調査・研究/発行物

先事新聞 vol.13

手作り気分 今月のキーワード
今月のkey word 「手作り気分」
■モノを買うだけじゃ満足できない!?「作り手」になりたい消費者たち
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「ホモファーベル(工作人)」という言葉がある。人間の本質が「物を作ること」にあるとする考え方らしい。

ついつい忘れがちだが、我々は有史以来、自分で使うものはほとんど自分で手作りしてきた。何でも市場から調達して生活の用に充てるようになったのは、大量生産・大量消費時代以降のことであり、これは人類の歴史上で見ればごくごく最近のパラダイムに過ぎない。なにより、持てる能力を自由に使うというのは、それだけで気持ちが良いし、とりわけ手を使うことによる喜びは格別だ。ペンフィールドのホムンクルス*を見ても、手の部分が極めて大きい。

今、農業が注目されているとの由。関連本の出版が相次ぎ、トレンド誌などでも盛んに特集が組まれている。「ニュー・ファーマーズ」「アグリ・ガールズ」なんていう言い方を見かけた。なんだかおしゃれである。また、自分で洋服を作ってネットオークションで売るアマチュアも増えているようだし、なんと、自分で家を建てるためのマニュアル本まで出版されている。今まさに、衣食住オールラウンドで「ハンドメイド」がブームになっているようだ。

グラフ

ちなみに、当社の行った2009年の抱負に関する調査**では、「ムダ遣いをやめて、将来のために貯金したい」という回答が最重視項目の第2位であり、特に20代の男女で顕著であった。昨今の景気後退による「消費抑制ムード」と「ハンドメイド・ブーム」は、コインの裏表なのかもしれない。また、別の調査(右グラフ参照)では、「食」に関連する手作り志向が上位を占めているが、これも「食の安全神話崩壊」といった昨今の世相を反映していると考えられなくもない。

しかし表層的な動機はどうあれ、こういったハンドメイド欲求の高まりは、近年我々が、商品の「(一方的な)買い手」として、その市場的立場を(窮屈に)固定されてきたことへの反動と見ることもできる。「作り手への回帰」「手作りの復権」といったところか。

ともあれこんな時勢に鑑み、今回は色々なハンドメイドをテーマにして、いつも通りに先事新聞を「手作り」してみたのだ。

* 関連する脳内面積が大きい感覚器官ほど、そのサイズを大きくして作られている、奇妙なプロポーションの人体像
**NTTアド自主調査(インターネット調査、首都圏在住15~69歳男女500名、2009年2月6日~9日実施)

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巷では今、手作り気分がウケている。

それは、消費者本位の時代が生んだ、新しいマーケット!?

■手作り志向は、3タイプ

携帯デコや体験型農業など、今、消費者の間で手作り気分が広がっている。これをマーケティングの目線で俯瞰してみると、いくつかの消費者志向が浮かびあがってくる。今回の先事新聞では、今どきの手作りについて、消費モチベーションから大きく次の3タイプに分類してみた。

ひとつは、モノやお金を節約しながらも、生活の質は落とさずに毎日を楽しみたいという「生活クリエイト型」の手作りだ。二つめは、手作りが交友関係の広がりや、夫婦や親子間の会話のきっかけになる「コミュニケーション型」。三つめは、ちょっとした手作りそのものをホビーとして楽しむ「簡単・エンジョイ型」である。

もちろん、3タイプとも、「手を使う=自分で何かをする実感」としての喜びや充実感は共通している。また、簡単さや手軽さに加え、遊び感覚が最近の手作り人気におけるポイントであることも、マーケティングのヒントとして押さえておきたい。

■実は、ブログやSNSと気分は一緒!?

表紙でも述べたように、こうした手作り志向を、消費者が自ら何かを生む行為と捉えるならば、ブログやSNSと同様、「消費者=作り手」という方程式が成り立つマーケットといえよう。

今やマーケットの主流は、単に企業が商品を製造し、一方的に消費者へ提供するといったものではなく、消費者自身が何かを生み出すといった、消費者本位の時代にますます傾いているようだ。

生活クリエイト型

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■T.K.G.(たまごかけご飯)&ねこまんま、簡単手作り料理が人気

簡単料理本が売れている。「365日たまごかけごはんの本」は累計12万部、「おとなのねこまんま」は発売後1カ月で2万部を売り上げた。料理ができる男=カッコイイといったイメージの定着もあるのか、書店で何のためらいもなく料理本を手にする男性の姿が目立つという。


■家庭菜園や農業体験で安心・安全な野菜を手作り

家庭菜園や、滞在型・日帰り型の農業体験が人気だ。10年前に比べて官民の市民農園数は150%以上増加したが※、人気農園では利用できるまで数年待ちのケースも。ホンダと三菱農機は、個人需要を見込み、卓上カセットコンロのボンベで動くミニ耕運機を、今年相次いで発売した。

※農林水産省HP「市民農園をはじめよう/市民農園の開設数の 推移(平成20年3月末現在)」より

■男が、ますます草食化!?自分でお弁当を作る弁当男子が急増中

弁当箱が売れているが、注目すべきは弁当男子の出現だ。ネットショップの「カラメル!」(4,000店以上出店)は、弁当男子グッズの専用サイトを開設した。この弁当男子、独身男性はもとより、家族の弁当を作るお父さんや、「オレ弁」を毎日ブログ紹介するツワモノも登場している。

コミュニケーション型

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■一緒に作る、一緒に食べるクッキング系本格手作り機器が人気

家庭用そば打ち機やホームベーカリーが売れている。また、たこ焼き器が関東地域で好調だ。子ども向けでは、食べられるドーナツや太巻きなどを作る玩具が人気だという。手作りの美味しさはもちろん、作り、食べながら自然にコミュニケーションを楽しめることがクッキング系機器の魅力のようだ。


■世界にたったひとつだけ パパ・ママの関心が高まる手作り絵本

つるの剛士や優香、堂本剛など芸能人絵本の影響もあるのか、手作り絵本に興味を持つ親が増えている。パパ・ママ向け絵本教室が図書館などで開催され、PCとプリンタで簡単に絵本が作れるバンダイの「うちのこ登場!アンパンマン」も好評だ。親の愛情溢れる絵本に子どもは大喜びだとか。


■ゆるい感覚で手作りタイム 手芸カフェで心地よい関係

ジュリア・ロバーツなど編み物に熱中するセレブの影響もあり、NYやパリ、東京にニットカフェが登場したのが数年前。最近はアクセサリーなど色々な手作りを教えてくれる手芸カフェが人気で、定員超えになることも珍しくない。おしゃべりしながら、まったりと手作りする時間が癒しになるらしい。

簡単・エンジョイ型

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■作りたい、揃えたい欲求を刺激する手作り系「分冊百科」の人気

雑誌が売れない中、毎号、組み立てパーツと知識を提供する「分冊百科」が好調だ。デアゴスティーニ・ジャパンを筆頭に、各社が次々と新シリーズを刊行している。今年創刊された同社の「天体模型 太陽系をつくる」や「安土城をつくる」にハマり、至福の時間を過ごす男性諸氏も多いとか。

■スイーツデコを作って飾る これだけで女のコは幸せ

携帯などをデコる(飾る)のは今や常識。中でも大ブレイクしているのが、マカロン、ショートケーキ、果物などをモチーフにしたスイーツデコだ。樹脂粘土などで手軽に作れ、豊富なパーツやキットも揃っている。雑貨売場にはコーナーが設けられ、作り方の本も多数出版されている。


■ライトなファッション・カスタマイズ 古着やリーズナブルな服をおしゃれに変える

若者を中心に流行っているのが、ファッション・カスタマイズだ。手持ちの服や古着、「しまむら」などで安く買った服に手を加え、自分らしさを表現する。既製品にレースをあしらったり、ボタンやビーズ、ステッチをアート風に配したり、男女を問わず自由なカスタマイズを楽しんでいる。

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西辻一真氏
株式会社マイファーム 代表取締役社長 西辻一真氏
遊休農地を自社で借り受け小区画菜園として個人に利用してもらう他、種苗の販売なども行う農業ベンチャー企業。

■希望者倍増!今や農業は人気レクリエーション!?

今度の週末は映画にする? それとも農園に行く? といった気軽さで、農業を楽しむ人が増えているようだ。

「体験農園の希望者は、今年に入って倍増しています」と、西辻氏は語る。

食農教育にもなり、農業をしながら子どもと自然にコミュニケーションがはかれることから、利用者はファミリー層が多いという。

また、同社の体験農園が人気の理由は、利用する側の負担がいたって軽いことのようだ。水やりなど日常の定期的な管理はスタッフに任せることができるので、利用者は月2回ほど週末に来園し、種まきや収穫など土いじりを楽しむという。まさに、いいとこ取りのお手軽農業というわけだ。

「鍬(くわ)と鎌の違いが分からなかったり、畑にヒールで来たりする感覚の人もいます」(同氏)とは驚きだが、最初は分からなくても当然だとか。土作りから植える野菜の選定、育て方、収穫まで、スタッフがゼロからサポートしてくれる。そんな手取り足取りの農業サービスが、ひとつのレクリエーションとして認知されつつある。

秋間三枝子氏 株式会社日本ヴォーグ社 編集長 秋間三枝子氏 創業から50年以上にわたり、手芸教室の開催や出版他、女性のクラフト全般を通じて幅広く事業を展開する。
■ヘビーVSライト!?二極分化する女性の手作り意識

30代前後の女性を中心に、ライト感覚な手作りを楽しむ女性が増えているという。

「50代後半以上の女性にとって、手作りは極めて日常的なことでした。ですから彼女たちが改まって“手芸する”と言うとき、それは先生や作家を目指したり、展覧会に出品したり…、と目的意識を持った“レベルの高いヘビーな手作り”になりがちです」(秋間氏)。

それに対し、若い女性の手作りは生活を楽しむためのスタイル、いわゆるライトな手作りなのだという。

「自分が美味しいものを食べたいから、着心地の良いものを着たいから手作りする。自分や家族の理想的な生活を実現するために、彼女たちは気軽に手作りするんです。そして何より、作るというプロセスを楽しんでいますね」(同氏)。

ヘビーな手作りとライトな手作り。40代前半のバブル世代あたりが、この境目といえそうだ。モノが溢れる時代に育った若い世代にとっての手作り志向とは、物質的な欲求ではなく、行為そのものを、そして生活をおしゃれに楽しむことのようである。

※このコンテンツはNTTアドの情報紙『先事新聞』第13号(2009年4月発行)からの転載です。
 発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。
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