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先事新聞 vol.28 急増する「ソーシャル視聴者」

今号のキーワード 「ソーシャル視聴者」はテレビを救う?
「ソーシャル視聴者」はテレビを救う?

あるメディアは、ロンドン五輪が開催された本年を「ソーシャル・オリンピック元年」とし、テレビとソーシャルメディアの親和性がますます高まっていることを報じた。とりわけTwitterはテレビとの相性が良いらしく、事実、注目度の高いスポーツ中継ともなると、「ゴォーーーーーール!」とか、「想定外のハプニング発生!」などといった情緒的なつぶやきがTwitter上に溢れ返る。そして未視聴のユーザーは、こうしたつぶやきをきっかけに試合の状況を知り、テレビのスイッチをオンにする。今や、「テレビ×ソーシャルメディア」という新たな視聴スタイルが、生活者のライフスタイルにおいて定着しつつあると言えよう。

元々、日本人は「テレビとソーシャルメディアを併用すること」に関心が高い。例えば、2011年12月9日にオンエアされた『天空の城ラピュタ』は、1秒間に2万5088件もツイートされ、秒間ツイート数の世界記録を更新した。それまでの最高記録が「ビヨンセの妊娠発表時における8868件」というから、その数の多さには驚愕する。

1980年代から90年代にかけて、生活者にとってテレビ番組といえば、「お茶の間」「学校」「職場」などにおける「仲間内でのコミュケーションを賑わすネタ」として機能していた。ところが、2000年初頭以降のソーシャルメディアの隆盛により、「実名・外向的なネットコミュニケーション」が主流となり、同時に、生活者のテレビに対するビヘイビアは大きな変化を遂げていった。つまりテレビ番組が、「仲間内でのコミュニケーションを賑わすネタ」としてのみならず、「不特定多数とのコミュニケーションを賑わすネタ」として機能し始めていったのである。こうした傾向は、むしろ生活者の「テレビを観たい」というモチベーションをより一層高めたと言えよう。

果たして、テレビとソーシャルメディアとの相性の度合いとはどれほどなのか。今号の『先事新聞』では、視聴者側、テレビ局側それぞれの立場から考えてみたい。まずは「ソーシャルメディア利用とテレビ視聴に関する調査」をテーマに、首都圏在住15歳から59歳男女500名を対象にネット調査を実施した。

テレビの視聴時間とソーシャルメディアの利用時間の関連性

はじめに全調査対象者に対し、テレビとソーシャルメディアの利用状況を尋ねてみた(図1参照)。
 その中で、テレビとソーシャルメディアの両方を利用している対象者に、「テレビ番組の内容をネタに、テレビを観ながらソーシャルメディアでつぶやいたり、書き込みをしたりすることがありますか」と尋ね、「時々やっている」「よくやっている」「あまりやらない」を選択した対象者を「同時利用者」、「まったくやらない」を選択した回答者を「非同時利用者」として、比較検証することとした(当然のことながら「非同時利用者」の中には、テレビ視聴後にのみソーシャルメディアを利用する対象者も含まれている)。(図2参照)

まず「同時利用者」と「非同時利用者」の「1日当たりのテレビ視聴時間」の加重平均を比較すると(図3参照)、「同時利用者」が2.6時間に対し、「非同時利用者」が1.9時間と、前者の方が明らかに長いことが分かる。また、「1日当たりのソーシャルメディア利用時間」の加重平均を見ても、「同時利用者」のボリュームゾーンは「~1時間未満」「~30分未満」であるのに対し、「非同時利用者」の約半数は「~10分未満」と短い。これらの結果から読み取れることとは、「ソーシャルメディア上でのやりとりが、何らかの形でテレビの視聴意欲をかきたてている」ということ、さらに「ソーシャルメディア上でのつぶやきがきっかけとなり、テレビを観始めている視聴者がいる」という仮説が想定される。

ソーシャルメディア上でつながる相手とは、少なからず自分と同じ価値観を持つ他者である。恐らく、ソーシャルメディアユーザーは、自分と同じ価値観の人間が何を観て、何から刺激を得ているのか、日頃から興味があるに違いない。つまりユーザーにとってソーシャルメディアとは、「新たな行動を選択する場」であり、観たい番組を選ぶ「番組表」のような役割を果たしているのだ。

ソーシャルコンシャスなテレビ番組とは一体何か?

次に「同時利用者」が、ソーシャルメディアで書き込みをするテレビ番組のジャンルについて、「観ながら」と「観た後で」に分けて尋ねてみた(図4参照)。まず、「観ながら」つぶやく番組のジャンルで最もスコアが高いのは、「ニュース、報道番組」で37.5%、続いて「スポーツ」の32.4%である。「ニュース、報道番組」に関しては、昨年の東日本大震災を機に、情報の速報性と確実性が問われた。そして、生活者の間で「テレビコンテンツの持つ信頼性の高さ」と「Twitterの持つ拡散力」が改めて認識され、情報入手経路の価値基準を大きく変化させた。以来、「ニュース、報道番組」で得た情報を、改めてソーシャルメディア上で拡散する行為が、「助け合い」や「シェア」にも通じる、ソーシャルコンシャスなアクションになりつつあるようだ。

一方、スポーツ番組は中継が始まると同時に、「ゴォーーーール!」などといった情緒的なツイートで盛り上がる。その状況は、「スポーツバーで見ず知らずの人と盛り上がること」に酷似している。ツイートする相手が、匿名であろうがなかろうが、「タイムリーな情報を共有することで、お互いが感動や興奮を得られる」というわけだ。
 さらに「同時利用者」に対し、「観た後」にソーシャルメディアでつぶやく番組のジャンルについても尋ねてみた。すると、最も多いのは「ドラマ」で31.9%、そして「ニュース、報道番組」の30.0%と続く。「観た後」となると「ドラマ」がトップに躍り出てくることは興味深い。恐らく、ドラマで展開されたストーリーを自らの「代替え現実」として捉え、同じ価値観を持つフォロワーと気持ちを分かち合っていると思われる。

ソーシャルメディア上で視聴者が共有したいと感じるキーファクターとは、「タイムリー性」と「ストーリー性」である。これらを生み出すテレビコンテンツには、見ず知らずの他者という垣根を越え、絆を広げていくパワーを秘めている。

調査概要
1.テレビとSNSの利用状況 2.テレビとソーシャルメディアのマルチスクリーン視聴者状況
3.テレビとSNSの利用時間
4.テレビとソーシャルメディアを併用する際のテレビ番組

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仮説:急増するソーシャル視聴者、3つのスタイル
ここまで調査データにより「ソーシャル視聴者」急増の現状と、新しい視聴者スタイルがテレビの可能性をどう広げうるのかについて見てきた。それでは「テレビ×ソーシャルメディア」は、視聴スタイルをどのように変えるのか。最後に仮説として、次の3つを「ソーシャル視聴者」の新しい視聴スタイルとして挙げてみたい。
①スポーツ番組×ソーシャル視聴者「感情共有」型
特にスポーツが持つリアルタイムの「感動」や「興奮」を共有するため、おもにTwitterでつぶやきあう。「なにをつぶやいたか」よりも同じ時間に同じシチュエーションについてつぶやく「同期性」に価値を感じるのが特徴。
ロンドンオリンピック・サッカー観戦時にTwitterダウン

ロンドンオリンピックの男子サッカー予選リーグ・スペイン戦。大津選手のゴールシーンでは多くの日本人が同時に「ゴール!!」とつぶやいた時にTwitterがサービスダウン。日本語版公式ブログでは「喜びの瞬間にツイートができず残念な思いをされたことと存じます」とお詫びのコメントを掲載する事態となった。

観戦をサポートするスマホアプリやウェブサービス

アディダス社による「サッカー日本代表STUDIUM」のように観戦時のつぶやきを共有・支援するアプリは多い。リアルタイムで「つながる」ことが最重要であるため、つぶやきのクオリティや独自性などはあまり考慮しない。むしろ「みんなと同じ時、同じ内容」であることが「つながり」の感覚を生む。

②情報番組・報道番組×ソーシャル視聴者「意見交換」型
ソーシャルメディアを通じ番組への情報提供や意見提供を行いながら視聴するスタイル。リアルタイムでの意見交換を行う番組も登場してきた。Facebookなど実名性を重視するソーシャルメディアの浸透で、情報の信ぴょう性が担保でき、また「炎上」しにくくなっている。
視聴者も芸能人もフラットに情報提供「たべコレ」

テレビ東京系のグルメ情報番組「たべコレ」は、「生涯一番の料理」をスタジオの芸能人が選んだり、食通芸能人が普段食べているレストランを紹介する、グルメの口コミをベースにした番組だ。こうした料理情報や店情報の提供には、有名人に混じってスマホアプリなどを通じて一般視聴者も参加でき「みんなで作る番組」となっている。

視聴者とソーシャルメディアを通じてリアルタイムな意見交換「NEWS WEB24」

NHK総合で平日夜に放映されている報道情報番組。「tsudaる」で知られるジャーナリスト・津田大介氏や、気鋭の若手社会学者・古市憲寿氏の起用でも話題を呼んだが、ソーシャルメディアとの連携により、画面上に視聴者からの意見を常に流し続ける仕組みが最大の特徴。時折投稿された意見に対しキャスターやナビゲーターが反応することもあり、ソーシャルメディアを通じた意見交換の場となっている。

③ドラマ・お笑い番組×ソーシャル視聴者「ツッコミ自慢」型
ドラマのストーリーやお笑いのネタを楽しみながらもそこに「ツッコミどころ」を発見し、ソーシャルメディア上で共有する視聴スタイル。「自分だけの発見」をみんなと共有(自慢)することに楽しみを見出している。
ツッコミ要素満載だったドラマ「デカワンコ」

2011年1月~3月に放映された日本テレビ系のドラマ「デカワンコ」。正統派女優・多部未華子さんがゴスロリファッションに挑戦し放映前は賛否両論だったが、ドラマの中で多部さんが見せる「変顔」に話題が集まり、「NAVERまとめ」などで「変顔まとめ」が作成されるまでになった。また東京・原宿の有名ゴスロリショップが登場する回はゴスロリファンがブログやTwitter上で盛んに話題にした。

内容の良し悪しもツッコミのタネ「Yahoo! テレビ みんなの感想」

「Yahoo! テレビ みんなの感想」は、テレビ番組ごとにスレッドが立つ掲示板方式のコミュニティ。その番組に対する評価(満点は星5つ)を入力し、感想を書き合う。評価が低いのに平均視聴率が高い番組もあるが、そういう番組は一様に書き込みの数が多く、内容はともかく「ツッコめる」番組がよく観られる番組でもあるようだ。

ソーシャルメディアが視聴者との接点を広げる
番組の質に合わせたソーシャルメディアの活用を

テレビは元々お茶の間や職場・学校などでソーシャル的に楽しまれてきたものだと思っています。TwitterやFacebookなどの浸透により、このテレビのソーシャル的な側面に、制作者側も今あらためて注目しています。
 とはいえ私たちは「ソーシャルメディア」をひとくくりにせず、使い分けをしています。例えばスポーツ中継であれば、圧倒的にTwitterの親和性が高いです。これは競技場で隣り合った見知らぬ人同士が喜びや興奮をわかちあうようなコミュニケーションと、Twitterの特性である匿名性・リアルタイム性とが上手くマッチしているからだと考えています。
 一方、報道番組の現場では、Facebookで視聴者に意見や情報を求めるという活用方法が浸透してきています。これまでメールやファクスで寄せられる意見はネガティブなものも多く寄せられていたのですが、Facebookは実名性重視ということもあってか、非常に前向きなしっかりとした意見を送ってきてくださいます。

ソーシャルメディアとテレビとを循環させる

こうした流れを踏まえ、さらに番組制作者としてソーシャルメディアと積極的に連携してなにかできないかと考えて作ったのが、Facebookと番組との連携を強化する「JoinTV」と、番組がTwitterなどソーシャルメディアでどれだけ盛り上がっているのかを可視化する「wiztv」という2つのサービスです。

wiztv
映画『サマーウォーズ』
「JoinTV」はデータ放送のシステムを使い、放映されている番組に自分のFacebookアカウントでログインできるサービスです。テレビ画面上で、同じ番組を観ているFacebookの「友達」を確認できたり、番組が提供するゲームを楽しんだりしながらの番組視聴が可能です。 今年(2012年)の夏、「金曜ロードSHOW!」で映画『サマーウォーズ』を放映した際にこのサービスを提供し、「友達」同士でクイズの結果を見比べるなどして映画をさらに楽しんでいただけるようにしました。一方「wiztv」は、地上波で放映されている各局の番組のソーシャルメディアでの盛り上がりを独自の指標「wiz指数」で可視化、リアルタイムにグラフ表示するスマホアプリです。日本テレビだけではなくNHK・民放キー局の番組が、今ソーシャルメディアでどれだけ話題にされているかを表示します。「JoinTV」がテレビ番組からソーシャルメディアへの窓口を開くサービスだとすれば、「wiztv」はソーシャルメディアでの「口コミ」からスムーズに番組視聴へと誘引する仕組みで、この2つのサービスが相互に補完しあいながら、トータルでテレビ視聴を活発にすることを狙いとしています。 このようにソーシャルメディアとテレビとの親和性が深まるにつれて、テレビのリーチがさらに広がっていく可能性を強く感じています。視聴者の一部が「つぶやき」や投稿の形でソーシャルメディアに番組の情報や意見・感想を流すと、それが番組を観ていない人にも伝わっていき、結果として新しい視聴者を生み出す。「視聴者-制作者」の関係だけでなく「視聴者-視聴者」のチャネルが生まれつつあるという点で、ソーシャルメディアとテレビとの関係は、また少し変わってきつつあるのかもしれません。クライアントもソーシャルでの広がりに興味を持ちはじめているようで、「JoinTV」を活用した番組作りのご相談をいただいたりしています。

「楽しみをシェアする」テレビの本質を加速させる

番組制作の現場も変わってきました。平日朝の情報番組「ZIP!」はまさにソーシャルでの広がりを狙った番組作りを開始当初から意図しています。速水もこみちさんの料理コーナー「MOCO'Sキッチン」では速水さんのおもしろコメントや調理時の独特な動作がソーシャルメディア上での「ツッコミ」を呼んでいますし、タツノコプロとのコラボによる「おはよう忍者隊ガッチャマン」は、あえて「説明しない」意味のわからなさと、キャラのゆるさが話題となっています。
しかし、すべての番組がソーシャルメディアを意識する必要はありません。じっくりと言葉を交わさず集中して観るドラマも必要です。そういうメリハリがテレビを成長させていくのではないかと考えています。
 誰かとシェアできる「楽しみ」を提供するのはテレビの本質。作品性の高いコンテンツも、面白ければ観終わったあと誰かと感想を語りたくなるはずです。昔、お茶の間や職場・学校で話題にされていたことがソーシャルメディア上でも話題にされるために、まずは視聴者に対しての「問いかけ=話題喚起」を仕掛けていくことが重要です。そして話題を広げ、視聴者を巻き込んでいくための「リアルタイム性」や「参加感」の演出も必要です。それらを通じて「お祭り感」のような空気を醸成できないかと考えています。
 これからのテレビ番組はソーシャルメディアとの連携により視聴者との接点を増やし、番組のリーチを広げることで番組の付加価値を高め、ブランド力を高めていく方向に進んで行くのではないかと思います。

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[先事新聞]コラム
第6回 横から目線で、ユーザーの共感を誘う

近年、放送権料も含め、拡大の一途をたどるオリンピック。先のロンドン大会も世界204ヶ国と地域、1万人以上の選手が参加して大いに盛り上がった。かつては選手団の入場行進と聖火点灯がメインだった開会式も、今や開催国の国威発揚の場として回を追うごとに派手になっている。
 とはいえ、ロンドンの開会式は近年稀に見る高評価を獲得したのではないだろうか。それは――例えば、エリザベス女王が“ジェームズ・ボンド”にエスコートされて、ヘリコプターからスカイダイビングをしたり、名指揮者のサイモン・ラトルがタクトを振るロンドンフィルの一団の中にMr.ビーンが紛れ込んでいたりと、英国流のユーモアで彩られていたからにほかならない。
 そう、近年の押し付けがましい、冗長な開会式に食傷気味になっていた僕らにとって、ロンドンの軽妙な演出は大いに親しみを覚えるものだった。なんというか“同じ目線”を感じたのだ。

ユーザーと同じ目線に立つ

少々前置きが長くなったが、今回、取り上げる企業コミュニケーションの課題は、ユーザーと同じ高さの目線になるということ。言うなれば、“横から目線”である。
 ロンドン五輪の開会式を演出した映画監督のダニー・ボイルは、まさに僕らと同じ目線に立っていた。僕らが面白いと感じることを、極めてフォーマルな場でやってくれたのだ。
 その関係性は、昨今の企業が抱えるユーザーとのコミュニケーション不足の解消にも生かせるのではないだろうか。 例えば、今回のオリンピックは、過去の大会に比べ、家電商戦が不振だったと言われる。五輪公式スポンサーのパナソニックは3D映像の配信を支援し、迫力ある3Dテレビの需要拡大を狙ったが、思うような成果を上げていない。
 しかし、である。本当にユーザーは3Dテレビを欲しているのだろうか。今は、テレビの視聴スタイルが多様化している。若者たちの中には、スマートフォンやタブレット端末で視聴する者も少なくない。
 こう言ってはなんだが、どうも3Dテレビを売る側の発想が、上から目線に見えて仕方ない。「これからのテレビは3Dだから」と押し付けてきているように見えて仕方ない。
 それに対し、アップル社の製品は、真にユーザー目線で商品を提案しているように見える。「ほら、こういうの欲しかったでしょ?」という感じ。
 昨今、日本の家電メーカーが不振なのは、長らく業界を牽引してきた“技術至上主義”が曲がり角に来ているからではないだろうか。「これからの家電のトレンドは〇〇だから」という上から目線の姿勢に、消費者が離れ始めているからではないだろうか。

「新東京いい店やれる店」の立ち位置

手前味噌で恐縮だが、僕がブレーンを務めるホイチョイ・プロダクションズが先ごろ出版したレストランガイド本「新東京いい店やれる店」の売れ行きが好調である。発売から一ヶ月を経ても、Amazonで100位以内をキープしている。
 今やこの手のレストランガイドは、ミシュランやザガットサーベイから、ネットの「食べログ」まで飽和状態にある。だが、「新東京~」にはそれらとは違う、1つの特筆すべき点がある。それは、「味」の視点に立っていないところ。
 通常、レストランガイドは、味の評価が第一である。だが、「新東京~」はデートに使える店(女性を落とせる店)と称して、とにもかくにも雰囲気が第一。そのため、通常のガイド本では上位にランクされた店は誇るべき対象になるが、この本の場合、取り上げられると“やれる店”ということになり、どうかしたら店の品位を落としかねない。そう、この本は店側の視点に立ってはいない。あくまでユーザー側の目線なのだ。だからこそ、読者としては親身になって相談に乗ってくれる本ということになり、親しみも沸く。
 昨今、やたら有名シェフとの仲を自慢したがるグルメ評論家が多い中、本書を執筆した馬場康夫氏は、常日頃からこんな風に言っている
 「キミはシェフと握手する評論家の本を読みたいかね?」
 商品を提供する側の一方的な“上から目線”ではなく、ユーザーに寄り添い、いわば“横から目線”でフレンドリーに提案する。そういう姿勢が、今の時代は市場で共感を得られやすいのではないだろうか。

草場 滋 くさば しげる 「指南役」代表

エンタテインメント系企画集団「指南役」代表。1995年「ソニー・アート・アーティスト・オーディション」入賞、98年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に『逃走中』(フジテレビ)の企画原案。著書に『11のスタンダード』(実務教育出版)など。

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オピニオン
株式会社NTTアド
コミュニケーションプランニング局
コミュニケーションライフ推進担当部長
島田 実木雄

今号は、最も新しいメディアのひとつであるソーシャルメディアと、近年凋落が嘆かれることの多かったテレビメディアとの幸せな絆のはじまりについて特集した。読者も一生活者としては薄々実感していたテーマだったのではないだろうか。今回我々は、生活者サイドと作り手サイドの双方からその証左を拾ってみた。

本稿ではここ数回に渡り、オランダという国を鍵に今日の市場を探っている。これまでの小論で、オランダという国が長い歴史の道程においていかにチャレンジングかつクリエイティブであったかということを様々な事実から強調してきた。そしてそれはソーシャルメディア等の新しいITカルチャーについても適応可能なテーゼである。やはり、というか、もちろんというべきか。国のDNAみたいなものがあるとするなら、この国にこそそういうものを強く感じる。

いくつかのオープンソースから具体的に見ていこう。Twitterのアカウント数の最も多い国がアメリカ合衆国であることは容易に想像がつくだろう。次いでブラジル、3位が日本だ。しかし普及率でみると、いきなりオランダが1位に飛び出してくる。また「アカウントの利用度(一定期間内にツイートした人の存在する比率)」も同様に1位である。次いで日本、3位スペイン。アカウント数で最大のアメリカはようやく4位につけている。また、LinkedInの普及率でも1位はオランダである。ちなみにFacebookの普及率は1位ではないのだが、これは50%以上の普及率を誇るローカルサイトである「Hyves」の存在に起因している。

それでは、SNSの発展著しいオランダにおける事例をいくつか見てみよう。 まず、有名なところでは、KLM航空の「シート&ミート」がある。このサービスを使うと、FacebookやLinkedInのアカウントで座席を選べ、同じイベント(e.g.国際会議、トレードショー)に参加する人などがいることやその人のプロフィールを事前に知ることができるようになる。そして事前にSNS上でコミュニケ―ションをとることで関係構築しておき、座席をその人の隣に予約することで、初対面で空の上のミーティングができる。もちろん、座席上で公開するプロフィールのレベルは自分がフルコントロールできるため、本人の知らないうちに勝手に個人情報を見られてしまうといった心配はない。

変わったところでは、料理好きの女性が立ち上げたサイト「Thuisafgehaald(タウスアフヘハールト)」がある。これは、パイやラザニアといった、少量では作れない料理を、全く知らないご近所さんにシェアするためのサービスだ。「おすそわけサイト」といったらいいか。グーグルマップとも連動しているので、ストリートビューで自宅の外観まで見られるわけで、日本では防犯上の観点からなかなか容易に実現しなさそうだが、このあたりもオランダ人の進取の気性や実利主義といった国民性を感じる。

そして、クルマ好きの人なら知っているかもしれないが、ドイツのフォルクスワーゲン社がオランダで打ったキャンペーン「Fanwagen」も、かなり度外れていて面白い。これは、同社の人気モデル「ビートル」と「T1」をFacebook特別仕様に作り上げ「どちらが好き?」と、みんなに選んでもらうという企画(「好き=like」が掛け言葉になっている)。応募者の中から抽選で好きな方の車をプレゼントするという。どのくらい「特別仕様」かとHPからダウンロードできるマニュアルを見てみると、まず外観は完全にFacebookデザインそのままで、キーカラーが「ソーシャルブルー」とか「ザッカーバーグシルバー」などと説明されている。ガラスには「User Name」、ドアノブの鍵穴の横には「log-in」と書かれており、ギアノブは「いいね!」の形そのものだし、ダッシュボードにはニュースフィードのプリンターがビルトインされている。

最後の事例としてあげたいのがソーシャルゲームだ。我が国ではあまり知られていないかもしれないが、オランダはゲーム産業が盛んな国でもある。2011年にはEUがオランダのゲーム振興団体「ダッチゲームガーデン」に約4.5億円の大規模投資をした。DeNAやGREE等の企業もヨーロッパの拠点をオランダに置いている。特に当該業界でも最先端の分野である「シリアスゲーム」が強く、開発されるゲームの約半数を占めるという。こんなところからも、何をやるにしてもやる以上は何事も徹底して突き詰めてやるという国民性が垣間見える。面白い。

次回以降も、いくつかのキーワードを手がかりに、現代の蘭学を読者にススメたい。

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