調査・研究/発行物

目黒発 vol.2

注目の体験型広報

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- 日清食品のケース -

■自分で作れば、誤解が理解に変わる
■発明の楽しさを、子供に伝えたい

- 積水ハウスのケース -

■家づくりは、住む人と企業の共同作業
■消費者の体験を通して、企業も学ぶ

■体験型広報は、「企業の学び」の始まりです。(小泉眞人)

SPECIAL REPORT

- 日清食品のケース -
■自分で作れば、誤解が理解に変わる

手作り体験工房
「手作り体験工房」のチキンラーメン作りに参加できるのは小学生以上。90分間のプログラムで発明を疑似体験する。参加料金は小学生が300円、中学生以上は500円。
 「インスタントラーメンはなぜ長期保存が可能なのか?」という問いに正確に答えを出せる消費者は多いとは言えないだろう。蒸して味付けをした麺を『油で揚げる』ことによって、麺の中の水分を飛ばして乾燥させるというイノベーションが、常温での長期保存を可能にしたのだ。したがって、合成保存料は使う必要がない。日清食品では、1958年のインスタントラーメン発明時から、一切使っていないという。しかし、「保存料が使われているという誤解も根強いんです」と、日清食品広報部の大口真永さんは苦笑する。
  日清食品にはインスタントラーメンへの理解を深めてもらうためのユニークな消費者体験プログラムがある。お客様自らインスタントラーメンを作る『手作り体験工房』だ。インスタントラーメンを発明した日清食品創業者の自宅跡に近い、大阪府池田市の『インスタントラーメン発明記念館』の中にある。
  『手作り体験工房』の参加者は、インストラクターの指導を受けながら、世界初のインスタントラーメン『チキンラーメン』を作ることができる。自分で生麺を作り、蒸して味付けをして油で揚げ、袋に詰める。合成保存料が含まれていないことは、自分で作ってみればすぐ分かる。

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■発明の楽しさを、子供に伝えたい

 日清食品には、創業者の安藤百福氏が掲げた『食足世平』(食足りて世は平らか)という理念がある。安藤氏は、闇市のラーメン屋にできる行列を見て『手軽においしく食べられる食品を作りたい』と感じ、試行錯誤の末にチキンラーメンを発明した。
  「『インスタントラーメン発明記念館』や『手作り体験工房』を作ったのは、『発見と発明の楽しさ、面白さ』を、次の世代を担う子供たちに伝えていきたい、という強い思いがあったからなんです」(大口さん)
  日清食品では、実際にチキンラーメンを製造するプログラムを消費者に提供することで、創業の原点である発明を追体験してもらい、その「発明」にこだわる企業理念と製品の持つ価値観を伝えることに成功している。こうした体験型広報は、教える側のシナリオでただ資料を展示するよりも、消費者が体験を通して共感し、より深く理解し、学びを得られるという面で優れていると言える。それは、頭で理解するだけではなく、五感をフルに活用する身体的経験だからこそ伝えられるメッセージである。

インスタントラーメン発明記念館 日清食品の『インスタントラーメン発明記念館』は1999年にオープン。発明時のエピソードや商品の歴史、世界各国で販売される即席麺などを展示。企業のPR施設としては非常に人気が高く、2004年には累計来館者が50万人を超えた。
www.nissin-noodles.com

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- 積水ハウスのケース -
■家づくりは、住む人と企業の共同作業

納得工房
積水ハウスの『納得工房』は1990年にオープン。来場者の感想や意見といった体験情報を分析/研究し、今後の暮らしと住まいのあり方を追求。そうした成果を生活者に還元していくのが施設のコンセプト。住む人の理想や希望により近い状況を再現/体感できる点が、一般の住宅展示場と大きく異なる。 www.sekisuihouse.com/nattoku/koubou
 住宅は高額商品であるうえ、特に注文建築は完成するまで仕上がりが分かりづらい。消費者の住まい購入時の不安を和らげ、イメージを的確につかんでもらうために、体験型の施設が大きく役立っている。京都府相楽郡にある積水ハウスの『納得工房』を取材した。
  『納得工房』は、積水ハウスが蓄積した住宅研究のノウハウやコンセプトを一般消費者にプレゼンテーションする場である。ユニークな「住み手参加型」のアプローチで、顧客の住まい作りに貢献している。
  キッチンのコーナーでは、実物のシステムキッチンや釣り戸棚、カウンターなどの位置や高さを変えられ、訪れた消費者が自分の目線で好みやサイズを確かめることができる。更に、居間とキッチンの位置関係がどのように感じられるか、可動式の設備で自由に試すこともできる。耐震構造や地盤と建物基礎の関係を説明する展示は、模型を使って、専門知識がない人にも理解しやすい。また、可動式の壁を用いて、廊下の幅などのスペースを実際に確認することができる。この他、生涯住宅の観点から、妊婦や老化などの体験装具を着用し、体が不自由になった時の変化を体験しながら玄関の段差や手すりの位置などを確認したり、車いすに乗って、自分にあったキッチンやインターホンの高さをチェックし、使い勝手を検証する設備もある。

生涯住宅ゾーン 生涯住宅ゾーンでは、実際に車いすに乗って設備の高さなどの使い勝手をチェックできる。
 自社の建築技術を伝える広報施設は珍しくないが、実際の生活に即した数多くの体験が可能という施設は多いとは言えない。詳細で高水準なこの『納得工房』は、社員の研修に使う目的もあって設けられたという。
  「自社製品のユーザーではない社員にも、実際に体感することを通じて更に理解を深めてほしい」と、この『納得工房』のスタッフで一級建築士でもある林部修一さんは説明する。館内の住宅模型やジオラマは林部さんが自作したものだという。『納得工房』は、プロを育てる水準で一般消費者の理解を助けるという、興味深い消費者体験プログラムになっている。

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■消費者の体験を通して、企業も学ぶ

トイレのミニ書斎 トイレのミニ書斎は、誰でも参加可能な公開講座の参加者の発想から生まれた。書棚と机のほか、テレビも備え付けられている。
 企業が消費者にリアルな体験を提供すれば、その場で消費者の自然な発想に触れる機会も生まれてくる。例えば『納得工房』が主催する公開講座「すまい塾」で、トイレで本を読みたいという参加者がいた。その参加者から詳しく話を聞くと、トイレで長居するための希望が浮き彫りになり、折りたたみ式の机や本棚を設置した。今やこのトイレのミニ書斎は『納得工房』の人気のコーナーになっている。
  年間3万5000人の来館者があるという『納得工房』では、消費者が自分でも気付かなかったニーズをも発見する機会を得る。更に、来場者があれこれ試す中に、企業としても新たな発見やヒントをつかめるかもしれない。こうした体験型広報を通じ、企業が消費者に商品やサービスといった企業活動の結果を提供するだけの従来の関係から、商品開発プロセスの共有というコラボレーション関係を構築できる可能性がある。
  ひとくちに「消費者参加」というのは簡単だが、消費者も、企業も互いに学びを得るためには、問題意識と深い理解が必要だ。『納得工房』にはリピーターが多いという。体験を通して消費者と企業が高水準でコラボレーションできることが魅力となっているのだろう。

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■体験型広報は、「企業の学び」の始まりです。

小泉眞人 東海大学文学部広報メディア学科教授

小泉眞人 東海大学文学部広報メディア学科教授
 MIT(米国マサチューセッツ工科大学)のダニエル・キム教授によると、人の学習には二つの側面があるという。一つはknow-how(ノウハウ)の習得であり、もう一つはknow-why(ノウホワイ)の探求であるという。我々が「学ぶ」といった場合、短期的なノウハウ(方法論)さえ習得できればそれでよいと考えがちである。しかしそれは本当の学びではないとキム教授は指摘する。なぜそうなのかという論理的探求(ノウホワイの視点)こそが、本質的な学びの重要な要素だからである。
  今回の二つのケースは、今までの受動的なイベントや一般的な消費者参加型イベントとは一線を画しているように見える。今までのイベントが単なるノウハウの習得という側面が強いのに対し、体験型広報活動はイベントの進化系であり、その目的はノウホワイ(なぜそうなのか)に主眼が置かれているからである。つまり体験を通して消費者は企業(商品やサービス含む)を学習しているのだ。学習することで企業への理解そして共感、更には好意形成(ブランド形成)へと態度変容を促されている。体験型広報は、企業が消費者に学習の機会を提供している場である。このような学習(学ぶこと)を通してこそ、消費者は本当の意味で企業との信頼関係を構築することができる。

  そして同時に企業もこのような体験型広報活動を「学びの場」として経営やマーケティングに生かすべきではないか。今までのイベントがまさに一方向(one-way)のコミュニケーション展開であり、消費者だけを満足させればそれで良いというのがその主な目的であった。それに対してこの体験型広報活動は、あくまで双方向(two-way)のコミュニケーション活動でなければならない。インターラクティブなコミュニケーションを展開できる仕組みが構築できてこそ、この体験型広報活動はその機能が発揮できるのである。
  コミュニケーションの送り手である企業が、受け手である消費者と共に学ぶ仕組みを作ること、一方的な情報提供の場ではなく、情報を共有する場として、体験型広報活動の意味は大きいと言える。体験の本当の意味は、まさに消費者と共に学ぶことを企業が経験することなのだ。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第2号(2006年1月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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