調査・研究/発行物

先事新聞 vol.19

今月のkey word 「つながる住まい」
「つながる住まい」 今月のキーワード

江戸時代には、より良い生活を求めて、生まれた村から逃げ出す農民「走り者」が多かった。大切な生産主体に逃げられては藩の経営に障る。統治者は厳しく取り締まり、領民の維持に努めた。

近代に至って、農村部から都市部への人口の移動はいよいよ本格化した。理由は、経済面での上昇志向に加えて、封建的な地縁・血縁社会の「くびき」からの逃走願望だろう。三大都市圏への人口集中は1960年代初頭にピークを迎え、恋愛結婚と見合い結婚の比率逆転が1960年代後半に起こる。この時代に、我が国における「ムラ(ハード)とそのくびき(ソフト)からの逃走」が本格化したと見ることができる。人々は「プライバシー」や「自己統御権」の確保に努め、結果として核家族化や孤立化が進んだ。

ところがここへきて、価値観や趣味・趣向を同じくするものが、積極的・選択的に同じ住空間でつながり合うような住まい方がサキゴトのようだ。

元来人間は集団で行動する種なのだから、行き過ぎた孤立化は生活そのものの脆弱化を招来する。とはいえ、現代人が24時間相互監視するムラ社会に戻れるとも思えない。このあたりが、「ハリネズミのディレンマ」なわけだが、このハリの長さは、最近若い世代を中心に若干短くなってきているようだ。「住縁」などと呼ぶ人もいるが、彼らはプライバシーを若干留保してまでも、連帯による受益を求める。都市部における新たな「ムラ」の再構築か。

グラフ:「共通の趣味や関心事を持っている人と住空間を共有する新しい生活スタイル」に対して不安に思うこと[複数回答]

当社自主調査*で、「共通の趣味や関心事を持っている人と住空間を共有する新しい生活スタイル」に対する意向を聞いたところ、全体の約3割がポジティブだった。特に20代では、平均より10pt以上高い(44.3%)。理由を見ると、「節約(56.8%)」以外では「刺激的だ(25.2%)」「さみしくない(24.8%)」などが目を引く。

特に我々が注目したのは、不安な点について質問したところ(右グラフ参照)、20代男性ではこのような生活スタイルに感じるストレスが相対的に低い、という点。この層が新しい住スタイルの可能性を牽引していきそうな気配を感じる。

ともあれ、今回の先事新聞も、日頃マーケットを考察する読者の皆さん同士がつながる契機になれるとしたら、スタッフ一同幸甚の至りである。

* NTTアド自主調査(インターネット調査、首都圏在住20~69歳男女3,000名、2010年3月17日~18日実施)

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共通の価値観をもつ人と一緒に住みたい。そんなニーズを満たしてくれる今どきの住宅事情
■実は、みんな近所付き合いがしたい!?

いつの頃からか、人々は住宅環境に「プライバシーの確保」を求めはじめ、余計な近所付き合いをしない生活を良しとするようになった。ところが、近頃の住宅事情を見渡すと、少し変化が起こりつつある。中でも分譲マンションに注目すると、子供が遊べる施設やライブラリーなど、いわゆる「住人同士のコミュニケーションを促進する施設」をウリにしたマンションをよく見かけるようになった。今、人々の間で他者と「つながる住まい」を求める声が高まりつつあるのだ。「プライバシーの確保」と「近所付き合い」、一見相反する価値とも捉えられるが、果たして消費者はいま、住宅環境に何を求めているのであろうか?

■共通の価値観が不可欠な「つながる住まい」

mixiやツイッターといったソーシャルメディアの隆盛により、他者とつながりたいという気運が高まりつつある。しかしながら、誰とでもつながりたいというわけではなく、そこには同世代や同郷、同じ趣味など、何らかの共通の価値観が必要不可欠のようだ。最近、こうした「つながりたい欲求」を上手に満たしてくれる集合住宅が数多く登場している。いずれも、趣味性、利便性、安全性などの切り口で特徴的な仕組みや設備を持っており、同じ価値観を持った住民同士が集いやすい環境となっている。今や、こうした「つながる住まい」は、さまざまな価値観に応じて選択できるほど、大きな広がりを見せているようだ。

共有の価値観1 趣味で
趣味嗜好が似ているから、いっそう楽しい

バイク、ペット、音楽、サーフィン、ヨットなど、同じ趣味を持った人たちが集まる集合住宅が登場している。たとえば、バイカー専用の賃貸マンションでは、バイクのままエレベータに乗り、各住戸に隣接したガレージへ。中にはリビングからバイクを眺められる住宅まである。また、古民家に住みたい、家庭菜園がしたい、など同じ志向を持った人たちが集まって、暮らしの楽しみを増幅させている。

バイカーズ・マンション
バイク・自転車を楽しむ」ための専用設備が充実した賃貸マンション。
http://www.early-age.co.jp/rental/bikers_mansion/
「松陰コモンズ」プロジェクト
150年の歴史を持つ古民家に男女7人がシェア。(2010年3月末まで)
http://www.chc.or.jp/chcproject/syouin/about.html
共有の価値観2 安心で
同じ価値観を持っているから、安心・安全!

1980年代以降、米国では「ゲーテッド・コミュニティ」が急増した。これは安全面やステイタス獲得の目的で、ゲート内に高級住宅街を築いたもので、イギリスやブラジルなどにも存在する。社会情勢の異なる日本においても、多少雰囲気は異なるが、同様のマンションが存在する。このマンションを購入するという同じ価値観をもつ住人とともにゲートの中で暮らすという、安心感を享受できる。

東京テラス
「東京に大きなテラスをつくる」というコンセプトで、49,000㎡の敷地に、スーパーや保育園、公園を併設した総戸数1,036戸の分譲マンション。
http://www.sekisuihouse.co.jp/company/newsobj690.html
広尾ガーデンフォレスト
敷地全体のセキュリティを守るため、ゲート付きコミュニティを実現した分譲マンション。
http://www.hiroo-gf.com/index.html
共有の価値観3 便利で
便利で経済的で、都合がいい

仕事に、子育てに、暮らし方に、何かとハードやソフトをシェアできると、経済的で都合がいいことが多い。たとえば、子育て中のファミリー向けには「ベビーカーを玄関に収納できる」「子供用の足洗い場」などの設備があるととても便利。カーシェアリングもマンション内にあればいつでも気軽に使える。またルームシェアや寮生活も家財道具を揃えなくていいから経済的。特に、子育てのように一時的なニーズを適えるためのものについては、分譲よりも賃貸マンションのほうが多いようだ。

the SOHO
新たなSOHOワークスタイルを提案する世界最大級の賃貸マンション。
http://www.aomi-project.com/index.html
すみだ子育て支援マンション認定制度
東京都墨田区が実施する、ハード・ソフト両面で子育てしやすい居住環境を整えたマンションを認定する制度。
http://www.city.sumida.lg.jp/matizukuri/zyuutaku/
kosodate_mansion/index.html

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つながる住まいの市場調査

実際、集合住宅では住民同士でどのような「つながり」を持っているのだろうか。人々のニーズやそのコミュニケーションの実態を探るべく、今回は三井不動産レジデンシャル株式会社の大宅将之氏にお話を伺った。

大宅 将之 (おおたく・まさゆき) 氏

大宅 将之 (おおたく・まさゆき) 氏
三井不動産レジデンシャル株式会社千葉支店開発室

パークシティ柏の葉キャンパス 二番街』の開発も含め、柏の葉まちづくりを担当している。

豊かなコミュニティが求められる
「パークシティ柏の葉キャンパス二番街」コミュニティスペース

『パークシティ柏の葉キャンパス二番街』は現在建設中のコミュニティスペースが充実した総戸数880戸の分譲マンション。入居者同士はもちろん、多くの地域住民との交流ができるハードやソフトの提供により、豊かなコミュニティづくりを特徴としている。すでに一番街の入居者と地域住民による「まちのクラブ活動」も始まっており、話題を呼んでいる。

まちのクラブ活動を通じて住民同士のつながりが広がっている
「エコクラブ」の活動の様子

土いじりやピクニック、自然探索などをするネイチャーキッズクラブなど現在21のまちのクラブ活動が行われている。(2010年3月時点)「一番街の約100世帯がエコクラブに参加して頂けるなど、この街での暮らしを積極的に楽しもうといった雰囲気を感じます」(大宅氏)。今秋以降は、二番街も新たに加わり、ますます充実したクラブ活動とコミュニティの輪が広がりそうである。

パークシティ柏の葉キャンパス 二番街
http://www.31sumai.com/mfr/G9910
まちのクラブ活動
http://www.kcvn.net/
※このコンテンツはNTTアドの情報紙『先事新聞』第19号(2010年4月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。
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