調査・研究/発行物

目黒発 vol.10

息の長い広報活動
自社の広報施策にポリシーはあるか?
ドッグイヤーとかマウスイヤーとされる時代だからこそ企業広報にも長期的な視野を持ったポリシーある施策が求められている。
ひとつのテーマを長期間にわたって追い続ける・・・・・。容易ではない。
どうすれば、「長さ」を得ることができるのか。
その答えを見つけるには、企業が自らの存在意義と経営理念とを問い直すことから始めなければならないのだ。

INDEX >>
21年間続くキャンペーンで顧客との長い付き合いを実現
- ピジョン株式会社のケース -

■数年で終わる関係が思い出してもらえる存在に
■社員がスタッフとして参加 全社で広報施策を理解する

企業がこだわるべき新しい「価値観」を伝え続ける
- 株式会社土屋ホームのケース -

■財団を設立してノーマライゼーションを訴求
■継続的な活動で企業の価値観も伝わる

SPECIAL REPORT

21年間続くキャンペーンで顧客との長い付き合いを実現 - ピジョン株式会社のケース -
■数年で終わる関係が思い出してもらえる存在に

植樹地に建てたログハウス
植樹地に建てたログハウス内に参加した子どもの名前を掲示している。
  短い期間だけ集中的に必要な商品やサービスがある。例えば乳児向けの商品が該当する。こうした商材は、消費者が特定のメーカーやブランドを選択しても、その期間を過ぎたら顧客と企業の関係は終わりを迎えてしまう。授乳・離乳関連品を中心とした育児用品で知られるピジョンの悩みはそこにあった。
 「当社の商品は、子どものいない方にはほとんど知られていない一方、乳幼児のいる家庭には抜群の認知度があります。しかし、2~3年でお客様との接点が消えてしまうのです」とIR・広報室長の大薮克実さんは説明する。
 こうした自社商材が抱える「弱点」を払拭する広報施策が「ピジョン赤ちゃん誕生記念育樹キャンペーン」だ。1985年のCI導入時、「顧客との長期的コミュニケーションをもたらす施策」として、子どもたちの「成長を見守るための植樹」を当時の社長が提案した。翌年、「赤ちゃんも木も、周囲のあたたかい愛情に守られて成人(成木)になる」というコンセプトで育樹キャンペーンがスタートした。当時、本格的に介護用品も扱い始めたピジョンにとって、幅広い層への長期的な広報が求められていたのである。
 キャンペーンでは、3000~6000名の参加家族が募られ、3500~6000本の苗木が植えられる。毎年5月の「植樹式」には参加者の代表が招待される。始まって間もない頃、バブル崩壊で企業の社会貢献やメセナ活動が退潮し始め、それなりにコストもかかる育樹キャンペーンについて大薮さんは存続を危ぶんだ。しかし、「いつまでやるのか」と社長に尋ねると、「続けてこそ意味がある」と叱責されたという。トップの決意を理解した大薮さんは、その日から「続けるためには」という思いを新たにした。
 そして行ったのが、育樹地である茨城県美和村(現常陸大宮市)への協力要請だ。数回の植樹式実施を経て、200人もの家族を交通の便が限られる山間に招くには地元の協力が不可欠と分かったからだ。が、役場からはあっさり断られる。
 「インフラを整えても、本当に大勢の人が来るのか、いつまで来るのか保証もないわけですから当然です。そこで、我々がこの取り組みを長く続けるつもりであるというアピールを繰り返し、理解して頂きました」
 当初は何もなかった土地に、道路が整備され、信号が増え、道の駅や宿泊キャビンが作られていった。村の成長のタイミングとも合致したが、同社のキャンペーンが村興しに果たした役割も大きい。ピジョンと村の共催イベントも実施され、キャンペーンは着実に根付いていった。
 10回目の96年には、記念イベントとして第1回から10回までの参加者代表を招いた。年齢の異なる10人の子どもたちが順番に並んでいるのを見て、「これこそ継続だ」と大薮さんは感じ入ったそうだ。「成長」という目に見える成果は何よりの励みとなる。当初は興味を示さなかった社員も、子どもや木を見て「本当に大きくなったね」とその年月を実感した。キャンペーンの社内周知に力を入れたのも、この頃からだ。
 そして、今年で21回目を迎える同キャンペーンは、長期にわたる広報施策として日本PR協会の「06年度日本PRアワードグランプリ」で優秀賞を受賞している。
植樹式 植樹式
植樹式には、乳児から祖父母、地域の人たち、ピジョンのトップと社員まで参加し、地元でも恒例のイベントとして親しまれている。

↑ページトップへ

■社員がスタッフとして参加 全社で広報施策を理解する

大薮さん
有川さん
「会社のためになるけれど、すぐには営業利益に直結しないという施策は、広報部門だからこそできる」と語る大薮さん(上)と有川さん(下)。
 長期的視野の広報施策を実行するために必要な要素は何か。「続ける」というトップの意思とその理由を社内の隅々まで周知させることが最も重要だとIR・広報室マネージャーの有川裕子さんは言う。
 「意思が共有されれば、社員も迷いません。続けることを前提に、コストも人員も工夫します」
 植樹式には毎回社内でスタッフを募集し、さまざまな部署から計20~30人が参加する。新人社員からベテランまで一緒に作業し、社内コミュニケーションの場としても機能している。顧客が喜ぶ姿を見ることは、管理部門の社員にとっては新鮮な体験だ。それにより、活動継続の意義を肌で感じられるのだという。
 また、周囲の評価もポイントだ。育樹キャンペーンのwebサイトには、木材協同組合や常陸大宮市美和総合支所経済課など育樹地の協働者のコメントも掲載され、活動の成果がまとめられている。「企業理念を伝える取り組み」であることを分かりやすく示したことで、社員が自分たちの仕事の意義を改めて感じ取り、営業先などで積極的にキャンペーンの話をするようになったという。
 テーマ選びも大切な要素となる。「商材そのものにしてしまうと、どうしても数字を求められる。商材から遠すぎると、施策を行う理由が社員に理解しにくく、社内のモチベーションが保てない。ともすると会社が社会貢献をアピールするだけのものになってしまいます」と大薮さんは分析する。子どもと樹というテーマは、商材に近すぎず遠すぎず、適宜なバランスをもたらしている。
 また、長期間企画に携り、その理念や概要を把握する担当者がいることも、施策の軸がブレないために必要だ。21年間のキャンペーンは、その3分の2近くが大薮さんの指揮によるものだ。地元との長期にわたる信頼関係を築くためにも必須だという。
 今年から育樹キャンペーンは、これまでの国有林での植林から、ピジョンが旧美和村地区で買い上げた私有地で行われる。「世界一美しい森」にするのが目標だ。水源を生かして小川を作り、蛍を根付かせ、より多くの家族が気軽に遊びに来られる環境を目指している。
 「そろそろ、初期に参加した赤ちゃんが成人して子どもを持つ時期です。参加者が自分の子にも同じように記念植樹をしてくださり、ピジョンとの関係を親子で受け継いで頂けるといいですね。それこそ、我々が目指す“長いお付き合い”の最高の形です」と有川さんは結んだ。

↑ページトップへ

企業がこだわるべき新しい「価値観」を伝え続ける - 株式会社土屋ホームのケース -
■財団を設立してノーマライゼーションを訴求

土屋公三さん
財団の理事長も務める土屋公三さん
 東日本を中心に展開する土屋ホーム(本社:札幌市)は、外断熱工法による注文住宅のトップメーカーだ。最近はスキー競技の企業チームでも有名である。高い技術力で成長してきた同社は、住宅の「ノーマライゼーション」にいち早く取り組んだ企業でもある。ノーマライゼーションとは、障がいのある人や高齢者が健常者とともに生きることがノーマルであり、望ましい形だという社会理念だ。
 「長女が障がい者で、福祉住宅が私自身のテーマだったからです。身障者は施設に入所するという当時の常識を、ノーマライゼーションという考え方を広めることで変えたかった」と創業者で現会長の土屋公三さんが説明する。
 当時、日本では知られていない社会理念を普及させるため、85年に車椅子で暮らせる戸建てモデルハウスを日本で初めて建てた。89年には、モデルハウスの技術指導を行った大学教授などを委員に迎えて「ノーマライゼーション住宅財団」を設立。障がい者や高齢者が快適に暮らせる住まい作りを目指し、海外の先進事例の視察と研究、福祉住宅の建主への助成金交付、ノーマライゼーションの動向などを伝える広報誌の発行など、活動は現在まで20年近く続いている。
 こうした財団の成果として得られた、障がい者や高齢者対応の住宅建築に関する情報やノウハウは、個人法人問わず全てに公平に提供している。それが他社の仕事になってしまうことがあっても、「良い住宅が建って世の中のためになればそれでいい」と土屋さんは語る。財団設立の目的からすれば競合他社との情報共有も当然のこと、という考えである。

↑ページトップへ

■継続的な活動で企業の価値観も伝わる

ノーマライゼーション生涯福祉モデル住宅
85年、札幌市に建築した「ノーマライゼーション生涯福祉モデル住宅」。
 当初、財団活動の目的が社会啓発であることがなかなか理解されなかった。「ハウスメーカーの社長が始めたのだから、ビジネスに利用するのだろう」と受けとめられたという。だが、「企業活動とは、結局はどういう社会参加ができるかということ。ノーマライゼーション住宅財団は土屋ホームの価値観の一つを示すものであり、収益活動とは別なのです」(土屋さん)
 公益性のある財団がノーマライゼーションに取り組むことと、土屋ホームが商品である福祉住宅を提供することは、当然ながら区別されてきた。だがこの財団活動を20年近く継続してきたことが、土屋ホームという存在とその企業理念を社内外に知らしめたのは間違いない。
 ノーマライゼーションを普及させる活動が継続されてきた現在、住宅業界でバリアフリーは基本的な仕様となり、ユニバーサルデザインの概念も浸透してきた。「営業担当者が訪問先でノーマライゼーション住宅や財団について聞かれる機会も増えました」(土屋さん)という。社員の福祉住宅への関心や知識は高く、顧客への丁寧かつ熱心な商品説明につながっているそうだ。
 ノーマライゼーションという理念を「住宅」という形にするには、間取りから建築部材の仕様、建主家族の生活状況や身体の状態まで、幅広く高度なノウハウが必要だ。スキルに不足があると、十分な品質が確保されない恐れがある。こうした「匠の技」を持つ大工を養成するための学校、「土屋アーキテクチュアカレッジ」を91年に設けた。一方、それより前の84年度には、全国省エネルギー住宅コンクールで第1位の建設大臣賞を受賞した。寒い北海道で高齢者などが暮らしやすい高断熱住宅の設計を追求した結果、全国一の省エネ住宅に結びついたのだ。最近ではweb上のランキングサイトで「頼んでよかった住宅メーカー」全国1位も獲得している。
 ノーマライゼーションを外部に発信するだけでなく、土屋会長は社員研修などでその理念を繰り返し語り続けている。「長くやるという発想ではなく、私にとってはむしろ続けることが当たり前だった」と言う土屋さん自身の理想追求、そして経営者としての信念が、財団を含むグループ全体に浸透している。社会啓発として始めた新しい価値観を普及させる広報活動が、いつしか土屋ホームの企業理念の一つとしても伝わり、結果的に企業ブランドを支える大きな柱にもなっているのだ。
移動用器具が設けられた風呂 移動用器具が設けられたトイレ
風呂やトイレに足の不自由な人のための移動用器具が設けられた。

↑ページトップへ

 ピジョンの植樹も土屋ホームの財団も、事業内容と密接に結びついた発想・活動である。事業領域と接点のある広報施策だからこそ、商材だけでは理解し難い、企業理念やその企業ならではの価値観まで伝えられるのだ。顧客やチャネル、社内も含め、より深い理解を得るためには、「息の長い」広報が必要なのだ。
 こうした長期に及ぶ施策は、費用対効果の点で導入を迷うこともあるだろう。しかし、ロングレンジということは、広報コストの分散と考えることもできる。現にピジョンは蓄積したノウハウを活用してコスト面でも賢い運営につなげている。
 確かに時間はかかる。だが、企業の存在感は着実に増す。例えば年間の広報イベントや広報誌発行など、時期が定まっていれば「歳時記的PR」として定着していくのだ。企業の広報部門にとっても、じっくりと腰を据えて施策を続けられるメリットがある。もちろん、そこには絶えざる試行や改善があり、PR効果を高めていく必要はあるが。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第10号(2007年5月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

↑このページの先頭へ