検索したりしています。母はノートパソコンのようにメールやネットに使っています。時々キッチンでレシピを見ながら料理することもあるようです。父は自室で自分のパソコンを使うことが多いのですが、タブレットを買ってからはリビングで時々、自分の好きな音楽の動画なんかを僕や母に見せてくれるようになりました。

大学入学と同時にスマートフォンを買いました。外や自分の部屋ではスマートフォンを使い、リビングにいるときはタブレットというように使い分けています。スマートフォンやタブレットを使うようになってから、自分の情報収集のスタイルが大きく変わりました。以前はこんなに調べものをしなかった。今はすぐ手に届くところにスマートフォンやタブレットがあるので、気軽に検索しています。

CASE STUDY 1
CASE STUDY 2
スマートフォンやタブレットは「ながら」で使う。
[プロフィール]
19歳・女性/父・母と同居

タブレットはリビングに置いてあります。主に父が使っていますね。新聞を読むことが多いようです。父は自室に持ち込んだり、夜寝る前に寝室に持ち込んだりと、家の中のいろんなところでタブレットを使っているみたいです。そうそう、うちは室内禁煙なので、ベランダでタバコを吸うときにもタブレットを持ち出していました(笑)。私もリビングで使うほかに、自分の部屋で使ったりしています。

父が映画や海外ドラマのDVDを見るのが好きなので、「一緒に見ようよ」と声をかけてくれて、時々家族一緒にDVDを見たりしています。そうやってリビングでテレビを見ている時にタブレットを使うことも結構ありますね。見ている映画やドラマの情報を調べたりもしますし、全く関係ない情報を検索しているときもあります。気が散らないのかって? 全然。私、すっごい「ながら」の人間なんです。自室ではスマートフォンでメールやチャットをしながら、ノートパソコンでDVDを見ながら、同じノートパソコンで学校の課題をする、なんて当たり前にやってます。むしろちょっとずつ、何かをしながら別のことを、ってやっていく方がいいみたいです。スマートフォンやタブレットはそんな私の「ながら」スタイルに合っているみたいですね。

CASE STUDY 2
30代/タブレットは家族の関係性を変える「ハブ」
CASE STUDY 3
いつでも一緒の「友達」。もう手放せない。
[プロフィール]
37歳・男性/一人暮らし

(タブレットを指して)「この子」を手に入れたのは全くの偶然から。モバイルルーターが欲しくて携帯ショップに行ったら、店員さんが同じ値段で買えるタブレットをすすめてくれたんです。それが4か月くらい前のことで。どんなことに使えるのかもあまりイメージがないままに、でも同じ値段でティザリングもできるなら、と買ってみたら、すっかりハマってしまいました(笑)。もちろん外にも持ち出しますけど、家の中でもずーっと一緒です。ネットサーフィン、動画サイト、ゲーム…、なんでもやりますね。防水機能付きなんで、お風呂に入るときも使ってます。もともとお風呂好きってこともありますが、休日で時間があるときなんか、3~4時間お風呂の中でタブレット、なんてことも結構あります。

一人暮らしの寂しさがあって、家に帰るとすぐテレビをつけています。今でもそれは変わらないのですが、最近ではタブレットがテレビに代わって、その寂しさを埋めてくれる「友達」みたいな存在になってきつつありますね。寝る前も寝転んでゲームをしたあと、リラクゼーションアプリで雨の音を流し、枕元にタブレットを置いて、そのまま眠りにつくのがいいんです。落ち着くんですよね、雨の音って…。

CASE STUDY 3
CASE STUDY 4
夫婦の関係が変わった。タブレットで会話が増えた。
[プロフィール]
39歳・女性/夫と同居

以前は夫がリビングに置いてあるデスクトップパソコンを使うことが多かったですね。でもパソコンを使っている時って、こちらからは画面が見えないし、何をやっているのか全然わからないんです。画面を見つめている夫にも声をかけづらいですし。

タブレットを買ったきっかけは単純で、私たち夫婦が新しいもの好きだから。夫の両親が買ったのを見て刺激されたんです。でも使ってみたらリビングでの時間の過ごし方が大きく変わりました。ソファに座って使うので、夫婦一緒に画面を見て話をしながら使えるんですね。休みの日、一日家で過ごすことも多いのですが、以前のように一人がパソコンの前で黙って画面を見つめていて、もう一人が別のことをしている、なんてことがなくなって、いつもお互いの存在を感じながら過ごす時間が増えたと思います。

夫婦で旅行好きで、土日の朝の旅行番組は毎週欠かさず見ています。ソファでタブレットを膝の上に置いて、夫婦でああだこうだ言いながら、紹介されている国やホテル、レストランの情報なんかを簡単に検索できるんです。そうするとすごく旅に行きたくなってきて、この間は番組を見ながら紹介されているホテルを予約しちゃいました(笑)。

CASE STUDY 4
50代/スマートフォンの便利さを、より使いやすく
CASE STUDY 5
情報収集のチャネルを増やしたい。
[プロフィール]
50歳・男性/妻・娘2人と同居

タブレットを手に入れる少し前にスマートフォンを購入しました。それまでのいわゆる「ガラケー」よりも便利だし、できることがすごく多くて「これはいい」と思った。でも年齢のせいなのか文字入力がしにくいし、画面も小さいと感じる(笑)。そこでタブレットを買おうと思ったんです。

アウトドア用品の販売を仕事にしていますし、趣味がサーフィンということもあって、天気情報は気にしています。特に週末の天気は、お客様に用具のおすすめをする時に必要な情報なので、毎朝欠かさずチェックしています。タブレットはいつもリビングに置いてあります。わざわざ家族に「一緒に見ようよ」とは言いませんが、例えば近くに美味しそうなレストランを見つけたときなどは、話題にすることも結構あります。

また、社会の動きはいつも追いかけていたいと思っているので、タブレットでもニュースサイトなどはチェックしています。とはいえタブレットだけで情報を得ようとするのではなく、紙の新聞も読み、テレビニュースも見ています。いろんな角度からの情報を手に入れて、自分で組み立てたいと思っているんです。タブレットで識者のブログなどをチェックすると、新聞やテレビで報じられたニュースの「その後」や「背景」がわかるので重宝しています。

CASE STUDY 5
CASE STUDY 6
タブレットは「一人一台」。個人のツール。
[プロフィール]
59歳・女性/夫・息子と同居

夫も息子もタブレットを持っています。わが家ではタブレットを共有することはしていません。あくまでも「一人一台」の個人ツール。お互いにあまり干渉し合わないわが家のコミュニケーションスタイルに関係があるんだと思います。

もともとは夫も私もスマートフォンを使っていて、とても便利だと思っていたのですが、やっぱり小さくて使いにくいのと、通話も兼ねた場合にバッテリーが持たない、ということがあって、タブレットを買いました。

家の中では主にネットサーフィンに使っています。メールもチェックするんですが、仕事のメールに返信するなど重要な処理は、どうしてもパソコンでやらないと不安なんです。表計算ソフトなども使っていますので、自宅で仕事をするときはノートパソコンを、それ以外の情報チェックなどにはタブレットを使っています。主にリビング、自室、キッチンで使っています。テレビを見ながら検索したりとか、キッチンでレシピを見ながら料理したりといった使い方が多いですね。平日は忙しくてほとんど料理をしないので、週末「罪ほろぼし」に本格的な料理を家族に振る舞うことがあります。そんな時にレシピを見ながら料理できるのはありがたいですね(笑)。

CASE STUDY 6

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[先事新聞]コラム
第5回 遊びの余地を――巻き込み型ビジネスモデル

「ロンドン五輪の開会式に出て欲しい有名人」――そんな国際的な投票サイトで1位になった日本人アーティストがいる。初音ミクである。
 そう、日本の誇るバーチャルネットアイドル。歌詞とメロディを入力すれば歌ってくれるボーカロイドのソフトで、昨年、米ロサンジェルスで3DのCGによるコンサートが催されるなど、今や国際的な人気を誇る。先のサイトも日本人に限らず、世界中から票を集めたほどである。
 そんな初音ミクの市場は、実に100億円を超えるという。その特徴は、ユーザーが積極的に参加していること。例えば、アマチュアミュージシャンは、自作の曲を発表するアイテムとして用いている。そうして動画サイトに投稿された楽曲は数万点にものぼるとか。その中からユーザーの人気を集めた曲がCD化されたり、ライブで歌われたりする。そんな風に、ユーザーが自発的にコンテンツを育成する手法を「コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア」と呼ぶ。

間口は広く、シンプルに

それにしても、なぜ初音ミクに、これほど多くのユーザーが関心を示したのか。それは――発売元のクリプトン・フューチャー・メディアが極めて間口を広く設定したからである。
 キャラクターの初期設定は、パッケージイラスト1パターンと、簡単なプロフィールのみ。そして営利を伴わなければ、ユーザーが自由に二次創作することを規制しなかった。
 その結果、イラスト1パターンからユーザーは自由に想像力を膨らませて3D化したり、振り付けを考えて踊らせたり、先のアマチュアミュージシャンのように自作の曲を歌わせたり――そうして初音ミクは人気キャラクターになった。発売元のクリプトンは労せずして巨大市場を手に入れたのである。
 もし、これが当初からガチガチに著作権で固め、二次創作を制限していたら、ここまでの人気は獲得していないだろう。
 そう、大事なのは間口を広げ、初期設定をシンプルにすること。そしてユーザーが自由に遊べる余地を残すことである。
 現在、成功している主要なソーシャルメディアも大体、そのパターンだ。YouTube、ニコニコ動画、Facebook、Twitter――それらは無料で参加できて、初期設定はシンプル、ユーザーが遊べる自由度も高い。その結果、多くのユーザーを集め、巨大市場となった。そして巨大化することでメディアとしての発信力やコンテンツを充実させ、莫大な広告収入や課金モデルを生み出している。
 いや、その種の動きはソーシャルメディア周辺に留まらない。リアルな市場でも同様の動きが出始めている。例えば、今や世界的キャラクターとなった「ハローキティ」もその一つだ。

オープンイノベーションで世界へ

ハローキティといえば、様々なキャラクターグッズなどを手掛けるサンリオの基幹商品である。今やその市場は世界109の国と地域におよび、ライセンスによる営業利益は150億円を下らないという。強さの秘密は何か。  
 それが、「オープンイノベーション」なる戦略と言われる。ハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウ助教授が提唱した言葉で、知的財産権などの裁量を他社に大幅に委譲し、革新的なビジネスモデルを生み出す手法をそう呼ぶらしい。
 実際、サンリオはハローキティを海外で展開する際、業務提携した会社に商品デザインの権限を大幅に委譲していると聞く。そして各国のデザイナーは、自国のマーケットに相応しい商品デザインを考え、利益を生み出している。以前は一切デザインの変更を認めない、いわゆるウォルト・ディズニー社に代表される著作権ビジネスを貫いていたが、その時より売上げは遥かに拡大したという。
 それはひとえに、各国のデザイナーに"自由に遊ばせた"からである。モチベーションも上がり、国によって異なるマーケティング事情にも対処できる。「餅は餅屋」というわけだ。
 今や、発信元が情報を統制したり、知的財産を囲い込んで儲けようとする発想は、過去のモデルになりつつある。グローバルでソーシャルな時代においては、いかに間口を広く、シンプルに、ユーザーやパートナーを巻き込むかが肝心である。

草場 滋 くさば しげる 「指南役」代表

エンタテインメント系企画集団「指南役」代表。1995年「ソニー・アート・アーティスト・オーディション」入賞、98年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に『逃走中』(フジテレビ)の企画原案。著書に『11のスタンダード』(実務教育出版)など。

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オピニオン
株式会社NTTアド
コミュニケーションプランニング局
コミュニケーションライフ推進担当部長
島田 実木雄

今日のソーシャルメディアの隆盛にはいくつか理由が考えられるが、そのひとつに「偶然の出会い創出」があるだろう。そしてここでは、人と人との「意見の交換」が行われる。たとえば、ほんの短いツイートに対してほんの短いRTでもあれば、一応は「意見の交換」である。理念的に言うなら、我が国の市井の小学生と外国の大統領との間にもダイレクトなコミュニケーションが成立し得るわけで、コミュニケーション当事者のマッチングの多様性は極めて高い。これらのソーシャルメディアにアクセスできる環境にさえあれば、老若男女・職業・国籍・思想・信条等を一切問わず、コミュニケーションがワイドに開かれている。人類がこんな時代に生きるのは初めてだ。

無論SNSも単なる道具である以上、あらゆる道具が持つ長所・短所の両義性から逃れられない。なんでも良き事ばかりというわけにはいかない。あちこちで無用な口論は起こり続け、企業が私人が次々と炎上し、「鬼女」などと呼ばれる連中にストークされ、プライバシーはあばかれ、ターゲットは侮辱される。

しかし、人びとはこのような危機への防衛策を学び、これに適応し、この魅力的で有用な道具を使いこなすようになる。そしてここでは、日々、良き出会いが生まれ、賢明な知恵も慰謝の言葉も赦しのメッセージも数えきれないくらい生まれる。

前回の本稿で、コミュニケーションまわりのあれこれを考える際には「オランダが使えるのでは」とつぶやいた。このような前代未聞な「対話の時代」において、我々はオランダから何を学べるのか。

オランダ人が好んで口にする言葉に「世界は神が作ったが、オランダはオランダ人が作った」というのがある。オランダの国名はオランダ語では「Nederland」である。直訳すると「低地」という意味だ。それを我が国で「オランダ」と呼びならわすようになった経緯はやや長いので割愛させていただく。ともあれ国名に採用するだけあって、実際にその国土の大部分は「低地」にあり、なんと約40%は干拓によって実際に「オランダ人が作った」。堤防を築き、水をせき止めた上で、風車を動力としてその水を汲み出し土地にする。自然環境の厳しさを人智で乗り越えていくこの技術開発力が、爾後、造船等の往時の最先端産業を支え、海賊を退け、欧州商業の中心地として彼の国を繁栄させた。しかし近代になり、第二次オイルショックや過大な福祉政策等を原因とする経済的国難に見舞われる。そんな中の1982年、有名な「ワッセナール協定」において、政労使協調により経済危機を脱した。これが「ワークシェアリング」の概念と実践の嚆矢とされる。そしてこのときの一連の取り組みのスタイルはその後「ポルダー(干拓)モデル」と呼ばれるようになった。絶えずつきまとう水害の危機から国土を守るときと同じように、大きな問題を共有する多様な人びとが話し合い、知恵を出し合い、譲歩し、協力し、助け合うことを指す。

オランダでは、このような危機的状況において発生する不確実性に対する社会全体の許容度を重視しており、この力を「ソーシャル・キャピタル(社会関係的知的資本)」と呼び、国の持続性を支える鍵概念だと考えている。またそのようなコミュニティの特質を「インクルーシブな社会(排他的ではない社会)」と形容する。考え方や意見や嗜好が異なる構成員からなる集団において合意形成を図ることは、近似性の高い集団でのそれに比してずっと困難だ。しかし困難な状況で陶冶された分、緩い議論から生まれた「当たりに弱い」意見より普遍性や拡張性が高い。このときの合意形成において重要になるのは「(異質なものへの)寛容」である。そしてSNS等の現代的なコミュニケーションツールも、このような態度があればこそ、その効果を最大限発揮できるのではないか。飽きず発生する炎上事件を見聞きするたびにそう思う。

次回以降も、いくつかのキーワードを手がかりに、現代の蘭学を読者にススメたい。

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