調査・研究/発行物

目黒発 vol.9

PRに生かすインフルエンサー効果
消費者の購買行動に影響力を与える人たち、「インフルエンサー」。
商品や企業に対する信頼感や期待感をも生み出す彼らの影響力は、
インターネット時代にますます増大している。
その重要性を認識した先進的な企業は既にインフルエンサーへのアプローチを始めている。
彼らから理解と注目を得るためには積極的なPRが欠かせないのだ。

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キシリトール製品市場2000億円 市場創出にインフルエンサーの力
- ダニスコ ジャパン株式会社のケース -

■専門家の理解と応援を得る 研究会が「予防歯科」を提唱
■「妊婦ブロガー」の発信力に着目 興味関心に応じて情報提供する

商品を理解してもらうためにあえてほどよい距離感を保つ
- ヤマハ発動機販売株式会社のケース -

■カリスマ店主と有名俳優が記録的ヒット商品を生んだ
■販売店員もインフルエンサー 異なるコミュニティに情報伝播

■インフルエンサーに迫る
-ヤマハ「TW200」大ヒットの立役者吉澤博幸さん(モトショップ五郎代表)-

SPECIAL REPORT

キシリトール製品市場2000億円 市場創出にインフルエンサーの力 - ダニスコ ジャパン株式会社のケース ー
■専門家の理解と応援を得る 研究会が「予防歯科」を提唱

藤田さん
藤田さんは、著書「99.9%成功するしかけ」でもインフルエンサーによるPR効果を解説している。
  現在、国内で販売されるガムの8割以上で甘味料のキシリトールが使われているという。1997年に食品添加物として日本で認可されてから、わずか10年でキシリトールガムは定番商品になった。虫歯を防ぐとされる効果の認知度も高い。今ではキシリトール関連製品市場は2000億円規模と言われる。新参者の甘味料をどのように広めていったのだろうか。
 日本で普及を図ったのはフィンランドの食品素材メーカー「ダニスコ」である。薬事法で効果効能を包装や広告に記載できない制約もあり、徹底したPRによる認知度向上を図った。中でもインフルエンサーを対象にしたPRが効果的だったという。「甘味料でありながら虫歯予防効果があるという特異な効能を証明するには、何より専門家の協力が必要でした」と同社マーケティングディレクター(現在はダニスコジャパンを退社し、株式会社インテグレート代表取締役社長) の藤田康人さんは振り返る。
 “食品メーカーとも、素材メーカーとも利害をともにしない第三者機関”が必要と考えた藤田さんは、同時期にキシリトールの研究を進めていた歯科大学の教授と97年に「日本フィンランドむし歯予防研究会」を立ち上げた。歯科医師や歯科衛生士などの専門家を会員とし、彼らにキシリトールの詳細な情報を提供した。最も重要な「専門家からの理解」を得て、キシリトールに“お墨つき”を与える機能である。
「日本フィンランドむし歯予防研究会」のWebサイト
「日本フィンランドむし歯予防研究会」のWebサイト。キシリトールで子どもの虫歯を予防するための母親向けコンテンツが充実。
 研究会は毎年、キシリトールを生んだフィンランドに50人の医師を送っている。15年にも及ぶ「キシリトール普及プログラム」の成果を現地で見てもらうためだ。自費参加だが応募者は増え続け、すでに400人以上の歯科医が先進の取り組みを学んでいる。また、それまで「治療」が主体だった歯科医療界に「予防歯科」という新しい考えを提唱した。歯科医院の経営にとって、予防歯科は新規のビジネスモデルでもある。研究会はキシリトールの情報も含めてノウハウを提供し、支持を広げていった。こうして、研究会で予防歯科に触れた歯科医たちが、キシリトールの有効性を理解/伝達してくれる強力なインフルエンサーになったのだ。  

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■「妊婦ブロガー」の発信力に着目 興味関心に応じて情報提供する

上野さん
妊婦ブロガー対象のセミナーを企画した上野さん。
  新鮮な話題を継続して発信することは商品PRの基本である。今ダニスコが注目している新たなインフルエンサーは妊娠中の女性ブロガーだ。母子間のミュータンス菌(虫歯原因菌)の感染防止にキシリトールの効果が高いことを伝えるのが目的だ。子育て中のお母さんブロガーではなく、あえて妊婦ブロガーに注目した理由は、在宅率が高いのでブログ執筆の機会が多いことだという。
  昨年10月、妊婦ブロガーなど女性30人とメディア50社を招き、母子の虫歯予防のセミナーを開催した。元アイドルでカリスマ“ママ”ブロガーの石黒彩さんが妊婦たちの先輩として、キシリトール研究者との対談を行った。妊婦ブロガーと石黒さんが、セミナーの内容やキシリトールについて自主的にブログに書き、中には「日本フィンランドむし歯予防研究会」へのリンクも張られたブログもあった。すると翌日、1日平均300件だった研究会のWebサイトページビューが2万件へとはね上がったそうだ。メディアでも取り上げられたとはいえ、インフルエンサー効果を物語る伸びである。
  ブログを通じたインフルエンサー効果に期待しているのは、彼ら独自の“目線”だと藤田さんは言う。妊婦ブロガーの場合、子どもの虫歯予防や効率的な歯磨き方法、ミルクと虫歯、といったさまざまな口腔衛生の話題がブログに書かれた。こうした興味関心の高い話題とともにキシリトールの効果が語られ、情報発信してもらえればよいのだ。そのためにもインフルエンサーの目線に応じたさまざまな情報提供が必要なのである。
  加えてダニスコでは、ブロガーにアプローチする場合、インフルエンサー効果を高めるために情報提供の仕方を工夫している。「情報感度の高いブロガーは、マスメディアの情報にもコミットしたいという欲求が高いのです」(同社マーケティングマネジャー上野貴弘さん)。この特性を考慮し、メディアにも同じ内容を提供する複合的な情報発信ルートの確保を心がけている。その結果、インフルエンサーの反応が強くなり、より大きなPR効果が得られるのだという。

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商品を理解してもらうためにあえてほどよい距離感を保つ - ヤマハ発動機販売株式会社のケース ー
■カリスマ店主と有名俳優が記録的ヒット商品を生んだ

小倉さん
『ビッグスクーターブログ』では小倉さん自らが登場し、ユーザーとコミュニケーションを図る。
  90年代半ばから2000年代前半にかけて、ヤマハ発動機のオフロードバイク「TW200」が爆発的にヒットした。87年発売のTWは、年に数百台程度しか売れない時期もあったが、発売から10年程たった96年頃から突如として月に1000台近く売るまでになった。人気に火をつけたのは、ヤマハ系列ではない販売店だった。ユーザーの好みに応じて改造するカスタムバイクの素材としてTWを選び、雑誌に載ったカスタム車が若者の心を捉えて爆発的に売れ出したのだ。
 このTWカスタムブームを仕掛けた「モトショップ五郎」代表の吉澤博幸氏は業界でも有名なカリスマ的バイク店主であり、ヤマハにとっては重要なインフルエンサーの一人だ。吉澤氏をはじめとする各地の販売店から集まったユーザーの要望を基に、カスタムに適したTWの小改良を重ねてヤマハはユーザーに応えた。また、子会社がカスタム部品を販売し、人気を盛り上げていった。
 さらに、2000年には人気俳優が主演するテレビドラマにTWを提供。俳優の乗車シーンが多用されたことで、問い合わせが殺到し、販売台数はさらに伸びた。販売店や俳優がまさにインフルエンサーとして機能したわけだが、注目すべきは、両者に対してヤマハは特別なアプローチをしていない点だ。カリスマ店主の吉澤氏は自らの嗜好でカスタマイズを始め、ドラマもあくまで放送局の要望に応えて車両提供をしただけ。ヤマハからの“仕込み”は一切無い。
 「インフルエンサーとは、お互い独立しながら影響しあう良好な関係があればいい。我々は良質な製品を提供する立場であって、コントロールしたりするつもりは全くありません」とヤマハ発動機販売の営業統括部主査 小倉薫さんは説明する。ユーザーは企業による一方的なお仕着せを嫌う。趣味性の高い二輪車は特にその傾向が強い。それゆえ、ヤマハは提供者の立場に徹している。

TW200 2001年モデル TW225
1987年に発売されたTW200。シンプルなオフロード車としてデビュー。98~00年には、3年連続国内二輪販売台数1位に。   2001年モデル。カスタマイズブームで、車体色やライト類が都会的デザイン志向になった。   顧客要望を受けて排気量を増やした現行販売モデルのTW225。


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■販売店員もインフルエンサー 異なるコミュニティに情報伝播

橋本さん
「積極的な販売店がブログにトラックバックすることもあり、インフルエンサー的存在になっている」と言う橋本さん。
  こうした姿勢はチャネル向けの施策にも象徴的に表れている。販売店をインフルエンサー的存在と位置づけ、ユニークな販売店向け試乗会を昨秋に実施した。大型スクーター「TMAX」のマイナーチェンジモデルの試乗会である。主要販売店から参加を募ったこの試乗会でこだわったのは、徹底的にTMAXを“体験してもらう”ことだった。通常はテストコース2周程度の試乗だが、この時は比較車種の試乗も含めて20周以上も走行する機会を提供した。徹底試乗で走りの良さや性能の高さを販売店側に実感してもらい、実感に基づいた言葉をユーザーに伝えてもらうことが狙いだ。顧客に最も近い店員の意見や感想が購買を大きく左右する。まさにインフルエンサー的存在なのだ。
  試乗会が販売店のインフルエンサー機能を高めたとも言えるが、それはあくまで結果論。むしろ、彼らが自発的に語り出したくなるような情報(体験)の提供にこそ、主眼を置いている。
  試乗会同様、巧まずしてインフルエンサー効果を引き出すためにWebサイトにブログを設けている。開発秘話など、カタログでは語り切れない詳細な話題を伝える人気コンテンツ「ビッグスクーターブログ」だ。新規ユーザーの獲得も視野に入れ、トラックバック機能を重視。トラックバックしてくる積極的なブロガーは、スクーター以外のコミュニティにも属している可能性があるからだ。同じ趣味を持つブロガーのハブとしてブログが機能しつつ、トラックバックで波及効果を狙っている。「ブロガーを介して、さまざまな人たちに二輪車の魅力を伝えたい。幅広いユーザーの開拓が目標です」とWeb担当のヤマハ発動機販売担当主査 橋本耕さんは話す。実際、ブログを始めてから、大型スクーターのカタログ請求数が10%も増加したそうだ。
  二輪車需要が最盛期(80年代前半)の4分の1までに縮小した今、二輪車そのものの魅力を幅広い層にPRする手段の一つとしてヤマハはインフルエンサー効果を意識したコミュニケーションを展開している。しかしそれは、あくまで顧客への情報提供が深化したものであり、押し付けではない。「顧客個人のバイクに対する思い入れを大切にしたいですね。程よい距離感を保つ自然な関係作りがヤマハの伝統かもしれません」と小倉さんは語った。

TMAX 500ccの大型スクーター「TMAX」の販売店向け試乗会。「まさに“過激な試乗会”だった」(企画した小倉さん)

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 情報発信者に「自発的に語ってもらうこと」……。インフルエンサーのPR効果を引き出す際の重要なポイントだ。企業側が情報のコントロールを狙ったため逆効果となった例も少なくない。特にWeb上でブロガーに伝えていくような場合、反発を招いたら一巻のお終いである。
ヤマハ発動機販売の徹底試乗会も、ダニスコが参画したむし歯予防研究会のフィンランド研修も、ともに参加者が自らの意思により自費で参加した。つまり、「お金を払ってでも得たい、特別なメリットのある体験」がそこに用意されているからだ。「語りたくなる」情報をインフルエンサーに合わせて選び、「加工したくなる」素材を提供する。その先は情報操作せず、彼らに委ねる。これらのシンプルな鉄則を守ることで、インフルエンサーは企業広報やマーケティングに大きな効果をもたらしてくれるだろう。

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■インフルエンサーに迫る

-ヤマハ「TW200」大ヒットの立役者吉澤博幸さん(モトショップ五郎代表)-

吉澤博幸
  インフルエンサーと言われてもあまり実感がありません。ただ、ユーザーの個性を表現することにこだわってきた自分のやり方が支持されているのならうれしいですね。
 ユーザーにとってみれば、メーカー発の情報はいわば「先生からの教え」。正しいけどつまらなかったりもする。僕らは「兄貴のアドバイス」のような身近な感覚で提案しています。だから僕の「カスタマイズ」が、バイクと縁遠かった人たちにも面白がってもらえたのでしょう。メーカーにはできない新しい発想とユーザーの立場でカルチャーを盛り上げることを心がけています。
 系列の販売店ではありませんが、TWを20年も製造し続けているヤマハのもの作りの姿勢はありがたいですね。同時に、他のメーカーも含め、言いたいことは遠慮なく言うようにしています。バイクの走りやデザイン、車体の色、果てはネーミングまで、ユーザーの不満とプロである僕らが気付いた点を伝えます。モデルチェンジで反映されているとうれしいですし、理解されず採用されないことも当然あります。だからこそカスタマイズできる僕らの出番があるのですが。
 これからも、何よりショップに来てくれるお客さんを大事にしながら、さらに既存の「バイク好き」以外の人々にも魅力を伝えていきたい。そこは間違いなくメーカーさんと同じ思いですね。

吉澤博幸
バイクショップ「モトショップ五郎」(東京都杉並区 www.j-bike.com/motoshop56/)代表。「TW200」のカスタマイズを手掛け大ヒットさせた立役者。単なる改造ではない、個性とライフスタイルを表現するカスタマイズを提唱し、カリスマ店主として業界をリードする。最近は二輪車の魅力を伝えるレースイベントやBMW製二輪車のプロモーションなどにも取り組む。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第9号(2007年3月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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