調査・研究/発行物

目黒発 vol.30

SPECIAL REPORT
「生物多様性」と企業コミュニケーション
COLUMN
広報はサービス業である 第3回
“共犯者”を作る
OPINION
「見るのは誰か」を、常に想像すること。
村上信夫 放送作家
AD LETTER
社会的責任(SR=Social Responsibility)の現在
SPECIAL REPORT
「生物多様性」と企業コミュニケーション

持続可能な企業をつくる鍵は、「知識」ではなく「意識」の変革にある
-株式会社リコーのケース-

環境負荷を減らす取り組みは、企業活動においてますます重要な位置を占めるようになった。社会的な責任を果たさなければ、事業が続けられず、企業そのものが存続できなくなる。2010年10月には「COP10(生物多様性条約第10回締約国会議)」が日本で開催され、環境への取り組みに欠かせないものとして「生物多様性保全」があらためて注目を集めた。時代が求める「生物多様性保全」に対し、企業は何ができて、何を伝えられるのか。社会の耳目が集まる以前から、環境経営を企業活動の柱に据えて「生物多様性保全」に取り組むリコーの事例をもとに、「生物多様性」と企業活動との関係性、そしてそれを基盤としたステークホルダーとのコミュニケーション手法を探った。

■創業の精神と複写機ビジネスの特性が積極的な風土を育む
写真:益子晴光氏
株式会社リコー 社会環境本部
環境コミュニケーション推進室室長、環境経営企画室副室長   益子晴光氏

株式会社リコーは「世界で最も持続可能な100社」に6年連続で選ばれるなど、環境関連で多数の賞を受けている。同社が、環境問題に取り組んだのは早く、1992年には「環境綱領」を制定して環境保全活動に注力、98年からは「環境経営」を掲げた。同社グループが進める「環境経営」とは、環境に取り組むことと利益を追求する企業経営を同軸に捉えるということ。一見、相反するように思える環境と経営の「合体」だが、環境に優しい企業活動は、結果的にコスト削減からブランド好感度向上まで様々な形で利益拡大に貢献しているという。つまり環境経営は利益を追求する企業活動とは決して矛盾しない、と考えられている。

より高いレベルの環境保全活動の継続実施で、自社利益の拡大にもつなげているリコー。この背景には、複写機という業種と創業の精神があるという。「回収リサイクルが成立しやすい複写機業界は、環境活動のレベルが高くなる土壌がありました。また、創業者は、“人を愛し、国を愛し、勤めを愛す”という三愛精神を掲げ、愛をもって接すればいろいろな生き物にまで結びつくと説いています。それが受け継がれているのです」(社会環境本部 環境コミュニケーション推進室室長、環境経営企画室副室長 益子晴光氏)。

グループの環境経営は、「省エネルギー・温暖化防止」「省資源・リサイクル」「汚染予防」の3本柱での展開が基本となっている。近年は、これに「生物多様性」が加わる構造だ。環境活動を実践しつつ、地球環境の保全や持続可能な社会づくりに貢献することを考える中で「生物多様性」に行き当たった。2000年頃のことだ。

リコーでは、自社の事業が環境に与える影響を図式化し、公開している。

そこで、西暦2050年を見据えた「長期環境ビジョン」を制定、同年までに、人間社会が発する環境負荷を、地球が支えられる許容範囲の中に収めるという基本的指針をもとに、環境行動計画を設けた。同時に、地球が支えられる負荷の容量が減らないように、森林保全活動をするという視点を持つこととなり、「生物多様性」に考えが及んでいったのである。「自分たちが発生する負荷を下げるとともに、地球の力が減らないようにしなければいけません。一企業の責任ではないかもしれませんが、負荷を与えて生業が成立しているのであれば必要な視点なのです」(益子氏)。

「生物多様性」とは…地球上のあらゆる生き物の種類が豊富であること、またそのことによって生態系の豊かさやバランスが保たれることをいう。人間の経済活動も自然や環境からの恩恵によって成り立っている という考えから、この「生物多様性」を保全しようという考えが近年広がってきている。本年(2010年)10月に名古屋で開かれた「COP10」では、生物多様性をテーマに、各国間での協力体制や推進体制について話し合われた。

■生態系を守る森林保全や社会貢献費の拠出方法など、独自の環境経営を実践中

省エネ・省資源等と違い、企業が「生物多様性保全」のための行動をイメージすることは難しいとされる。リコーも同様、「負荷削減と生物多様性で地球を元気にするという話は、同軸と捉えていても次元が違う話」と益子氏は言う。排出するCO2量や消費エネルギー量は、事業を営める範囲でなるべく少なくすればいい。その意味で、負荷軽減と経営は、相反するものではなくつなげて議論しやすいのである。しかし、地球を元気にするというアプローチは、一次産業のように直接地球にアクセスする事業であれば議論しやすいが、リコーをはじめとする多くの企業・業種にとって議論が難しくなってしまう。そこでリコーが選択したのは、環境社会貢献からスタートすることだった。紙を取り扱う企業として、限りある森林資源の保全に取り組む意識のもと、環境NGOや地域住民とのパートナーシップにより世界各地で「森林生態系保全プロジェクト」を実施したのである。

いまでこそ多くの企業が森林保全に取り組んでいるが、リコーの活動は他と一線を画して「生物多様性」を重視した内容となっている。森林保全活動は、一般的には植林等が主となるが、リコーは生態系を守るというアプローチで、残っている森林を存続させ、弱った部分を豊かにする活動を重視している。例えば、シベリアの森林伐採を止める活動では、アムールトラの生息域となる森を保全して、野生動物と人とが共生できる森を世界遺産に登録して残すことを目指している。消えた森を復活させるのではなく、残すための計画づくりと地域の人たちの生活環境を両立させないと意味が無いというわけだ。

リコーは、各国で様々な環境社会貢献を展開し、その手法も独特だ。98年には「社会貢献積立金」という制度を設け、社会貢献の資金として、利益の1%以下もしくは最大2億円以下を拠出する。拠出可否は毎年の株主総会で諮り、承認を得られている環境を経営に組み込むための重要なスキームである。この他の「生物多様性」に関する取り組みとして、社員の環境活動を促進する「環境ボランティアリーダー養成プログラム」を開始したり、「生物多様性」の保全を目指した企業の連携を図る組織「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」に発起人企業として参画、「リコーグループ製品の原材料木材に関する規定」などを制定している。環境負荷を減らす(ネガティブ)活動、地球の力を保つ(ポジティブ)活動のバランスを図りながら実践しているのである。

ノングリットポリシー
リコーでは、生物多様性の解説とリコーの取り組み姿勢を動画としてもまとめ、公開している。昨年(2009年)のエコプロダクツ展では、2000年頃に、CO2が地球温暖化の原因であることに懐疑的な論調もある中、「因果関係が確定的でなくても実行することで後悔することはない、だからやろう」という同社の「ノンリグレットポリシー」を表明した経緯を伝える動画に、見終わったあと観客から大きな拍手が起こったという。
■「生物多様性」の理解に必要な地球への共感を醸成する

前述の3本柱に次いで、「生物多様性」がリコーの環境経営の4本目の柱になりつつあるのだが、難解な「生物多様性」を社員に理解させる鍵はどこにあるのか。益子氏は、「共感」がキーワードと分析している。基本的な説明は、企業が持続可能となるには、ネガティブな要素を減らして、ポジティブな要素を増やす必要があり、後者が「生物多様性」の活動という単純な伝え方をしている。生態系を守る、生物の種類や遺伝子の多様性を守っていくという理解はあまり求めていないのである。

具体的なツールとしては、自社製品であるデジタル複合機と地球・生物の関係を表現した「企業と生物多様性の関係性マップ」を制作している。原材料調達から製造・使用・リサイクルまでのライフサイクル全体を可視化した上で、生物多様性への影響を数値化して、目標を設定したものである。また、「生物多様性行動ハンドブック」は、地球の46億年の歴史を1年間に見立てた「地球カレンダー」で、地球に何が起きているかを分かりやすく訴求している。長い期間をかけ、ようやく生物が棲めるようになったのに、12月31日の午後4時頃にようやく出現した人類が、午後11時59分に産業革命を起こし、急激な環境悪化をもたらしているというメッセージである。「生物多様性そのものを理解してもらうのではなく、生物多様性から環境問題を理解して共感につなげた方が理解促進になります」(益子氏)。教育や啓発ではなく、地球への共感を醸成することが、生物多様性への興味喚起になるというのである。

Gaiaia
『Gaiaia(ガイアイア)』は、リコーの社内向け環境教育・啓発ポータルサイトでありながら、社員だけでなく、一般ユーザーにも広く開放している。「一般の方に見ていただいても面白いと思っていただけるコンテンツ作りを目指しています。おこがましいかもしれませんが、サイトをご覧いただいた方に、ご自身の行動を変えるきっかけにしてもらえれば」と、リコーの益子氏は思いを語った。

共感を促すために設けられているのが、リコーの社会環境ポータルサイト『Gaiaia(ガイアイア)』だ。環境問題の啓発にありがちな、説教口調の物言いではなく、「楽しい」「美しい」「お得」という切口で環境を語るというアプローチを工夫している。グループ公式サイトにある環境関連サイトとの差別化という意味で、社員がボランティアや環境保全活動をして、「流した汗が浮かんでくるような情報」を主に掲載している。「ガイアイアの情報は、それを見た社員が自ら感じて行動を起こしてほしいので、おもしろさを重視しています。知識ではなく、意識を変えてほしいのです。教育的な物言いでは何も伝わりません。極論を言えば、“こうすべき”と指し示さないメッセージを出しつづけたいです」(益子氏)。

環境経営の理解のためには、知識を与えるのではなく、行動するために意識を変えるような情報を発信することが重要なのである。そして、社員が自ら考えて持続可能性につながる活動をしていく。普段の業務の中で地球環境を考え、「言われていないけれども、こうしたら効率がいい」と行動することがリコーの環境経営の理想像なのである。

■環境分野での企業コミュニケーションは共感から賞賛を目指すこと

リコーは環境経営に関してマス媒体での訴求ではなく、対外的なコミュニケーションは『ガイアイア』等のサイトを中心に展開している。社員の意識を変えることが情報発信の目的で、リコーのイメージやブランドを訴求する意図が無いからである。サイトを通じて副次的にそういう効果もあるかもしれないが、「社外の人々がサイトを見て、環境問題について考えてくださったら幸せ」という地道なスタンスである。

そして、企業イメージCMにありがちな「生物多様性に貢献しています」というメッセージには違和感があるという。「宣伝としては成立しているかもしれませんが、リコーの考え方とは異なります。生物多様性によって、自分たちが生かされているわけですから、順番が逆だと思います」(益子氏)。自分たちを生かしてくれている存在に対し、貢献するというスタンスはおこがましいというわけだ。

企業広報には自分たちの業績を伝えるという役目もあるが、こと環境問題に関しては、共感をもってもらうように示すというのがリコー流の環境コミュニケーションである。共感の先に賞賛という流れがあると分析しているからだ。真摯な姿を見せて共感してもらうことにつなげ、あくまで結果的に賞賛を得ることが、環境分野における広報の枠組みなのかもしれない。

リコーに学ぶ「『生物多様性』と企業コミュニケーション」3つのポイント
1高いレベルの環境活動と事業活動を両立させる(同軸に置く)
2自社の企業活動は共感を得られるものなのか、再確認する
3知識ではなく、意識を変えるコミュニケーション施策を心がける

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COLUMN
広報はサービス業である 第3回
“共犯者”を作る

エンタテインメント系企画集団「指南役」代表・草場 滋さんによる、「おもてなしの心」で企業広報を考えるコラム。

草場 滋(くさば しげる)  「指南役」代表
エンタテインメント系企画集団「指南役」代表。1995年「ソニー・アート・アーティスト・オーディション」入賞、98年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。近著に『一流の仕事人たちが大切にしている11のスタンダード』(実務教育出版)など。

■“共犯者”を作る
walk with your followers

最近、いわゆる「内向きのマーケティング」の事例をよく聞く。 内向きのマーケティング―分かりやすく言えば、映画やテレビドラマにおける「エキストラ」もその一つ。最近は地方自治体のフィルムコミッションが充実しつつあるから、ロケーション撮影で500人や1000人規模のエキストラが動員されるのも珍しくない。

主催者側からすれば、彼らは出演者であると同時に、貴重なお客さんでもある。撮影が終わって家に帰れば、きっと家族や友人たちに撮影の裏話を語り、作品を熱心に伝えてくれるだろう。マーケット全体から見れば、500人や1000人は微々たるものかもしれない。しかし、作品に対する思い入れの深さを考慮すれば、その“布教活動”は、それなりの戦力となる。

例えば、映画「SP 野望篇」は、六本木ヒルズをはじめ、数ヶ所で1000人規模のエキストラのロケーション撮影を行なった。そして公開された映画は、3週連続で動員数トップを記録。興行収入も既に20億円を超えている―。

■100万人より100人に伝える

一昨年刊行され、ベストセラーとなったビジネス書『明日の広告』の著者でもある広告代理店のクリエイティブ・ディレクター・佐藤尚之さんは、ソーシャルメディア時代の新たなマーケティングの可能性を、こう語る。

「100万人にではなく、100人に伝える」

どういう意味か。

マスメディアを使って100万人に一気に伝えるよりも、100人にちゃんと伝え、ファン(もしくはそれ以上)になってもらう。その100人を起点に伝播していくソーシャルメディア型のマーケティングの方が、これからの時代、より多くの人の共感を得られるのでは―という推察である。

例えば、ツイッターなら、100人が熱心に、ある商品についてつぶやいたとする。その熱心さに心を打たれたフォロワーが、1人に対して100人RT(リツイート=拡散)したとする。更に、それを各々100人がRTすれば―100万人だ。マスメディアによる上からのトップダウンではなく、下からのボトムアップ。

前述の映画におけるエキストラも、まさに、この“最初の100人”ではないだろうか。

■関西ウォーカー躍進の鍵は「つぶやき」

雑誌『関西ウォーカー』が、昨年の同月比よりも売上げを100%も伸ばしている。実は、その背景には、ソーシャルメディアが関係しているといわれる。

同誌の編集長、玉置泰紀氏がツイッターを始めたのは、2010年2月である。その際、公式アカウントだけでなく、編集部員1人1人にも個人のアカウントを作らせ、半ば強制的に、頻繁につぶやくように命じたという。要は、誌面を作る過程を事細かに、どんどんつぶやけと。その結果―前年同月比100%アップである。

ツイッター上で何が起きたか。

フォロワーたちは、まさに今、自分たちの目の前で誌面が作られていく“プロセス”に立ち会ったのだ。時に意見を求められ、返信し、自分たちのアイデアが採用されることもあった。もはや、編集部と読者の関係を超え、彼らは“共犯関係”となったのだ。

その結果、フォロワーたちは率先して雑誌を購入し、普及に努め、『関西ウォーカー』は部数を大きく伸ばしたのである。

広報にも同じことが言えないだろうか。

対外的に、不特定多数を相手に、完成されたメッセージを発信するばかりでなく、時に内向きに、関係者を巻き込み、プロセスを開示する。そして、共犯関係に仕立て上げる―。

広報も、時代そしてメディアと共に変化と進化が求められている。

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OPINION
「見るのは誰か」を、常に想像すること。
村上信夫 放送作家

「企業不祥事」という言葉が、世間からこれほど注目を集めるようになったのはここ20年来のこと。事件事故や情報隠蔽、食品偽装など、問題は多岐にわたるが、マスメディアで最も感情的に取り沙汰されるのが、渦中の企業が「どう対応したか」ということ。放送作家として報道番組に携わる中、数多くの「不祥事」を目にしてきた村上氏は、この問題に、独自の視点で着目し、研究を続けてきた。日本において「企業不祥事」が、なぜここまで騒がれるのか。いざというときに、企業はどのような対応をすべきなのか。村上氏に伺った。

写真:村上信夫氏

村上信夫(むらかみ・のぶお)
1958年生まれ。日本大学法学部卒業。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科(危機管理学専攻)修了。現在、立教大学大学院社会学研究科博士課程在学中。自動車メーカー勤務の後、映画やドラマの脚本執筆やプロデュースを経て、放送作家に。報道番組、ドキュメンタリー番組のほか、「愛・地球博」フィナーレなどの大型イベントも手掛ける一方で、企業の危機管理や不祥事に関する研究を続ける。『企業不祥事が止まらない理由』(芙蓉書房・共著)、『会社をつぶす経営者の一言「失言」考現学』(中公新書ラクレ)ほか。

■日本の空気が育てた「不祥事」という言葉

「不祥事」が世間から注目を集めるようになったのは、1991年の証券損失補填問題以降です。以来、さまざまな企業の「不祥事」が取り沙汰され、大きく報道されるようになりました。「不祥事」の語源である「不祥」とは、「1.縁起の悪いこと。不吉なこと。2.災難。不運」(岩波書店『広辞苑』第五版)を意味し、本来は不正などの意味を含まないものでした。それが、1991年を境に、これまでの業務慣行や業界の常識の中で“グレー”な部分を「不祥事」と呼び、追及するようになりました。その後も、「不祥事」の概念はさまざまな意味を含み拡大しています。

私は、放送作家としてさまざまな番組で「不祥事」を取り上げてきましたが、このような流れの背景には、何を不正と感じるか、「社会正義」意識の変化があると感じています。例えば、格差社会と呼ばれる現代では、「自分だけ損しているのでは」という意識が強まります。企業や特定の個人だけが“おいしい思い”をする、不公平や不公正は許せない、それが世論と言えます。

企業や組織の「不祥事」が大きな問題となるまでには、3つの段階があります。第1は、これまで当たり前のように行ってきた企業や組織のある行為が「道義的にどうなのか」と、指摘されたとき。ここで対応を誤れば「内部告発」に発展しかねません。実際に今、不祥事発覚の7~8割が内部告発だと言われます。第2は、それに対する企業や組織サイドの「記者会見」の失敗。そして、第3が、それによる「報道の拡大」です。ここで激しく糾弾されれば、企業や組織は瞬く間に危機に陥ります。培ってきた企業やブランドのイメージは損なわれ、株価は急落。組織は求心力を失い、組織そのものが崩壊してしまうケースもあります。そんな危機にさらされた企業のケースを見ていくと、第2の段階である「記者会見」での対応が、事態を悪化させる場合が多いですね。

「人は“起こしたこと”で非難されるのではなく、“起こしたことにどう対応したか”によって非難される」という言葉があります。「不祥事」に対するマスコミや世間の反発は、不祥事そのものより、記者会見での「失言」や無責任な姿勢、真実をあいまいにする組織の「隠蔽体質」へと向かうのです。

■相手の顔を浮かべながら話せているか

では、なぜこれほどまでに記者会見で失敗するケースが多いのか。原因はリスクコミュニケーション・ギャップです。「不祥事」は必ずしも違法な訳ではない。ということは、問題の行為そのものは、企業や組織サイドからみれば、よくあることだったり、業界の慣行として長く行われてきた場合がほとんどです。でも、その行為を一般の消費者がどのように受け取るのか。そこがわかっていないと、肝心な記者会見の場で、いわゆる「KY(空気読めない)発言」が飛び出すのです。

例えば、ある食品メーカーの工場から、有害物質が検出されたというケースがありました。検出されたのは、非常に毒性の高い物質でしたが、数値はごく微量で、法律の基準値内。そこで、このメーカーの役員は、「健康被害は聞いていない」と発言したのです。報道されるやいなや、この企業は一気に世論を敵に回しました。

発言した役員も、悪気があったわけではないと思います。むしろ専門家として「健康を害するような値ではない」ことを強調したかったのでしょう。でも、この記者会見を「見ているのは誰か」、彼は想像していなかったのだと思います。

「食品メーカーの工場から、有害物質が検出された」という第一報を聞いて、一番恐ろしい思いをしたのは、我が子や家族にその食品を食べさせた「母親」たちです。数値はどうであれ、有害物質が混入したかもしれない食べ物を、自分の子どもに食べさせてしまったという事実は、多くの母親たちを不安に陥れました。そんな母親たちから見れば、この役員の発言は、安全・安心を何より大切にしなければならない食品メーカーとしての責任を放棄した、開き直り発言としか受け取れないのです。

■大切なのは、企業の姿勢を示すこと
写真:村上信夫氏

企業や組織にとって、どのようなリスクマネジメントが必要か。もちろん「不祥事」そのものを起こさないよう、コンプライアンスを遵守することも大切です。しかし最近では、ツイッターやYouTubeなどのソーシャルメディアを活用した個人の情報発信力が高まっていることもあり、内部告発などから「不祥事」が報じられ、それが拡大するケースも増えています。どんな企業や組織でも、「不祥事」を100%防ぐ策はないと考えたほうがいいのかもしれません。

また、「不祥事」における対応は、ケースバイケースで正解と言えるものはありません。ただ、間違いなく必要なのは、「不祥事」が発生したときに、まずはトップが「腹をくくる」ことと、すぐに対応方針を決め、内部に徹底することだと感じています。

もうひとつ大切なのは、自分たちが何に拠って立つ会社かを常に考え、コミュニケーションの相手を想定することです。先ほどの食品メーカーの例では、単に「商品を買った人」と考えるのでは足りません。「子どもたちに食品を食べさせる母親」という像を具体的に描き、その人に向かって何を説明するのかという意識を持たなくてはいけないのです。

もちろん、組織内部の体制を整えておくことも大切です。何か起こったときに、情報がトップにすぐ上がる体制を普段から作っておけば、対応の遅れを防ぐことができるでしょう。また、求められるトップの像が変化していることを理解することも必要です。今や、「具体的なことは部下に任せています」は、部下への責任転嫁と取られかねません。「細かいことは部下に任せて、大将はドンと構えているものだ」という日本人が理想としてきたトップ像は、もはや通用しないのです。何が問題なのかを判断する知識と情報を持ち、きちんと決断できるトップが必要です。それによって、記者会見の中身が変わり、見る人の印象はずいぶん変わるでしょう。

いったん「不祥事」が起きたら、それを隠すことはもはや不可能です。問われるのは「どう対応したか」ということ。対応のしかたが、そのまま「企業の品格」とみなされます。社会が評価するのは、悪いことは悪いと認め、可能な限りの責任を取ろうとする「姿勢」です。いざというとき、自社の「品格」をどこまで保てるか。これが、これからの時代のリスクマネジメントにおいて欠かせないポイントだと思います。(談)

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社会的責任(SR=Social Responsibility)の現在

株式会社エヌ・ティ・ティ・アド コミュニケーションプランニング局
PR担当部長 島田実木雄

江戸という都市は、当時、世界有数の人口を誇る大都市であるとともに、極めて高度な循環型社会が成立していました。たとえば「紙屑拾い」などという職業が存在したことも、どれだけ資源を大切に扱っていたかを教えてくれます。終戦直後を舞台にした古い邦画の中で、ズボンから垂らした紐を引きずって友達と遊んでいる少年が出てきました。最初は何なのかわかりませんでしたが、実はその紐には磁石が縛ってあり、街中を一日遊び回っているうちに磁石に釘等の鉄屑がくっついてくるので、これを近くの工場に売ってお小遣いにしていたのです。戦後の混乱の中で、知恵を使って逞しく生き抜こうとする少年の姿を表現するシーンだったようです。

我が国は終戦後から経済的な大発展を遂げ、1964年(東京オリンピック)や1970年(大阪万博)といった標石を経過しながら高度経済成長を続け、1990年前後のバブル経済のピークまで基本的には右肩上がりを続けます。そして、バブルの崩壊を機に、一転、国民の奢侈度は降下していきました。ちなみに、三菱地所がニューヨークのロックフェラー・センターを買収したのは1989年で、中野孝次が『清貧の思想』を出版したのは1992年です。

写真:弊社で回収されたペットボトルのキャップ
弊社で回収されたペットボトルのキャップ

今号で取材させていただいたリコー社の事例のように、いまや現代の企業経営は、「環境」や「生物多様性」といったキーワード抜きに語ることはできません。プロダクトメーカーの場合は、製品の製造から輸送、そして購入者の利用時点とその後の廃棄にいたるプロダクト・ライフサイクルの全工程において、環境負荷の低減が課題となります。近年では、輸送時の環境負荷低減を目指した「モーダル・シフト(環境負荷の低い輸送手段への代替)」にも注目が集まっています。他方で多くのサービス事業者においても、その経営活動が地球環境に与える影響は大きいものがあります。たとえばコンビニで消費期限が到来した売れ残りお弁当を肥料等に再利用したり、スーパーがオーガニック・コットン製の衣料を積極的に販売するなど、環境負荷低減に努める事業者の事例は少なくありません。

ところで、このような「環境活動」「生物多様性への配慮」といったテーマは、企業の社会的責任(CSR)の下位概念であると位置づけることもできます。企業は「株主」「消費者」「取引先企業」「従業員」「地域社会」等といった多様なステークホルダーに対して社会的責任を有します。この責任の最重要なものがいわゆる「ゴーイング・コンサーン(事業の継続)」でしょう。今風にいえば「サステナビリティ」ということになります。特別な場合を除いて、一度この世に生を受けた企業は原則的には永続的な存続を目指して経営活動に邁進し、上に挙げたようなステークホルダーの期待に十全に応えていく責任があります。また、こういった基底的な責任に加えて、時代背景の変化に応じ、「社会貢献活動の充実」「コンプライアンスの徹底」「情報セキュリティの確保」など、常に変化し多用化する、社会からの要請が存在します。

 1.組織統治
 2.人権
 3.労働慣行
 4.環境
 5.公正な事業慣行
 6.消費者課題
 7.コミュニティへの参画及びコミュニティの発展

今年2010年11月1日、社会的責任に関する国際規格である「ISO26000」が正式発行されました。これは「企業」にかかわらず、あらゆる形態の「組織」が、自らの社会的責任(SR)を遂行する際にガイダンスとして利用されることを目的として発行された国際規格です(よって「CSR」ではなく「SR」の呼称を採用しています)。現在はあくまでも参照規格ですので、品質・環境・情報セキュリティのような認証規格ではありません。具体的には、「説明責任」から「人権の尊重」にいたる「7つの原則」をベースとして、右上表のように「7つの中核主題」が示されています。

なお、詳細はhttp://iso26000.jsa.or.jp/等のサイトで確認できます。

写真:弊社から計800個の非常食が寄贈された
弊社から計800個の非常食が寄贈された

当社のCSR活動としては、2004年にビジネスリスクマネジメント委員会を設立し多様なリスク統制活動を行うとともに、ISO14001(環境)やISO27001(情報セキュリティ)の認証取得・維持に努めてまいりました。また今年、災害備蓄用非常食の更改に際して、賞味期限が到来する数ヶ月前にNPO法人「セカンドハーベスト・ジャパン」にこれらの非常食を寄贈しました。このNPOは、品質や安全性には問題がないが、ラベルミス等で規格外となってしまった食品や賞味期限到来前の食品等を提携企業から寄付してもらい、これを、児童養護や生活困窮者支援等に役立てている公益性の高い団体です。コストコ、ニチレイ等、定期提携している企業だけでも60社を数えるといいます。今後も、当社のできる範囲で、このような社会貢献にも積極的に取り組んでいきたいと考えております。

当社は、クライアント各社様をはじめとした多様なステークホルダーの皆様に対して、より充実したコミュニケーションを続けていきたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第30号(2010年12月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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