調査・研究/発行物

目黒発 vol.6

CSRとマーケティングの両面から考える、企業と子どものコミュニケーション

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- りそな銀行のケース -

■子どもに金融経済教育 生きる力を身に付ける
■ゲーム形式で予算を学ぶ リスクを理解する重要性

- ナルミヤ・インターナショナルのケース -

■人気ブランドの秘密 子どもの目線で誕生
■子ども扱いは禁物 大人と同様に接する
■子どもたちに夢を 将来の消費者のために

■「教育」から「共育」へ。企業も変化し続けるために。(小泉眞人)

SPECIAL REPORT

 子どもは未来の顧客である。企業が生き残り、その活動を理解され続けてもらうためには、子どものころからのファン作りが有効な方法論となる。とはいえ、商品やサービスが子ども向きでない場合や目に見えにくいもの(無形商品)の場合、PRは容易ではない。
 今回は積極的に子どもとのコミュニケーションを展開する企業から成功のノウハウを聞いた。CSRの観点から子どもへの金融経済教育に情熱を注ぐ銀行と、子どもを一人前の顧客ととらえたことでジュニア市場を席捲するアパレルの2社だ。

- りそな銀行のケース -
■子どもに金融経済教育 生きる力を身に付ける

りそなキッズマネーアカデミー
1万円札で1億円の重さは約10kg。「想像以上に重い」と子どもたち。
 「1万円札(旧)1枚を作るにはいくらかかるでしょう?」①約28円、②約280円、③約2800円。
 これは、りそな銀行が小学5、6年生を対象に開催している「りそなキッズマネーアカデミー」で出された問題の一つ。正解は①約28円。思わぬ難問に大人でも頭を抱え込んでしまいそうだ。このようにクイズやゲームを通して、子どもたちは楽しみながらお金の大切さや銀行の役割などについて学ぶ。
 「キッズマネーアカデミー」はりそな銀行が昨年から開始した。この他、各店舗での見学や職場体験、出張授業なども積極的に実施している。
 りそなホールディングス・コーポレートコミュニケーション部の吉田順子さんは「銀行は誰もが生活していく上で必ずかかわっていくところ。だからこそ、子どもたちに経済や金融の仕組みをしっかりと理解してもらい、生きる力を身に付けて欲しいと考えています」と話す。
 りそな銀行は子どもへの金融経済教育に力を入れており、日銀や地方銀行から視察を申し込まれたり、子ども向け金融経済教育セミナーを共同開催したりすることもあるという。
 これらの取り組みは純粋なCSR活動として行われている。「りそな銀行は公的資金の注入で皆様にご心配をおかけしました。未来の日本を背負う子どもたちへの金融経済教育の普及で、少しでもお返しできればと考えています」(吉田さん)。

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■ゲーム形式で予算を学ぶ リスクを理解する重要性

りそなキッズマネーアカデミー
お金にまつわる○×クイズの講師は社員が担当。カリキュラムと教材はほとんどが社員ボランティアの手作り。
   今年の夏休みも「りそなキッズマネーアカデミー」が2日間にわたって東京など3地区で開催され、合わせて100人近い小学5、6年生が参加した。初日は、寸劇などで経済や銀行について学び、実際の店舗を見学。ロビーでの接客疑似体験や本物の現金1億円の重さ体感などで、銀行業務を肌で感じてもらった。
 2日目は、各チームに分かれて様々なゲームを行う。就職から退職までを双六にした「人生ゲーム」では、貯蓄や住宅ローンなどの金融商品を駆使し、お金との賢い付き合い方を学んでいく。一方、「カレー作りゲーム」では予算の重要性を学ぶ。渡される食材購入費は少ない。何を優先に買い、何を削るべきか決めて食材を買い、カレーを作る。予算内に収める能力を養い、その難しさを感じてもらう。トレードオフ(二律背反の経済的関係)の概念を身に付けるのが狙いだ。
りそなキッズマネーアカデミー
客役と銀行員役に分かれ、接客疑似体験。
「大人になったら、銀行員になりたい!」という子も。
   「株ブームや投資ファンド事件など、お金に関する情報は溢れ、子どもの周辺にも届いています。投資や貯蓄は将来の夢をかなえるために必要です。氾濫する情報に流されることなく、株式やお金に対する正しい知識を身に付けて欲しいのです」(吉田さん)。
 欧米では、金融経済教育への取り組みが進み、株を売買する小学生さえいるという時代。日本では、政府・日銀がペイオフ解禁となった昨年を「金融教育元年」と位置づけ、ファイナンシャル・リテラシー(金融に関する理解能力)の普及に向けた活動をはじめたばかりだ。
 「投資にはリスクが付きものだと幼いうちから知っておくことは大切です。健全な金銭感覚を身に付けるきっかけにしてもらえると嬉しい」と吉田さんは語る。受講した小学生や親からは「『円高』を知ってからニュースに興味が出た」「小遣いを計画的に使うようになった」といった声が寄せられているという。
 お金に対する正しい知識とその大切さを知っている子どもを育てることが、金融業界への理解や、ひいては活発な経済活動を生み出す原動力になるはずである。

りそなホールディングス CSRへの取り組み「子どもたちのために」
http://www.resona-gr.co.jp/holdings/csr/children/index.html

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- ナルミヤ・インターナショナルのケース -
■人気ブランドの秘密 子どもの目線で誕生

  一方、子どもの商品を扱う企業のPRやマーケティング活動を見てみよう。
 ナルミヤ・インターナショナルは、主に10代前半の女の子を対象としたブランドを次々と生み出し、急成長を遂げたアパレル企業である。不毛と言われてきたジュニア市場で、少女たちの絶大な支持を得た理由は何なのか?
 「かつてこの世代をターゲットにした服がうまくいかなかったのは、彼女たちの着たいと思う服を作ってこなかったからです。これまで大人目線で見ていた服作りを子ども目線に切り替えるところからスタートしたのです」と販売促進室・プレス副部長の保坂大輔さんは説明する。徹底した市場調査を行ったほか、PRイベントを積極的に開催し、好みの色やフィット感など、子どもたちの声を拾うことに努めた。
 その結果、例えば従来の手法である、ベビー用から大人用までそろうブランド服については『赤ちゃんや大人と同じロゴの服は着たくない。自分たちの年代専用の服が欲しい』といった意見が子どもたちから相次いだ。この他にも「大人の流行を取り入れた子ども服には興味が無い」「ゴムのウエストは恥ずかしい」「ちょっとしたキャラクターが付くと大いに惹かれる」などの声があったという。こうした少女たち「顧客」の嗜好を参考にしてデザインに改良を加え続けたのだ。
 ジュニア向けブランド「エンジェルブルー」が誕生して17年。「6ポケット」※を背景に、人気アイドルたちが愛用したことや少女向けファッション誌で取り上げられたことも追い風となり、ナルミヤが開拓したジュニア市場に火がついた。今では全11ブランド、全国に直営店659店舗を有するまでになった(2006年9月現在)。

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■子ども扱いは禁物 大人と同様に接する

憧れの店員にコーディネートしてもらえるのが 楽しみで来店する子も少なくない。 また、デザイナーのサイン会等も多く開催され、 子どもたちの好みを知る絶好の機会になっている。
   昨今、服は親が買い与えるのではなく、特に女の子は小学3年生頃から自分で選ぶのが一般的だという。自らおしゃれをして喜ぶ子どもの姿を見ると、財布を握る親は理解して納得するそうだ。特にバブル世代の母親は子どもと一緒になっておしゃれを楽しむ傾向が強いという。
 父親の来店を視野に入れたPRイベントもある。今年6月の父の日、ナルミヤのデザインによるウエディングドレス姿の「リカちゃん人形」が玩具大手のタカラトミーとのコラボレーションで限定発売された。記念イベントでは、リカちゃんと同じデザインのドレスを着た娘と父親がバージンロードを歩くなどのセレモニーが行われた。購入したリカちゃん人形は、嫁ぐ時に自分の思い出として父親に贈るというストーリー。主人公はあくまで子どもなのだ。
 「『子どもだから』という別扱いは禁物です。接客やイベントでは、大切な顧客として、大人と同じように接します。子どもは大人を鋭く見ていますよ」(保坂さん)。
 ナルミヤでは、各店舗からお得意様に毎月送付されるダイレクトメールが重要なコミュニケーションツールになっている。新商品情報などに加えて店員による手書きのメッセージが添えられ、ファッションのアドバイスから相談事への返事まで書かれるという。店頭では、子どもたちからのコーディネートの相談に店員が対応する。顧客とのよりパーソナルな関係構築を目指しているのだ。「子どもの誕生日会に呼ばれる店員も少なくない」(保坂さん)という。

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■子どもたちに夢を 将来の消費者のために

ドリームプロジェクト
漫画家・こはら裕子先生が作画やストーリーを指導。一流のプロによる「ドリームプロジェクト」は、体験参加の応募が殺到するという。
  昨年、ナルミヤでは子ども服発売20周年を記念し、「ドリームプロジェクト」を立ち上げた。宇宙飛行士、サッカー選手、カーレーサー、バレエダンサー、パティシエ、漫画家など、子どもたちが将来なりたい職業を協賛各社の協力で実体験してもらおうというものだ。漫画家体験では人気女性漫画家から指導を受けたり、宇宙飛行士体験では筑波宇宙センターで宇宙服を着たりして、子どもたちに貴重な経験をプレゼントした。
 こうしたPR活動は販売に直結するものではないが、子どもに夢を与える存在でありたいという、ナルミヤの企業姿勢を訴求する絶好の機会になっている。保坂さんは「子どもたちが幸せで夢のある世の中でなければ、洋服や買い物を楽しむどころではない。私たち『子ども産業』は、まさに子どもあってのものです。そして何よりも将来の消費者である子どもとコミュニケーションの機会を積極的に持つことが、企業が生き残っていくために不可欠なことであると思います」と語った。

株式会社ナルミヤ・インターナショナル
http://www.narumiya-net.co.jp

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 企業と子どもとのコミュニケーションについてそれぞれの経験から貴重なアドバイスを頂いた。
 りそなの吉田さんは、経済の仕組みといった難しい講義は「社員の子どもに協力してもらい、入念にリハーサルをした」と教えてくれた。また、意外なことに社内にも大きな好影響があったという。「難しい銀行業務を子どもたちにどう説明すべきか議論する中で、自社や自分の担当業務が『社会の中でどのような存在で、どう見られているか』改めて全社的に考える契機になりましたね」。
 ナルミヤの保坂さんは“子どもの個性を尊重すべき”と指摘する。「コントロールできないのが子どもです。イベントや店頭ではハプニングが付きものですが、むやみに規制したり、決め付けたりしないでください。子どもたちの自由な行動や会話から斬新で画期的な発想が生まれます。子どもの発想が、次のビジネスのヒントになったという例は少なくありません」。

※「6ポケット」 少子化で子ども人口が減った結果、現代では両親+両祖父母のシックスポケット(六つの財布)を子どもが持つと言われる

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■「教育」から「共育」へ。企業も変化し続けるために。

小泉眞人 東海大学文学部広報メディア学科教授

小泉眞人 東海大学文学部広報メディア学科教授
 企業が長期にわたって顧客とどのように関係性を構築していくか、その出発点としての子どもへのPRが今回のテーマである。今日子どもを取り巻く環境は以前に比べると大きな変貌を遂げているといっても過言ではない。特に生活環境はその代表例といえる。お金の問題、ファッションの問題、食の問題、遊びの問題、健康の問題等々、以前では考えもつかないような問題が顕在化している。今こそ子どもの教育環境を単に学校や教育機関だけに任せるのではなく、CSRの一環として企業も積極的に支援していくべきである。
  そのような中で企業としていかに子どもに「教育」の一環として正しい情報を伝えていくか、子どもの視点からのPRアプローチが求められている。りそな銀行のケースはまさにお金の問題を子どもの視点からとらえ直し、難しい問題を分かりやすく提供している好例である。教育というアプローチはわかりやすいということが大変重要な意味を持つ。分かりやすいことは、伝わりやすいことであり、更には興味や関心を持ちやすいことにつながるからだ。その意味でこれらの教育視点でのPR活動はまさにコミュニケーションの本質を理解した活動であるといえる。
 一方、ナルミヤもメイン・ターゲットが子どもということもあり積極的に子どもに対してPR活動を行っている。しかし今日まで子どもの心をつかんできたナルミヤだが、この1年ほどは売上げがやや低下傾向にある。あのナルミヤでさえも子どもの心をつかみ続けるのは容易なことではない。だからこそ子どものマインドに常に接していなければならない。ナルミヤの成功手法から学ぶべき視点は「教育」というPRアプローチが企業の一方的なコミュニケーションであってはならないことを示唆している。
 一般的に「教育」というと企業からの一方向的な情報提供の流れになりがちであるが、そうではなく共に学んでいくというまさに「共育」というスタンスを企業は持つべきである。子どもは常に変化し続ける。その変化し続けるこどもに対して企業は真摯に耳を傾けることが必要である。企業も子どもと共に変化し続けることが求められる。まさに共に育っていくという発想が企業側にこそ大切なのである。互いに影響を受け合いながら成長していく「相互作用性」を大いに認識すべきであろう。
 今後、企業はいっそうのCSRが求められる社会と向き合うことになる。企業はそれぞれの得意分野でCSRを展開していくことが求められる。CSRの視点の1つとして「共育」というPRアプローチは、大いに有効なアプローチといえるであろう。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第6号(2006年9月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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