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空気読本 vol.21

位置情報で「見える化」する
インバウンドマーケティング
~都道府県で差が出た訪日外国人の行動実態~

2018年は、「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」を始め、複数の台風上陸、「北海道胆振東部地震」など、日本列島は立て続けに大きな災害に見舞われた年だった。 地方創生が叫ばれ、インバウンド市場が急成長するなか、災害による地方の観光ビジネスへの打撃も小さくはないだろう。日本政府観光局(JNTO)の発表データからも、東日本大震災の翌年から6年連続で2桁成長を続けてきた訪日外客数が2018年では前年比109%と1桁台に減速していることがわかる。
それでも、観光庁の宿泊旅行統計によれば、2018年の外国人延べ宿泊者数は、前年比111.2%と2桁の伸びを示しており、災害に見舞われた主な地方においても成長トレンドにあることから、「宿泊数」の観点からのインバウンド市場は、活況を呈していると言えそうだ。

訪日外客数推移

出典元:日本政府観光局(JNTO)

2018年外国人延べ宿泊者数の前年比

外国人延べ宿泊者数の前年比表

出典元:観光庁

こうした中で、自県に宿泊客を誘致し、県内を回遊させることで観光ビジネスの活性化を促すことは、行政や関連企業にとっての共通課題であり、関連する部署の担当者は必死に解決策を模索しているところだろう。

GPSデータで訪日外国人の
宿泊先を追跡する

2018年9月、NTTアドが発表した「47都道府県基礎分析レポート」は、NTTドコモが提供する「Jspeak®」とNTTアドが提供する「Japan Travel Guide ™」で利用者の許諾を得て収集した動態情報などのマーケティングデータを活用し、訪日外国人の行動を分析したものだ。
 「47都道府県基礎分析レポート」はこちら

分析結果イメージ

■47都道府県別滞在地(愛知県)

■47都道府県別滞在地(愛知県) 名古屋市を中心に滞在している。

名古屋市を中心に滞在している。

■愛知県の次の訪問先ランキング

>■愛知県の次の訪問先ランキング 岐阜県に向かっている人が突出して多く、次が三重県。

岐阜県に向かっている人が突出して多く、次が三重県。

■昼間愛知県を観光した人が宿泊した場所
(都道府県別ヒートマップ)

■昼間愛知県を観光した人が宿泊した場所(都道府県別ヒートマップ)愛知県内を昼間観光した人は、そのまま愛知県内で宿泊する人が多い。

愛知県内を昼間観光した人は、そのまま愛知県内で宿泊する人が多い。

GPS位置情報データから、滞在や移動などを地図上にプロットすることで、訪日外国人の行動を目に見える形で表現することができるしくみだ。
この中に、訪問客の自県(滞在した都道府県)での当日の宿泊状況を示すデータがある。 これらのデータから、訪日外国人滞在者の自県(都道府県)での宿泊率をランキングにしてみたので、ご覧いただきたい。
1位は沖縄県の98.7%、次いで北海道の95.2%だ。日本列島の両端にあたるこの二大観光地のみが自県宿泊率で9割を超えた。
海を隔てた沖縄や北海道を訪問したほとんどの外国人が、県内(道内)に宿泊することは、明らかに想像の範囲のことである。

当日自県宿泊率(1位~10位)
当日自県宿泊率上位

47都道府県全順位はこちら

3位以降をみると、大阪、福岡、東京、愛知と国内有数の大都市圏が名を連ねる。これらの大都市圏は一大観光地でもビジネス拠点でもあり、日本国内を結ぶ交通網のハブでもあることは言うまでもない。ここまでは、容易に想像できるし、納得のいく結果である。
では、自県宿泊率ランキングの下位を見てみる。

当日自県宿泊率(38位~47位)
当日自県宿泊率下位

47都道府県全順位はこちら

まずは、45位の千葉県47.9%。成田空港や幕張メッセ、東京ディズニーリゾート(以下、TDR)をかかえ、訪日観光客の滞在数はかなり多いことが予想され、本「47都道府県基礎分析レポート」の滞在数でも全国でトップクラスとなっている。
ではなぜ、自県宿泊率が45位と低迷しているのか。
滞在プロットを時間ごとに確認することで、その理由が見えてきた。
千葉県に、日中の時間帯(10時~18時)に30分以上滞在した訪日外国人の1時間ごとの滞在プロットを動画でご覧いただきたい。

成田空港発着便数

千葉県内の訪日外国人の滞在プロットは、主に成田周辺と浦安周辺、幕張周辺などに集中していることが確認できる。だが、夜間になると、一気に数が減少し、宿泊と思われるプロットは空港周辺やTDR近辺の一部に限られている。この要因は、成田空港の国際線発着便数のグラフと比較してみると想像しやすい。到着便のピークは14時~16時の3時間、千葉県滞在のピークは15時~17時の3時間なので、この時間帯に訪日外国人が千葉県に多いわけだ。また、出発便のピークは2回あるが夕方は17時台~18時台で、この時間帯から千葉県の訪日外国人の滞在数は急激に減少している。その後21時以降は東京都の滞在数の方が上回る状況となる。つまり、夜間の滞在数の減少は、成田からの出国に加え、東京へ移動しての宿泊が多いことによる、ということになる。
ナイトタイムエコノミーが取り沙汰されているが、成田空港利用という、他エリアへの単なるゲートウェイであるがゆえに長時間の滞在が少ない上、お隣が強力な不夜城東京となると、夜間の経済活動活性化のためには、TDRだけではない、そして東京にはないナイトライフの提案が必要となるだろう。
そして、自県宿泊率が46位47.3%の山口県から約25ポイントもの差をつけられて、圧倒的な最下位となったのが22.5%の奈良県だ。 47都道府県の中で、自県宿泊率が自県以外の都道府県宿泊率を下回ったのは、奈良県ただ1県なのだ。そして奈良県滞在者の宿泊率トップは大阪府の54.1%。自県宿泊者の2倍以上が大阪府に宿泊していることになる。
そこで、千葉県同様、日中の時間帯(10時~18時)に30分以上滞在した訪日外国人の1時間ごとの滞在プロットを動画でご覧いただく。



奈良県での滞在は昼間に偏っており、16時以降、どんどん大阪にプロットが移っていくことがはっきりと分かるだろう。
JNTOが発表している訪日外国人の「都道府県別訪問率(2017年)」によれば、奈良県の訪問率は7.3%、全国で11位の兵庫県を抑え10位に位置し、北海道や沖縄県と肩を並べる日本有数の観光地であるはずなのだが、自県宿泊率が最下位なのは何故なのか。

都道府県訪問率ランキング

出典元:日本政府観光局(JNTO)

47都道府県全順位はこちら

その答えは、大都市大阪府が隣接していることにより宿泊客が奪われている、という地理的な問題だけではなく、それ以外にも要因がありそうだ。
厚生労働省によると、全国のホテル・旅館の客室数の総数は約159万室。最も多いのが東京都(約17万室)、次いでの北海道(約11万室)だ 。

ホテル旅館客室数(2017年)
ホテル旅館客室数

出典元:厚生労働省

47都道府県全順位は
こちら

奈良県は9,197室で全国最下位、大阪府(3位)のおよそ10分の1だ。そもそものキャパシティーが不足しているのも、自県宿泊率が最下位となった大きな要因の一つと言えるだろう。その受け皿として機能しているのが大阪府であるという実態が見えてきた。GPSデータをもっと活用すれば、奈良県のどこに滞在した訪日外国人が、大阪府のどのエリアに宿泊したのかといった、もっと狭域の分析も可能となり、自県内の回遊や宿泊促進に向けた更なる具体的な課題の発見にも有効なデータとなるに違いない。

このように、位置情報の解析により、今まで肌感覚としては感じていたものの、実際の動きとしては確信がもてなかったものに、明確な裏付けができることで、さまざまな意思決定を後押しすることが可能になってきた。

本空気読本では、2017年(1月1日~12月31日の1年間)のデータを活用して分析を行ったが、NTTアドでは近々に、2018年のデータを用いた分析レポートを発表する予定となっているので、是非そちらにも注目して頂きたい。

観光マーケティングは
ビッグデータから

NTTアドでは、訪日外国人の動態分析など、独自に収集したビッグデータの解析をもとにしたさまざまなマーケティング戦略立案にチャレンジしてきた。
また、観光庁も2017年に「ICTを活用した訪日外国人観光動態調査に関する手引き」を作成し、GPSデータだけでなく、携帯電話の基地局情報から位置情報を得るローミングデータ(NTTドコモの提供する「モバイル空間統計」など)、SNSなどを通じて全世界で発信される情報などを、観光施策の検討に向けて使用することを推奨している。
今後は、スマホ決済などキャッシュレス化の推進によって蓄積される膨大な消費情報、交通機関に蓄積される移動情報、カメラや様々なセンシング手法により獲得できる情報、こうしたビッグデータがマーケティングの基礎となることは間違いない。すでに、観光ビジネスのために様々なビッグデータが活用されているのも事実だ。
そしてこれらのビッグデータが、ICTの発展にともなって更に加速度的に拡大していくことも間違いないだろう。
これからは、拡大し続けるデータをどのように扱い、価値ある情報に転換するのか、その術を持ち合わせているのか否か、がマーケティングを行う全ての企業の重要課題となる。

空気読本発行責任者

  • NTTアド コミュニケーションデザイン局
    コミュニケーションデザイン担当部長
    星埜 孝
  • 大手広告会社で経営企画室、マーケティング局などを経て、2001年にNTTアドへ。 コーポレートブランディングから広告コミュニケーション、エリアマーケティングまで 幅広い業務に携わり、2012年より現職。NTTアドの戦略プランニング部隊を率いる。

※「Japan Travel Guide ™」は、日本を旅行するのに便利な全国の観光情報が満載の訪日外国人向けアプリであり、株式会社NTTアドの商標又は登録商標です。

※「Jspeak®」は、スマートフォンに話しかけるだけで外国語と日本語の間で翻訳し多言語でコミュニケーションができるアプリであり株式会社NTTドコモの登録商標です。