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目黒発 vol.5

「技術のブランド化」でユーザーとの懸け橋をつくる

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- シャープのケース -

■新技術の信頼性を高めた「除菌イオン」
■理解されやすい名称で異業種製品にも展開
■モノづくりを象徴する「亀山工場モデル」

- シマノのケース -

■「自転車界のintel」
■技術という共通言語でリードユーザーをつかむ

■「業界の常識は、世間の非常識」消費者に理解されるコミュニケーションを。(小泉眞人)

SPECIAL REPORT

 技術の高度化や複雑化が進む時代、消費者に自社技術の有益性を理解してもらうのは至難の業だ。一方、消費者にとってみれば、難しい専門用語で技術を説明されても「さっぱり分からない」。そこで、企業の技術をブランドとして分かりやすく伝える「技術のブランド化」が注目されている。R&D部門と広報宣伝部門との連携が強く求められているのだ。

- シャープのケース -
■新技術の信頼性を高めた「除菌イオン」

空気清浄機
「除菌イオン」発生装置が搭載された空気清浄機。
 「世の中にないもの、誰もやってこなかった商品を開発する」というオンリーワン戦略が奏功しているシャープ。社名の由来である創業者の発明品「シャープペンシル」から、現在の液晶技術まで、独自技術の開発に取り組んできた。
 2000年にはイオンを発生させて除菌する画期的な空気清浄機を発売した。プラズマ放電によって空気中の水分からイオンを生成(「プラズマクラスターイオン」と商標登録)して放出、空気中に浮遊するウイルスや細菌といった有害物質を分子レベルで破壊するなどの効果がある。空気を吸ってろ過するだけの従来の空気浄化方式の概念を覆す技術だ。
 この画期的な技術を、どう消費者に訴えるべきか。シャープは新しい技術の効果について、大学や第三者機関と共同で科学データを検証、それを基に商品化を進めた(アカデミックマーケティング)。様々なウイルスなどへの効能が新たに発見される度に報道発表を行い、「プラズマクラスターイオン技術」は社会的認知を高めていった。そして、学術研究機関と共同で、空気中に浮遊する細菌・カビ菌・ウイルスなど全27種類の有害物質への効果・効能を実証。技術の信頼性の裏付けを図っていった。
 更に、「プラズマクラスターイオン技術」を商品に搭載する際、「除菌イオン」という名称が付加された。消費者の機能理解を促進するため、開発陣や宣伝、マーケティングといった関係部門が協力して検討し、採用したのだ。

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■理解されやすい名称で異業種製品にも展開

 「除菌イオン」は消費者の効果想起を容易にした。「空気のあるところすべてに『除菌イオン』」というスローガンの下、自社のエアコンや冷蔵庫、掃除機など10品種に同技術を搭載していった。横断的に各商品を視覚認知できるよう、「クラスター=ブドウの房」を模したシンボルマークとロゴを開発、商品横断的に活用した。ブドウマークは、製品やパッケージ、店頭販促物などに目立つように記載され、消費者がシャープの技術力を視覚的に認知するのに大きく貢献した。結果的に「除菌イオン」は顧客接点において、他社製品と差別化するブランドの役割を果たすことになったのである。
 また、02年のINAXの洗浄機能付便器を皮切りに、乗用車用エアコンやエレベーター、ビル空調、照明機器など22社の異業種で「除菌イオン」の採用が相次いだ。収益面でも大きく貢献しているという。
 「次々と効能の発表を重ねるとともに、製品への水平展開と異業種の相次ぐ採用で、多くの方に信頼を持っていただけました」(シャープ広報室)。

「除菌イオン」マーク 「除菌イオン」マーク
上:「除菌イオン」マーク。
有害物質をイオンがブドウの房状に取り囲んで除菌する様子をイメージした。
左:他企業の商品にも搭載され、マークも表示されている。

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■モノづくりを象徴する「亀山工場モデル」

亀山モデル
消費者から製産工場名の問い合わせが多く、店頭のAQUOSコーナーでは、「亀山モデル」のPOPやステッカーが貼られている。
  技術は「物事をたくみに行うわざ」(広辞苑)であり、生産現場の「巧みの技」から「品質改善」「コスト削減」などの生産管理、輸送や物流まで、その概念は幅広い。技術のブランド化も新技術や特許だけに限定されるものではない。生産施設や技術力そのものをブランド化してしまった驚くべき事例が、シャープの「亀山工場」である。
 液晶テレビ「AQUOS」を造る亀山工場は、液晶パネル製造から完成品までの全工程を一貫生産するのが特長だ。液晶パネル担当者と組み立て担当者の情報交換ができ、生産技術向上や新技術開発につながっているという。「『液晶は生き物』です。熟練技術者たちの経験が開発の要なのです」と広報担当の井上淳之さんは説明する。先端生産技術が集積された施設で更なる技術革新が生み出されるのだ。
シャープ亀山工場
シャープ亀山工場(三重県亀山市)。
2004年1月、亀山第1工場(写真左奥)が開設。
AQUOSシリーズの主要モデル(26インチ以上)を生産中。今秋には第2工場(写真手前・完成予想CG)が稼働予定。市場拡大に対応して増産体制をとる。工場知名度のアップに伴って、施設の見学の申し込みも多いという。
 亀山工場の稼働時、折しも「技術や製造の国内空洞化」を懸念する声が高まっていた。国内生産にこだわり、技術を育てる姿勢を鮮明にした「亀山」の出現は、メディアから共感を持って迎えられる。「国内生産の利点を知ってもらうために、記者に『亀山工場』製を強調しました」(井上さん)。
 「亀山工場」はシャープのモノづくりの象徴であると同時に、AQUOSを支える技術ブランドとなって販売に寄与している。「亀山工場モデル」と表示した店頭POPを作ると、販売チャネルは歓迎し、メディアが報じた。消費者の意識にも影響を与え、「亀山工場は素晴らしい」ので「亀山製のAQUOSが欲しい」となった。
 「『亀山工場』はモノづくりに対する考え方を前面に出したブランドと言えるでしょう。商品ブランド『AQUOS』とモノづくりの象徴である『亀山工場』との相乗効果があったのです」(井上さん)。
 液晶テレビは耐久消費財であり、性能や品質に対する信頼性が購買の重要なファクターとなる。このため、液晶の開発や生産で培った「秘伝のタレ」とでも呼ぶべき技術的ノウハウの伝達が不可欠だ。液晶開発で知られるシャープの伝統(技術)と、それを具現化した「AQUOS」(商品)、それらのモノづくりの象徴である亀山工場とが三位一体となってトップブランドが形成されている。

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- シマノのケース -
■「自転車界のintel」

 大阪府堺市に本社のあるシマノは自転車部品で高い世界シェアを誇る。釣り具などの製品でも知られ、製品開発力と精密加工技術の高さは折り紙付きだ。
 ツール・ド・フランスなどの国際レースに挑み、部品装着車の上位独占が続いて定評を得た。特にサイクルスポーツが人気の欧州で「SHIMANO」はソニーやホンダなどと並ぶ屈指の日本企業ブランドだという。
 「シマノが装着された自転車が欲しい」気にさせるそのブランド力は、インテルの戦略になぞらえて「SHIMANO inside」としばしば称される。シマノ製のパーツにはユーザーに視認されるロゴマークが入っている。脇役であるはずの部品が前面に出て、ユーザーの商品(完成車)選択を後押しするのだ。

SHIMANO SHIMANO
シマノ製自転車パーツの多くは、 「SHIMANO」と表示されている。

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■技術という共通言語でリードユーザーをつかむ

 1980年代から始まったマウンテンバイク(MTB)ブーム。その源はシマノだったとも言われる。アメリカで野山を駆け回る自転車遊びが一部で高い人気との情報を得て、現地調査を開始。「悪路で部品がすぐに壊れて困る」と聞くと、衝撃に強い専用部品を開発した。ユーザーにシマノの技術力を強く印象付けた。「舗装路を走るのが自転車」という他社を尻目に市場を制していった。
 シマノは高い技術と開発力でユーザーの信頼を勝ち得たのだ。中でも影響力の強いリードユーザーの心をつかんだのが鍵となった。リードユーザーとは、商品に独自の改良を加えたり、より高性能に改造したりできる能力のある先鋭的なユーザーを指す。性能の向上を求めたり、新商品のアイデアを提案したりして、技術や商品開発のイノベーション源になるとされる。高度な技術を「共通言語」にして、リードユーザーと理解し合う強固な接点をシマノは保持してきた。厳しい目を持つリードユーザーが技術を認めれば、一般ユーザーの購買にも強く影響する。
  技術のPRは有名レースでの活躍が最も効果的である。加えてシマノは、ロードやマウンテンバイクの参加型レース大会、自転車競技の基礎をワークスチーム選手が教える「サイクルアカデミー」といったユーザー対象のPRイベントにも力を入れている。
 部品専業であるシマノの本来の顧客は完成車メーカーであり、エンドユーザーではない。しかし、エンドユーザーとの直接的な接点が、社名を「SHIMANO」というブランドに昇華させた。シマノの製品は、リードユーザーにとってステイタスであり、一般ユーザーには安心のブランドだ。部品メーカーと完成車メーカー、それにユーザーの3者がメリットを得るトリプルWINの関係を構築しているのだ。

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 技術のPRは、あらゆる企業にかかわる懸案である。技術がきちんとエンドユーザーに理解共感してもらえれば、販売やライセンシング、企業イメージの向上など、大きなメリットを生む可能性がある。今後、「どのような利益を生み出すか」と同じくらい「技術をどう伝えるか」が重要視されてくるはずである。シャープでは、R&D部門でも消費者が正しく理解するために必要な表現は何か徹底して議論する風土があるという。

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■「業界の常識は、世間の非常識」消費者に理解されるコミュニケーションを。

小泉眞人 東海大学文学部広報メディア学科教授

小泉眞人 東海大学文学部広報メディア学科教授
 企業にとって自社の技術を社会や消費者に理解してもらうことは容易なことではない。しかし技術は、伝わらなければ単なる自己満足となってしまう。伝わってこそ意味のある素晴らしい技術として社会や消費者から認知されるのである。技術であっても商品であっても同じことであろう。いくら良い技術を持った商品でも売れないことがある。その良さが伝わっていないことで売れない場合もあるのだ。企業の担当者は、どうしても技術やシステムを作る(創る)ことにのみ集中し、伝えることをおろそかにする傾向がある。せっかく技術開発に成功したのであれば、それをいかに伝えていくかという技術コミュニケーションに努力を傾注すべきであろう。
 それはまさに、プロになればなるほど素人の気持ちには戻れないのと同じである。「業界の常識、世間の非常識」という言葉もあるように、プロにとって当たり前のことが一般の素人には当たり前ではないからだ。自社の技術を知ってもらい理解してもらい、更には共感してもらうためには、相手の立場に立って(つまりは意識のギャップがあることを前提にして)分かりやすくコミュニケーションしていくことが大切である。
 例えば「健康エコナ」や「通勤快足」というブランドはとても分かりやすいネーミングである。これらはネーミングであると同時にその商品の機能をしっかりと消費者にコミュニケーションできているからである。一方、よくあるパターンとして、技術ブランド名の付け方に、技術やシステムの(特に英語表記の)名前の頭文字(よく3文字程度が利用される)を取ってネーミングをする場合がある。そうした頭文字のネーミングは消費者にはほとんど意味のない(意味の分からない)文字の羅列に過ぎない。シャープの「プラズマクラスターイオン」というネーミングも、消費者にとって難しい名称だったのではないか。それに対して「除菌イオン」は言葉の意味が十分に理解できる言葉(つまり共感できる言葉)なのである。このことが例証しているように、素人である消費者の理解しやすい言葉が企業と消費者のコミュニケーションにとっていかに重要であるかが分かる。理解しやすい(分かりやすい)言葉こそが、企業と消費者の共感できる言葉になるのである。共感できる言葉でコミュニケーションしなければ、お互いに情報のキャッチボールは困難であろう。
 企業の価値や技術の価値は、ブランド化することで一般の消費者や社会から承認を受けることになる。評価とは自分でするものではなく、自分以外の他者(社会や消費者等)がするものである。その意味で、いかに他者に理解され受け入れてもらえるか、技術開発の成功は企業のコミュニケーション力にかかっているといっても過言ではない。まさに技術のブランド化はR&D部門と広報宣伝部門との二人三脚の賜なのである。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第5号(2006年7月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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