調査・研究/発行物

目黒発 vol.13

広報に有効なシンボル組織を考える
広報戦術の一環として、企業シンボルを設定することは有効である。
そこに込められた未来や夢、事業ドメインが、顧客との熱いコミュニケーションを生み出していく。
シンボル組織を形成し成功を収めた企業から、秘められた戦略を検証する。

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”建設”と”空想”の意外な組み合わせ「ファンタジー営業部」のイメージ戦略
- 前田建設工業株式会社のケース-

■「銀河鉄道999」など80年代アニメを使ったB to Cコミュニケーション
■企業イメージ戦略としては異例なターゲットの設定が成功

社会貢献と営業活動の均衡を保つプロフェッショナル集団、「お好み焼課」
- オタフクソース株式会社のケース -

■お好み焼の食文化を全国に広めるための「専門課」
■長期的な営業活動を視野に味の「記憶化」と「定着化」に挑む

SPECIAL REPORT

“建設”と“空想”の意外な組み合わせ「ファンタジー営業部」のイメージ戦略-前田建設工業株式会社のケース-
■「銀河鉄道999」など80年代アニメを使ったB to Cコミュニケーション

  土木建築業やゼネコンという単語から、“マイナスの企業イメージしか湧かない”という現状を打破することが、前田建設工業の広報課題であった。同社の業務は、道路や公共施設などB to B取引が中心だが、建造物の最終的なユーザーは一般消費者。生活に密着した物件を手掛けながら、B to Cへのコミュニケーションが手付かずだった反省も踏まえ、課題解決のシンボルとして企画されたのが「ファンタジー営業部」という架空の部署である。
 ファンタジー営業部の業務は、「アニメなど空想世界の建造物を実際につくることができるのか? その場合予算は?」という可能性をサイトで検証すること。4年前に誕生してから、「銀河鉄道999」に登場する鉄道の発着用高架橋(37億円で工期3年3カ月という見積りが完成)や、「マジンガーZ」の格納庫など4プロジェクトを完了。A部長やB主任といった部員が会話形式で設計過程を紹介する内容はユニークで読みやすく、建設会社の業務の裏側まで詳細に伝えている。
 「空想世界を通じて伝わりにくい建設業務に関心をもってもらい、親近感のあるコミュニケーションを生み出すことが、これからの建設業広報に必要と考えました」と誕生の経緯を語るのは、発案者の一人であり、サイトのライターも務める総合企画部経営企画グループ課長の岩坂照之さん。制作においては、幅広い人々が興味を持ち、夢や感動のある建造物を探し出すことに留意しているほか、工法検討のやり取りを現実に即して表現することで、建設会社の主業務が技術課題の解決を中心にしたマネジメントであることを明確に伝えるよう心掛けているそうだ。それが同時に、前田建設工業がプロセスマネジメントのプロフェッショナルであることをシンボライズしている。
 総合企画部経営企画グループ副部長の上田康浩さんは、架空の話ながら建設業のありのままを示すのは、「会社の広報を背負うシンボルとして誠実さを大切にするため」と語る。マスへの拡大展開は考えず、サイト内のシンボルであり続けながら消費者へ「誠実さを発信するパイプ」として維持する方針だ。サイトのファンを第一に考え、問い合わせメールには必ず丁寧に返信している。収益事業ではないファンタジー営業部の運営に会社が真摯に取り組んでいることを伝えるため、閲覧者がどれだけ増えても会社のオフィシャルサイトに置いていることも制作上の工夫の一つである。

前田建設ファンタジー営業部NEO
サイトコンテンツを再編集した書籍2冊が発売中。2007年7月の最新刊「前田建設ファンタジー営業部NEO」は、プロジェクト2「銀河鉄道999編」を収録。
「銀河鉄道999」のヒロイン、メーテル
本社ロビーには、ファンタジー営業部員という設定のフィギュアが、「銀河鉄道999」のヒロイン、メーテルと一緒に飾られている。
©松本零士・東映アニメーション
ファンタジー営業部のサイト
施工方法なども解説されているファンタジー営業部のサイト。ファンタジー営業部の部員専用名刺も作成。

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■企業イメージ戦略としては異例なターゲットの設定が成功

上田さん
岩坂さん
(上)「収益事業ではないファンタジー営業部は何事も自由ですが、広報として説明責任を果たす理念だけは忘れません」と語る上田さん。
(下)サイトのライターも務める岩坂さん。「メーカーの皆さんが無償で協力を承諾してくれたときは嬉しさで震えました」
  当初のプロジェクトテーマを往年のアニメにしていたのは、30代男性をサイトのターゲットに据えていたため。インパクトを出すべくアニメ作品を熟知した内容にしていたのだが、最初に反応を示したのは、いわゆるアニメマニアの層だった。同社は、マニア向けのサブカルチャー路線をより強くしたという。企業のイメージ戦略としては異例だが、結局は、この判断が話題性を高めることになる。
 スタート直後こそ閲覧者が少なかったが、一部ファンの盛り上がりと面白さに注目した大手ポータルサイトで紹介されると、1日4万アクセスを記録するほど閲覧者が増加。それからは、テレビや雑誌の取材、サイトを再編集した書籍の出版などで露出機会が増大し、幅広い層へ認知を広げた。若い世代には、“面白い会社”というイメージが定着、リクルート面でも仕事や会社への理解に好影響があり、ファンタジー営業部への配属希望者もいたという。さらに、外部からプロジェクトの提案が来るようになった。第4プロジェクト「民間国際ロボット救助隊の実現検討調査」では、現実のビジネスにもつなげられるという新たな可能性を示した。
 B to B企業にとって、ブランドイメージの構築や知名度アップは、広報戦略の大きな課題だ。収益を度外視し、B to Cへのコミュニケーションを強化して解決を試みる例は多いが、自社の業務に最も関わりが薄い層へ敢えて接近した前田建設工業の戦略は希有な例だろう。業種とのギャップは大きいが、空想世界と結びつけたコミュニケーションにおいては、的を射たターゲットとなったのである。いわば、外堀から埋めて本丸である企業イメージ構築に成功したのである。

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社会貢献と営業活動の均衡を保つプロフェッショナル集団、「お好み焼課」-オタフクソース株式会社のケース-
■お好み焼の食文化を全国に広めるための「専門課」

樋園さん
「“食べて知っていただく”のは、非効率ではありますが、社員が直接生活者とコミュニケーションすることが大切なこと」と樋園さん(2007年10月より、マーケティング部長を兼務)。
  お好み焼は、複数人で食べる際分け合うことが多い、コミュニケーションの食文化を持つ料理だ。この団らんの食シーンを生むお好み焼を全国に広めることで社会に貢献しようと、同社が1998年に設立したのが「お好み焼課」である。お好み焼は地元広島では戦後の焼け野原から産声をあげ、現在では日常的なメニューとして定着しているが、当時、関東以東では広島に比べ認知度が低かった。だからこそ、設立当初はもちろん今日に至っても「お好み焼課」という極めて直接的なネーミングのインパクトは大きな意味を持つ。
 課の主な業務は、お好み焼店開業予定者を支援する「お好み焼研修」や親子連れなど消費者を対象にした「お好み焼教室」の開催。さらに、鉄板を搭載した車両「お好み焼団らん号」で全国各地の幼稚園や児童福祉施設そして老人施設などを訪れお好み焼を提供するという活動も行っている。
 お好み焼の普及の役割は、それまで同社の営業社員が行ってきた。独自の手法で焼き、それぞれのノウハウでお好み焼店の開業支援業務などをしていたが、お好み焼が料理として広まるにつれ、期待されるものも大きくなり、より高度な能力と知識が必要になり、営業活動との両立が難しくなった。また、担当者ごとにつくり方や味の違いができないように基準を設ける必要もあり、「お好み焼のスペシャリスト」という位置付けでお好み焼課が誕生したのである。
  大きな特徴は、ソースやお好み焼などの自社商品を販売するのではなく、より多くの消費者に食べてもらうことに特化していること。「食べて知っていただくことが食品メーカーとしての務めですから、お好み焼課はオタフクソースの企業活動の核と位置付けています」と語るのは、営業本部副本部長の樋園朗さん。現在、広島本社に6名、東京の営業本部に3名、大阪に3名が在籍している。消費者が「お好み焼と接する」機会を増やすことを命題とし、課の活動結果は焼いた枚数と試食人数で設定され、2006年10月から2007年9月の1年間で7万4000枚を焼き、試食者数は8万3000人に上っている。

焼き方講習   畑中未来さん
(上)お好み焼課の社員による、他部門社員への焼き方講習も随時開催。(右)焼き方を実演する、お好み焼課の畑中未来さん。開業予定者を支援する研修会は、現在4カ月待ちという人気ぶりだ。


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■長期的な営業活動を視野に味の「記憶化」と「定着化」に挑む

新見さん
最近は菓子メーカーからお好み焼味の商品をつくるために声をかけられることも多い。「〈お好み焼といえばオタフクソース〉という認知が広がったからこそでしょう」と新見さん(2007年10月より、グループ企業お好みフーズ株式会社総括課長)。
  普及と表裏一体の関係ではあるが、営業的な側面もお好み焼課にはある。「お好み焼団らん号」によるキャラバン、お好み焼教室という活動は、実際に焼いて食べてもらうことで、子どもたちへの「味の記憶化」を図るもの。また、開業者支援についても、「人気店ほど、めったなことではソースを変えない」という傾向から、開業者との信頼関係を築くことで「味の定着化」を意図しているのだ。
 直接的な(味の)認知理解を企業活動の大きな柱とし、そのためのコストのかなりの部分を「お好み焼提供」にあてることで、強固なユーザーとの関係を築く。できたてのお好み焼を通じたアプローチを体験した人々が巻き起こす口コミが、長期的な普及につながっているのだ。「子どもたちにとって、鉄板を積んだ車がやって来てお好み焼を焼いてくれるという体験は非常にインパクトがあるようで、後々まで喜んでもらえます。我々の活動はそうした“楽しい記憶”を提供すること」(広島本社 お好み焼課課長新見改歴さん)。
  味の体験という地道なプロモーションは堅実な訴求効果を上げており、お好み焼課の施策を投下したエリアで数字を伸ばしているという。西日本に比べお好み焼への関心が低い東京エリアにおいても、この10年で家庭向けソースのシェアを5ポイント以上も拡大させている。オタフクソースでは、お好み焼文化の普及という「社会貢献」、消費者と開業予定者への味の訴求という「営業活動」、両者のバランスを保つシンボルとしてお好み焼課が機能しているのである。

お好み焼館 2008年に完成予定の「お好み焼館」。資料館などを併設し、お好み焼の情報発信拠点となる。
 
コミュニケーション戦略としてのシンボルづくり、4つのポイント
1 特殊領域のスペシャリストとしてターゲット顧客との熱いコミュニケーションを生み出す、シンボル組織の存在が有効。
2 シンボル組織の名称は、社内よりも顧客とのコミュニケーション効率を最優先に設定。
3 シンボル組織が話題になっても、いたずらに組織拡大を志向せず、既存顧客への対応を第一に心掛ける。
4 シンボル組織のミッションはシンプルにし、外からの理解を得やすいよう工夫する。

このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第13号(2007年11月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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