調査・研究/発行物

目黒発 vol.29

SPECIAL REPORT
未来を伝える広報
[宇宙航空研究開発機構(JAXA)のケース]
COLUMN
広報はサービス業である 第2回
個人の顔が見える会社
OPINION
「上から目線」では、“読者の明日”は変えられない
干場 弓子 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 取締役社長
AD LETTER
サービス広報の要諦
SPECIAL REPORT
未来を伝える広報

“未来”を拓く壮大なミッションを伝える
真摯な姿勢と多彩なメディア施策
-独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)のケース-

写真:はやぶさ
©JAXA

7年間、60億kmもの旅を終え、今年6月13日に地球へ帰還した小惑星探査機「はやぶさ」。天体ファンはもちろん、ネット上に多くのファンをつくり、帰還の模様がWebで生中継されるほどの盛り上がりを見せた。ミッション自体の重要性もさることながら、故障やトラブル等マイナス面を含めて「はやぶさ」の現状を逐一伝えたJAXAの広報姿勢も一役買ったといえるだろう。宇宙開発事業は、実を結ぶまでに多くの年月を要するため、その中間地点においては、技術の意義や価値を伝え、さらなる開発に向けた理解と合意を形成しなければならない。未来や夢といった「目に見えないもの」を伝えるJAXAの広報戦略を探った。


■広報のターゲットは全国民。まずは存在意義を感じてもらう必要がある

独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)は、宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)が1つになり、航空宇宙分野の基礎研究から開発・利用にいたるまで一貫して担当する機関として2003年に誕生した。「空へ挑み、宇宙を拓く」 というメッセージのもと、人類の平和と幸福に役立てるように宇宙・航空に関する研究開発を行っている。JAXAにとって、自分たちの事業活動を伝えるべき相手、すなわち企業活動で言うところの「カスタマー」は「国民」である。すべての国民に対して、事業の意義や価値を伝えることがJAXAにおける広報の使命だ。「私たちの広報は、国民の皆さんに航空宇宙開発の意義を知っていただくことが目的です。その成果は、企業活動のように売上で出てくるものではありませんから、まずは認知度が指標になります」と語るのは広報部長の舘和夫氏。誕生当初から毎年行っているJAXAという名称の認知度調査では、昨年度に6割まで到達したそうだ。

名称認知に続いて、これからはJAXAの活動内容を認知してもらう段階に入るが、そこには宇宙事業が進んだことによる課題があるという。「今の時代は、宇宙技術が身近で当たり前になりすぎて、むしろ見えにくくなっていると感じています」(舘氏)。以前は、天気予報のたびに気象衛星「ひまわり」の名前がメディアに載り、人工衛星が生活に結びついていることを実感できたが、最近は何故かほとんど触れられない。また、BS/CS放送やGPS等、人工衛星なしでは成立しないサービスが数多くあるにも関わらず、衛星の存在を意識しない利用者が多い。一般生活者に実態が見えづらい宇宙事業が、“いかに暮らしに役立っているか”について伝える必要がある。もちろん、伝え方にも大きな課題があり、“宇宙に関する難解な技術をいかに噛み砕いて表現するか”を常に意識して情報を発信している。

写真:特別公開、子供向けイベント、タウンミーティング、「JAXA's」NO.028、「JAXA's」NO.029
1. 7月30日、31日にJAXA相模原キャンパスで開催された「特別公開」。「はやぶさ」の模型、地表に落下したカプセルをはじめとする展示の数々は、多くの人に最新の宇宙開発の成果を伝えた。
2. 「特別公開」では、JAXA職員が普段から行っている子ども向けイベントも数多く開催された。
3. 地方自治体等と共催されているタウンミーティングの様子。
4. 隔月で発行される機関誌「JAXA's」には、航空宇宙開発における数々のドラマが収められている。(©JAXA)
■メディアへの丁寧な情報発信、国民との直接的対話で理解を深める
写真:舘 和夫氏
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
広報部長 舘 和夫 氏

JAXAの広報活動には、マスメディア等を活用した間接的な広報と、イベントやWeb等、自社メディアを使った広報という2つの柱がある。前者のマスメディアを活用した広報は、事業内容および航空宇宙分野の最新情報を国民の幅広い層に届けるため、定例を含む記者会見、プレスリリース、開発した技術の記者公開等を積極的に行っている。定例記者会見は、原則毎月1回理事長が対応し、トップの顔が見える広報を心掛けている。特筆すべきは、何らかの情報発信を毎日行っていること。昨年度の件数は、プレスリリース216件、記者会見35回(定例会見含まず)、記者公開16回にものぼった。加えて、技術的に難しい内容であれば、別途ブリーフィングや説明会等も記者向けに実施している。「これだけ頻繁に情報発信をしている団体はそんなにないだろうと自負しています。目標は、新聞やテレビに毎日JAXAの活動が出ること。最近では、いろいろなプロジェクトが好転して、ネタが豊富にあることも追い風になっています」(舘氏)。

こういった日々の広報活動には、パブリシティ目的のほか、組織の透明性を確保する効果もあるようだ。「我々は“悪い情報こそすぐに公表する”ことを大切にしています。都合の悪いことを隠すような組織では信頼を得られませんから」。常に最先端の技術を追求するJAXAにとって、失敗もひとつの成果と言える。組織全体に、「マイナスな情報であっても即座に開示する」という姿勢が貫かれているのだ。実際、「はやぶさ」がエンジン停止や通信断絶のトラブルに見舞われた際も、すぐさま情報を開示した。いずれも、回復の見込みが少なからず残されていたにも関わらず、だ。結果的に、柔軟な設計と技術者の機転や努力が功を奏し、「はやぶさ」は数々の困難を乗り越えたわけだが、こういった広報の活動がなければ、我々はミッションの重要性や宇宙技術の進化を知ることはできなかっただろう。

一方、国民への直接的な情報発信の施策で特徴的なのは、双方向性と対話性を重視した理解促進のための活動。具体的には、年間10回以上のペースで地方自治体等との共催によりタウンミーティングを実施し、JAXA役職員と市民の意見交換を行っている。また、教育機関や科学館などの依頼に応じて講師を派遣する活動にも積極的で、こちらは年間400件以上を目標にしている(昨年度実績472件)。JAXA職員はおよそ1600人なので、4人に1人のスタッフが講師を務めている計算になるが、「全スタッフが年1回は講師になることが理想」と舘氏は語る。各プロジェクトのさまざまな担当領域から情報発信することが、JAXAの正しい理解に必要だと考えているのだ。また、JAXAの事業を伝えるWebサイトや子ども向けサイト「JAXAクラブ」(PC・モバイル合計の登録会員数約2万2000人〈6月末現在〉)、機関誌「JAXA's」など自主媒体による情報発信にも積極的だ。これらは、メディアのフィルターを通さず、JAXAの「今」を伝えるのが狙いである。ちなみに、WebサイトのPVは月間平均900万程度で、多い時には1300万から1400万に上る。「はやぶさ」の帰還が話題になった今年6月は3000万PVを記録した。

写真:「JAXA COSMODE PROJECT」のロゴマーク
日食をイメージして作られた「JAXA COSMODE PROJECT」のロゴマーク。(©JAXA)

この他、広報部マターではないが、説明が難しい技術面の訴求に役立つ「JAXA COSMODE PROJECT」がある(産業連携センター管轄)。これは、JAXAと企業との協働による宇宙開発研究から生まれた最先端のアイデアを民生品に転用するプロジェクト。ここから誕生した一般消費者向けの製品には、プロジェクトを象徴するロゴマークが付与される。ロケットの開発過程から生まれた建築用断熱材、特殊塗装によって高い効果を発揮するクーラーボックス等、現在では20件以上付与されている。宇宙技術の開発が人々の生活に役立つものだと知ってもらうため、宇宙技術の副産物をブランド化し認知向上を図っているのだ。これこそ伝えることが難しい技術の「見える化」であり、民間企業におけるBtoBtoC広報にも通じる考え方といえるだろう。

■プロジェクトの成功こそ最大の広報。新たな発言の場を貪欲に探求

JAXAに注目が集まったのは、やはり「はやぶさ」の一件が大きく関与している。多数のメディアで報じられたので、その顛末は割愛するが、これだけ「はやぶさ」が話題になった理由は何だったのだろうか。舘氏に分析をしてもらったところ、「月以外の天体に着陸して帰還するという世界初のミッションを遂げたことと、技術担当者の努力や機転をはじめとする人間ドラマを知ってもらえたことに他ならない」と言う。「はやぶさ」が遂げたミッションが人々の興味を引き、不具合やトラブルもつつみ隠さずリアルタイムに情報を出すことがドラマ性を演出したというわけだ。余談だが、昨年11月にJAXAカレンダーを制作する際、6月のビジュアルに予定していた「はやぶさ」を印刷直前に差し替えてしまったそうだ。「当時の状況から、おそらく帰還できないと判断したのですが、失敗でしたね(笑)」と舘氏。話を戻すが、ミッションとドラマチックなストーリーによる話題づくりというのは、何も航空宇宙開発事業に限った話ではない。あらゆる企業活動に共通する要素なのだから、大いに参考となるだろう。「先端技術であるがゆえに、プロジェクトの成功こそが最大の広報です。だからこそ我々広報は、ミッションの意義や面白さを知ってもらい、その進捗状況を即座に伝えられるよう工夫しています」と舘氏は語る。

これからの広報課題として、第一に、新しいメディアへの対応が欠かせないという。宇宙飛行士の若田光s一氏がブログで、野口聡一氏がツイッターで、宇宙からリアルタイムに情報を発信したことが話題になったが、これらは、最低限のルールのもとで自由に発言してもらっているそうだ。また、プロジェクトごとにツイッターも活用しており、衛星を擬人化してつぶやくといったユニークな手法で多くのフォロワーを獲得している。広報活動でのツイッター活用は難しいと言われるが、話題づくりと認知向上という面で成功事例といえるだろう。

第二の課題は、JAXAの認知度が低い女性に向けた広報である。宇宙飛行士の山崎直子氏を女性誌に取り上げてもらう等、積極的に発信の場を作りだしている。また、マスコミ向けに管制室をオープンするという新しい試みも行っているそうだ。「我々は国民の皆さんの税金を使わせてもらっている団体ですから、その活動を知っていただく義務があります」と舘氏。広報をとりまく現状の変化に対応し、国民の関心を集めやすい方法を考えて、ミッションを伝えることに注力しているのである。航空宇宙開発事業や技術という「見えないもの」「難解なもの」を分かりやすい形に顕在化し、国民に伝え続けるという矜持がJAXA広報の源になっているのだ。

JAXAに学ぶ「未来を伝える広報」3つのポイント
1 伝える機会を自ら創出し、メディアのニーズに応える
2 自組織の透明性確保のためにも、即座に情報開示する姿勢を貫く
3 「未来」「先端技術」の伝道者たる矜持を忘れない

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COLUMN
広報はサービス業である 第2回
個人の顔が見える会社

エンタテインメント系企画集団「指南役」代表・草場 滋さんによる、「おもてなしの心」で企業広報を考えるコラム。

草場 滋(くさば しげる)
エンタテインメント系企画集団「指南役」代表。1995年「ソニー・アート・アーティスト・オーディション」入賞、98年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。著書に『「サービス」をサービス!』(大和書房)、『情報は集めるな!』(マガジンハウス)など。

■個人の顔が見える会社
face to fece

恐らく、今年の流行語大賞は「ツイッター」で決まりだろう。それくらい、今年に入って急激にユーザー数を増やしている。

ツイッターとはインターネットのコミュニティ・サイトのひとつ。ユーザーは140字以内で“つぶやき”を投稿、フォローやフォロワーを通じて互いの投稿を見る。2006年に米国で生まれ、日本では昨年あたりから盛り上がり、今年一気にブレイク。今や国内のユーザー数は約1000万人とも言われる。

そうなると、企業が広報活動に利用しようと考えるのが世の常である。実際、多くの企業が公式アカウントを持ち、広報担当社員が交代でつぶやいている。しかし、個人が些細な日常をつぶやくのがツイッターの本分。企業臭のするつぶやきは浮いてしまいがちで、知名度ほどはフォロワーを増やしていないのが現状である。

■担当者の個性が見えるつぶやき

そんな中、異例の人気を獲得している企業がある。「カトキチ」の冷凍うどんなどでお馴染みのテーブルマーク社である。

同社のアカウント「KATOKICHI」は、昨年暮れの「紅白歌合戦」の放送中、レミオロメンの「粉雪」に合わせて「かとぉぉぉぉぉきちぃぃぃぃ」とつぶやいたところ、爆発的にフォロワーを増やした経緯がある。担当するのは、コーポレートコミュニケーション部の末広栄二部長。異例の人気を誇るのは、ひとえに末広さんのパーソナリティに依る部分が大きい。そのつぶやきは、「おそれいりこだし」などのダジャレを連発する等、およそ企業の堅苦しさとは無縁。ユーザーたちは、そんな末広さんの個性に惹かれ、フォローしているのである。

だが、あくまでその種の例は少数派。多くの企業は無難なつぶやきに終始せざるを得ない。無理もない。企業体が大きくなればなるほど、その顔となる公式アカウントは責任重大。ひとつの失言が命取りともなりかねず、またコンプライアンス的にも、情報漏洩に慎重にならざるを得ない。

■社員全員が広報部隊!?

ところが、面白いことにツイッター先進国のアメリカでは、逆の動きが広がりつつある。ツイッターに代表されるソーシャルメディアを、社員の自主性に任せながら、企業の広報活動に生かそうとする動きである。

米IBM社もそんな企業のひとつ。実は、同社にはツイッターの公式アカウントがない。代わりに「ソーシャル・コンピューティング・ガイドライン」を制定し、積極的に社員にツイッターやブログ等への書き込みを推奨している。

しかも、そのガイドラインは、「実名を使い、身元を明らかにし、あなたがIBMに勤務していることを明示するように」「一人称で語りましょう。自分自身の意見で個性を前面に打ち出し、思っていることを語りましょう」―などと、思いのほか緩い縛りである。

そう、IBM社はソーシャルメディアへの対応は、社員の個性を活かすものと割り切っている。ツイッターは他のコミュニティ・サイトに比べて荒れにくいという側面もあり、社員の“性善説”にかけたのである。

考えてみれば、企業は社員の集合体。顧客と直に接するのは、あくまで生身の社員。企業評価は、意外に1人1人の社員に負う部分が大きい。ならば、積極的に彼らに個性を発揮してもらい、それをプラスに活かすことで、その総体としての企業評価を上げる――考え方は斬新だが、その姿勢は間違ってはいない。

逆転の発想である。

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OPINION
「上から目線」では、“読者の明日”は変えられない
干場 弓子 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン 取締役社長

出版不況が続く中、驚くべき確率で話題のヒット本を量産する出版社がある。「ディスカヴァー・トゥエンティワン」は、今年で創業25周年を迎える、社員40名ほどの小さな会社だ。経済評論家・勝間和代氏を発掘したのもこの会社なら、百数十年前に生きた哲学者・ニーチェの格言集を現代のベストセラーリストに載せたのもこの会社。電子書籍の登場など、出版業界を取り巻く状況が大きく変わる中、この会社が“元気”な理由を、社長の干場氏に伺った。

写真:干場 弓子氏

干場 弓子(ほしば・ゆみこ)
1955年愛知県生まれ。お茶の水女子大学教育学部卒業後、世界文化社に入社。『家庭画報』編集部などを経て、1984年、ディスカヴァー・トゥエンティワンの設立に参画。1985年より現職。勝間和代氏がまだ世に出る前、彼女の個人ブログを見て執筆を依頼。後の〝勝間ブーム〟の仕掛け人となったほか、「婚活」という流行語を生んだ『「婚活」時代』(山田昌弘、白河桃子共著)なども手掛ける。2009年には、電子書籍を販売するサイト「ディスカヴァーデジタルブックストア」をオープンし、業界から注目を集めている。

■世に埋もれた価値を発掘し、読者の明日を変える企画を

最近「なぜ、そんなに売れる本ばかり出せるのですか?」と、あちこちから聞かれます。確かに、うちの発行書籍に増刷がかかる率は、約75%。近年の出版業界全体の平均増刷率が25%くらいだと聞いていますから、かなりいいほうなんでしょう。

でも、出版業って増刷がかからないと利益はほとんど出ません。うちのようなビジネス本中心の出版社が生き残っていくには、本来、このくらいの確率で増刷が出ないとダメだと思っています。

とはいえ、私たちがめざしているのは、ただ「売れればいい」という本ではありません。私たちの想いは「ディスカヴァー・トゥエンティワン」という社名にそのまま表現しています。「あちこちに埋もれている個人や組織の価値を発掘して、世の中に出していこう」という姿勢を、創業以来ずっと貫いてきました。ですから、過去に売れた本の二番煎じ、三番煎じはやらない。出せばある程度は「売れる」のかもしれませんが、そういう企画はうちの会社には合わない。スタッフには、常に「新しい著者」「新しい企画」を見つけてほしいと願っています。

もちろん、隠れた才能や新しい企画が毎回都合よく見つかるわけではありません。じゃあ、どうするか。私たちの名刺には、会社のロゴマークの下にキャッチフレーズが入っています。「視点を変える 明日を変える」。それが答えなんです。既存のものも、ちょっと「視点を変える」と、そこに新しさが見えてくるかもしれません。

また、読者が「自分もやってみようかな」とアクションを起こしたくなるような本なら、それが「明日を変える」きっかけにもなります。私たちが世に送り出したいのは、そういう企画。企画段階では、本が売れるかどうかということより、むしろ「どれだけ世の中にインパクトを与えられるか」のほうが大切だと思っています。

■「しかるべき読者」に出会ってもらうために

私たちは、「本」というパッケージで、世の中に情報を発信するわけですが、情報というのは、その情報を必要としているターゲット、つまり「しかるべき読者」に届かなければ意味がない。情報をターゲットにしっかりと届けるためには、「プロモーション」が大事なんです。私たちが常に気を配っているのは「あるべき書店の、あるべき棚に、あるべき本を」ということ。書店が違えば客層が違いますし、違うコーナーの棚に並べられたら、その情報を必要とする読者に見つけてもらえない。世の中には、内容はすごくおもしろいのに、誰にも見つけてもらえずに消えてゆく本もたくさん存在します。でも、自分たちが作った本がそんな運命をたどったら悲しいじゃないですか。私たちは、自分たちが世に出したすべての本にチャンスを与えたい。だからこそ、ターゲットに「こんな本がありますよ」と気づいてもらえるよう、効果的なプロモーションにも知恵を絞ります。

例えば、以前、経済評論家の勝間和代さんの本を初めて出したとき、最初に話題になったのはネットの世界でした。Amazonのビジネス部門で1位になり、一部の書評ブロガーたちの間で評判になったんです。それで、うちの営業担当者が「Amazonで1位になった本です」と書店さんに営業をかけたのですが、「Amazonでの人気と、現実の書店での売れゆきは別」と言われることが多かったそうです。確かに、当時の業界の常識はその通りでした。でも、私たちは「この本の場合は違う」と確信していたんです。勝間さんの本のターゲットであるビジネスマンやビジネスウーマンたちは、ネットのヘビーユーザーであると同時に、現実の書店のビジネス書コーナーにも足を運ぶ人たちでもあるはず。そこで、ネットでの評判を現実の書店につなぐ作戦として、日本経済新聞に、書評ブロガーたちの推薦コメントを満載した広告を出したんです。書店からの注文が殺到し始めたのは、そのころから。今では、ネット上での書籍の評判は、現実の書店さんも無視できなくなっています。後に私が「社長室ブログ」やツイッターを始めたのも、ネットの世界への情報発信の大切さを痛感したからにほかなりません。

■常に意識するのは、「読者の方を向く」こと
写真:干場 弓子氏

一方で、ブログやツイッターなどが普及するにつれ、個人の情報発信に注目が集まっていますが、私は、広く公に発信する情報には、組織や第三者による「エディトリアル」の大切さを忘れてはならないと思っています。

最近ではどんな企業も「顧客第一主義」を掲げていますよね。それは私たちも同じで、本作りの基本は「読者第一主義」。でも、これを実行するのがなかなか難しい。例えば、ビジネス本が陥りがちなのは「上から目線」。私、個人的に「教えてやるんだ」的なうんちく本って、大嫌い(笑)。読者に対するリスペクトが足りないって思うんです。逆に、読者に迎合しすぎる本というのも、ある意味では「上から目線」ですよね。「こういうの、欲しかったんでしょ」というのは、「上から目線」以外の何物でもない。そういうトーンの調節をするのが、出版社や編集者の役割だと思っています。

ただ、編集者と著者の関係は難しくて、本人たちは気をつけているつもりでも、お客様である読者のことを忘れてしまう場合があるんです。編集者と著者は、本来2人並んで読者に向かい合うべき。でも、一緒に作業していると、編集者は著者に好かれようとして著者の方を向いてしまい、著者も編集者に向かって原稿を書いてしまうようなケースが、かなりの頻度で起こります。これは、本作りに限らず、他の企業でも似たようなことが考えられるのではないでしょうか。チームで作業するときは、お互いがお客様になったらダメ。情報を発信する側は、「コミュニケーションの主体は受け手である」ということを、常に念頭に置いて作業するべきです。

これから先、ソーシャルメディアや電子書籍などがますます普及してくれば、私たちのような出版社はどうなっていくのか、正直、脅威を感じています。でも、ひとつのコンテンツを多くの人に発信するには、エディトリアルとプロモーションの技術は絶対に必要です。ただし、その手段や方法はどんどん変わっていくはず。私たちは、これからも「ディスカヴァー」の精神でチャレンジしていきたいと思っています。(談)

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AD LETTER
サービス広報の要諦

株式会社エヌ・ティ・ティ・アド コミュニケーションプランニング局
PR担当部長 島田実木雄

今号のスペシャルレポートでは、今般話題になったJAXAの小惑星探査機「はやぶさ」に関わる広報活動を取り上げました。これは、言うならばJAXAの行っている(目に見えない)宇宙事業の「存在意義」を、具体的に目に見える「はやぶさ」によって「見える化」している成功事例だと読むことができます。

どんな商材であっても、必要十分な広報をおこなうことの難しさに変わりはありませんが、それがプロダクトかサービスかという点で、その要諦は随分異なるように思います。わがNTTグループもそうですが、サービス(無形商品)と呼ばれる経済価値を提供する事業者の広報活動には、相応に気をつけなければならない点がいくつかあります。

この『目黒発』でも、Vol.19から3回に渡り、広報コンサルタントの石川慶子氏に、サービス広報に固有の勘所について語っていただきました。まず、目に見えないサービスを訴求するときに、新規性、社会性、地域性といった、ある種のフックを活用するという方法について示唆していただきました。特に、「社会性」の重要性について強調されていました。ちなみに前回のこのコーナーでは、わがNTTグループに縁の深い「企業スポーツ」をテーマに取り上げましたが、これも、7月にスペインの初優勝で無事に閉幕したサッカーW杯というスポーツの祭典の「社会性」に乗じた企画だったわけです。次に、ひとつのニュース素材であっても、プレスリリースや記者会見などと「切り口」を変えることで複数回にわたって注視を獲得できるというテクニックが披露されました。最後に、見えないサービスを、広報担当者のみならず、開発担当者、取引先様など様々な「人」によって「見える化」させるという手法を紹介していただきました。

サービスに関するマーケティングや広報戦略は、米国では、1980年代にはじまった産業のサービス化を受け、盛んに研究されるようになりました。我が国でも、今世紀に入りようやく定着してきた感があります。

サービス財の特性は、研究者によって様々な考え方がありますが、代表的には次のものがあげられます。

無形性 形がないので、触ることができない。そのため、五感に訴えるように変換する必要がある。
同時性 提供と消費が、人を通じて同時に実現される。貯蔵ができないため需給管理が重要になる。
変動性 一定の形がないため、サービスが複雑でわかりづらくなりがち。シンプルな表現に収斂する必要がある。

また、プロダクトのマーケティングで言われる「4P」に、サービス財に固有の3つのPを加えて、「サービス・マーケティングの7P」などということが言われます。

表:サービス・マーケティングの7P

サービス産業に従事する読者の皆さんは、自社におけるマーケティングや広報活動について、上の7Pのフレームを用いて再考してみてはいかがでしょうか?

WWFジャパン
(上)WWFジャパン OOH広告 CD+C:小室市太郎 AD:豊島幹夫/台マサトシ D:古川敏史 PL:五月女孝一
(下)話題の新進アーティスト、植村花菜さんのPVを制作

ところで我々NTTアドも、広告という「サービス」を提供する企業のひとつです。そのため上記(1)や(2)は言うに及びませんが、(5)の物的証拠等も、自社がご提供できるパフォーマンスをクライアント各社に伝達するためには、殊の外重要になってきます。具体的には、各種の広告賞の受賞もこれにあたるかもしれません。当社では、『目黒発』Vol.23でもご紹介しました当社のCSR活動の一環として制作・出稿させていただいたWWFジャパン様のOOH広告が、「2010ニューヨークフェスティバル Outdoor/Env.Issues部門 ファイナリスト」に選出されましたことを、この場をお借りしてご報告させていただきます。

また、(4)の自社プロモーションの手法として、新しい広告手法を用いたサンプルの作成とご提案等も重要になります。当社では、「トイレの神様」をヒットさせた新進アーティスト植村花菜さんの「猪名川(いながわ)」のプロモーション映像を、関係者の全面的なご協力により3Dでサンプル制作いたしました。加えて、今般話題のAR(拡張現実)のプロモーション用サンプルを作成し社内で報告会を実施するなどし、新たな手法の開拓とノウハウの獲得に日夜努力しています。無論、この『目黒発』も、わが社の大切なプロモーション・メディアのひとつです。

当社は今後とも、クライアント各社様をはじめとした多様なステークホルダーの皆様に対して、より充実したコミュニケーションを続けていきたいと考えております。

このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第29号(2010年8月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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