調査・研究/発行物

目黒発 vol.18

今、環境広報を考える
今や、確固たる理念を持ち環境問題に取り組んでいなければ、その企業は社会から支持されず、消費者は商品を選んでくれない。そのためには、環境対応を広く詳細に伝える広報活動も不可欠だ。場当たり的な広報施策ではもはや消費者の心には響かない。伝わる“環境広報”でいかに社会と手をつなぐことができるかが、企業広報の命題のひとつだ。今号では、戦略性・創造性に富む今日の環境広報を考察する。

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愚直に伝えつづける姿勢こそ、消費者から選ばれる企業への道
- 松下電器産業株式会社のケース -

■創業者理念を背景に環境への取り組みをグループ事業ビジョンに掲げる
■環境経営の象徴がコミュニケーションツールとなりブランドシンボルへ発展
■弱点をさらけだして、コミュニケーションを図る真撃な姿勢が環境広報には必要

SPECIAL REPORT

愚直に伝えつづける姿勢こそ、消費者から選ばれる企業への道ー松下電気産業株式会社のケースー
■創業者理念を背景に環境への取り組みをグループ事業ビジョンに掲げる

環境本部環境企画グループ参事・冨田勝己氏
「自社の事業活動にとって“エコとは何なのか?”を考えることが、企業として環境問題に取り組むための第一歩」と語る環境本部環境企画グループ参事・冨田勝己氏。
コーポレートコミュニケーション本部広報グループの小川涼子氏
コーポレートコミュニケーション本部広報グループの小川涼子氏は「松下の社員には“経営理念”が根付いています。だから環境問題にも全員で取り組めたのです」と言う。
 松下電器(以下、松下)は、積極的に環境問題へ取り組み、そして環境広報を牽引する施策を展開してきた。現在、グループの事業ビジョンとして、「ユビキタスネットワーク社会の実現」とともに「地球環境との共存」を掲げているのはその最たるものだ。事業サイクル全体で環境負荷を限りなく軽減しつつ、生活の質を一層高めていくことを両立させると決意を表明しているわけである。こうした姿勢の根底には、創業者である松下幸之助氏の「企業は社会の公器」という理念がある。社会の役に立つことが企業の役目である以上、環境に悪影響を及ぼすことは許されない。環境への取り組みは、企業活動の根本であるという考え方が創業時から根付いているのである。
 こうした歴史的背景を受け、2001年、松下グループが目指す環境経営の具体的な目標や活動内容をまとめた「グリーンプラン2010」が策定された。CO2削減など環境に関する項目別目標を掲げたアクションプランで、数値目標を前倒しで達成するなど、現時点で一定以上の成果を挙げている。そして、2010年という区切りを間近に控え、環境経営をさらに加速させるべく、昨年10月に「エコアイディア宣言」が発表された。これは、生産活動時の環境配慮のみならず、企業活動すべてにおいて「一歩先のエコ」を目指し、3つの重点的取り組みを行うというものだ。その内容とは、(1)省エネ製品を届ける「商品のエコアイディア」、(2)工場をはじめCO2排出量削減を目指す「モノづくりのエコアイディア」、(3)エコ活動を世界中に広める「ひろげるエコアイディア」である。中でも「ひろげるエコアイディア」は、環境経営活動の柱として広報・コミュニケーション活動を重点施策に定めている。

Environmental Data Book 2008

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■環境経営の象徴がコミュニケーションツールとなりブランドシンボルへ発展

大坪文雄社長
2007年10月5日、大坪文雄社長はパナソニックセンター東京において「環境宣言」を発表し、松下が地球環境とどう向き合い、行動するのかを「エコアイディア戦略」として社会に発信した。
「eco ideas」ピンバッジ
国内外の全従業員に配布した「eco ideas」ピンバッジ。今や、社章に次ぐ松下の環境ブランドシンボルとなっている。
 では「ひろげるエコアイディア」としてのコミュニケーションのビジョンとはいかなるものなのだろうか。環境企画グループ 企画チーム参事の冨田勝己氏は、自社の従業員が持つ環境意識が起点になっていると言う。「環境活動を推進するには、シンプルにすることが力強さにつながると考えています。家電製品をお客様に届ける企業にとって、環境とは何かを突き詰めたら、商品・モノづくり・ひろげるという3つに絞られたのです。しかし、商品を開発するのも、工場で作るのも従業員ですから、まずは従業員のエコマインドを醸成しなければ何もなりません。その上で、地域やグローバルに向けてそれを広げていく。あくまでも“ひろげる”の核は従業員だと思っています」
 従業員の環境意識は、ここ数年で大きく変わったという。企業理念が浸透し、環境を考える下地があるだけでなく、98年から実施している「LE活動」も好影響を与えているそうだ。これは、社会人・企業人・家庭人として環境を考え、地球を愛する市民活動(Love the Earth=LE)を積極的に行うというもの。家庭で使うエネルギー量やCO2排出量を把握して削減をめざす「環境家計簿活動」、レジ袋を削減する「マイバッグ運動」などを実践している。また、「LE活動」10周年である昨年度は、日本と中国の従業員が合同でエコ活動に取り組む「CO2削減10万人エコチャレンジ!」も実施した。
 その意識の高さを示すように、“eco ideas”と刻まれた緑葉マークのピンバッジを全従業員が社章と共に身に着けている。この緑葉マークは、松下の環境経営のシンボルであり、一歩先のエコを目指すというメッセージを明示するとともに、社外に商品の環境性能が従来品よりも上がっていることをアピールする自主基準ラベルという2つの意味合いがある。当初は、環境活動のシンボルマークだったが、世界各国で商標を取る際に、トップがピンバッジを作り従業員に配布することを指示した。「国内の従業員分を作ったら、“次は海外展開だ”と社長に言われ、結局海外の従業員分を含め数十万個を作りました。その後、ピンバッジと同じ意味として名刺と名札にもマークを入れることになり、一気に社内に広まっていき、松下の環境ブランドシンボルに相当する意味まで持つようになりました」(冨田氏)
 今や“eco ideas”は、“Panasonic ideas for life”に準ずるスローガンにまで拡大した感がある。役員陣のトップダウンから生まれた“偶然の産物”と冨田氏は謙遜するが、歴代トップには高いレベルでの環境意識が脈々と受け継がれており、社内の機運も熟成したところへ、環境経営の拠りどころとしてマークがうまくフィットしたのだろう。これらはすべて、社内から自然発生的にできたことで、自社の強い思いをカタチにしていくことが松下電器の最大の強みなのである。


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■弱点をさらけだして、コミュニケーションを図る真撃な姿勢が環境広報には必要

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電球形蛍光灯と白熱灯を交換するイベント
今年のサミット会場となった洞爺湖町では電球形蛍光灯と白熱灯を交換するイベントを行い、節電とCO2排出量削減効果を訴えた。
洞爺湖サミットの期間中に新千歳空港内で開催されたイベント「エコアイディア ワールド」
洞爺湖サミットの期間中に新千歳空港内で開催されたイベント「エコアイディア ワールド」。中央のジオラマでは、CO2を減らす松下のさまざまなアイディアを紹介している。
 今年度のエコアイディア戦略の広報活動としては、今夏開催された洞爺湖サミットをさまざまな角度からサポートするなど話題性に富んだ施策を展開し続けている。サミット会場の洞爺湖町では、省エネ性能の高い電球形蛍光灯を白熱灯と交換するイベントを実施し、地球温暖化の主要な原因とされるCO2の削減をアピールした。なお、この「あかり交換活動」は、同社のマーケティング部門が全国各地で展開しているもので、環境本部は協力とサポートを行っている。環境に関するイベントなどコミュニケーションをすべて環境本部が担うわけではなく、 各事業部門で完結するものについては方法や目指すべき方向性を環境本部に相談するという連携が行われている。「環境イベントのようなものは、環境本部が旗を振っても血肉にはなりません。地域で開催するなら、その地域のスタッフが全面に出ることが大切です。地方を目立たせるのではなく、全国へ発信しているという面を強調するように心掛けています」(冨田氏)
 また、エコアイディア戦略を消費者へ直接訴えかけるコミュニケーションの場として、08年4~7月にかけて全国7カ所で開催したのが「エコアイディア ワールド」である。東京ミッドタウンや大阪・梅田、北海道洞爺湖サミット期間中の新千歳空港など、人がたくさん集まるところへ出向き、理想的なエコの街をつくる製品や取り組みを展示するという内容だ。緑葉のマークは07年4月から商品にも使用しているため、環境に関するマークという認識は進んでいるが、松下の環境活動のシンボルとは必ずしも結びついていないのが現状だ。広報グループ 小川涼子氏は「アンケートを取ると、弊社の環境への取り組みは、ビジネスパーソンからは高い評価をいただいていますが、学生や主婦層にはまだ認識が低いです。中には、松下・ナショナル・パナソニックが同じ会社ということを知らない方もいるほど。弊社とエコアイディアが一体であることを知ってもらうために全国を回りました」と語る。
 来場者アンケートによると、環境問題そのものについての認識も低く、電気製品を使うとCO2が出ることすら知らない消費者もいたという。「エコアイディア ワールド」で初めてエコを理解できたという声も多く、同社の環境経営の理解につながっているようだ。
 企業が環境を通じてコミュニケーションを図る目的は、企業である以上最終的には利益に帰着する。社会の公器を標榜する松下電器も例外ではないはずだ。「マーケティング部門などは、コミュニケーションも利益につながると意識しなければ間違いです。しかし、環境部門にとっては利益はあくまで結果です。省エネ商品を作っているのですから、それをわかっていただくために継続的に訴えることだけを考えています」と冨田氏は語る。環境への思いや取り組み、商品を使うだけでどれだけ環境に配慮できるのか、環境経営のすべてを包み隠さず愚直に伝え続ける。これこそが、今の松下の環境広報のあり方だ。松下グループが毎年発行している「環境データブック」では、家電製品の販売台数をもとに、毎年どれだけのCO2が製品から排出されているか細やかに開示している。多くの顧客を抱えているだけあって、その量は大きく、製造時より使用時の方が10倍も排出しているのだという。製品を使うだけでCO2は出てしまう。だからこそ、環境問題に真摯に取り組むのは当然のことなのだ。
電球形蛍光灯で灯すちょうちん
電球形蛍光灯で灯すちょうちんには、全国の人々から寄せられた「地球環境を守ろう!」の思いを込めたメッセージが描かれている。
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  環境に負荷を与えずに企業が活動をすることは不可能だ。その上で、負荷を与えてまで行っている自社の活動は、消費者や社会に対してどのような意味を持つのか、エコにどのように取り組んでいるのか、自社の強みと弱みを正確に把握して伝えることが、環境広報のあり方といえるのではないだろうか。そのためには、排出物質は何か、エネルギーの使用量はどの程度かなど、環境負荷を公開する勇気が相互理解の前提となる。販売促進を意図した環境コミュニケーションでは、消費者に見透かされる時代である。環境に関して、社会とのつながりを愚直なまでに考える企業こそ、信頼を勝ち得ていくことだろう。

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■環境広報の在り方、4つのポイント
1 環境経営を浸透させるために、まずは環境マインドを社内に醸成させる。
2 環境を通じたコミュニケーションは、利益ではなく理解を求めるもの。
3 自社の弱点を開示しなければ、エコへの取り組みに信憑性が生まれない。
4 社会とのつながりが強いだけに、企業の存在意義に直結する施策と認識する。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第18号(2008年9月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。
なお、2008年10月から松下電器産業株式会社の社名は 「パナソニック株式会社」に変更されています。

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