調査・研究/発行物

目黒発 vol.12

リーダー企業に学ぶ広報の視点
業界全体が抱える課題を、自社の課題として乗り越える。
商品のみならず、ジャンルそのものを伸張させる。
こうした責務を果たす上で、全容を俯瞰する確かな広報力が不可欠だ。
今こそ広報パーソンが持つべき視点と、先を見据えた企業施策を探る。

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「クルマを使わない」画期的な取り組みを企業広報に効果的活用
- ヤマト運輸株式会社のケース -

■10年前から続ける取り組みが「駐禁」で再び注目を集める
■リーダー企業だからこそ効率とサービスの絶えざる向上を
■配達員が"強力な媒体"になり社内外に浸透する広報効果
■業界全体を見据えた施策を積極的に広報展開


市場拡大、生産現場支援……リーダー企業による広報例

■伊藤園、マルハ、ヤマハ、野村ホールディングスのケース

SPECIAL REPORT

「クルマを使わない」画期的な取り組みを企業広報に効果的活用 - ヤマト運輸株式会社のケース -
■10年前から続ける取り組みが「駐禁」で再び注目を集める
 
ヤマト運輸のCM
ヤマト運輸のCM
ヤマト運輸のCM
今春から放映されているCM。「クリーンな集配」として鉄道輸送や自転車の活用をPRしている。

 ベージュに白の縦線が入ったユニフォームに緑色の帽子-。「宅急便」の「セールスドライバー」(配達員)だ。ところが、クロネコの絵でおなじみの集配車がない。リヤカー付き電動自転車に乗り、お客さんと笑顔であいさつ。今春から放映されているヤマト運輸のCMだ。
 CMのテーマはモーダルシフトである。「モーダルシフト」(modal shift)とは、トラックなどの自動車による貨物の幹線輸送を、より環境負荷の低い鉄道や海運に代替する施策だ。同社では通常のそれに加え、集配車両から「人力」への転換を追求している。
 「自動車があってこそ」業務が可能なはずの宅配便事業。その業界最大手が「自動車を使わない」ことを宣言した意外性は、さまざまな反響を呼んだ。昨年、道路交通法の改正で駐車禁止取締りが強化され、一部のメディアで「台車・自転車での配達は駐禁対策」と報じられたほどだ。
 「そうした問い合わせが記者の方から非常に多く寄せられましたが、そのたびに『弊社ではかなり前から台車での集配を行っており、駐禁問題とは直接関係ありません』とお答えしていました」とCSR部広報課スーパーバイザーの稲葉陽子さん。CMでの広報展開は、施策を正しく理解してもらうことも念頭に置いたという。全社的に台車や自転車の活用を開始したのは、今から10年前の1997年のこと。駐禁問題はもちろん関係なく、企業の環境対応も現在と比較してそれほど進んでいなかった。当時から先進的な業務改革に取り組んだのは、業界のリーダーとして「当然のこと」なのだ。

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■リーダー企業だからこそ効率とサービスの絶えざる向上を

 台車や自転車の活用は、営業所よりも配達網がきめ細かい「サテライトセンター」方式による配達システムが採用されて実現した。
 これまでは、集配車を配達地域内の駐車場に停め、手持ちまたは車載の小型台車で荷物を届けていた。
 しかし、東京都心部で宅急便の利用密度が高まり、集配車を使う必要性が低くなってきた。営業所から届け先まで台車だけを使えば、渋滞による集配遅延や駐車場所確保も心配無用だ。顧客サービス向上と業務効率を両立させる台車配達は、現場の判断で自然に増えていったという。
 このほか、安全運転対策などの多くの利点が全社的に認識され、97年にサテライトセンター方式が正式導入された。配達地域により近い、小さな拠点(サテライト)を新設、人力を集配の主役に据えたのだ。業界を引っ張るリーダー企業ならではの画期的な施策だ。
 配達には、箱型の大型台車が使われる。一方、台車での配達が難しい地域では、大型の荷台やリヤカーを付けた電動自転車が使用され、これが冒頭で紹介したCMに登場している。自転車は現在、都市近郊を中心に約800台が稼働中だ。
 実は、意外な効果もあった。2t集配車を運転する必要がないため、セールスドライバーの確保が容易になった。現在、担当にはパートの女性も多いという。
リヤカー付き電動自転車 大型台車での配達
主に住宅街ではリヤカー付き電動自転車を活用。地元の要請で「防犯パトロール」表示を付け、地域貢献に一役買っているお店も。 大型台車での配達。2006年3月現在、車両を全く使用しないサテライトセンターは、千代田区や中央区には121店。この店舗数は同地区の約9割にあたる。

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■配達員が"強力な媒体"になり社内外に浸透する広報効果

村橋さん
稲葉さん
現在の支店数は全国におよそ3600(サテライトセンター含む)。業界二番手の企業では約400店舗だ。「独自のネットワークがあればこそ可能となった施策」と話す村橋さん(上)と稲葉さん(下)。
 もともとヤマト運輸は、数多くの拠点を持つきめ細かい集配ネットワークが強みだが、サテライトセンター方式でこの特長が一層強化された。
 昨年の時点でサテライトセンターは全国の都市部に880カ所あり、台車・自転車による集配が身近になっている。5年後までに1000カ所体制の構築が目標だが、達成は前倒しの見通しだという。
 さらに、サテライトの設置によって、その分の集配車両(1センターで約1.5台分)を削減することができ、5年後までに1500台分の削減効果を出すのが目標となっている。業務効率とサービスの追求が、結果的に環境にも優しい施策となり、"相乗効果"をもたらしているのだ。
 導入コストはかかるが、サテライトの設置は当初の予想を超える多くのメリットがある。だからこそ開始から10年もの間、施策が拡大され続けているのだという。
 「広報面での何より大きい効果は、セールスドライバー自身が強力な媒体となって"環境配慮のヤマト"を広めていることです」と稲葉さんは分析する。汗を流して台車で荷を運ぶセールスドライバーの姿は、「荷物を頼むなら、環境問題に取り組んでいるヤマトにお願いしたい」と思わせるに十分なアプローチであり、実際にそうした利用者の反応を多く得ているという。環境対応、そしてサービス向上という同社のCSR基軸を示す、まさにリアルな広報活動なのである。
 いくら地元で顔なじみになっても、集配車のハンドルを握る人に声は掛けにくい。しかし、台車や自転車のセールスドライバーには、気軽に声が掛けられる。「ご苦労さま」「ちょっと荷物があるんだけど」と、顧客の声がじかに伝わり、営業にも結びつきやすい。同社CSR部社会貢献課係長の村橋利恵さんは「地域住民とのコミュニケーションが増えたことで、現場のモチベーション向上にも確実に作用しましたね」と取り組みの「ブーメラン効果」を解説する。

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■業界全体を見据えた施策を積極的に広報展開

 宅配便業界では、業界全体での環境対策(集配車両削減など)として、複数企業による「幹線での協働輸送」「ビル内の協働集配」などが進みつつある。村橋さんは「当社の最終的な強みとなる、きめ細やかなネットワークは死守しつつ、競争すべきは競争した上で、環境への配慮や顧客へのサービス向上といった点では協働を拡大していく」と話す。
 業界の抱える環境問題に、自社の強みを生かし先駆けて取り組む。施策を長期継続し、同業他社でも似た施策が取り入れられるまでに成長させた。現場の声を的確に生かし、リーダー企業の位置に安住しないヤマト運輸の革新的な企業姿勢が可能にしたと言える。
 そして、京都議定書のゴール2012年を目前にして「環境」がより注目を集める時流をとらえた、タイミング感あるCM展開。リーダー企業ならではの長期的取り組みから培った成果を広報が側面支援する理想的な展開となっている。

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市場拡大、生産現場支援……リーダー企業による広報例
■伊藤園、マルハ、ヤマハ、野村ホールディングスのケース

伊藤園の週刊誌記事
伊藤園のテレビCM
株式会社伊藤園は、茶産地育成の取り組みを週刊誌やテレビCMなどで効果的に広報。
 リーダー企業だからこそ、できることではなく、すべきこと、業界や社会から求められることに積極的に取り組まなければならない。各業界のリーダー企業による広報展開を見てみよう。
 最も一般的なケースは、ヤマト運輸の例と同様、社会/業界の抱える課題への対応を伝える広報展開だ。例えば、緑茶飲料最大手の伊藤園は、自社の「茶産地育成事業」をCMなどで伝えている。緑茶飲料業界は新製品ラッシュの陰で、少子高齢化などにより耕作可能な茶畑が減少し、良質な茶葉の確保が厳しくなっている現状がある。伊藤園は農家と直接契約して茶生産を指導する。原料へのこだわりや農家のサポートの充実など、緑茶飲料メーカーのあるべき姿と共に商品の差別化を訴求する。
 また、水産物輸入・加工最大手のマルハは、自社webサイトに魚関連の食育・栄養情報と魚種情報のコンテンツを掲載している。消費者、特に若い世代の魚離れは深刻だ。魚食文化を伝え、鮮魚・魚肉加工品マーケットを支援する狙いがある。
 市場の掘り起こしも視野に入れるのは、ヤマハの中高年向け音楽教室の広報展開だ。少子高齢化の状況下、中高年世代の趣味と生きがいについて考える視点がある。
 一方、業界への理解や興味関心を促す広報展開もある。野村グループの「金融経済教育支援」だ。あえて株式投資や証券市場を学ぶ教育への賛否両論を取り上げ、伝えている。金融や経済への正しい理解の普及を第一とする姿勢と多様な意見の提供によって、リーダー企業としての立場が示されるのだ。

ヤマハ株式会社
http://www.yamaha-ongaku.com/pms/
ヤマハ株式会社
野村ホールディングス株式会社
http://www.nomuraholdings.
com/jp/edu/
野村ホールディングス株式会社
マルハ株式会社
http://www.maruha.co.jp/edu/
マルハ株式会社

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 リーダー企業には、業界の課題を自社のものとしてとらえる懐の深さが当然ながら求められる。業界に求められたり、業界が解決すべき課題は、社会にとっても大きな課題であることが通例だ。CSRの視点からも範となるリーダー企業の行動が問われている。
 広報展開の際には、自社の広報から一歩引いた視点をとることも考えなくてはならないだろう。社会の時流や動向を常に見極め、自社の広報上、企業コミュニケーション上の課題を収集し分析する力が、広報担当者に特に求められる。受身ではない広報展開がリーダーには必要なのだ。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第12号(2007年9月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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