調査・研究/発行物

先事新聞 vol.12

プチボラ 今月のキーワード
今月のkey word 「プチボラ」
■ライト感覚なボランティアは、今やファッション・トレンド!?

「しがらみ」は、漢字で「柵」と書く。古来より、川は人間にとって命の綱でありながら、時に、人家や田畑に害を与えた。これをなんとか最小限に抑えようという知恵の産物が「しがらみ」である。

しかし、一転してこの川を「人間の自然な感情(の流れ)」に見立ててみると、途端にその柵は自らの活動を制限する「障害物」となって立ち現れる。これが二つ目の(そして、より一般的な)この語の意味である。戦後の日本人の多くは、この「しがらみ」を嫌い、排除に努め、「自己実現」に邁進してきた。しかしその努力は、(社会的互助インフラとして大いに機能していた)地域コミュニティや家族の崩壊を招いたと見る人もいる。

そんな中、1995年の1月17日の早朝、阪神・淡路大震災が発生した。たくさんのボランティアが現地に馳せ参じた。ボランティア学では、この年を「日本のボランティア元年」と呼び、政府は1月17日を「防災とボランティアの日」とした。

ボランティア活動の最もわかりやすい定義は、やはり「自発性=voluntariness」であり、これに「無償性」「利他性」を合わせた3つの要素が重視されている。件の震災時の復旧ボランティアはその典型例であり、本人に相応の犠牲を強いる「ハード」なボランティア活動である。

イラスト

一方最近では、ホワイトバンドやエコバッグ、フェアトレード等といった「ライト感覚の」ボランティア(的な物事)が社会に広がっている。これは、もっと気軽に、背伸びせず、自分が暮らす社会の役に立ちたい、という気持ちをやわらかく形にするもので、総じて「プチボラ」と呼ばれている。

「こういう軽佻浮薄なものはボランティアではない」とおっしゃる方がいるかもしれない。しかし、これも見方によっては、「しがらみ再生の試み」だと考えることもできる。環境破壊や終わりの見えない不況、新奇な凶悪犯罪等といった「新たな川の氾濫」に対する「新たな柵づくり」なのではないか、と。もしそうなら、これは大いに言祝ぐべきトレンドであろう。困ったときに我々が横にいてほしいのは、志が高い無為の人よりは、ササッと小さな鶴でも折って「コレ、いる?」なんて言ってくれる人の方である。

やりたいからやる。楽しいからやる。スマート&ライトなプチボラでちょっとイイこと、気持ちイイこと。

■広がるプチボラ

日本人の5人に3人は「ボランティア活動をしたいと思っている」らしい※1。1980年からの25年間でボランティア団体は約7.6倍/12万団体に、ボランティア人口は約4.6倍/740万人に増加した※2。

そんな風潮のなか注目すべきは、興味のあることや出来ることを、ムリせずライトに行うプチボラの広がりだ。ベルマークやプルトップ、ペットボトルキャップの収集、デイリー参加の街頭清掃、商品購入連動型募金等、いずれもプチボラといえる。

プチボラ人口の総数を正確に表すデータはないが、敷居が低いことから、前述のボランティア人口を大きく上回ると思われる。

例えば、消費者がバナーをクリックしたり、買い物をしたりするだけでNGOやNPOへ協賛企業から寄付が行われる「クリック募金型」のプチボラがある。そのひとつ「イーココロ!」では、2004年に197,744円だったクリック募金額が、2008年には17,306,260円に増加した。4年間で100倍近くも伸びたわけだ。プチボラに関心を持つ人が、確実に増えていることがうかがえる。

■消費型プチボラ・マーケティング

消費者のプチボラ志向は、マーケティングの面からも無視できない。

よく知られた事例に、ボルヴィックの「1l for 10l」プログラムがある。ユニセフの井戸づくりを支援する内容で、消費者がボルヴィック商品を1リットル購入すれば、10リットルの水がアフリカに供給されるというものだ。初回の実施期間である2007年7月~9月の販売実績は、ボルヴィック関連で、前年比131%となった。同期の市場の伸び率は前年比115%ということであるから、それを上回る結果となっている※3。

ほかにも、プチボラに関心を持つ消費者をターゲットとしたマーケティング事例が、ここ数年で見られるようになってきた。

着うた・着メロ配信のmusic.jpが行った、セミの鳴き声の着うたを100円でダウンロードすると70円を自然保護NGOに寄付するという企画も、そのひとつだ。1ヵ月強の期間で、邦洋楽以外のジャンルでは異例の1万ダウンロードを超えたという。消費者の、プチボラ意識の高まりを垣間見ることができる事例である。

商品購入で社会貢献をしたいと考える消費者が60%を超えるというアンケート結果もあり※4、マーケッターにとって“プチボラ”は、今後気になるキーワードになりそうだ。


※1 平成17年度 国民生活選好度調査/内閣府国民生活局
※2 ボランティア活動年報2005年/全国社会福祉協議会 全国ボランティア活動センター
※3 ボルヴィック「1l for 10l」プログラム公式ホームページより
※4 2008年 企業の社会貢献活動についてのアンケート調査/ユナイテッドピープル株式会社

いまどきのプチボラ事情
  • ショッピングするだけで社会貢献
  • 簡単ブログパーツで募金協力
  • お散歩感覚でクリーン・プチボラ
  • 自販機で飲み物と一緒にプチボラ

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達人に聞く

若い世代で高まるプチボラ意識

ご自身のボランティア経験をもとに、情報サイト「All About」のガイドを務め、関連書籍の執筆や講演等幅広く活躍する 筑波君枝氏にプチボラ事情についてうかがった。

筑波君枝氏 筑波君枝(つくばきみえ)
1993年より在日外国人との相互扶助を目的とするAPFSにて活動。1997年(財)日本国際交流センター(JCIE)主催「第3次アジア太平洋女性ダイアローグ」参加。現在は自らのボランティア体験をもとに“誰でも簡単にできる人や社会にやさしい行動”の提案をWEBや雑誌、講演等で行う。著作「こんな募金箱に寄付してはいけない」(青春出版社)他。

■モノよりコト。だからプチボラ

イラスト「今、若い人がホントにボランティアをやりたがっています」と筑波氏。ひとつには『何か人と違ったことやってみたい』『何か達成感のあることをやりたい』といった、自己実現欲求があるのだという。その一方で、「就職活動のためにプチボラやってもいいですか?」と質問するような、チャッカリした面もあると笑う。

中田英寿や藤原紀香など、若い世代に影響力を持つ日本の著名人が積極的に社会貢献活動を行うようになったことも背景にあるようだ。「松井秀喜選手がスマトラ沖地震に5,000万円寄付をした頃(2005年)は、あまり日本人のこういった行為は目立ちませんでしたが、今は珍しいことではなくなりました」。

イラストバブル崩壊後の就職氷河期や長引く日本の景気低迷、社会問題や環境問題を目の当たりにしている10~30代の彼らは、総じてモノよりもコトに関心を持つ世代といえる。不安定な時代背景のなか、純粋に何かしたいという雰囲気が広がっているのだと筑波氏はいう。「やっぱり『ちょっと私も何かやらないと…』と思う人が増えているのではないでしょうか」。プチボラに人々が反応するのは、時代の流れだと語る。


■プチボラの間口も広がっている

体験的なプチボラを用意し、ハードルを下げて“ボランティアしてみたい”人々を積極的に受け入れるようになってきたNGOやNPO側の変化も大きいという。

「ボランティアだってオシャレにやろうよ、という活動もあります。フェアトレードも出始めはバナナと黒糖くらいだったのが(笑)、今はいろいろな商品がある。モノが悪くても我慢して買うのではなく、いい物を買って社会貢献もできる。だから、リピーターも口コミも広がっています。カタログやサイトも、すごくオシャレになりました」。

「国際協力NGOでインターンシップをして、『いろいろ経験させていただいたけど、私はやっぱり一般企業に入ります』というコも多いんですよ。経験すると『やっぱキツいかも』と思うのは、普通の感覚です。でも、問題意識は持っている。企業で、自分に出来ることをするのもいいんじゃないでしょうか」。

これからも、プチボラは広がりそうである。


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女のコの間でプチボラは常識!?

はぴボラ

女のコの関心に敏感な女性誌が、次々とプチボラを取り上げている。キャンキャン(小学館)は、昨年から「はぴボラ」と題して読者モデルのプチボラ体験記を連載し、すでに7回目の掲載を迎えた。ノンノ(集英社)は、「2009年に読者がやりたいこと」の第3位がボランティアだったことを受けて、昨年暮れの発売号でプチボラを特集した。

「ファッション誌にボランティアの記事が載っていることで、読者の(ボランティア参加の)ハードルが下がってくれればいいなぁ…、と」。

そんな思いから連載をスタートさせたキャンキャン編集者の岩崎僚一氏は、連載を進めるにつれ、すでに読者の間でプチボラが広がりつつあることを知り、驚いたという。

「こんなボランティアをやってみない?」と読者モデルの女のコに聞いたところ、複数の人が、実はもうボランティアを経験していたというのだ。

「34歳のボクが学生だったころは(プチボラという概念が)なかった。興味を持ってもらおうという意図で始めた企画でしたが、彼女たちの方が、ボクよりぜんぜん先を行っている(笑)」(岩崎氏)。

イラスト キャンキャンのメイン読者層は大学生~25歳のOLであることから、この世代の女性にプチボラが浸透しつつあるのは間違いなさそうだ。

※このコンテンツはNTTアドの情報紙『先事新聞』第12号(2009年2月発行)からの転載です。
 発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。
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