調査・研究/発行物

目黒発 vol.25

SPECIAL REPORT
変革しつつある行政広報に学べ
[農林水産省のケース]
COLUMN
映画で学ぶ広報・コミュニケーション力 第4回
共感のロジックをつかむ
OPINION
アメリカを肌で感じた。その奥にある「うねり」を知った。
堤 未果 ジャーナリスト
AD LETTER
当社が発行する3つの広報誌
SPECIAL REPORT
変革しつつある行政広報に学べ
出し手側が「語る」のでなく、
受け手側に「語ってもらう」コミュニケーションへ
-農林水産省のケース-

行政からの情報発信といえば「言い回しが難解」「文字数が多いのに曖昧」「独りよがりで一方的」と思われがちである。しかし、昨今の行政広報の中には、こういった古い印象とは無縁の斬新な手法を取り入れたケースが登場している。今号で取り上げた事例は、単なる情報発信に留まらず、いかに消費者の行動を引き出すかというレベルまで考えた行政コミュニケーションの代表的な成功例である。 とかく守りに入りがちとされる「お役所」だが、新しい広報が生まれた背景、そしてその先にある消費者との深いコミュニケーションの狙いを探る。民間企業も大いに参考になるのではないだろうか。

■読者と「つながる」ために。媒体特性を見極めた広報展開を
写真:農林水産広告賞を裏方として支える大臣官房情報評価課の「企画チーム」の皆さん。
農林水産広告賞を裏方として支える大臣官房情報評価課の「企画チーム」の皆さん。
左から、総務班 企画第1係 澤靖久氏、月岡直明氏、前・企画第1係長 縄田智子氏、企画第2係長 小幡徹氏、企画第3係長 花田優氏、企画第4係長 吉木小牧氏、広報担当専門職 常田昌司氏

公的機関からの情報発信は、一方通行なガイドになりがちである。誤解が生じないような表現に固執するあまり、情報が肥大化してしまい、結果として受け手にうまく伝わらないケースも多いという。農林水産省(以下、農水省)も例外ではなく、広報の一翼を担う大臣官房情報評価課でも、情報発信の現状にはかねてから問題意識を持っていた。「省側の視点だけで情報を発信していたのでは、国民の皆さまに届きません。相手に伝わるコミュニケーションとは何かを日頃から考えていました」(情報評価課 企画第1係長 縄田智子氏※現在は秘書課に在籍)。そこで、セグメント・メディアである雑誌との編集タイアップにより、ターゲットを絞った広報施策を展開するにいたった。

2008年2月から3月にかけて、マガジンハウスの雑誌『Hanako』『an・an』『BRUTUS』『クロワッサン』『Tarzan』の5誌で、各々表現を変えたブック・イン・ブックという形で食料自給率に関する情報を掲載した。

それまでは、どのような雑誌にも同じ広告をまるで「金太郎飴」のように掲載するのが常であったという。この企画では、読者を知り尽くした雑誌編集者に、各誌に合わせた記事作りを依頼。ブック・イン・ブックという形態では読み飛ばされることが危惧されたため、食料問題という堅いテーマと読者との間に強固な「ブリッジ」を築くことが狙いだった。

5誌共通の本編は、メッセージ性の高いイラストと平易な文章で日本の食料自給率の問題を分かりやすく解説していくもの。「ある幹部の想いを口述筆記したものが原型で、それに合うイラストレーターを指名しました」(縄田氏)。その入り口となる部分を、たとえば『an・an』であれば特集のテーマでもあった「恋愛」に、『Hanako』であれば「おとりよせ」にするなど、媒体特性に合わせて変化させた。この「ブリッジ」を雑誌作りのプロに任せることで、それぞれの読者にとって違和感のない、各誌に溶け込んだ企画となったのである。

しかし5誌とのコラボレーションも、「効果としてはまだまだ自信を持てるものではなかった」と振り返る。メディア特性を考慮した行政広報という取り組み自体は出版業界等では話題を呼んだが、よほどの雑誌好きでもないかぎり、 5誌を同時に目にすることはない。横のつながりが伝わらず、仕掛けに比べてインパクトと いう意味では課題を残すこととなった。

この反省が生かされたのが、09年2月15日発行の『BRUTUS』、特集「みんなで農業。」だ。雑誌一冊まるごとコラボレーションを行ったのである。広く広くというこれまでの行政広報のスタンスとは一線を画し、いわゆる「エッジのきいた」同誌の読者をピンポイントのターゲットに据えた。先見性があり、伝達力のある人々へ情報を提供することで、新しいライフスタイルとしての農業をイメージさせ、周囲に広げてもらうことを狙った。敢えて農業とは無関係と思われるような媒体との協働を図ったのである。

当初、消費面から食べものにアプローチし、その背景に「農」を位置づけようと考えていた編集部に対し、議論を重ね、できるだけ多くの誌面で「土」を見せてほしいと依頼した。編集部もこれに応え、農水省では把握することのできないような新鮮なネタを、特集が 2回組めるほど集めてきたという。

記事への反響は、5誌の出稿時とは比較にならないほど大きく「農業に対する考え方が変わった」といった声がブログなどに多数書き込まれ、他のメディアが農業企画に追随する傾向も見られた。「準備を始めた頃から実際に発売されるまでの間に、世の中の関心が大きく変わりました。タイミングもあったと思います」(縄田氏)。すでに盛り上がりの兆しを見せていた農業を、記事をきっかけに社会的なムーブメントとして決定づけたのである。農業に対するマイナスからプラスへのイメージ転換、就農者のハードル低下という意味では、大きなエポックとなる広報となった。結果、それまでの行政広報には類例のない、省庁によるブランディングに成功したのである。

写真:雑誌とのコラボレーション
写真:抜き刷りに参考データを加え、再編集された小冊子。
写真:食料の未来を確かなものにするために
(左)雑誌とのコラボレーションでは、編集者の協力を得て、それぞれの媒体特性に応じた展開を心がけている。(右上)抜き刷りに参考データを加え、再編集された小冊子。スピンオフ企画により、子ども向けに食育を扱った続編も。イラストはいずれも福田利之さん。(右下)『食料の未来を確かなものにするために』は、教材用として全国の中学校にも配布。送付用の箱も「GROOVISIONS」によるデザインでクオリティを追求した。
■メッセージに力を。クリエイターに委ねる姿勢

食料問題を認知してもらうためのクロスメディア戦略の一環として、5誌との編集タイアップや新聞広告などと同時に企画されたのがDVD『食料の未来を確かなものにするために』である。

このDVDは、農林水産大臣主催による「食料の未来を描く戦略会議」の成果をまとめたもの。きっかけは「分厚い報告書を作っても読まれない。誰でもわかるような動画がいい」という大臣からの指示であった。現在の食料問題は、国内だけでなく、世界の人口増加や環境問題なども複雑に絡んでいる。これらをビジュアル化し、ストーリー仕立てにするという作業は極めてハードルが高く、そのためデザイン集団「GROOVISIONS」が起用された。当初、農水省側には、しっかりと説明するため、少しでも尺を延ばしたいという意向があった。対してクリエイターからは「見る側に受け入れてもらうためには、最長でも5分」と強く提案されたという。しかし、いくら言葉を厳選してもナレーションが10分を超えてしまい、「言葉のダイエット」に相当な苦労があったというが、その成果は大きなものだった。「正確さを意識するあまり、どうしても冗長になってしまう。でも、最後まで見てもらえなければすべてが無駄。相手に伝わることを第一に、簡潔に、ストレートに表現することが重要だとプロのクリエイターから教わりました」(縄田氏)。

クリエイターに委ねることで、高いレベルの作品が完成した。三十数誌に無償で紹介され、文化庁メディア芸術祭でも入賞。YouTube上でも公開され、日本語版で5万回、英語版では10万回以上もの再生回数を記録している。ブログ上での口コミによって徐々に広がり、海外に飛び火して世界中からアクセスされるようになる過程を、目の当たりにしたという。

さらにはこれを教育の場でも活用してもらうべく、先生用の解説書を添付して全国の中学校や教育委員会に配布した。学校にはたくさんの教材が届けられると聞き、全国360万人の中学生たちに向けて、まずは先生方に開けてもらうことをクリアするため、箱のデザインにもこだわったという。

■情報を提供する/される関係から課題を共有・共感する関係へ
写真:農林水産広告賞応募作品
取材日は農林水産広告賞(http://www.aff-award.jp/)の 締切直後、多数の応募作が机上に置かれていた。予想を大きく上回る応募数にうれしい悲鳴、とのこと。

雑誌メディアとのコラボレーションやクリエイティブを活用したマスへのリーチは、話題喚起型の広報施策として実のあるコミュニケーションを生んできた。しかし、一方通行の情報発信の域を超えていないことに気づかされたという。そこで、次の展開として企画されたのが、「農林水産広告賞」だ。単に農水省が抱える課題を、広告を通じてアピールするのではなく、逆に「広告を募集する広告」を出して、受け手側に参加を求めたのである。審査を依頼した第一線のクリエイターたちからも「いま、農業について考えることの意義」に理解と支持を得ることができた。しかし何を募集テーマとすべきかというところで、大きな課題が立ちはだかったという。通常の広告制作であれば、クライアントから訴求ターゲットや商品特性などの入念なオリエンが実施されるが、農水省の守備範囲は広く、課題も多岐に渡っている。しかも多くの人にとって農業との接点があまりないことも十分予想された。テーマを設定するにあたり、何度もブレストが行われ、同じ農水省職員でも、世代、出身地、家業などのバックグラウンドが異なるだけで、農業に対する視座がまったく違うことに気づかされたという。「農水省の中に何年もいながら、改まって農業について考え、みんなで議論をするような機会はこれまでなかったかもしれません」(縄田氏)。

ブレストで検討された数多くのキーワードを持参し、審査員のひとりであるコピーライターに相談したところ、「テーマを限定するのではなく、そうした様々な視点を応募者と共有してはどうか」といった意見が返ってきた。こうして「農業」という大きなテーマの中で、新しく力強い切り口を探し、表現してもらうという仕組みが出来上がったのだ。

募集テーマとともに発表された「応募の前に知っていただきたいこと」は、こうした省内のブレストの成果が実を結んだもの。日本人の食生活の変化から、農村の置かれている現状、さらには食料を通じた諸外国との関係など、日本の農業のこれからを考えるにあたって必要な要素が、グラフやデータを潜ませた一枚の関係図に凝縮されている。これを応募者が見ることで、ブレストを追体験し、日本の農業が抱える課題を共有してもらう仕掛けになっている。

「農林水産広告賞」によって農水省は、伝える場ではなく、参加者それぞれが「農業」について考え、自らの言葉で語る場を作り上げたのである。09年度の応募総数は、コピーとポスターデザイン両部門合わせて約1万2000作品。 目標のおよそ2倍に達したという。

行政からの情報発信は、国民全体という極めて幅の広いユーザーから理解・共感を得なければならないという難題を抱えている。メディア特性の把握やクリエイティビティを意識した広報、あるいはユーザーとの双方向の仕掛けづくりなど、広報の基本とトレンドを押さえた手法で成功を収めている農水省の事例には、大きなヒントや示唆が含まれているのではないだろうか。

「変革しつつある行政広報」から学ぶ4つのポイント
1 セグメント・メディアの特性を正しく理解してから情報発信する
2 消費者の理解だけではなく、行動までを意識した情報を届ける
3 簡潔なメッセージと斬新なクリエイティビティの相乗効果が伝わる力をつくる
4 消費者の自主性を養う仕掛けが双方向コミュニケーションの礎となる

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『クイズ・ショウ』-Quiz Show-
1994年 米国 ジョン・タトゥーロ、ロブ・モロー、レイフ・ファインズ

共感とは、「ああ、自分もそうだな」と相手に思わせることですが、この共感という波動は、一体感だけでなく、人を許したくなる不思議な力をもっています。どうすると共感の波動は生まれるのか、そのヒントになる映画をご紹介します。

写真:石川 慶子氏

石川 慶子(いしかわ けいこ)
広報コンサルタント。有限会社シン代表。映画製作会社、PR会社を経て独立。企業広報支援の他、自治体や学校にもメディアトレーニングなどのサービスを提供。

■迎合型共感は薄っぺらい

人気クイズ番組「21」で連勝する冴えない風采のステンペルはスポンサー企業の製薬会社から品格がよくないと疎まれていた。そこで番組プロデューサーのアルとダンは、家柄・容姿・教養に申し分のない大学講師ドーレンをチャンピオンにするためにステンペルに圧力をかけ誤答させる。当初は拒んだドーレンもヒーロー役を続ける道を選ぶ。

この物語は1950年代に実在したクイズ番組のスキャンダルを映画化したものです。視聴者は楽しめ、出演者は高額賞金を得られ、番組スポンサーは高視聴率に満足する、誰も不幸になっていない、と番組プロデューサーは主張しますが、果たして本当にそうでしょうか。八百長は心から楽しめますか。視聴者は真剣勝負のクイズ・ショウと思っているからこそ、ハラハラドキドキする気持ちを共有・共感できるのではないでしょうか。

これはテレビ特有の危うさともいえるかもしれません。各分野の記者達にマスコミの使命である「国民の知る権利への奉仕」とは何かを具体的に聞いたことがあります。新聞記者は、「国民が知るべきこと」、テレビ関係者は、「国民が知りたいこと。分刻みで数値化される視聴率という重圧があるから、ややもすると迎合してしまう」、週刊誌記者は、「国民がなるほど、と納得すること。背景やストーリーを伝える。速報性と表現力では新聞、テレビにかなわないからね」。

私たちメディアの視点を持つ広報担当者も迎合型広報にならないよう常に自制する必要があります。薄っぺらな迎合型共感はすぐに崩れるからです。いっときIT企業の社長がタレントのようにもてはやされた時期がありましたが、あっという間に消えていきました。視聴率が稼げるから、という理由だけで社長を商品化することは安易にやるべきではありません。

■真実こそが深い共感をもたらす
核心に迫る格調高い表現は共感の波動を引き起こす

番組の八百長が発覚した後、ドーレンは公聴会で真実を語る決意をする。本当のことを知りたいと思っていた人々は固唾を呑んで彼の言葉に耳を傾ける。その言葉とは。

一般的に考えられる反省の弁としては、おそらく「皆さんを騙すつもりはなかった。番組プロデューサーの指示に従った」といったところでしょうか。ところがドーレンの言葉は違います。過去は変えられないが教訓となる、と格調高いフレーズから始まります。

欺瞞行為に関わり友人や国民を裏切ってしまった、と自分のしてしまったことの重さにしっかりと向き合います。この過ちの行動の原因として、自分の能力への錯覚、環境に甘えて物事を安易に考えたこと、怖くて言えなかった、と深く内省する言葉があります。しかしながら、社会に対する責任を認識し、真実を語ることのみが唯一の道であると悟ってこの場にいる、と語る姿は気迫があるとさえいえます。

不祥事対応の説明の一手法として、「問題を一般化して説明する」という方法がありますが、一歩間違えると問題のすり替えと受け止められます。ドーレンが自分の過ちを振り返る言葉は自分の内面と深く向き合った末に出てきた文学的で格調高い表現力に溢れています。この結果、彼の過ちは誰もが陥る可能性がある、私たちは彼を責める資格があるだろうか、と人々に思わせてしまうのです。問題の核心に迫り、真実を語る中にこそ共感を生み出す源泉があるのではないでしょうか。

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OPINION
アメリカを肌で感じた。その奥にある「うねり」を知った。
堤 未果 ジャーナリスト

現代のアメリカに生きる人々が直面している問題を、さまざまな視点から取材することでアメリカ社会が抱える複雑な問題を浮き彫りにした著書『ルポ 貧困大国アメリカ』は、 30万部を超えるベストセラーとなった。テレビや新聞などのメディアが伝える情報からは見えづらい、社会全体の構造や時代の流れを独自の目線から見抜くジャーナリスト・堤未果さんは、世の中の出来事をどのようにとらえているのだろうか?

写真:堤 未果氏

堤 未果(つつみ・みか)
東京生まれ。高校卒業後、アメリカへ留学。ニューヨーク州立大学を卒業後、ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連女性開発基金(UNIFEM)、アムネスティ・インターナショナルNY支局員、米国野村證券勤務を経て、ジャーナリストに。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命— なぜあの国にまだ希望があるのか』(海鳴社)で、第5回黒田清・日本ジャーナリスト会議新人賞受賞。『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)で第56回日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞2009を受賞。近著に『正社員が没落する— 「貧困スパイラル」を止めろ!』(角川書店/共著・湯浅誠)など。

■「9.11」から始まった報道への疑問

私がジャーナリストになったきっかけは、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロです。当時、私はニューヨークに住んでいて、勤め先は世界貿易センタービルのすぐ隣でした。テロの現場はもちろん、人々の恐怖や不安をあおりたてるメディア、報復を叫ぶアメリカ国民の姿を目の当たりにし、アメリカという国が一気に戦争へと突き進んでいくまでの一部始終を体験しました。そのとき、メディアの報道に対して多くの疑問を感じたことから、自分自身の目で、アメリカという国をとらえてみたいと思うようになったのです。

以来、アメリカ社会や戦争をテーマにした取材を続けるうちに、頭の中にある疑問が浮かんできました。私がこれまで考えていた「戦争」とは、「国と国の間で起こる争い」でしたが、果たしてそれだけなのだろうか。その裏には、もっと“大きな何か”があるのではないか、という疑問です。

“大きな何か”という考え方は、私が学生時代、国際関係論を学ぶ中で得た手法です。ひとつの出来事をパズルのピースとすると、その周りにはその出来事に関連する別のピース、つまり別の出来事が存在するはずです。さまざまな出来事をピースをはめ込むようにくっつけていくと、全体像としての「ビッグ・ピクチャー」が見えてくる、というとらえ方です。

例えば、イラク戦争の帰還兵を取材したときのことです。帰還した兵士に入隊した理由を聞いていくと、高校生に対する軍のリクルート活動の実態が見えてきました。帰還兵の話を聞いた限りでは、私には軍が高校生に対して甘い言葉をかけ、半ばだますように入隊させたとしか思えませんでした。そこで、実際に軍のリクルート担当者に会ってみると、彼らは自分の仕事に対し熱心に取り組んでいるだけで、ひとりひとりは決して悪い人ではないのです。そこには、軍隊というシステムそのものが持つ問題があり、また経済的に苦しい高校生を取り巻く「貧困」という社会的な問題も大きく関わっていたのです。「貧しい高校生=善」「リクルーター=悪」とあてはめれば、誰にでもわかりやすいレポートになり、メディアとしても取り上げやすかったかもしれません。でも、単純化すればするほど、逆に問題の本質が見えにくくなることに気付いたのです。

そんな取材を通して私が肌で感じた「大きなうねり」のようなものを、「貧困」というキーワードでまとめたのが『ルポ 貧困大国アメリカ』です。ハリケーンの被災者や、医療保険を持たない人々の裏には、学校や医療の「民営化」という効率至上主義があること。肥満児童の増加の裏には、フードスタンプという低所得者向けのシステムが関わっていること。そして、後の世界経済危機へとつながるサブプライムローンの問題。ひとつひとつはバラバラだった問題が、「貧困」というキーワードでつながってくることがわかったのです。

■考えをぶつけ合うことで思想は深まる
写真:堤 未果氏

本を出版した後で、読者の方からさまざまな感想を伺うことができました。うれしかったのは、「今までテレビのニュースや新聞を見ても、“どこか腑に落ちない”と感じていたことが、この本を読んでよくわかった」とおっしゃってくださる方がいらしたこと。それはまさに、取材を通じて私が感じていたことだからです。

これは私の個人的な感想ですが、メディアが伝えるニュースから受け取れる情報というのは、その8割は「イメージ」で、「事実」は2割ほどではないかと思います。考えてみれば、メディアもひとつの企業ですから、「効率」という原理が働きます。効率よく、わかりやすく伝えようとすると、どうしても単純化せざるを得なくなります。でも、ひとりの人間を単純に言い表すことが難しいように、人間が引き起こす出来事だって、単純には言い表せないはずなんです。これだけ数多くの情報がメディアから流れてくる時代。受け手の側、特に子どもたちには、メディアの情報をそのまま鵜呑みにしない訓練が必要かもしれません。

「何もかも疑ってかかれ」という意味ではありません。ポイントは、どれだけ「違った見方」ができるかということ。私が普段から心掛けているのは、「人と会って、話すこと」です。メディアで得た情報を話題に誰かと話をすると、必ず自分とは違ったものの見方や、違った意見が出てくるはずです。相手に「どう思う?」と聞かれれば、自分なりの意見を考えざるを得ません。そんな会話のキャッチボールを通して得た情報は、テキストから得ただけの情報よりもずっと深いものになり、そこから「自分なりの結論」が生まれるかもしれません。

■「トップの思想」のもとで、企業は情報を発信する

一方で、企業で働く方にとっては、企業サイドの人間として消費者や従業員、もちろんメディアに対して発信する機会もあると思います。組織が発信者になる場合、一番大切なのは「トップの思想」ではないかと思います。

トップの思想が従業員にも支持され、浸透していれば、組織としていいスパイラルが生まれるはずです。そのいい例が、アメリカの大手スーパーマーケットチェーンです。W社のトップは、効率至上主義で、従業員に対しても長時間労働を強いたり、簡単に解雇することが問題視されています。一方で、C社のトップは、 従業員の生活を守ることを方針のひとつとして掲げています。どちらも、実際には仕事内容や給与はさして変わりはないのですが、2社の従業員に「あなたは今、幸せですか?」と聞いたとき、W社の従業員のほとんどが「NO」と答え、口々に仕事に対する不満を述べたのに対し、C社の従業員は、ほぼ「YES」と答えたのです。待遇は同じでも、トップが信用できず、将来に不安を抱えているW社の社員と、誇りを持って働いているC社の社員とでは、どちらがいい仕事をするかは言わずもがなです。

企業は、消費者や従業員と互いに育てあってこそ、成長するもの。トップが彼らを大切に考え、その想いを日ごろからきちんと発信さえしていれば、企業は消費者や従業員はもちろん、地域のコミュニティや国に対しても幸せな結果を導き出せる組織なのです。(談)

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AD LETTER
当社が発行する3つの広報誌

株式会社エヌ・ティ・ティ・アド コミュニケーションプランニング局
PR担当部長 島田実木雄

日本には、実に多様な広報誌があります。たとえば旅をする機会の多い方なら、飛行機や新幹線の中で、『翼の王国(ANA)』や『トランヴェール(JR東日本)』を手にしたことがあるでしょうし、最近では、ほとんどの行政機関が広報誌を発行しています。

1897年、書店の丸善が『學燈』を創刊しました。これが、日本最古の広報誌と言われています。夏目漱石や坪内逍遥等が執筆したことでも知られています。1902年には、三越百貨店が『時好』を創刊し、後の百貨店広報誌の先駆けとなりました。中でもとりわけ有名な広報誌が、資生堂の『花椿』です。1924年に、前身である『資生堂月報』が発行され、1937年から現在の『花椿』になりました。最盛期には650万部(1970年)の部数を誇った、日本を代表する広報誌だといえます。現在は、『みる花椿(奇数月)』『よむ花椿(偶数月)』と、ビジュアル中心のコンテンツと読み物中心のものを交互に発行しています。『よむ~』では、よしもとばななや山崎ナオコーラといった人気作家の小品を目玉に、映画・舞台・旅・音楽・美術とマルチ・カルチャラルな展開で読者を楽しませています。

その他で有名な広報誌といえば、サントリーの『洋酒天国』(1956~1963年)が思い浮かびます。開高健や山口瞳等を編集長に、毎号思い切った1テーマの特集を組んで、常にマスコミに話題を提供し、企業の広報誌ブームの先導役を担いました。

また、現在でも発行されている老舗広報誌のひとつに『銀座百点』(1955年創刊、月刊誌)があります。この冊子での連載から向田邦子の『父の詫び状』等のベストセラーが生まれていることでも有名です。現在でも、村松友視や川本三郎等魅力的な執筆人が連載を持っており、固定ファンも多いようです。 表紙は、著名な画家や写真家の作品で飾られており、横使いのポケットサイズという体裁とも相まって、極めて独特の味わいを醸し出しています。

NTTグループでも、各社が様々な広報誌を発行しており、そのいくつかは、当社も制作のご支援をさせていただいております。

広報誌の主な役割としては、企業理念や企業活動の伝達、世論形成等の機能があげられます。メリットとしては、以下の点があげられます。

<企業サイドのメリット>

1. 企業がコミュニケーションしたい対象者を絞り、能動的にアクセスできる。
2. 手に触れていただけることから、メッセージが読み手の記憶に残りやすい。

<読者サイドのメリット>

1. 一覧性・検索性に優れている。
2. 持ち運びが容易で、いつでも読みたいときにすぐ読める。
3.概して無料で、価値のある情報が入手できる。

ただし、特にwebサイト等と比べると、「速報性が低い」「情報の総量が限定的」といったデメリットもありますので、どんな目的で、何を、誰に伝えたいのか、といった要点を考慮した上でメッセージを乗せるメディアを選択する必要があります。

最後に当社の3つの広報誌についても、少しご案内させていただきます。

まず、ご覧いただいております本誌『目黒発』は、「企業広報」を基本テーマとして、2005年11月の創刊以来、毎年6回、奇数月に発行しております。

写真:目黒発
目黒発

<直近のテーマ>

◆「熱心なファン」に向けた広報の現在 2009年9月発行 vol.24

◆Web広報で、いま何を伝えるべきか 2009年7月発行 vol.23

◆老舗に学ぶ企業コミュニケーション 2009年5月発行 vol.22

また、マーケティング系の広報誌として、『先事新聞』と『空気読本』の2誌を発行しております。

『先事新聞』は、鮮度の高いオリジナル調査に基づき、マーケットの半歩先をお伝えしています。現在までに、16号を発行してまいりました。

写真:先事新聞
先事新聞

<直近のテーマ>

◆モノといつまでも 2009年10月発行 vol.16

◆主夫になりたい 2009年8月発行 vol.15

◆シェアする? 2009年6月発行 vol.14

『空気読本』は、最も新しく創刊された広報誌です。当社のオリジナル調査データと生活者インタビュー等に基づき、独自の視点でマーケットの現在を深く探り、レポートさせていただいています。年間2回程度を目処に、現在までに3号発行してまいりました。

写真:空気読本
空気読本

<過去のテーマ>

◆vol.1:ゆるコミ

◆vol.2:年齢を着替えるオンナたち

◆vol.3:ツッコミが欲しい消費者たち

今後とも、クライアント各社様をはじめとした多様なステークホルダーの皆様に対して、より充実したコミュニケーションを続けていきたいと考えております。 なお、各広報誌の概要は当社公式HPに転載しておりますので、是非ご覧いただければと存じます。また、些少ですがバックナンバーの予備もございますので、ご入用の際は、当社営業担当者または下記の窓口 までご連絡ください。

目黒発へのお問い合わせ:meguro@ntt-ad.co.jp

このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第25号(2009年11月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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