調査・研究/発行物

先事新聞 vol.24 オーガニック・ツール

今月のキーワード オーガニック・ツール
アナログな手触り・使用感が高付加価値につながる時代。

本来、「オーガニック」とは「有機的な」という意味の言葉であるが、最近では、「人工的でない」「体にやさしい」というように解釈を広げ、衣類や食品のみならず、様々な商品やサービスの付加価値として使用されている。
 例えば、多くのスマートフォンやタブレット端末で採用されている「タッチパネル方式」も、ある意味「オーガニック」な付加価値と言えるのではないだろうか。従来型のパソコンでは味わうことの出来ない感触を体験させることで、品質や性能といった機能的価値のみならず、「温かみ」や「優しさ」といった情緒的価値をも提供している。
 また、話題のデジタルカメラ、富士フイルム社製「FUJIFILM X100」も同様で、そのアンティークなデザインが、消費者の「ノスタルジーな気分」を触発し、新たな経験価値を提供している。
 さらに、文房具が密かなブームのようだ。紙質にこだわったノートブックや程よいグリップ感を携えたボールペンなど、「手触り感」にこだわった商品が好評で、多くのビジネスパーソンが改めてアナログツールを見直しはじめている。
 このように、いくつかのヒット商品に目を向けると、「アナログ感覚」「ノスタルジー」といった五感に訴えかける、「オーガニック」な付加価値を提供していることが共通点として挙げられる。今号の『先事新聞』では、このような要素を織り交ぜた商品やサービスを「オーガニック・ツール」と呼び、首都圏在住20代~60代男女個人500名を対象に意識調査を実施した。

「見栄」よりも「心地よさ」を求める消費者

まず、様々な商品やサービスについて「オーガニック・ツール」と「非オーガニック・ツール」とに分け、現在の利用状況と利用意向について尋ねてみた。
 最も「オーガニック・ツール」として利用率の高い商品は、「新聞、雑誌、本(印刷物)」である(Q1参照)。比較対象として電子書籍を並列したが、その利用率の差は歴然としている。現在、複数の電子書籍配信サイトが存在してはいるものの、ユーザーの母数はいまひとつ伸び悩んでいる。その最大の要因の一つに端末普及の遅れが挙げられるが、弊社のオリジナル調査によると、2011年10月の時点で、スマートフォンの所有率は18.8%、タブレット型端末との併用率は10.6%のようだ。高いポテンシャルを持つ電子書籍業界ではあるものの、まだまだ端末の普及率が低いことに加え、定性調査においても「紙の質感や香りが落ち着く」といった紙媒体の触感を好む声が散見された。
 2番目に利用率の高い「オーガニック・ツール」は、「ナチュラル系ファッション」である。派手過ぎず、かつ有機的な素材や染料を使用した衣類を好んで採用するファションスタイルだ。どちらかと言えば見た目よりも、着心地や肌触り、また環境に優しいという社会との接点の記号を重視していると考えられる。
 また、5番目に多い「オーガニック・ツール」に、「店舗(対面式売り場)」が挙がっている。ネットショッピングや自動販売機といった、利便性や効率重視のショッピングスタイルから、非効率ではあるものの、あえてリアルな店舗へ足を運び、売り場のプロセスや買い場の空気を楽しむショッピングスタイルが改めて見直されているようだ。
 一方、今後の利用意向を尋ねてみると、1位に「ナチュラル系ファッション」、2位に「天然素材の衣類」、3位に「見た目は悪くても、無農薬栽培の食品」と続く(Q2参照)。これらの結果から、消費を通じて、自らの顕示的欲求を満たすためというよりは、心地よい経験を提供してくれる商品やサービスを望む声が高まりつつあると言えよう。

機能訴求だけでなく、消費者とコンセプトの共有を

現在、商品やサービスを選択する際に重視するポイントを尋ねてみると、「価格が手頃である」が1位となった。さまざまな商品やサービスにおいてコモディティ化が加速する現在、ある意味、想定内の結果である(Q3参照)。2位に「品質や機能がよい」、3位に「安全である」といずれも機能性を求める声が上位を占める中、4位に「使い心地がよい」、6位に「健康によい」、7位に「安心感、信頼感がある」といった情緒的な価値を求める声も多く存在する。商品やサービスに、コストパフォーマンスや利便性のみを求めるのではなく、使い心地や快適性といった極めて感覚的な評価を求めていることがうかがえる。商品の送り手である企業側は、技術革新のみならず、商品やサービスに込めるコンセプトを、いま一度、消費者と共有することが不可欠のようだ。

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 「オーガニック・ツール」、3つの視点 「五感」「五感」「遊び」
「五感」自分にあった手触りを求める
文具店ではノートの売れ行きが好調だという。
特にやや高価格帯の商品が動いている。
紙の質にこだわった「ノーブルノート」(ライフ)はB5サイズで1000円以上と強気の価格設定だが人気だ。
あるいは「MDノート」(ミドリ)は、本体とは別に好きなカバーを自分で選んで購入できるが、中には10000円前後の革製のカバーもある。
企業が備品の購入を控え、社員は文具を自前で購入せざるを得ない状況が続く中で、「ちょっと高級」な文具に対する需要が高まっているようだ。
CASE STUDY

新しい書き味を作り出した「ジェットストリーム」。

銀座を中心に店舗を展開する文房具専門店、銀座・伊東屋に、最近の文具の状況について聞いた。モレスキンやラミーなどのいわゆる「舶来文具」は、今でも高い人気があるという。しかしここ1~2年売り場で注目されているのは、国産メーカーの「ちょっと高級」な価格帯の文具だ。注目のカテゴリは「ノート」と「ボールペン」。ノートでは「ノーブル」や「MDノート」のように紙の質や書き味にこだわった商品が数多く誕生している。ボールペンは「ジェットストリーム」(三菱鉛筆)のように滑らかな書き味を追求したもの、あるいは「フリクションボール」(パイロット)のように消せるボールペンなどが人気だ。  仕事の文具を自分で買うようになったユーザーは「1000円で幸せな気持ちになれるのなら」と、ちょっと高くても高品質・高機能な文具を購入している。商品選びの基準は「自分らしさ」。伊東屋では「クールビズ以降、職場でもセンスが問われるようになった。個人が職場で自分らしさを追求する意識が高まっている」と見ている。  輸入文具が「変わらない価値」を提供するものだとすれば、新しい商品群は「感覚、手触り」を武器に「自分らしさ」を求めるユーザーを刺激する。今、文具売り場では日本のメーカーが元気なのだそうで、こうした「感覚、手触り」の開発には持ち前のきめ細かさを発揮しているからなのだという。

カラフルな色づかいのアイテムが増えてきたのも、国産メーカー人気の理由のひとつ。

紙の素材にこだわったノートが売れている。
これは竹を原料としたノート。

「共存」デジタルとアナログのバランスを自分で図る
スマートフォンとノートを連携させた商品に注目が集まっている。
気軽かつ効率的にスマホに取り込み、管理できるノート、「ショットノート」(キングジム)が売れている。他メーカーから同コンセプトの商品も登場し、新しい市場を開拓した。
スマートフォンの普及を背景に、さらにいわゆる“ノート術”的な、仕事の進め方を自分でデザインしたいビジネスパーソンの意識を刺激して、このヒットが生まれているようだ。
CASE STUDY

「ショットノート」は新しい市場を作ったと、キングジムは手ごたえを感じている。

 「ショットノート」を開発したキングジムに話を聞いた。もともとは手書きのラフを携帯で撮影し、部署内で共有していたデザイン担当者の発案。携帯という身近なツールを活かし、手書きメモを検索や共有しやすいデジタルメモにできないかと提案された商品に、共感が集まった。2011年1月の発表から2月の発売までの約1か月間、ウェブ、特にツイッターで話題が盛り上がり、手ごたえを感じたという。  もともとファイルを中心とした「アナログ」なツールを提供してきたキングジム。「テプラ」の頃から一貫して「アナログにデジタルのスパイスを加えることでメリットが増す商品を開発してきた」という。しかし文具のオフィス需要は頭打ち「備品が売れなくなった」という。現状は各社が個人購入の商品に力を入れている。「ショットノート」はそんな個人購入の時代にヒットした商品だ。「自分で購入するということから、高付加価値の商品に注目が集まる」という。  文具購買意欲の高い20代後半から30代前半のビジネスパーソンは、日々の仕事の中で自分なりにちょっとした工夫や効率化を図ることにある種の楽しさを見出している。『情報は1冊のノートにまとめなさい』のようないわゆる「ノート本」がベストセラー入りするのも、こうした意識のあらわれの一つ。デジタルとアナログを組み合わせ、自分なりの「仕事術」を作ろうとするユーザーの意識を「ショットノート」は刺激しているようだ。

「遊び」デジタルに操る喜び、持つ喜びを
富士フイルムの高級デジカメ「FUJIFILM X100」がヒットしている。 約13万円と高額ながら、ハイアマチュアを中心に支持されて年内にも10万台を達成する勢い。
また同コンセプトの新製品「FUJIFILM X10」も発売された。
ボディの素材感などにこだわった高級な作りはもちろん、手動のダイヤルなどを使って「アナログ」な操作感を上手く取り込み、デジタルカメラに「操る喜び」を付加した商品コンセプトが、シニアを中心とするユーザーの意識を刺激しているようだ。
CASE STUDY

年末商戦に向け、幅広い層に支持されて売れ行き好調な「FUJIFILM X100」。

 「FUJIFILM X100」を開発した富士フイルムに話を聞いた。「カメラを構えて写真を撮る」というカメラの原点を追求することをコンセプトに、ハイアマチュアやプロカメラマンにヒアリングしながら開発を進めたX100は、「ファインダーをのぞいて撮る」という昔ながらのシンプルな撮影スタイルに行き着いた。一般的なデジカメでは背面の液晶で確認しながらの撮影スタイルだが、あえてファインダーにこだわった。また、ファインダーをのぞいた状態でも操作しやすいよう、絞りやシャッタースピードなどは、3つの独立したダイヤル・リングで設定できるようにした。その結果、意外なことに「カメラの知識には詳しくなくても、写真が好きで撮影を楽しんでいる人、本物志向の製品を求めている人」にも受け入れられた。バルナックライカなどクラシックカメラを彷彿とさせるレトロなデザインやたとえ撮影しなくてもダイヤルを回すだけでも楽しい操作感覚などが、「使う楽しみ」や「持つ喜び」を刺激しているのではないかと富士フイルムでは見ている。  休日、街で首からクラシックカメラを提げている人にとってカメラはツールであると同時にアクセサリーでもある。しかしデジタルツールにはなかなか「モノ」という愛着を持ちにくいのも事実だ。手触りや操作感など「遊び」の部分を追求することでデジタルに「モノ」としての魅力を加えることができるのではないだろうか。

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[先事新聞]コラム
第2回 キズナ市場。見直される「家族の時間」。

今年の3月から4月にかけて、都内の書店で奇妙な光景が頻繁に見られたという。それは、サラリーマン風の男性たちが、会社帰りに絵本を購入していく姿。事実、東日本を中心に、震災後に児童書の売上げが伸びたというデータがある。
 種を明かせば、それは愛するわが子のため。当時は節電対策で、会社も残業を控えていた時期。比較的早く帰宅したお父さんが、息子や娘たちに絵本を読み聞かせていたのである。
 そう、震災以降、改めて「家族の時間」が見直されるようになった。絵本の読み聞かせも、そんな現象の1つと言われる。それは、絵本の購入動機が、単なる読み物としてではなく、親子のコミュニケーション・ツールの意味合いも含んでいたからである。
 同様に、今年のボードゲームの売上げが前年比2割増と健闘していることも、家族のコミュニケーション・ツールとしての役割を期待しての需要である。もちろん、節電対策でテレビゲームを自粛した背景もあるだろうが、お茶の間で家族揃って楽しめるボードゲームの魅力に、消費者が改めて気付いた点は大きい。

「マルモ」に震災孤児を重ねた視聴者

4月下旬、日曜夜9時に1つのドラマが始まった。「マルモのおきて」である。裏番組が大人気ドラマ「JIN-仁-」の続編ということで、放送前はほとんど期待されていなかった。
 ところが――蓋を開けてみると、回を重ねるごとに評判となり、初めは「JIN」にダブルスコアと離されていた視聴率も、中盤以降は2ポイント近くまで迫るようになった。そして、最終回は驚異の23.9%。
 「マルモ ドラマで言えば、今年没後30年を迎えた脚本家の向田邦子さんのドラマが再放送されたり、リメイクされたりして、視聴者の共感を呼んだことも記憶に新しい。
 向田ドラマに一貫して流れるテーマは「家族再生」である。ひょんなことから空中分解した家族が、改めて家族の尊さに気付き、再生に向けて歩み出すというのが、お馴染みのパターン。それが、震災を経験した僕ら日本人に、深く響いたのだと思う。

個人消費から家族消費へ

そういう次第で、3・11以降、消費者の生活スタイルは明らかに変わりつつある。それまでの個人の嗜好を中心としたものから、家族との時間を意識したスタイルへ――。
 近年、長期低落傾向にあった百貨店業界の売上げが、今年の5月と6月、わずかながら前年比を上回ったことも無関係ではない。そう、「母の日」や「父の日」需要が堅調だったのだ。明らかに、人々が家族の時間を優先したのである。
 小売店全体でも、例えば「おせち商戦」にその傾向がうかがえる。例年よりも品数を増やしたり、予約の開始を前倒ししたり。震災以降の“結婚ラッシュ”も、その延長にあると言っていい。心の安らぎを求め、人々は誰かとのつながりを求めている。
 そう、「家族の時間」を求める社会。そのような時代には、企業もこれまで以上に、“キズナ”を意識した商品開発やサービスの提供が求められていくだろう。
 個人より、家族の時代なのだ。

草場 滋 くさば しげる 「指南役」代表

エンタテインメント系企画集団「指南役」代表。1995年「ソニー・アート・アーティスト・オーディション」入賞、98年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に『逃走中』(フジテレビ)の企画原案。著書に『11のスタンダード』(実務教育出版)など。

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編集後記
株式会社NTTアド
コミュニケーションプランニング局
コミュニケーションライフ推進担当部長
島田 実木雄

最近「オーガニック」という言葉を、様々なジャンルで聞くようになった。「器官」「臓器」等を指す“organ”が形容詞化され「有機的な」といった意味で使われている。これまでも、主に食材や衣料の分野においてしばしば聞かれた言葉であり、言葉自体はそう新しくない。しかし、この言葉で形容する対象が拡大されているというところがサキゴトなのである。
 具体的には、コンピューター業界で「オーガニック・コンピューティング(自己最適化、自己治癒、自己防御等を行うもの)」、インターネット関連では「オーガニック・サーチ(ノンペイドサーチエンジンを使った検索)」、経営学で「オーガニック・オーガニゼーション(柔軟でフラットな経営組織)」や「オーガニック・グロース(M&A抜きの自然な事業規模拡大)」、建築分野では「オーガニック・アーキテクチャー(パッシブ・ソーラー・システム等がビルトインされている建物)」等、実に多様である。似たような発想の言葉にポピュラー・ミュージックにおける「アンプラグド」がある。1992年のエリック・クラプトンのアルバム「unplugged」の大ヒットで世界的に流行した音楽モードであり、原曲のロック音楽をアコースティックな(プラグを抜いた)楽器で演奏しなおすことを指す。これは1970年代後半から急激にエレクトリック化の度合いを増していった大衆音楽に対するレトロスペクティブな反射行動とみることができる。
 もともと「オーガニック」な存在である人間が、その身体の延長として「無機物」である道具を作るようになった。以前本誌でも紹介したが、この点にフォーカスした人間観を「ホモ・ファーベル=工作人」という。手の延長としての狩猟用の棍棒や弓矢、調理用のナイフ、目の延長としての望遠鏡、足の延長としての車、あげく、そもそも持っていない翼の延長としての飛行機まで作った。そして、頭脳の延長としてのコンピューターに至る。これらの無機物は人間の所与の能力を拡張してくれて大変便利である。そしてこれらの道具類に四六時中囲まれて生活することがとりもなおさず現代生活なのである。しかし、これらの無機物は生物としての人間とは相容れない「永遠の他者」であり、これら無機物の過剰な氾濫は人間にとってストレスを引き起こすことになる。
 これまでも、この種のストレスを軽減するための「オーガニック・ブーム」は周期的に起こってきた。戦後に限っても、1960年代後半のヒッピー文化(その名もずばり、「フラワー・ムーブメント」だ)があり、その後我が国では「国際花と緑の博覧会(1990年)」が開催され、ガーデニング・ブームがこれに続いた。今やガーデニング人口は3,720万人(平成22年統計、出典「レジャー白書2011」)にまで達し、メジャーなレジャーのひとつである。最近はここから「農業ブーム」に発展している様子もうかがえる。
 無機質な道具達に囲まれるストレス環境を緩和するための手立てとして、こういったボタニカルなアクションが有力な一方で、「道具の擬似的な有機化」というアプローチもあるのではないだろうか。最も身近な例をいうなら、手近にあるマウスのボディに顔を書き、名前でも付ければ(「マウスのまー君」でもなんでもいい)、その途端にマウスは幾分有機化され、マウスと私の関係は融和的に変調する。というのが今回の我々の視点であり、本文でご覧頂いたいくつかのケースは、この方向性における現在進行形である。デジタルな道具をアナログ(オーガニック)な意匠で装うという「ヒューマン・インターフェース」の工夫こそが、成功するオーガニック・ツールの要件なのかもしれない。
 今回の先事新聞の編集を終えて、上のようなことをつらつらと考えた。

このコンテンツはNTTアドのPR誌『先事新聞』第24号からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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