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先事新聞 vol.23 「思いやり」消費

今月のキーワード 「思いやり」消費

 ワタシたちの「消費」が社会の役に立つ

東日本大震災は、日本人の消費行動に大きな変化をもたらした。
消費者間では、単にニーズやウォンツを満たすためだけではなく、被災地や生産者、
ひいては社会全般のことを配慮しながら消費する、いわゆる利他的な消費志向が強まりつつある。
こうした傾向は、今後、日本人のライフスタイルに深く根付いていくものと予測される。
今号の『先事新聞』では、こうした消費動向を「思いやり」消費と呼び、様々な観点から分析してみたいと思う。

[調査概要]
NTTアド自主調査「東日本大震災による生活意識の変化に関する調査」
調査対象:首都圏在住20~69歳男女500名
調査時期:2011年6月8日~10日
調査方法:インターネット調査

Q1 東日本大震災後、被災者支援のために、どのようなことを行いましたか[経験]
  また、今後、どのようなことを行いたいですか[意向]

個人による「被災地支援」は、女性の方が積極的!?

被災地への現金の寄付に関しては、世代を問わず、男性よりも女性の方が、「経験率(既に経験した人の割合)」「意向率(これから実施したい人の割合)」ともに高い傾向が見られた。また、現金の寄付といった手段に限らず、「寄付金が含まれる商品の購入」の意向率についても女性の方がスコアが高い。中でも30代女性は意向率が72%と極めて高く、定性調査結果においても、「レストランで売り上げの一部が寄付されるといわれたメニューを頼んだ」「被災地のアンテナショップを都内で見つけたので購入した」(ともに30代女性)など、特に食への興味関心が高いようだ。マスコミでも報道されているように、近頃、東京都内で催されている直売市において、被災地の野菜や果物が好調な売れ行きのようだ。

Q2 商品やサービスの選択基準について、東日本大震災前と比べて、重視するようになってことはどれですか

消費を通じた「プチボラ」感覚で、被災地支援!?

続いて、消費行動に絞り、震災による心理的な変化を尋ねてみた。世代や男女を問わず「節電や節水、省エネになる」といった項目を最も重視している。調査時期が、電気使用量のピークを迎える夏直前だったこともあり、扇風機等の省エネ家電に注目が集まっていたことも理由として考えられる。一方「困っている人の手助けになる」といった項目では、相対的に男性よりも女性のスコアが高く、中でも20代女性が70%と極めて高い。こうした「困っている人の手助けになる」、いわゆる「利他的な消費行動」は、震災前より、フェアトレードやエシカル消費といった形で定着しつつあった。中でも20代を中心とした若年層からは、「スマート」「カッコいい」「ソーシャルっぽい」などといった形容詞とともに、高い支持を得ていたようだ。そして、今回の震災を機にこうした機運は一層高まり、トレンドに敏感な20代女性たちの心を動かしていると考えられる。ボランティア活動ともなると、かなりハードルが高いが、消費を通じた支援活動であれば気軽に取り組めるため母数を増やしているようだ。

Q3 ふだんの意識や行動について、東日本大震災前と比べ、心がけるようになったことは何ですか

特に女性は、震災を機に、絆を求める傾向が強い

震災後に心がけるようになったこととして、「モノや資源を大切にする」「社会問題に関心を持つ」といった、社会参加意識が一層高まっていることが分かる。こうした傾向も、やはり男性よりも女性たちの間で顕著のようだ。さらに女性たちの間では「助け合いの精神を大切にする」「他人への思いやりを大切にする」「家族や友人、知人との絆を大切にする」といった、「他者との絆」を求める傾向も強まっている。興味深いことに、震災による不安からか、安心感を求めて結婚に踏み切る女性や、結婚相談所へ登録する女性が急増したと言われている。表を見ても分かる通り、特に女性を中心に、結婚のみならず、家族や友人、知人等、「他者との絆」を求める傾向が強まっていることが分かる。

Q4 ふだんの情報源について、東日本大震災と比べ、重視するようになったものは何ですか

ソーシャルメディアよりも、マスメディアを高く評価

重視するようになった情報源を尋ねてみると、約5割が「テレビ番組(NHK)」を挙げている。民放に関しても約3割と、「テレビ」というマスメディアに対する信頼度が高いことが分かる。やはりニュース番組の速効性、情報コンテンツとしての完成度の高さが評価に結びついていると考えられるが、一方で、震災直後、TwitterやFacebook等、ソーシャルメディアの有効性が話題となったが、情報源という観点で見ると、マスメディアの方が俄然評価が高い。ソーシャルメディアの持つ情報流通の速さは、高く評価されているようだが、同時にデマ情報なども数多く流通し、信頼性という観点ではまだ物足りなさを感じているようだ。スマートフォンやタブレット端末等、可動性に優れたデバイスが隆盛を極め、テレビや新聞への接触頻度が急激に低下してはいるが、「信頼出来得る情報の確保」においては、マスメディアはなくてはならない存在だ。

 日本人の「思いやり」消費、3つの視点。「省」「共」「助」
消費 「省く」に新たな価値を見出す

家電量販店やデパートなど消費の現場では、エネルギー消費を「省く」、あるいは「削減する」商品に注目が集まっている。例えば家電なら省エネ機能の高いエアコン、高機能な扇風機などが売り上げの上位を占めている。またアパレルならユニクロ「シルキードライ/サラファイン」やイトーヨーカドー「ボディクーラー」など、涼感・吸汗機能を持った高機能繊維を各社が発表している。3万円を超える高級扇風機など、高額なものでもよく売れているのが特徴だ。

CASE STUDY : 価格・デザイン重視からシフトした選択基準

写真:節電相談カウンター
節電相談カウンター

家電量販大手・ビックカメラに震災後の売り場の状況を聞いた。今夏は節電意識の高いユーザーが増え、買い替えの場合「今まで使っていたものからどれくらい電力消費を削減出来るか」など、より具体的な質問をするケースが増えているそうだ。もちろん震災前から「省エネ」を意識しているユーザーは多かったが、震災後はより切実に、商品選定の基準として「節電・省エネ」機能を求めているようだ。さらに、高単価であってもエコ機能の高いエアコンや、高機能な扇風機を選ぶユーザーが増えたり、あるいはLED電球が大幅に売り上げを伸ばしたりと、震災後の購買行動の特徴として、商品のお得感よりも節電機能を重視するユーザーが増えていることがあげられる。

共費 お互い「シェアする」ことで、リスク回避

震災以降、一層注目を集めている消費スタイルが「シェア」だ。以前より「シェアハウス」や「カーシェアリング」などは新たな消費スタイルとして浸透しつつあったが、「いつ何が起きるかわからない」という不安定な状況の中で、所有のリスクを減らせること、ムダを減らして社会的なリソースを有効活用できること、さらには共同生活を送ることで不安感が払拭できるなどの理由から、「シェア」という価値観に、ますます注目が集まっているようだ。

CASE STUDY : 震災を機に再認識された「シェア」の価値

写真:オシャレオモシロ フドウサンメディア ひつじ不動産
オシャレオモシロ フドウサンメディア ひつじ不動産
http://www.hituji.jp/

シェア住居を専門に扱っているメディア「ひつじ不動産」では、震災を機にシェアハウスが改めて注目を集めたと見ている。「震災後、特に都市部では孤立したひとり暮らしに不安や疑問を感じるようになった方は増えたようです。」(株式会社ひつじインキュベーション・スクエア マネージャー北川大祐さん)。特に一人暮らしの女性などは有事の際の不安を解消するために共同生活を求める人が増えたという。「“住まい”は単純なものではありませんが、賃貸型のシェア住居の分野には過去2~30年の蓄積があり、このような新たな暮らし方を求める声にもある程度応える事ができています。共用部を備えた住まいにおける“人の繋がりによるセキュリティ”を求める意識は、今後より顕在化してくるのではないでしょうか。」(北川さん)。

助費 消費を通じてつながりたい、応援したい

 フェアトレードなど、利他的な消費行動は、震災前から特に若者の間に浸透しつつあった。今、若者のみならず、消費に社会的な意義を求める志向性が、被災地支援と相まって加速している。多くの居酒屋でみかける「東北の日本酒を飲んで応援しよう」などは、消費を通じて被災地を応援したい消費者の意識から生まれた好事例と言える。さらにネットを活用して、「被災地」と「消費者」がダイレクトにつながり、こうした消費行動を盛り上げているようだ。

CASE STUDY : 被災地と消費者をダイレクトにつなぐ

写真:三陸とれたて市場
三陸とれたて市場
http://www.sanrikutoretate.com/

岩手県大船渡市で海産物を販売している「三陸とれたて市場」では、震災から1ヶ月がたった4月11日、漁船から漁の模様をUstreamで中継、水揚げされた魚をその場でネット販売して注目を集めた。「漁の現場をライブ映像で配信し、消費者が『見て』『買えて』『楽しめる』インターネット産直システム」の運営を通じて、産地ならではの情報や、生産者の人格までも伝える販促活動を行っていた「三陸とれたて市場」が、震災後の3週間で感じたのは「インターネットからありとあらゆる情報を検索し、案じ続けている顧客の姿」だったという。久しぶりに開けたメールボックスに殺到していた顧客からの安否を気遣うメールに応え、産地の状況を伝えたいという気持ちから、上記の取り組みを始めたという。

コラム
第1回 続けること。「得手に帆をあげて」の精神で。

2011年3月11日午後2時46分。未曾有の大地震と巨大津波が東日本を襲い、1万5千人を超える尊い命が失われた。そして今なお、5千人以上の人々が行方不明である。
1995年の阪神・淡路大震災と比べると、被災エリアが格段に広く、復興にはまだまだ長い時間を要すると思われる。ここで、何より大事なことは、僕ら日本人全体が、この「震災」を過去のものにしないことである。
ともすれば、日本人は「熱しやすく冷めやすい」気質と言われる。例えば、サッカーのワールドカップやオリンピックなどのビッグイベントが開催されると、大いに盛り上がる。しかし、それが、その後のJリーグをはじめとするレギュラースポーツの人気に結びつくかと言うと、そうではない。マスコミの報道が収束するのに伴い、僕らの関心も収束する。
まぁ、スポーツならまだいい。だが、震災となるとそうはいかない。恐らく、東北地方の復興には、5年、10年といった長期的スパンが求められる。支援する側にとっても、瞬間風速ではなく、持続的な活動が求められる。

本田宗一郎さんの座右の銘

「得手に帆あげて」という言葉がある。かの本田宗一郎さんの座右の銘である。本田さんは常々、若い人たちにこう言っていたという。「無理に周りに合わせるな。自分のやりたいことを素直に伸ばすのが一番だ」――結局、世の中の役に立つには、個人でも企業でも“個性”を伸ばすのが一番いい。それが本田さんの信念だった。事実、ホンダの歴代の名車の数々は、まさにホンダ・スピリットと呼ぶべき、社員一人一人の個性が生んだものだった。
その精神は、復興支援も同じではないだろうか。これまでにも、個人や企業が様々な形で支援活動を行なってきたが、緊急性が求められる現場で威力を発揮したのは、義援金ではなく、まさに「得手に帆あげて」の支援であった。
例えば、ヤマト運輸は宮城県の気仙沼の青果市場で、自衛隊と協力して支援物資の運搬をボランティアでサポートした。避難所などの地元の地理に詳しい宅配会社ならではの支援である。一分一秒を争う被災地において、彼らの仕事は大いなる成果を上げたという。また、台湾の自転車メーカーのジャイアントは、悪路に適したMTB1000台を、被災地に無償提供した。瓦礫の山の被災地の移動には、何よりMTBが最も真価を発揮すると踏んでのことである。
他にも、コンビニエンスストア大手のセブン-イレブンとローソンは、各々が保有する移動販売車を用いて、いち早く被災地に入り、営業を再開した。被災者にとって、配給品ばかりの毎日では精神的に参ってしまう。そこへ、人間の基本的欲求である「選ぶ」を満たしてくれるコンビニの登場は、大いに喜ばれたという。

求められるのは持続性

先に申し上げた通り、東北地方の復興には、5年、10年といった長いスパンが求められる。もちろん、義援金を送ることも必要だろう。財源不足は、どこの自治体も抱える悩みである。
だが、今回の支援は、それだけでなく、長期に渡る安定した活動も必要になる。今回ばかりは「熱しやすく冷めやすい」日本人気質は恥となる。
無理をすれば、いつか支援が途切れる。その時、困るのは被災地である。そうならないためにも、本業の負担にならない、まさに「得手に帆あげて」の持続的な支援が理想である。
御社の“得手”は何か。この機会に考えてみたらどうだろう。今の時代、それこそが、企業のレーゾンデートル(存在理由)だから。

草場 滋 くさば しげる 「指南役」代表

エンタテインメント系企画集団「指南役」代表。1995年「ソニー・アート・アーティスト・オーディション」入賞、98年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に『逃走中』(フジテレビ)の企画原案。著書に『11のスタンダード』(実務教育出版)など。

編集後記
株式会社NTTアド
コミュニケーションプランニング局
コミュニケーションライフ推進担当部長
島田 実木雄

今号から、これまでご愛読いただいてきた弊社の発行物『目黒発』と『先事新聞』の2誌を合わせて、新たな刊行物として再出発します。名称はスタッフの間で検討した結果『先事新聞』を踏襲しようということになりました。『新生・先事新聞』ともいうべきこのペーパーは、『目黒発』で扱っていた「広報分野」と、従来の『先事新聞』が扱っていた「マーケティング分野」を統合し編集していますので、「総合コミュニケーション刊行物」といっていいかもしれません。
さて、冒頭から言い訳めいて恐縮ですが、この刊行物はもう少し早い段階で再スタートする予定でした。しかし、準備期間が件の3.11前後だったことから、我々はそれまで進めていた作業を一旦白紙に戻して、根本的に見直す必要性を感じました。また、このような企業発信の刊行物において、いつ、何を伝えていけばいいか、正直、戸惑いもありました。そういった経緯を経て発行に至ったものが、今回お読みいただいた数頁なわけです。
2009年に邦訳が出た『ブラック・スワン-不確実性とリスクの本質-』(N.N.タレブ著)という本があります。「スワン」といえば白い鳥であるのが常識だったところ、17世紀末にオーストラリアで「黒いスワン=コクチョウ」が発見されたことに由来したタイトルです。著者の用法としては、従来誰も発生を予想しなかったが、極めて大きなインパクトがあり、発生後はいかにも最初からわかっていたような気になる異常事象を指します。原書が書かれた2007年時点では、その後のリーマンショック等の金融危機を想定されたようですが、今読み返してみると、上の要件はまさしく「福島第一原子力発電所問題」そのものと重なります。自身のホームページでも、「Fukushima」ついて600以上のインタビューを依頼されたことを明かした上で、「エラーレート(誤り率)は測定可能である。しかしその測定自体にもエラーレートが含まれ、そのまたエラーレートの測定自体にもエラーレートが含まれ……」と書いています。
東日本大震災とそれに続くフクシマ問題は、我々生活者に100年単位の変化をもたらすかもしれません。少なくとも「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というわけにはいきません。「喉元」を過ぎていないわけですから。今回の『新生・先事新聞』をお読みいただいておわかりのように、人々は狭隘な「Me-ism」から脱却して、利他的精神を取り戻してきているようです。
そもそも、人類の歴史を振り返ったとき、実は現代の生活様式こそが「ブラック・スワン」だということもできます。我々が享受してきた、ここ数十年の快適な生活は、種としての人類にとって決して当たり前ではなく、相当レアな状態です。人類は長らく自然の猛威にさらされて、なんとか命をつないできました。我が国においては、それが独特の「無常観」の母体となり、『方丈記』等の作品に結実するとともに、我が国国民の死生観の土台を形作ってきたようです。
今回の調査におけるフリーアンサーの中で「今を大切に生きようと思うようになった」「一日を悔いなく過ごそう」といった言葉が目にとまりました。古代ローマの諺に「carpe diem(一日を摘め)」というものがあります。その逆説表現として「memento mori(死を思え)」という一節もあります。どちらも、人生の脆さや儚さを強調すると同時に、だからこそ一瞬一瞬を大切にして生きろ、というメッセージです。
こうして考えてみると、「思いやり消費が今般のトレンドだ」などと声高に言ってはみましたが、我々は3.11を境に「種としての人間の原点に回帰している」のだと考えるほうが、より正解に近いような気もしてきます。
今回、先事新聞の編集を終えて、上のようなことをつらつらと考えた次第です。

このコンテンツはNTTアドのPR誌『先事新聞』第23号からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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