調査・研究/発行物

目黒発 vol.11

企業と地域の新しい関係づくり
「地域の時代」が叫ばれて久しい。
地域社会は「市場」であると同時に、市民にとっての「生活圏」である、という広報視点が不可欠だ。
また、少子高齢化や環境、雇用といった今日的な問題を踏まえ、相互理解や利益還元はもちろんのこと、そこにどう新風を吹き込むことができるか、も課題になってきた。
企業にとって、新たな地域コミュニケーションを模索すべき段階が来ている。

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「訪問販売」という特性を生かした地域との新しいコミュニケーション
- リコー中部株式会社のケース -

■自社だけでなく顧客も巻き込む画期的な地域への環境施策
■社員も顧客も環境保全活動に参加

コンピュータ・ソフト界の巨人がIT技術者を結集して離島を“応援”
- マイクロソフト株式会社のケース -

■「島興し」のシステム提案をブログで募集
■ITエンジニアの夢や可能性も「応援」

SPECIAL REPORT

「訪問販売」という特性を生かした地域との新しいコミュニケーション - リコー中部株式会社のケース -
■自社だけでなく顧客も巻き込む画期的な地域への環境施策

  その名は「グリーンプロモーション『エコひいき』」。オフィス機器の販売活動と同時に「地域の環境活動を支援」してしまうという画期的な施策だ。
 この「エコひいき」は、環境活動に取り組む地域の市民グループを対象にしたリコー中部の助成金制度である。助成の選考過程に顧客を組み込み、地域の環境活動への参加を促す点が特徴だ。
 具体的には、まず助成を希望する中部地方の市民グループを対象に、地域での環境保全活動を募集する。助成金額は一つの活動(団体)につき20万円。助成件数は最大10件で、社員が顧客から収集する「エコカード」(賛同書)によって助成件数が決まる。
 リコー中部の営業担当者は、地域の顧客企業を訪れた際、販売活動と同時に、地域環境の重要性を訴えてエコカードを渡す。そして、顧客が環境保全活動や助成に賛同したら、エコカードを回収する。
 エコカードは1枚あたり1~2の点数が付与されていて、200点で1件の助成金支出が決まる(昨年の場合)。この総点数に応じて助成活動件数が決まるため、リコー中部の社員は販売とともに環境保全活動の説明に注力する。助成1件につき、社員が少なくとも100人の顧客と「環境についての対話」をしている計算だ。この仕組みが地域環境活動の存在と重要性を伝える原動力になっているのである。
 つまり、リコー中部は販売活動をしながら自社の環境理念と地域貢献をPRし、賛同する顧客も地域に貢献する側となる。そして、助成を得た市民グループの環境保全活動は活発化し、地域住民がその恩恵を受ける。結果、地域でのリコー中部の存在感が高まっていく。すべての者に利のある考え抜かれた仕組みなのだ。
 「エコひいき」の発起人で、運営リーダーの柴垣民雄さんは「社会貢献ではなく、本業を生かした新しい価値観の提案」と説明する。「エコひいきは、単なる助成の仕組みではありません。社員一人ひとりが環境問題を通して顧客や市民グループと直接的にかかわる。つまり、企業と地域のコミュニケーションツールとして設計されているのです」
グリーンプロモーション「エコひいき」の概要
グリーンプロモーション「エコひいき」の概要 (作成:目黒発編集部)

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■社員も顧客も環境保全活動に参加

柴垣さん
「エコひいき」の発起人で運営リーダー、リコー中部CSR推進室副室長の柴垣さん。
 2001年、中部地方の販社を統括するリコー中部株式会社が発足。「地域デビュー戦略」で開始された環境プログラムの一つが「エコひいき」だ。
 リコーグループは「環境経営」で知られ、リコー中部の環境施策にも地域の顧客から期待が寄せられていたという。環境と「販売会社だからできること」を徹底的に考え、この仕組みが発案された。また、高コストな「訪問販売」にどのような付加価値を持たせられるのか、という課題への挑戦でもある。「環境保全活動を通して新たな経済的価値を創出していく」というリコーの環境経営理念を地域に生かした施策なのだ。
 今年で6年目の「エコひいき」は、エコカードを回収した顧客が12000件、助成した団体(活動)は40件にのぼる。昨年の助成応募数は56件で、「山の動物のために、実のなる木を植える」(岐阜・関市)、「ツタで道路法面の緑化」(愛知・大府市)、「棚田の再生活動」(石川・七尾市)など10件が助成対象に選ばれた。助成の選考基準は「社員が、家族が、顧客が参加しやすいこと」だ。活動には、リコー中部の社員や家族が参加するほか、エコカードを投じた顧客企業にも参加を要請する。助成に加え、実際に活動も支援することで、地域社会から感謝され、リコー中部のみならず顧客も地域との良い関係が構築されているという。
 こうした地域の協働関係を継続するためには、現場レベルで社員/顧客/地域の人たちが共有する“課題や志”が不可欠だ。その点も配慮され、助成を受けた市民グループは、その後の助成選考に参加するなど、外部ブレーンとして協力してもらう。こうした「応援団」の存在が、地域社会との関係づくりの基盤となり、他の企業など地域全体を巻き込む力になっているという。
 地域社会にはさまざまなレベルの問題があり、「何が求められているか」を知らなければ、どんな企業の施策もきれいごとで終ってしまう。「我々が目指すのは、地域の人々にとって現実的な意味を持つ活動なのです」と柴垣さんは力を込めた。
棚田の再生活動 森にバリアフリー遊歩道をつくる
昨年の助成を受けた、「棚田の再生活動」(写真左)と「森にバリアフリー遊歩道をつくる」取り組み。これまでにリコー中部の社員や顧客など延べ850名が、地域の環境保全活動に参加している。

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コンピュータ・ソフト界の巨人がIT技術者を結集して離島を“応援”- マイクロソフト株式会社のケース -
■「島興し」のシステム提案をブログで募集

 「離島の悩みを解決し、島の人々の夢を実現するシステムづくり」―昨秋からマイクロソフト(以下MS)が進める「ブログで離島応援計画」のキャッチフレーズだ。東京・式根島、島根・隠岐島、鹿児島・十島村(トカラ列島)と共同で企画したこの施策は、ITエンジニアによるシステムの提案で「島興し」を図るという同社ならではの地域支援である。
 過疎化や高齢化、交通難、季節による観光客の偏りなど、島によってさまざまな悩みがある。特に、離島の大きなハンデである「本土との距離」を、ITでどう補完するかがポイントになった。悩みの軽減/解消を目指し、webサイトでITエンジニアに呼び掛け、現実的な案を募った。
 参加しやすいブログ形式にしたことで、告知から2週間で各島のページに5万ものアクセスがあり、アイデアは100件以上、システム提案は40件以上が集まった。島民、ITエンジニア、一般の人、運営事務局がブログで議論し、一人の投稿に20数件のコメントがつくアイデア合戦となった。予想を超えるエンジニアたちの熱い反応で大いに盛りあがったという。
 昨年末から今年にかけて提案は精査され、島の人々に支持された優秀案が決定した。島民や旅行者の利便性を考慮した効率的なフェリーの新予約・運航システム(十島村)、自然や文化を伝えるデジタル教材を島の子どもたちが作成/web配信して都市の子どもたちとの交流を深める提案(隠岐島)、埋もれがちな島内の詳細情報を集めやすくし、島民同士や観光客とのコミュニケーション(SNSなど)が図れるシステム(式根島)など、島を積極的にアピールできるシステムが選定された。現在、各島で実現に向けたプロジェクトが進行中だ。
 このうち式根島では、観光協会が費用を負担してシステム構築を進めている。「離島応援計画」式根島現地事務局では「これまで島はITシステムにはあまり縁がありませんでしたが、今後は島の若手によるボランティアでwebサイトなどのシステム運用を担っていきたい」と意気込みを語る。プロジェクトはこれからが本番だが、エンジニアの力とMSが離島活性化に貢献していると言えるだろう。
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夢実現へと歩き出す 3つの島

プロジェクトへの参加を募る解説サイト。事務局では、各島との打ち合わせにブログのほか、webカメラや携帯電話を活用して距離によるコミュニケーションの困難さを補ったという。
みんなで応援!「ブログで離島応援計画」参加方法

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■ITエンジニアの夢や可能性も「応援」

ブログで離島応援計画発表会
昨年10月のプロジェクト発表会。右端が事務局長を務めた森屋さん(当時の所属は、マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 IT Pro オーディエンス部 IT Pro リレーショングループ)。
 「この活動は、当社のお客様であるITエンジニアの支援策にもつながります」と発案者で事務局長を務めた森屋幸英さんは説く。当時、森屋さんはITエンジニアの仕事とその社会的価値についてPRする施策を担当していた。
 「若いエンジニアや学生に、夢のある仕事であることと、社会的重要性や可能性を認知してもらいたかったのです」
 人と人との熱いやりとりが分かりやすく感じられるもの……という観点から、エンジニア支援と地域支援を結びつけた。エンジニアが提供する技術とアイデアに加え、自社の社会的価値を深掘りしたところに、地域との良い関係を築くヒントがあったのだ。
 現時点で森屋さんは、三者が思いを共有できたことに意味があると感じている。MSには、“強力な販売戦略や圧倒的なシェアでIT界に君臨する会社”と“ITでさまざまな楽しさを提供する会社”という二通りのイメージが存在する。
 「離島応援計画では“楽しいExperience”を提供する会社として再認識してくれた参加者から、多くの反応がありました」と森屋さんは強調する。「我々にしかできないことで、地域とかかわりあう。その組み合わせによる化学反応で、新たな価値が生まれた。それを、島民の方々とともに体験できたことが“成果”です」

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 本業の強みや業務形態の利を生かした2社のケースは、地域との新しい関係を考える上で示唆に富んでいる。
 ITの特性を生かしたMSの例は、地域への「支援」ではなく、あくまで離島「応援」計画だ。招いたエンジニアとともに島を励まし、応援する。そこには「企業施策の押し付けがましさ」はなく、むしろ地域と社会全体をつなぐ接点の役割をMSが担っている。さらには、離島とエンジニアのそれぞれの価値を社会に発信する広報機能すら担う構図にも見える。
 一方、従来型の訪問営業を、地域とのより強固な関係づくりに転換しているのがリコー中部のケースだ。企業の営業活動は同時に広報活動という好例でもあり、先進的な仕組みから社会実験的な企業施策とも位置付けられている。新しい考えや仕組みを開始するのは容易ではなかったはずだが、「地域で自社がどのような位置付けであるか見極め、社会から何を求められているのか理解できれば、自ずと行うべき方向は定まる」(リコー中部 柴垣さん)との指摘に耳の痛い企業も多いはずだ。
 少子高齢化やリストラなどで、営業拠点の統廃合が続く可能性もあり、地域との新しい関係が今後も企業に求められるだろう。広報部門には、地域との関係をより深く考察し、最適な施策を実行する能力が問われている。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第11号(2007年7月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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