調査・研究/発行物

目黒発 vol.27

SPECIAL REPORT
いま改めて問う、企業広報誌の使命
[株式会社資生堂のケース]
COLUMN
映画で学ぶ広報・コミュニケーション力 第6回
危機管理広報の表と裏
OPINION
一瞬で、一億人に伝える技術。
福士 睦 日本テレビバラエティー局チーフ・クリエイター
AD LETTER
グループ経営におけるナレッジマネジメント
SPECIAL REPORT
いま改めて問う、企業広報誌の使命
自社のコアコンピタンスとの親和性を意識した情報発信こそ、
企業広報誌の最大の使命
-株式会社資生堂のケース-

昨今の経済状況を反映して、広報誌を見直す企業が相次いでいる。廃止や縮小、web化などコスト削減のあおりをもろに受けているのが実状だ。しかし、こうした環境下でも紙メディアでの発行を絶やさない企業も少なくない。業界の老舗であったり、企業文化に広報誌が根付いていたりというケースが多く、それは同時に、今も広報誌がその企業を伝える重要な役割を担う証でもある。〈広報誌、冬の時代〉ともいえる現在、求められる役割や使命とはどのようなものだろうか。歴史と実績で企業広報誌のリーダー的存在ともいえる資生堂『花椿』から〈広報誌のいま〉を探ってみた。

■時代に迎合せず企業文化を伝え続ける
写真:『花椿』
『花椿』の前身、『資生堂月報』と『花椿』。

資生堂の『花椿』は、化粧品の愛用者会員組織向けの月刊広報誌として1937(昭和12)年に創刊された。当時から海外情報を含めた美容・ファッションの最新事情や時代を代表する作家の作品を掲載し、常に新しい話題を提供してきた。前身は、化粧品業界で最初の広報誌とされている1923(大正12)年創刊の『資生堂月報』で、写真技術の発達に伴い『資生堂グラフ』へ発展、それから『花椿』に至る道筋だ。戦時中10年間の休刊はあったものの、終戦後間もない1950(昭和25)年には復刊。「唇の描き方」を大々的に紹介するなど、新しい時代の美にこだわる姿勢を貫く。その後、1960年代から70年代初頭には、最も多い時で月刊655万部を発行、「花椿」輸送専用の貨物列車が手配されたという。日本の女性の多くが目にする媒体となり、認知を広げた。2010年の4月号(3月発売)で通巻718号を数える企業広報誌の老舗のひとつである。

昨年4月から編集長を務める上岡典彦氏は、長らく広報部に在籍し、コーポレートコミュニケーションの最前線を経験してきた。上岡氏は、資生堂における『花椿』の役割を次のように解説する。「広報誌には大きく2つの役割があると思います。ひとつは、純粋な企業の情報発信ツール。商品や事業活動を社会に伝える働きです。もうひとつは、そのような商品や事業を生み出す企業の考え方や企業文化といったものを伝える働きで、『花椿』は後者の役割を担っています」

同誌の特性に大きな変化があったのは80年代半ば。資生堂の商品情報をまとめた『ビューティーブック』が定期的に配布されるようになって、棲み分けのために商品情報の掲載を控えはじめた。さらに当時、ファッション情報を扱う女性誌の創刊が相次ぎ、カルチャー情報中心へとシフトする。発行部数も見直しを重ね、現在は月刊約5万部に落ち着いた。外部環境が大きく変化し、内容も企業活動の情報発信というより「現在は企業文化誌として位置付けている」(上岡氏)と進化したが、一貫してきたのは、「時代を意識しているが、時代を追いかけない」という編集方針だという。流行を取り上げるという視点を持たずに、「『花椿』がおもしろいと思うもの、美しいと思う確かなものを一貫して訴求している」(上岡氏)。

美意識や価値観という目に見えないものでコミュニケーションを行うことは非常に難しい。このため資生堂は、それらを専門とする部署である企業文化部を20年前に設置した。『花椿』のほか、銀座の「資生堂ギャラリー」や掛川の「資生堂企業資料館」の運営など、文化発信やメセナ活動などを担当している。一般的に人・物・金が企業のリソースだが、同社は「文化」を第四の経営資源と位置付けているのだ。自社の商材「化粧品」に付随する、形では表現できない美の文化。それを追究する企業姿勢と伝統があり、自社の風土と個性を創り出している。自社の核となる企業文化を担う部署があり、資生堂の“心の部分”を伝えるコミュニケーションが成立しているのである。

■真摯に情報を発信し続けることで、還流してくる“何か”が生まれる
写真:『よむ花椿』、『みる花椿』
2007年から、文学中心の『よむ花椿』と、ビジュアル中心の『みる花椿』を交代で発行。

企業からの一方的な情報発信では届きにくいうえに、雑誌離れという問題も広報誌の存続に影響を与えている。こうした近年の環境変化に対する施策として、『花椿』は、2007年7月号から、奇数月号が写真などビジュアル表現に重点を置いた『みる花椿』へ、偶数月は言葉の力を追求した『よむ花椿』へとリニューアルした。雑誌を構成する「読む」と「見る」という2つの側面を敢えて因数分解するという一般商業誌には難しい大胆な方針で、新しいコミュニケーションの創出を狙っている。

こうした「時代を意識」した変革を取り入れる一方で、「時代を追いかけない」という代々の編集方針を引き継ぐ。もちろん読者の声も大切にするが、それに左右されるのではなく、客観的意見として聞いたうえで、最終的には「資生堂という会社が何を伝えたいのか、自分たちは何を作りたいのか」(上岡氏)にこだわる姿勢は不変だそうだ。

たとえば、広報誌をweb化する企業も多い中で、『花椿』は紙媒体にこだわる。紙ならではのメリットがあるからだという。『花椿』の使命は、資生堂の美意識を伝えることにあり、その意味では現状、webよりも紙の方が、媒体としてビジュアルを見せるのに優れていると判断している。解像度、発色、サイズといった視覚効果の面でも、手ざわり、めくるという行為などが持つ体験の面でも、紙媒体はまだ大きなアドバンテージを持っているという認識である。

予算を度外視しても、良いもの、美しいものを、という訳ではない。そこには「伝えたいこと」と「伝えるための手法」をコスト・効果など様々な側面から検証しバランスをとる姿勢がある。

「たとえば、伝えたいことを伝えるために、webは紙よりも3割効果が落ちるけれど、コストが半分なら移行するという判断はあると思います。しかし、現在、私たちは、“誌面で伝えられる豊かさ”を選んでいます。視覚的にはもちろん、紙の手ざわりや香りなど五感を刺激することを大切に考えたいと思います」(上岡氏)。

紙で伝えられることがすべてできるような新しいメディアが誕生して、コスト的にも安いとなれば企業としては選ぶべきだが、掲載しているコンテンツを考えると、現状では紙媒体が最も適しているというわけだ。

広報誌を続けるか否か、webに移行するか否かを、コストや反響に照らし合わせて議論しているわけではない。資生堂という企業が、自社の哲学や美意識、価値観といったものを、どう考えて、いかに伝えていくべきかが『花椿』の根底にある。広報誌によって、企業が文化を作り出し、伝えていくことを意義としているのが資生堂なのである。

その意味で、資生堂『花椿』は日本企業の広報誌のリーダー的存在だが、その歴史と伝統から受け継がれた企業文化を、他の企業がそのまま参考にするのは難しいだろう。事実、現在の『花椿』は化粧品販売店での無料頒布に加えて、書店でも販売される(1部100円)文化情報系の雑誌としてもカテゴライズされている。とはいえ、企業文化は、色は違えどすべての企業が共通に日々蓄積しているものであり、先行する資生堂の企業文化モデルとその発信姿勢から学ぶべきだろう。企業が文化と積極的に関わることの意味はどこにあるかを尋ねてみたところ、「企業が芸術文化と関係することによって多くの作家や作品と出会うことができ、そこから新たな刺激と価値観を企業の中に取り込むことができます。資生堂の企業文化部には、企業文化の伝承、発信、還流という3つの使命がある」という答えだった。還流には、社外に発信した文化も、必ず社内に還元されてくるという意味も含まれている。目先の効果が出ないから広報誌をやめるのではなく、一時的にはビジネスにはならないかもしれないが、続けることで還流してくるものがあるというのだ。「編集長になってから、多くの人から『花椿』への感想・思いを耳にするようになりました。それは具体的に目に見える効果ではありませんが、きっと心の中では『花椿』を通じて、資生堂という企業のイメージが形づくられています。それが一番の財産」と上岡氏は語る。

また、2007年のリニューアルによって、『よむ花椿』に40代以上の男性読者が増えるという意図しない成果も返ってきた。本業だけではなかなか出会えない人々と出会える結果となったのである。「真摯に続けていくことで、自分たちも気付かずに生み出されているものがあります。それをしっかり検証したいと思います」

■社内にファンがいなければ、一体感ある情報発信はできない
写真:上岡 典彦氏
上岡 典彦氏
資生堂企業文化部 花椿 編集長

理想的な広報誌に思える『花椿』だが、課題もある。そのひとつが、インナーコミュニケーションとしての位置付けである。広報誌の宿命でどうしても外部向けの内容になりがちだが、社内からの関心をもっと高めるために、本社内のカフェテリアに設置したり、イントラネットで発売とともに内容を告知したりという試みを行っている。「『花椿』にとっては社員も重要な読者です。今後の課題としては、編集方針のベクトルを資生堂の企業活動と関連づけ、社内からも一層興味を持ってもらえるような誌面にしていきたいと思います」(上岡氏)

資生堂の広報誌であるからこそ、社内にファンを作っていくことも大事であり、社員がその広報誌を更に誇りに思ってくれるような媒体にすることが、理想的な姿というわけである。

最後に、企業広報誌の担当者に向けたアドバイスを上岡氏に伺ったところ、「編集長になって日が浅いので、大変おこがましいですが」と前置きしたうえで、次のようにコメントしてくれた。「広報誌の役割は今後益々重要になると思います。個人に置き換えると、自分の考え方や思いを大切な人に伝えるための手段ですから。その媒体に関わっていることは、大切な職務を任されていると思うべきです。広報誌の役目のひとつである情報を伝えるのはとても大事なことですが、それを生みだす、企業の哲学や志、美意識というものもあわせて伝えられるようにすべきだと考えます」

トップ企業に学ぶ「広報誌によるコミュニケーション」4つのポイント
1 自社のコアに直結するコンセプトを親和性の高いメディアにのせる
2 時代や読者の声に振り回されずに、自社の思いを発信する
3 商材やサービスだけでは出会えない人々とのコミュニケーションを図る
4 目先の効果を狙うのではなく、伝え続けることが結果的にブランディングとなる

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『宣戦布告』
2002年 日本 古谷一行 夏八木勲 杉本哲太 夏木マリ 佐藤慶 財津一郎

国家の危機管理をテーマとした映画を題材に、広報機能の中で最も重要な分野である、クライシス・コミュニケーション(危機管理広報)について考えてみましょう。

写真:石川 慶子氏

石川 慶子(いしかわ けいこ)
広報コンサルタント。有限会社シン代表。映画製作会社、PR会社を経て独立。企業広報支援の他、自治体や学校にもメディアトレーニングなどのサービスを提供。

■法律が全てだと思ってはいけない

この作品は、作家麻生幾の同名のベストセラー小説(1998年発表)をベースに映画化されたものです。映画は、自衛隊の治安出動における武器使用の問題点と国家の危機管理のあり方を描いたポリティカルアクションとなっています。実は、私が個人的にこの映画の製作と関わり、その経験が私の危機管理広報意識を強く意識するきっかけともなりました。

クライシス・コミュニケーションの視点から映画を分析してみましょう。ここでは三つの視点から失敗しがちなポイントについて考えます。まずは、守るべきものを見失う失敗。マスコミへの発表方法について議論する中で、首相は内閣の維持にこだわります。マスコミからの批判や人々からのイメージを重視するあまり、守るべきもの(=国民の生命と財産)が見えない。

二番目が、被害者意識を持つ失敗。テレビで内閣批判が起きると、自分は運が悪いといったことをつぶやく。緊急事態が起こると当事者は知らず知らずのうちに被害者意識を持ってしまいがちです。この意識が強すぎると「私たちは被害者だ」「私は寝ていないんだ」などと失言してしまうことにつながります。

三つ目は法律が全てだと思ってしまう失敗。人の命を救うためには法律を守っていられないこともあります。たとえ、絶対に正しいという信念があったとしても法律を破ってまで行動するには勇気が必要でしょう。リーダーにはそのような勇気が求められます。やみくもに法律に従う姿勢は、社会的感覚を重んずる世論やマスコミから猛反発を受けることになるのです。

これらの失敗は、突き詰めると自分の使命への認識と覚悟の気持ちが不足していることから起きるように見えます。

■裏情報の収集も怠らない
表では「覚悟」、裏では地道な情報収集が危機突破の肝

ミサイルが東京に打ち込まれる情報が官邸に入ると混乱は極限状態に。閣僚や官僚の意見が飛び交う中、自分の使命を自覚した諸橋首相は覚悟を決めてある決断をする。と同時に、裏の情報戦略も功を奏する。

危機管理においては情報の出し方が命運を分けるが故に情報のプロとしての広報担当者の役回りは重要です。小泉元首相は、歴代政権の中でも際立って広報的なイメージ戦略に成功しました。ところが、後継の政権では危機が続発。小泉政権時の元首相秘書官 飯島氏は、宣伝的・演出的広報ばかりで危機管理が脆弱と指摘。官邸の広報の役目として、閣僚のスキャンダル情報を事前に掴み、露呈する前に対応策を打っておくことが重要である旨をメディアで語っています。企業においても、ある大手素材メーカーの広報室長は、リスク マネジメントの観点から、社会部記者との付き合いを大事にしています。

作家の佐藤優氏は、新聞報道を切り抜いて上司に渡すことはすでにインテリジェンスである、これに本人や関係者のコメントを加えればさらに質の高いものとなる、と述べています(2007年文藝春秋7月号)。これはまさに私たちが日々行っていることではありませんか。ある大手食品メーカーの広報責任者も、情報収集センターとしての役割が重要であると公言しています。情報の価値を選別するインテリジェンス力を磨くことは広報力の強さにもつながるのです。

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OPINION
一瞬で、一億人に伝える技術。
福士 睦 日本テレビバラエティー局チーフ・クリエイター

2004年にスタートした日本テレビの「世界一受けたい授業」は、バラエティー番組というジャンルに、画期的な変革をもたらし、人気を博した。番組で紹介されるのは、世界情勢や環境問題、最新の科学や医療など。ニュースやドキュメンタリーのジャンルで取り上げられることはあっても、エンターテインメントとして扱われることは少なかったまじめなテーマばかりだ。この番組を立ち上げから企画した福士さんに、その“発想の原点”を伺ってみた。

写真:福士 睦氏

福士 睦(ふくし・あつし)
1969年青森県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本テレビに入社。「踊る!さんま御殿!!」「世界まる見え!テレビ特捜部」などのプロデュース、「24時間テレビ」「笑福亭鶴瓶のワンショット」などの総合演出を手掛けるなど、数々の人気番組を生み出してきたヒットメーカー。中でも、2004年にスタートした「世界一受けたい授業」は、現在も高視聴率をキープ。日本PTA全国協議会が選ぶ「子どもに見せたいテレビ番組」では、2007年から3年連続No.1に選出されている。著書に『1億人を動かす技術』(ダイヤモンド社)など。

■1億人を相手にするには面白くなければ伝わらない

「世界一受けたい授業」の企画を思いついたのは、6~7年前のこと。ネタ探しに書店を回っていたら、目に留まったのが新書コーナーでした。新書といえば、政治経済や環境問題など、アカデミックな内容がテーマですが、立ち読みをしていたのは、サラリーマンや学生ではなく、主婦だったんです。当時は養老孟司さんの『バカの壁』が大ベストセラーになって、「新書ブーム」などと言われていた時期。「主婦もこういう堅い内容の本を読みたいんだ」と驚いたと同時に、「世の中の多くの人は、もっと〝学びたい〟と思っているのではないか」ということに気がついたのです。ちょうど、資格取得の通信講座やカルチャースクールが人気を集めていたのも気になっていました。そこで、当時のバラエティー番組に欠けていた〝勉強〟という要素を、どうにか して盛り込めないかと思ったのです。

僕のようにテレビに携わる人間が企画を考えるときは、まず「いかにして最多数の人間に興味を持ってもらえるか」ということからスタートします。言いかえれば、「一瞬にして一億人を魅了するにはどうしたらいいか」ということ。 〝勉強〟というお堅いーマを盛り込むとはいえ、多くの人を相手にするときの原則は「楽しくなければ伝わらない」。そこで僕らは、エデュケーションとエンターテインメントを、どうやってミックスするかを考えるわけです。

〝授業〟というスタイルを取ったのは、単純な思いつきから。「勉強は、まず学校の〝授業〟で習ったな」と。しかも、小学生以上の日本人なら、授業を受けたことがない人は、まずいない。多くの人に訴えるには、格好のスタイルです。じゃあ「面白い授業」とは、どんな授業だったか。「あの先生の授業は面白かった」と今も思い出せるような、上手な授業をする先生、いましたよね。資料やビジュアルに工夫をしてくれるとか、わかりやすいたとえ話やゲームを盛り込むなど、聞く人を退屈させない。話すときの抑揚や、身ぶり手ぶりなどにも、引き込まれる要素があったはず。「伝え方が上手い」とは、つまり、そういう小さな工夫が盛りだくさんだということなんですよね。僕らは、これまでにたくさんのバラエティー番組を作ってきた経験から、「伝え方」に関してはある程度の自信がありました。ですから、講師に迎える先生が、テレビカメラや〝授業〟という形式に慣れていなくても、僕らが演出することで、「面白い授業」にすることはきっと可能だろう、と。問題は、誰を講師に迎え、何を語っていただくかです。

■番組を〝ブランド〟として認識してもらう

「世界一受けたい授業」が話題になった要因のひとつは、かなり早い時期に、旧ソビエト指導者のゴルバチョフ氏や、野球の松井秀喜選手など、世界的VIPが講師として出演してくださったことです。実はこれ、作戦なんです。「世界一受けたい授業」という番組を〝ブランド化〟したかった。視聴者に「世界レベルで活躍する一流の先生が、授業をしてくれる番組」という強烈なイメージを与えることはもちろんですが、将来的にさまざまな業界で活躍する方に講師役を依頼するうえでも、効果的でした。実際、普段テレビとは縁のない方に講師をお願いすることも少なくないのですが、ご本人が番組をご存じの場合は、話がとてもスムーズでした。

テーマを何にするかは、僕らも必死で勉強しながら考えています。常に念頭にあるのは、「視聴者をナメてはいけない」ということ。視聴者は、僕らが考えているよりずっと賢い。情報の内容や正確さはもちろんですが、中身が薄ければとたんに見透かされます。逆に、中身さえしっかりと見せることができれば、普通バラエティーでは受け入れてもらいにくい映像なども、視聴者はしっかりと受け止めてくれる。たとえば、以前、養老孟司さんを講師に招いて、人体をテーマに講義をしてもらったことがあるんですが、そこに「プラスティネーション標本」(人体の水分と脂肪分を樹脂に置き換えて作られた標本)を登場させたんです。ゴールデンタイムのテレビ番組で、生々しい人体標本を見せるなんて、正直不安でした。でも、オンエア後の反応は意外とよかった。映像だけ抜き出してみれば、グロテスクだったかもしれませんが、視聴者はそんなに馬鹿じゃない。「人間の命について考える」という流れの中で、きちんと受け止めてくれたんです。

■やわらかくすることは簡単にすることとは違う
写真:福士 睦氏

もちろん、エンターテインメントであるからには、「難しいことをやわらかく見せる」工夫はします。「やわらかくする」というと、「簡単にする」のだと思われがちですが、実際はまったく違います。難しい内容そのものは、そのまま伝えたい。ただ、伝え方に工夫をするんです。言葉の選び方ひとつにしても、専門用語を使わない、キーワードに焦点を当てる、情報の順番を考えるなど、伝えたい内容を理解してもらえるよう、徹底的に工夫をしています。なかでも、僕が個人的に「やわらかくする」のに一番重要だと思っているのは、番組全体の流れに抑揚をつくること。まじめなことを真剣に伝えようと思ったら、ユーモアが必要なんです。先生の説明を何分も続けるのではなく、間にタレントさんのおもしろいしゃべりや、音楽つきのナレーションやCGを挟む。そんな楽しい雰囲気の流れがあるからこそ、伝えたいことの核心にくると、心にズシンとくるような重みを与えられる。いわば、緩急の使い分けですよね。

番組がスタートして5年経ちますが、その間にたくさんの反響をいただきました。番組のブランドもずいぶん認知されるようになって、最近では地方自治体の方が関心をもってくださるなど、番組の枠を超えた展開にも、可能性が出てきました。最近は、ネット上の映像配信や、DVDコンテンツの拡大で、テレビのバラエティー番組も、「あと数年で何割減るか」などといわれています。確かに、テレビはひと昔前のような絶対的な影響力を持てなくなったかもしれません。でも、僕はまだテレビにも、テレビならではの求心力が残っていると思っています。だからこそ、送り手としての「伝える技術」は日々磨いていきたいし、これからもさまざまな方法を試してみたいと思っています。

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グループ経営におけるナレッジマネジメント

株式会社エヌ・ティ・ティ・アド コミュニケーションプランニング局
PR担当部長 島田実木雄

写真:セミナーの模様
(上)書籍「三低主義」や弊社刊行物等、
会場での配布物。
(下)筆者による「不当表示」をテーマにしたセミナーの模様。

企業の大規模化が進むと、単独企業体として運営を続けるよりも、事業領域毎に会社を分割し「企業グループ化」するほうが合理的・効率的な場合があります。このような考え方から、研究・開発・生産・流通・販売等といった機能毎に事業領域を切り出して分社化していく例は、日本の企業に多く見られます。その構造特性から「垂直型グループ企業」と呼ぶことができます。

他方欧米では、M&A等で吸収・合併を繰り返して企業規模を拡大するという「水平型グループ企業」が多いようです。多様な事業会社を自社グループに取り込んでいくことにより、グループ総体でリスクを分散化するとともに機会を最大化することがその狙いです。酒類・ファッション・ウォッチ・ジュエリー等多角的な事業領域で60を超える高級ブランドを展開している「LVMHグループ(モエ へネシー・ルイ ヴィトン)」がその典型例でしょう。

ただし邦人グループ企業でも、グローバル市場において活発に事業展開している場合は、世界各地に現地法人を設立し、垂直・水平のミックス型のグループ経営を行う例がほとんどですし、金融をはじめ様々な業界で市場での生き残りをかけた合従連衡が進み、複雑にミックスされた企業グループ群が次々と形成されています。

ところで、どのようなグループであっても、更なる発展を狙う事業領域の模索・拡大という「遠心的な活動」と、グループ企業群の統一的なアイデンティティの保持・強化といった「求心的な活動」の両立が肝心ですし、また難しいところだと言われています。放っておくと一体感が損なわれてゆきがちな企業集団を束ね、企業哲学等を共有する営みは、今後一層重要になるでしょう。また、「グループ・ナレッジマネジメント」を導入することで、ベストプラクティスや失敗事例の共有、市場トレンド研究や情報共有といった取り組みが求められるところです。我々NTTグループもテレコミュニケーション領域を主軸としながらも多角的に事業展開しており、多彩な企業群から構成されています。そのため、グループ内の統一感の保持や情報共有といった点はとりわけ重要な課題の一つと言えます。

この課題解決に関して弊社の役割を果たすべく、グループ各社の広報・宣伝等に関わるご担当者にご参集頂き、情報共有や意見交換の場を提供している施策が「グループ会社広報連絡会」です。各界の有識者や弊社の専門家等によるセミナーと、参加者による意見交換会をあわせた催しとして継続実施しております。去る2010年2月23日、今年で第8回を迎えるこのイベントを東京コンファレンスセンター(品川)にて3部構成で実施しました。

まず第1部は、昨今、広報・宣伝ご担当者からの関心が一層高まっている不当表示の問題に関し、筆者が「転ばぬ先の杖 ~不当表示撲滅のために~」と題してセミナー形式でお話しさせて頂きました。具体的には、前半が広告表示関連法規のあらましや表示違反行為に関するご説明を、後半では、近年警告や注意を受けた各界の表示違反事例や当社が直接取り扱った表示関連事案等、計21事例をご紹介し解説いたしました。

三浦 展氏による「三低主義」をテーマにした講演の模様
三浦 展氏による「三低主義」をテーマにした講演の模様。

第2部は、先日、弊社グループ企業の一つであるNTT出版より『三低主義(三浦 展、隈 研吾 共著)』が発行されたことを記念して、共著者のお一人である三浦展氏(株式会社カルチャースタディーズ研究所)をお招きし、「現代日本の都市の現状『三低主義』」と題する講演を開催いたしました。概要としては、まず、昨今の若者に好まれる人柄の特徴としての「三低な人(=低姿勢・低依存・低リスク)」を取り上げ、経済低成長時代の人間関係の在り様について解説して頂き、続けて「シェアするとケア(助け合い)になる」というキーワードをあげ、特に若者層に顕著な時代意識の変化について、具体事例を交えて自由闊達に語って頂きました。最後に、「NTTグループは、国民がその企業価値をシェアする企業であるはず。今後も、シェアしケアしあうコミュニティ創造を支援する企業であってほしい」とのご提言を頂き、大盛況の内に 幕を閉じました。

その後、第3部として会場を移して意見交換会を催し、NTTグループ企業間の情報共有・意見交換の場として大いに語り合って頂く貴重な時間を持つことができました。

当社は今後とも、クライアント各社様をはじめとした多様なステークホルダーの皆様に対して、より充実したコミュニケーションを続けていきたいと考えております。

このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第27号(2010年3月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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