調査・研究/発行物

目黒発 vol.14

先進企業に学ぶ「顧客の声を生かす力」
苦情やクレームといった、いわゆるマイナス情報を、プラスの力として生かすためには、斬新な発想と仕組みの転換が不可欠だ。
アグレッシブに顧客の声を求め、確かな実績を生み出している2つの企業を徹底レポートする。

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従来の広聴の枠を超え、「お客様相談センター」を経営の主幹組織に転換
- 株式会社ニチレイフーズのケース-

■リコール問題を糧にクレーム対応の先進企業へ
■寄せられたすべての「声」を集約し、リアルタイムで提供
■顧客との「窓口」を担う部門こそ企業の核となるべき

顧客の要望を商品改良で実現真摯な対応姿勢が企業価値を決める
- 株式会社伊藤園のケース-

■お客様相談室が商品開発の提案を行う
■過剰なサービスではなく真摯な対応を追求
■時代とともに変化する常識への臨機応変な対応が必要

■「苦情・クレーム」をサイト上で集めて活用 中小企業の商品開発を支援
~苦情・クレーム博覧会

SPECIAL REPORT

従来の広聴の枠を超え、「お客様相談センター」を経営の主幹組織に転換-株式会社ニチレイフーズのケースー
■リコール問題を糧にクレーム対応の先進企業へ

 クレームに対する企業の意識は近年大きく変わってきている。回避すべきものではなく、顧客の率直な声と捉えるようになり、“クレームは宝の山”といったフレーズさえ浸透している。そして、賞味期限や産地偽装問題が続出し、昨今特に消費者の声に敏感になっている食品業界において、クレーム対応策を積極的に推進しているのがニチレイフーズである。冷凍食品の出荷額第1位で消費者との接点が多い同社は、お客様相談センターに機能を集約し、全社でその内容を徹底して共有することで、ニチレイフーズ全体の活動に顧客の声を生かす体制を築いている。
 お客様相談センターが開設された約30年前は苦情対応が主な業務だったが、1992年から品質保証部に属して、安全性向上への取り組みを強化。2001年には営業企画部に移り、顧客の声をマーケティングへ活用するようになった。そして、03年からは商品部付となり、開発や改良改善にもかかわるなど進化を続けてきたが、大きな転機となったのは、02年に発生したホウレン草の残留農薬の問題だ。センター所長の鈴木清隆さんは、「この時の自主回収の経験によって全社的な危機感が高まり、リスクマネジメントを強く意識するようになりました」と振り返る。それから、生活者の要望や苦情に対するレスポンスを全社的に高める必要があると判断、その中核を同センターが担うことになった。

顧客の声に応じ、トレーを廃止するなどの環境対策が進んでいるニチレイフーズの冷凍食品。
顧客の声に応じ、トレーを廃止するなどの環境対策が進んでいるニチレイフーズの冷凍食品。
武田さん
「“こういうものをつくれば売れる”と企業の一存で決めた商品は通用しなくなりました。すべての業務においてお客様の声を無視できない時代です」と語る武田さん。
鈴木さん
「お客様相談センターの長は、その企業の役員が務めるくらいのポジションであるべき」と鈴木さん。

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■寄せられたすべての「声」を集約し、リアルタイムで提供

 ニチレイフーズには、電話やメールなどで寄せられたすべての顧客の声を集め、社内だけではなく、全国の営業所や生産工場でもリアルタイムで内容や対応の進捗を知ることができる「りぼんシステム」が導入されている。これは、クレームや問い合わせの回答や情報提供が、知識や役割に応じてスタッフに随時報告されるワークフロー管理である。例えば、「購入した冷凍食品が溶けていた」という苦情があれば、その情報が営業に届き、すぐさま店舗を調べるという体制が整えられている。また、危険性のあるクレームには警告を出すシステムもあり、重大な問題が生じた際の早期対応のため、社長をトップとするリスクマネジメント委員会ともリンクしている。
 「社内では分からない問題のヒントをお客様からいただき、自分たちの至らない点を積極的に改善する指針となるのが役割」と語るのは、同センター企画チームリーダーの武田亮二さん。顧客に対してはグループ5000人の代表として接し、社内には1億2000万人の顧客が背中にいるとの思いで発言するそうだ。

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■顧客との「窓口」を担う部門こそ企業の核となるべき

ニチレイグループサイト
「社会環境報告書」への意見を集めるため、フィードバックボタンを用いているニチレイグループサイト。
 お客様相談センターは、運営の柱を4つ掲げている。1.「応対品質の向上」は、また問い合わせてみようと顧客に思ってもらえる仕組みづくり。2.「製品品質の向上」は、顧客の声を商品に落とし込むこと。毎週、役員以下約40名が集まり、1週間分の声を論議するグループリーダー会議を開催している。声をレビューするのではなく、お客様相談センターが会社に提案する場であることが迅速な対応につながっている。3.「経営品質の向上」はリスクマネジメントの強化。重大なクレームがあれば、会社に対し勧告レベルで発言する。4.「CS教育の推進」は、クレーム対応を切り口としたCS意識の向上。各部署リーダー、部長・課長クラスを対象に毎月研修を実施し、CSについて議論したり、電話をモニタリングして顧客の声を肌で感じてもらっている。
 「クレーム対応」の枠を超えた上記の取り組みから推察できるように、お客様相談センターはニチレイフーズの核という存在になりつつある。「4つの柱が目指すレベルまで達したら、全部門を見渡せる立場になるべきです。将来的にはセンター長も役員が務め、水が上から下へ流れるように情報が全社的に伝わっていけば、本当のエクセレントカンパニーになるでしょう」というのが、鈴木所長が描く将来像である。
 消費者の目が厳しい食品業界で磨かれたニチレイフーズの施策は、広聴システムのモデルとして他の企業の指標にもなっている。かつて同社が参考にした会社が、わざわざ視察に訪れることもあるという。これも、情報共有の強化があればこその発展だろう。各社員がクレームを細かなニーズと捉え、顧客の声を広く募ろうという意識になったからだ。グループのWEBサイトに掲載された「社会環境報告書」のページに、閲覧者の意見を求める「フィードバックボタン」が置かれているのも、その徹底ぶりの表れ。グループ広報によると、手厳しい指摘を含めて、多岐にわたる問い合わせがサイトに寄せられているそうだ。
 クレームを能動的に取りにいき、さらに集まった声をいかに社内で位置付けるか。このときの問題意識や視点が、広聴の枠を超えた施策を生み出すのである。企業広報的な施策においてもこうした意識や視点は必須であり、両者は深いかかわりを持つと言えるだろう。「全社共通の、最優先の課題」というスタンスを示すニチレイフーズのシステムは、企業理念をもしっかりと表している。

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顧客の要望を商品改良で実現 真摯な対応姿勢が企業価値を決める-株式会社伊藤園のケースー
■お客様相談室が商品開発の提案を行う

伊藤園
顧客の要望に応じて、フルラベルのペットボトル商品のパッケージに残量が分かる窓が設けられている。
 年間約3万件に上る問い合わせから消費者ニーズを的確に察知し、商品改良の実績を残しているのが飲料メーカーの伊藤園だ。顧客からの要望を実現するために実践されているのは、的確にニーズを読み取り、商品開発などへ正確なデータとして提供すること。同社のお客様相談室では、2007年に独立部署となったのを契機に、問い合わせ内容をイントラネット上に翌日掲載する日報などの新しい試みを導入している。商品に対する指摘や評価といった、全社員が知りたい情報を迅速に提供する体制づくりの一環である。
 週間報告書では、クレームの内容だけでなく、どこの支店がどう対応したかを明記してCS意識の強化を図る。月間報告書ではさらに、問い合わせ内容を項目別グラフにして全体の傾向を示し、ドリンク開発会議などの議題資料として利用している。月間報告書は、お客様相談室から会社への提案資料となっている。顧客のために絶対に取り組むべき案件もあれば、実現性や費用対効果を踏まえて検討すべきものもあり、そういった情報の取捨選択を顧客に一番近い相談室が行っているのである。この仕組みから、ペットボトルのラベルに窓を設けて残量が分かるようにしたり、キャップの上面に賞味期限表示を説明するといった改良が実現している。


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■過剰なサービスではなく真摯な対応を追求

杉山さん
「商品価値を損わずに、可能な範囲でお客様の声に対応することが一番大事なスタンスだと思います」と杉山さん。
 食品の産地偽装が続いたこともあり、07年の夏頃から、主力商品の「充実野菜」に使われている野菜の産地に関する問い合わせが増えた。同社はHP上で情報を公開し、続いて商品ラベルにも明記するようになった。この情報開示の流れは他の商品にも波及しており、「1日分の野菜」では一部に中国産トマトを使用していることも明らかにした。「イメージが悪い中国産だからと隠すより、『中国産でも品質管理体制は整っています』と情報をセットで示すべき。それが本当の意味で、お客様の声に応えることだと思います」と室長の杉山正彦さんは、同社の姿勢を強調する。
 また、問い合わせの中で多くを占める購入希望の声には、きめ細かな対応を徹底している。購入希望者の住所を聞き、担当する支店に最寄りの販売店を確認して案内をするほか、販売店がない場合には近隣の取引先店舗に商品を置くことを推進している。オフィスに設置された同社の自販機に入れてほしいというリクエストにも対応する。自社の社員が担当するルートセールス業態だからこそ、顧客一人ひとりの声を実現できるのである。
 消費者意識が変わり、商品そのものより、要望にどう対応したかで企業価値を決める傾向が強くなっている。同社のサイトでは、「お客様の声 実現コーナー」として商品に反映した事例をいくつか紹介しているが、これは、顧客からの目を意識したものというよりは、「真摯に応える」という姿勢を示すものとして設置しているそうだ。「よく思われたいなら、過剰なサービスをすればいいのですが、それは絶対にしません。すべてのお客様に平等かつ真摯に接して、できる範囲で対応することが一番です」(杉山さん)。

「お客様の声」実現コーナー   「賞味期限」表示
同社サイトには、顧客からの問い合わせを商品へ反映させた「お客様の声 実現コーナー」が設置されている。写真左のラベル切り取り線は、ゴミとして分別する際に剥がしやすくするもの。改良を重ね、1本線から2本線になった。

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■時代とともに変化する常識への臨機応変な対応が必要

 また、消費者とメーカーの常識・意識のズレを感じることも多いそうだ。例えば、ウーロン茶やジャスミン茶の原産地が中国産ではないかと詰問してきたり、子どもに麦茶を飲ませたいが、カフェインが入っているのかという質問が増えているという。メーカーの常識で考えれば、中国茶の茶葉は中国産でしかありえないし、麦茶にカフェインが入っているわけがない。しかし、その常識は消費者には通用しない。麦茶への問い合わせは件数が多いため、ラベルに「ノンカフェイン」と表示することになった。核家族化により、これまで家庭で教えられてきた知識を得る機会がなく、ごく当たり前のことが消費者にとって役立つ情報にもなっているというのである。
 問い合わせをきっかけに商品知識を介した啓発活動の必要性を感じているそうだが、それは、今後の広報の在り方にも影響を与えるものだろう。同社広報室は、消費者に必要な情報、会社側が伝えたい情報の順位付けをしながら、プラスとマイナス両面の情報を積極的に発信して、安心を提供する意識を持たなければならないという見解である。
 顧客の声を企業活動として実現していくには、消費者のニーズを的確に読み取ることが肝要だが、それには人それぞれの常識や価値観といった個性すらも読み解かねばならなくなっているのだろう。

顧客の声を企業活動、企業広報に生かすためのポイント
クレーム情報には、マイナスをプラスに転じるチャンスが潜んでいる。
その対応は、企業ブランディングにも大きな影響を持つことを意識するべき。
消費者と企業、両方の感覚を持ち、両者のパイプとしての役割を担当部門と広報部門が果たす。
顧客の声を集めて有効的に使うには、社内でのタイムリーな連携体制が不可欠。

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「苦情・クレーム」をサイト上で集めて活用 中小企業の商品開発を支援
 福井商工会議所が2003年より運営する「苦情・クレーム博覧会」は、まさに「クレームは宝の山」であることを実証する取り組みだ。消費者が日頃感じている日用品やサービスについての不満やクレームをインターネット上で募集/公開するもので、これを企業の開発担当者などが閲覧し、商品化に生かすというシステムになっている。
 「道路で引くときガラガラ音のしないキャリーバッグが欲しい」などユーザーからの生の声をこれまでに3万件以上データベース化してあり、有料ですべて閲覧できる。ネット上だけでなく、実用化したアイテムや集めたクレームを展示するイベントを毎年開催することで、多くのメディアに露出していることも特徴だろう。この「博覧会」から生まれた商品は数十アイテムに上る。中でも、「雨の日に電車や車内に傘を持ち込むと、服や靴が濡れて不快」という意見から発案された「濡れない傘」がトヨタのレクサスコレクションに採用されるなど、大ヒット商品も生み出している。
 こうした声を活用するとき大切なのは、ユーザー視点をどう捉え、集めるか。誰もが気づくようなことは、企業も当然改良の努力をしている。だから本当に「使える」クレームは、一見無理難題と思える意見に埋もれていると福井商工会議所の永田幸也さんは話す。
 「大企業のお客様相談センターには、突拍子もないことはなかなか提案しにくいもの。我々のサイトではそうした意見も能動的に集めることで、オンリーワンのモノづくりに生かせる情報を得られるのです」(永田さん)。より多くの声を集めるために報酬制度をつくり、イベントを毎年続けることで、「消費者の声」の質も上がってきたという。よりリアルな、生の声を集めるためにも、大企業が学ぶべきポイントは多いのではないだろうか。

http://www.kujou906.com/
閲覧者から賛同の投稿を募り、投稿数の多い“優秀な苦情”には報酬が支払われる工夫も。http://www.kujou906.com/
永田さん
「つくり手は、完全なユーザー目線にはなれないもの。だから我々がそれを追求したい」と永田さん。
ヒット商品「ヌレンザ」
ヒット商品「ヌレンザ」(福井洋傘)は、1本3万円以上であるにもかかわらず、現在も3カ月待ちの受注。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第14号(2008年1月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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