調査・研究/発行物

目黒発 vol.1

企業利益に繋がる社会貢献活動、CRM

世良耕一(せらこういち) 東京電機大学准教授
1992年ニューヨーク大学経営大学院卒業(MBA)。マーケティングコミュニケーション分野における新進気鋭の研究者として注目を集める。

INDEX >>

■コーズ・リレイテッド・マーケティングとは
■CSR及びフィランソロピーとの関係
■ブランド構築手段としてのコーズ・リレイテッド・マーケティング
■支援先コーズ選定における留意点

SPECIAL REPORT

 本稿では、米国において、1983年のアメリカン・エキスプレスの「自由の女神修繕キャンペーン」で一躍有名になった「コーズ・リレイテッド・マーケティング」に関する提言をさせていただきます。毎月11日、スーパーマーケット・ジャスコ(イオングループ)のレシートの色が白から黄色に変身することはご存じでしょうか。その黄色いレシートを受け取った顧客は、出店地域内の様々なボランティア団体名が書かれたセルが並ぶ店内備え付けの透明BOX(写真1)へ向かいます。そして、自らが支援したいと思うボランティア団体のセルへ、そのレシートを投函します。すると、レシートの金額の1%がそのボランティア団体へ寄付される仕組みになっています。今回のテーマであるコーズ・リレイテッド・マーケティングにおいて、この「幸せの黄色いレシートキャンペーン」の顧客が自ら支援したいと思う団体を選択する行為が重要な意味を持つことになります。本稿を最後までお読みいただければ、どうして重要なのかがお分かりいただけると思います。そこで、まずは、コーズ・リレイテッド・マーケティングとはどのようなものかをみていきます。
幸せの黄色いレシートキャンペーン
【写真1】
イオングループによる「幸せの黄色いレシートキャンペーン」。毎月11日のイオン・デーに、地域のボランティア団体などの名前と活動内容を書いた投函BOXをお店に置く。この日は、客がレジ精算時に受け取った黄色いレシートを応援したい団体の投函BOXへ入れると、購入金額合計の1%が地域ボランティア団体などへ希望する品物となって寄贈される。2004年の贈呈相当金額は約5,072万円となった。

■コーズ・リレイテッド・マーケティングとは

 コーズ・リレイテッド・マーケティングと聞いた時、まず、ひっかかるのが、コーズという言葉だと思います。コーズという言葉の訳を英和辞典から直接持ってきて、「大義」と訳す人もいます。しかし、ここで使われているコーズは、大義というと、少し重すぎます。コーズ・リレイテッド・マーケティングにおけるコーズは「良いことなので支援したくなるような対象」を意味します。

  その起源は、アメリカン・エキスプレスが、1981年にサンフランシスコ地区の芸術を振興しているコーズに対して、カードが使用される度に2セントを寄付するキャンペーンを行い、このキャンペーンに対して、初めてコーズ・リレイテッド・マーケティングという言葉を用いた時までさかのぼります。このキャンペーンでは、3カ月の間に、10万ドルの寄付を集めました。

  続いて、同社は1983年に「自由の女神修繕キャンペーン」によって、コーズ・リレイテッド・マーケティングを更に全米規模に拡大しました。その結果、コーズ・リレイテッド・マーケティングという言葉が市民権を得ることになりました。そのキャンペーンの内容は、アメリカン・エキスプレス・カードが使用される度に1セントを、同カードの新規発行1件ごとに1ドルを、自由の女神修繕のために寄付するというものでした。その結果、同社は自由の女神財団へ170万ドルの資金を提供することができました。更に、キャンペーン期間中のアメリカン・エキスプレス・カードの利用額も30%上昇するという成功を収めました。以上のような経緯から、正確には1981年がコーズ・リレイテッド・マーケティングの起源ということになります。しかし、一般的にはコーズ・リレイテッド・マーケティングの名を一躍有名にした、1983年のアメリカン・エキスプレスの「自由の女神修繕キャンペーン」がその起源であると認識されています。

  「自由の女神修繕キャンペーン」がコーズ・リレイテッド・マーケティングとして有名になったことから、当初、コーズ・リレイテッド・マーケティングを売り上げの一定割合の寄付ととらえる定義が一般的に用いられていました。しかし、その後、コーズ・リレイテッド・マーケティングはより広い意味でとらえられるようになっています。ここでは、コーズ・リレイテッド・マーケティングの定義を「コーズとの協力関係のもと、企業がコーズ支援をすることにより、マーケティング全般の目標達成を促進するための戦略」とします。

↑このページの先頭へ


■CSR及びフィランソロピーとの関係

 続いて、コーズ・リレイテッド・マーケティングの位置付けをCSR及びフィランソロピーという概念を用いて明確にしていきたいと思います。

  図1のように、CSRは3つの層に分けることができます。3層の中心の企業コンプライアンスとは、法律を順守することを指します。企業コンプライアンスの徹底は、CSRの第1歩であり、企業が存続していくために不可欠な要素といえます。次に、企業倫理の徹底が必要になります。これは法には触れないものの、将来、ステーク・ホルダーとの関係に悪影響を与えるような様々な事象について、きちんと対応することを指します。この第1、第2段階の企業コンプライアンス、企業倫理の徹底に関しては、それを遂行することに関して、異論はないところです。そして、最後に残されたCSRが、図1の一番外側の層である企業の社会貢献となります。

【図1】CSRの構造 【図1】CSRの構造
CSRは「企業コンプライアンス」、「企業倫理」、「企業の社会貢献」の3層からなる。

 フィランソロピーの場合、企業が社会貢献を行う際に、直接的に利益を求めてはいけないという呪縛があるため、企業が社会貢献を行う正当性を、「啓発された自己利益」という表現を用い、回り回ってめぐってくる間接的な利益に求めています。これに対しコーズ・リレイテッド・マーケティングでは、企業の社会貢献活動をマーケティング戦略の一環ととらえ、その位置付けを明確にしています。この関係を図示すると図2のようになります。コーズ・リレイテッド・マーケティングを通して、企業の社会貢献活動は、ブランド構築、販売促進、製品差別化等、様々な面で企業に利益をもたらすことになります。続いて、その中の一つであるブランド構築手段としてのコーズ・リレイテッド・マーケティングについてみていきます。

【図2】コーズ・リレイテッド・マーケティングとフィランソロピーの関係 【図2】コーズ・リレイテッド・マーケティングとフィランソロピーの関係
「企業の社会貢献」のうち、「マーケティング」と重なった部分が「CRM」であり、重なっていない部分が「フィランソロピー」となる。

↑このページの先頭へ


■ブランド構築手段としてのコーズ・リレイテッド・マーケティング

 石井淳蔵氏は、ブランド拡張が行われるその瞬間に、拡張の前提であったブランドが変容するため、ブランドがその価値を深化させる契機は、同時にブランドが「意味の無重力状態」におかれ、その価値を喪失する契機でもあると指摘しています。そして、それが「命懸けの跳躍」の本質であるとしています。コーズ・リレイテッド・マーケティングはこのブランド拡張時の「命懸けの跳躍」の際のリスクを軽減する「命綱」として機能します。

  その仕組みは、あらかじめ参入する分野と関連したコーズを支援しておき、下地を作り、突然参入するのとは異なる自然なブランド拡張を演出するというものです。この下地が「命懸けの跳躍」の際の「命綱」の役割を果たすことになります。下地作りは、決して本業を通して行うことが出来ないため、本業以外のコーズを支援するコーズ・リレイテッド・マーケティングが重要な役割を果たすことになります。

  具体的には、カジュアル・ウエアの企業が、スポーツ・ウエアに参入する際に、それに先だってJOCスポンサーとなり、あらかじめブランドにスポーツ属性を付与し、ブランド拡張をより自然に演出した例が挙げられます。この場合、JOCへの支援は、カジュアル・ウエアのみのブランドから、スポーツ・ウエアをも含んだブランドへの拡張へ向けての「命懸けの跳躍」に際してのリスクを軽減することを狙った「命綱」の役割を果たすことになります。

※石井淳蔵『ブランド価値の創造』岩波新書、1999年。

↑このページの先頭へ


■支援先コーズ選定における留意点

 次に、支援先コーズ選定に際しての留意点についてみていきます。 2002年度に企業メセナ協議会が行った4,109社に対する調査※※によると、メセナ活動の評価に際して、「消費者や投資家の評価を取り入れる仕組みがある」と回答した企業は、わずか1.5%に過ぎません。このことから、日本においては、支援先選定に際して、消費者の意向を配慮して決めることの重要性に関する認識が低いと考えられます。

  しかし、コーズ・リレイテッド・マーケティング研究の中では、支援先選定の重要性が指摘されてきました。筆者が行った調査では、日本において、消費者がCMを通して、企業が自分と関係が薄いコーズを支援していることを知った時、その企業が提供する商品に対する好感度に悪影響が及ぶことが判明しています。

  そこで、コーズ・リレイテッド・マーケティングを実施する際には、消費者とコーズの関係に配慮して支援先を選定する必要があるといえます。更に、一歩進めて、「支援先コーズと消費者との関係」を、所与のものとして受け入れるのではなく、顧客と支援先コーズとの関係が深まるような仕掛け作りを行うことも考えられます。

  具体的な手法としては、消費者と共にコーズ支援活動を行う手法があります。その代表的な事例として、企業と顧客との共同清掃活動が挙げられます。北海道函館市でナンバーワンの店舗数を誇るハンバーガーチェーンの「ラッキーピエロ」を傘下におくシルクロードグループは、メール会員となっている顧客に呼び掛け、参加者を募り、顧客と共に海岸清掃を行っています。写真2は、顧客との共同海岸清掃活動終了後に撮った写真です。

  最後になりましたが、これまでのお話から、冒頭のジャスコの「幸せの黄色いレシートキャンペーン」において消費者が自ら支援したいと思うボランティア団体を選択するという行為が、コーズと消費者との関係を深めるという点で重要な意味を持っていることがお分かりいただけたことと存じます。

※※「メセナリポート2003」『メセナnote』Vol.28, Nov.-Dec.2003別冊、企業メセナ協議会、p.6

シルクロードグループ 【写真2】
函館市を中心にハンバーガーの「ラッキーピエロ」を展開するシルクロードグループは、積極的に定期的な環境美化活動や植樹、災害時の義援金募集とボランティア活動、ユニセフ募金活動等を行っている。写真は2004年9月に行った函館市の海岸清掃のもの。グループの社員だけでなく、取引先の社員や、北海学園大学の学生なども参加し、約100人が海岸のごみ収集に汗を流した様子が函館新聞、毎日新聞、北海道新聞で報道された。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第1号(2005年11月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

↑このページの先頭へ