調査・研究/発行物

目黒発 vol.7

インナーコミュニケーション
電子メディアの浸透が、社内に「つながっているはず」「伝わっているはず」という幻想を 生み出してはいないか?
こうした甘い認識が引き起こす結果については、いまさら論じるまでもないだろう。
「身内」といえども、伝え方や媒体に創意工夫を施さなければ伝わらないし、共感も得られない。
社内への情報戦略の重要性を再考する。

INDEX >>
メディアミックス社内報で多様な社員の一体化を目指す
- 株式会社ポーラ化粧品本舗のケース -

■経営理念の浸透に向けて、紙媒体の社内報にこだわる
■Webで紙媒体を補完、グループ内広報も網羅

ブログコミュニケーションが社員の距離感を縮める
- カシオ計算機株式会社のケース -

■「カシオ人」を育てる社内イントラ
■些細な思いつきやアイデアも、「言い合う」ことで大きな可能性に

■「情報共有と一体感の醸成」が社内広報に求められている

SPECIAL REPORT

メディアミックス社内報で多様な社員の一体化を目指す - 株式会社ポーラ化粧品本舗のケース -
■経営理念の浸透に向けて、紙媒体の社内報にこだわる

 社内コミュニケーションのツールとして、まず思い浮かぶのが社内報だ。EメールやWebといった電子媒体の普及により、紙ベースの社内報は縮小廃止とする企業が多いといわれる。しかし、大手化粧品メーカーのポーラ化粧品本舗では、経営ツールとしての役割に特化することで、紙媒体の社内報を積極的に活用している。
 「弊社では、経営方針の浸透、情報の共有化、組織風土の活性化の3点が社内報発行の狙いです。このうち、経営的側面の機能を紙媒体に集約しました」と話すのは、社内報「P-com.」の制作を担当する人事部所属の橋有紀さん。
 「P-com.」は正社員に配布される季刊誌で、トップと社内外キーパーソンとの対談や経営メッセージなどを中心に構成されている。「じっくり読み込むようなまとまった記事はWebには向いていない」と橋さんは言う。経営側の意思を文章化して深く伝達できる紙媒体の充実は、トップの強い意向でもあったそうだ。
 もう一つ紙でなければならない理由が、ポーラの業態にあった。研究・開発から生産、販売まで一貫して行う総合化粧品メーカーであるため、特に生産ラインの現場では、必ずしも社員が電子媒体に随時接触できるわけではない。経営方針を確実に伝えるためにも、手元に届く社内報が重要なのである。育休中の社員宅にも届けているそうだ。
 主要コンテンツが硬派なだけに、気軽に読んでもらうための工夫も必要だ。表紙に社員を登場させたのも、アイデアの一つ。また、社員投稿や新入社員紹介など「人」に焦点をあてた注目度の高い企画も散りばめている。人材を第一に考える人事部制作ならではの視点だ。
 巻頭特集「EXECUTIVE・MESSAGE」の内容は経営層からの意向も含めて検討される。また、第2特集では「個人情報漏洩問題」や「仕事と育児の両立支援」などを深く掘り下げ、テーマによっては社員から多数の感想が寄せられるそうだ。ときには厳しい指摘も混じるが、反応が大きいということはそれだけ社員が真剣に社内報の内容を受け止めている証しでもある。

P-com 社内スタジオで撮影
出版社による全国社内誌企画コンペティションの経営部門で、2年連続企画賞を受賞している「P-com」。表紙は社内スタジオで撮影し、モデルは社員が務める。

↑このページの先頭へ


■Webで紙媒体を補完、グループ内広報も網羅

P-com.Webzine
電子版社内報「P-com.Webzine」は、社内イントラ「P.Navi」のトップメッセージに次ぐ人気を誇る。
  総合化粧品メーカーとしてさまざまな形態の部門を持ち、かつ販売拠点を全国に擁するため、企業(本社)の意思や情報を広く確実に届けることが、ポーラ独自の課題である。
 社内報発行の残る二つの狙い、情報共有と組織の活性化については、2年前から電子版社内報「P-com.Webzine」が担っている。電子版社内報の創刊と相前後して社内イントラネットの拡充を図り、「P-com.Webzine」はイントラの主要メニューに位置づけられている。

髙橋有紀さん
十数年にわたり社内報の制作に携わる髙橋有紀さん。“人事部発ならではの視点”がポーラの社内報の特徴だ。
 電子版社内報も髙橋さんが制作を担当する。従来、紙の社内報に掲載していたコンテンツを切り分けただけなので、特に負担にならないという。むしろ、即時性が求められるニュースを扱うには、掲載・修正が容易で低コストなWebが適している。社内を取材して原稿にまとめ、適宜Webにアップするなど、社内の動きをリアルタイムに伝える仕組みが出来上がった。
 「P-com.Webzine」はイントラのなかでも「トップのメッセージ」に次ぐ人気コンテンツで、イントラにアクセスするポータル的な役目も果たしているという。「読まれなければ社内報の意味がありません。イントラそのものを引っ張っていくくらいでなければ」と広報部係長の長谷部伸さんは解説する。
 昨年、ポーラは組織再編を行い全国に分散していた販売会社を一本化した。それに伴い、本社の社員だけに開放していた「P-com.Webzine」の閲覧を販社の社員にも広げた。アクセスしやすい電子版社内報が、特長を生かしてグループ内広報を支える役割も果たしているのだ。「今後は研究所、工場、販売会社まで含めたグループ全体で一体感を高め、ポーラブランドを盛り上げていくことが必要です」(長谷部さん)。社内間だけでなく、さらに広く企業のブランド理念を共有することでグループの士気を高めるポーラのインナーコミュニケーションは、企業独自の課題をクリアするために欠かせない「戦略」なのである。

↑このページの先頭へ


ブログコミュニケーションが社員の距離感を縮める - カシオ計算機株式会社のケース -
■「カシオ人」を育てる社内イントラ

渡邉彰さん 渡邉彰さん
「コミュニケーションの活性化は、企業の生産性アップに直結します」
(渡邉彰さん)
  カシオ計算機では、4年前に大規模な社内イントラネットの再構築を敢行した。それまで各部門が独自にホームページを立ち上げて管理していたので、400台余のイントラサーバーが乱立し、情報量は多いが、どこにどのような情報があるか誰にも把握できない状態だったという。そこで各部門のホームページを統合、社内ポータルの「C's Cafe」を立ち上げた。
  「イントラ拡充の背景にはトップの強い危機感がありました」と広報部経営広報グループの渡邉彰さんは語る。2001年、カシオは一時的に経営が悪化し赤字に転落、このとき経営トップは社内体制強化の必要性を再認識したという。これからの時代に強い会社として生き残っていくためには、社員が意識レベルをそろえ、商品開発やコンプライアンス、環境問題などの課題に全社を挙げて取り組まなければならない。そのためにトップの意思をタイムリーに伝え、会社としてのあるべき方向性を常に示すことが重要となる。そのツールとしてイントラネットに目を向けたのだ。
 「会社の規模が大きくなり、社長が社員に向けて直接メッセージを送る機会は年に数えるほどしかありませんでした。それがイントラネットの活用で定期的に情報発信するようになって、トップと社員の距離は急速に縮まっています」(渡邉さん)。
 カシオ広報部では、Webマガジンとして「CASIO Style」をC's Cafe内で毎月発行、経営陣のメッセージや社内のケーススタディを掲載している。「トップの思いをタイムリーに伝え、“カシオ人”とはどういう人であるかを説き続けることで、社内のベクトルを統一するためのツールがCASIO Styleです」と渡邉さんは明快に定義づけた。

C's Cafe C's Cafe
海外の現地法人に向けた英文ポータルも昨年4月より開始。「C's Cafe」内の写真投稿コーナーは、社員バンドの競演ライブや夕飯のレシピ紹介など内容もさまざまだ。


↑このページの先頭へ


■些細な思いつきやアイデアも、「言い合う」ことで大きな可能性に

川出浩司さん
「社員間の心理的敷居を低くするのがブログの利点」
(川出浩司さん)
 カシオ計算機では既に一昨年からイントラネットに社内ブログを導入している。サークル活動や写真投稿ページといった業務と関係のないコンテンツからブログ化し、経理、総務などの部門ページを次々と切り替えていった。ブログ導入を先頭に立って推進した、業務開発部情報技術グループの川出浩司さんは言う。「ブログは、数分の説明を聞いただけで誰でも操作できるほど簡単です。また、多数のサーバーに分散された情報を一元化できることも大きなポイントでした。ブログ一つひとつの情報は小さいものでも、それらがゆるやかにつながることで、企業として一つの大きな知識になり得ると思ったのです」
 CMS(コンテンツ管理システム)としてのブログのメリットは非常に大きかった。従来、担当者のITスキルに依存していたWebの更新が容易になり、社内での情報発信への抵抗感が格段に低くなった。その結果、さまざまな部門から新鮮な情報がイントラネットに集まるようになり、情報の風通しがよくなることで社内が活性化したという。「ブログなら独り言やつぶやき程度の話でも掲載できますからね」(川出さん)。思いつきや些細なアイデアでも、他の社員にとっては重要だったり大きなヒントになったりすることもある。全く関係のない部署からの意見や提案が、製品開発や他社とのコラボレーションなどに生かされた例も少なくないそうだ。
 役員の情報発信という面でもブログの活用が進んでいる。取締役やグループ会社の社長ブログは、社員注目のコンテンツとなっている。毎日ブログを更新している、ある部長はこう言う。「事業部にいる140名全員と一緒に飲みに行くことはできないが、ブログを書くことで毎日、自分の考えていることを全員に伝えることができる」。
 情報流通を活性化し、費用削減にも貢献しているブログだが、現在は部門長、役員クラスなど「情報を発信すべき人が発信している状態」だ。例えば社員間の交流や親睦には、ブログよりSNSが向いているかもしれないと川出さんは言う。次々と登場するメディアの特性を見極めて、適切なツールを適切なかたちで使うことがインナーコミュニケーションにおいてはさらに重要になってくる。

↑このページの先頭へ


 紙媒体の特性を重視しWebでその機能を補完しているポーラと、ブログで強化したイントラネットを社内コミュニケーションの中心に据えているカシオ。その手法は対照的だが、両社に共通しているのは、経営トップがインナーコミュニケーションの重要性を理解し、自ら率先して取り組んでいることである。カシオで現役を続ける創業トップは、77歳の現在もなお、自身の発するメッセージの一言ひと言を大切にしており、原稿には必ず自ら手をかけるという。
 インナーコミュニケーションを考えるとき、ポーラのトップがよく口にするという次の言葉を忘れずにいたい。「一人の社員が、会社を変える可能性を持っている」。

↑このページの先頭へ




■「情報共有と一体感の醸成」が社内広報に求められている

 「全国社内報実態調査」(日本経団連)によると、回答企業(706社)の85%が紙の社内報を発行している。「経営関連の記事はじっくり読める紙媒体、速報性重視なら電子媒体で伝えるという会社が多くなってきました。ここ数年で社内報媒体の役割分担が明確化しています」と日本経団連社内広報センター長の唐沢清さんは解説する。社内報は「経営理念・ビジョンなどの浸透や企業の一体感の醸成には欠かせません」(唐沢さん)。価値観の多様化や職場環境の変化などを背景に、企業にはインナーコミュニケーションのさらなる向上が求められている。
 一方、コミュニケーションツールとして社内ブログの採用が「電機やIT系の企業を中心に目立ってきた」(唐沢さん)という。内包する経営課題の解決に向け、情報の受発信を担う広報部門が媒体を自在に使いこなすことが重要であるといえよう。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第7号(2006年11月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

↑このページの先頭へ