調査・研究/発行物

目黒発 vol.23

SPECIAL REPORT
Web広報で、いま何を伝えるべきか
[富士フイルムホールディングス株式会社・大和ハウス工業株式会社のケース]

COLUMN
映画で学ぶ広報・コミュニケーション力 第2回
対立軸を立てて注目度を高める

OPINION
町中を「ゲームのある風景」に変えていきたい。
米光 一成 ゲームデザイナー、ライター、立命館大学教授

AD LETTER
環境問題に取り組むという一点で心がひとつに。
CSR活動の一環として、NTTアドがWWFジャパン様のOOH広告およびバナー広告を制作。

OUR FINDER
Web広報の巧拙

Web広報で、いま何を伝えるべきか
いかなる状況であっても「伝える姿勢」と「伝わる工夫」を欠かさないことがWebコミュニケーション
-富士フイルムホールディングス株式会社・大和ハウス工業株式会社のケース-


「Web広報」や「Webマーケティング」が常識化し、企業サイトには質量ともに充実した情報が求められている。 しかしながら表現手法に頼ったり、内容が形式化した企業サイトも少なくない。 インターネットが企業活動のあらゆる面に連関するメディアへと成長した今こそ、企業は何を伝えるべきか改めて検討すべきではないだろうか。 今号では、先進企業の事例を通じて「Web広報」への考え方や自社サイトに込める思いや工夫といった具体事例を検証してみる。

■訴訟への反論でサイト開設。逆境と戦ってきたWeb戦略

富士フイルムホールディングスのコーポレートサイト
富士フイルムホールディングスのコーポレートサイト

デジタル化の波によって大きく影響を受けた製品ジャンルは数多くあるが、その代表ともいえるのが写真フィルムであろう。デジタルカメラの普及により業界では市場撤退や業務縮小が相次ぎ、国内トップシェアを誇っていた富士フイルム株式会社(当時は、富士写真フイルム株式会社)も、2000年代に入ってから同事業の縮小を余儀なくされた。もともと同社は、世界初のデジタルX線画像診断システムや、メモリーカードに画像を記録するデジタルカメラを世界で初めて開発するなど、デジタル化への対応を積極的に図ってきた。基幹事業がシュリンクするという危機的状況を前に、写真フィルム事業によって培われたさまざまな技術を融合して生まれた液晶ディスプレイ材料や医療機器、化粧品などの成長分野へ事業領域を大きくシフトさせた。この構造改革、経営改革を加速させるために2006年に持株会社制へ移行、富士フイルムホールディングスの傘下に事業会社の富士フイルム株式会社を擁する体制となった。社名から「写真」の2文字が消え、富士フイルムグループはまさに「第二の創業」を推進している最中である。そこで大きく変貌した企業活動を広くステークホルダーに告知すべく、昨年秋にグループのコーポレートサイトを全面リニューアル。新たなWebコミュニケーションを通じて「第二の創業」をアピールしている。

リニューアルでは、まず持株会社のサイトでIR情報などの基本コンテンツを充実させた。CSRやR&Dの取り組みは事業会社のコンテンツと連携して、グループ全体のパフォーマンスやシナジーを伝えている。またサイト全ページで株価情報を表示したり、アクセスの多いページやサイト内検索キーワードのランキングを掲出するといったユーティリティ機能の強化により、利便性の面においてもユーザーからの高評価を獲得している。

グループのWeb広報への基本的な考えは、「企業としてあるべきメッセージを発信する“フェア・ディスクローズ”にあります。これはコーポレートサイト開設時から変わっていません」と富士フイルム・インターネット室の安東豊担当課長は語る。同社のコーポレートサイトは、1995年に開設されているが、元々その内容は、米コダック社の提訴に対する反論を全世界に向けて発信するというものであった。そのため自分達の思いや考えを積極的に発言する場として、サイトを活用する土壌が生まれたのである。開設時の思いを忘れないよう今も当時の反論ページをサイトに掲載し「発言する場」という風土を根付かせている。

企業サイトが次々に生まれた90年代末から2000年代初頭にかけては、会社案内を焼き直したようなコーポレートサイトが多数存在した。富士フイルムでも各事業部が独自にコンテンツを制作し、ガバナンス不在のままサイトが肥大化する傾向にあった。本格的にWebサイトが整備されはじめたのは、03年以降のこと。経営環境が変わり、同時にネットインフラの整備などでコミュニケーション環境も変化したことで、Webサイトを重用するようになったという。当時のコミュニケーション課題として、写真フィルム市場の縮小に伴う事業領域やブランドイメージの変化、BtoCからBtoB中心への移行といった大きな問題を既にいくつも抱えていた。その際に練られた戦略が、現在展開されているWebコミュニケーションの軸となっている。現・富士フイルム株式会社サイトで、ユーザー視点を意識したワンストップ型の総合サイトである『fujifilm.jp』も、このタイミングで公開されている。

■Webの情報から、立体的広報戦略が生まれる

特設サイト『世界は、ひとつずつ変えることができる。』
特設サイト『世界は、ひとつずつ変えることができる。』では、富士フイルムの多様な事業領域を確認できる。

04年の組織改変において、それまで宣伝部のなかにあったサイト担当部門は、社長直轄のインターネット室という部署に独立した。「これによって、Webガバナンスと予算管理ができるようになり、Webサイトに求められるものが何かを考えやすいセクションとなりました。ユーザー視点で発想することが可能になったと思います」と安東氏。メディア対応を重視する広報部門、マス広告やキャンペーン情報主体の宣伝部門、それぞれと必要な連携は取りつつも、独立したニュートラルなポジションであるがゆえに、全体最適を意識した柔軟かつ客観的な対応ができるようになったという。IRやCSRの紙レポートの焼き直しではなく、より詳細な情報をサイト上で積極的に適時開示するなど、Webを活用したトータルコミュニケーションを強く意識する体制となったのである。

また中立であるがゆえに、Webサイトを「一気通貫のメディア」に変えることができたと安東氏は振り返る。「全社的な情報を発信するには、いかに取りまとめるかが課題になります。恐らくどこかの部門に属していては何も決められないでしょう。あくまでもWebコミュニケーションは、セクショナリズムではなく、徹底したユーザー視点という横串を通して情報を伝えるべきだと思っています」。こうした考えのもとで立体的なコミュニケーションを展開していることが、同社のWebサイトの特徴へとつながっている。たとえば医療分野に関するコミュニケーションひとつをとっても、企業買収によるメディカル分野の強化をIR情報として、医療の質の向上やピンクリボン活動などの社会貢献をCSR情報として、新しい技術シナジーの創出をR&D情報として伝え、ユーザーがひとつの情報をあらゆる側面から享受できる仕組みとなっている。すべてのステークホルダーを意識した「多角的視点」を持つことで、豊富なコンテンツの提供に成功していると言えよう。

立体的にプレゼンテーションするための工夫として、ページ右に表示されるサイト内リンク集がある。たとえばデジタルカメラの情報を閲覧するために訪れたユーザーを、バックグラウンドとなる技術情報へ、あるいはデジタルカメラをもっと楽しむための撮影情報へと誘導する。ユーザーの思考をシミュレーションして「シナリオ化」することで、CSR、IR、R&Dといった異なるフェーズの情報を戦略的に回遊させる仕掛けだ。

■「川上から情報をつかむ」意識が、Web発想のスタートライン

写真:安東 豊氏
富士フイルム インターネット室 安東豊氏

Webサイト開設時の逆境を忘れない…。 富士フイルムグループのWebコミュニケーションは、今なお社会への理解促進を原点として 構築されている。幾多の荒波を越えて醸成されたこうした戦略を、一朝一夕には真似できないが、いかなる危機的状況にあっても伝えるべきことを伝え、自社の考えを社会に理解してもらうといった強い意志と姿勢からは学ぶべき点が多い。写真フィルム中心の事業構造から、メディカル・ライフサイエンスなどの新規成長事業への重点シフトをはじめとする抜本的な経営改革を展開する際も、社員一人ひとりが会社の進むべき方向性を理解し、これまでの意識や仕事のやり方を変え一丸となって課題に取り組めるよう、イントラWebによる情報発信をインナーコミュニケーション施策の中軸に据えた。伝えることの力を十分に理解し、社内外に一貫して伝える体制が整っているからこそ、効果的なコンテンツが豊富に生まれてくるのだろう。伝えることの力を十分に理解しているから、効果的なコンテンツが豊富に生まれてくるのだろう。

コーポレートサイトは「企業の顔」という考え方も、富士フイルムグループにはある。あらゆるステークホルダーと絆を形成することを目的に、徹底したユーザー視点により企業メッセージを発信している。Webコミュニケーションを再構築しようとするならば、まずインターネットというメディアに対する価値観を社内に醸成することが不可欠であろう。何故なら、たとえ自社の事業領域がBtoB中心であろうとBtoC中心であろうと、Webサイトはすべてのステークホルダーに向けて一気通貫して伝えることのできる唯一の自社メディアであることを認識する、ここがスタートラインであるからだ。

-大和ハウス工業株式会社のケース-

■ユーザーを取り込み、信頼醸成のWebコミュニケーション

ハウスメーカーの最大手、大和ハウス工業株式会社は、前述の富士フイルムと同じ1995年にコーポレートサイトを立ち上げ、早くからWebコミュニケーションに注力してきた企業だ。そして2008年の企業ウェブ・グランプリでは「デザイン&クリエイティブ部門」グランプリを受賞。Web広報のパイオニアとも言える同社は、ユーザー視点による情報発信を基本姿勢としている。同社総合宣伝部 デジタルメディアグループ グループ長 大島茂氏に話を伺った。

「耐震偽装事件以降、住宅業界ではブランド力が大きな課題となっています。どのメーカーも、ユーザーの安心感・信頼感をいかに醸成するかといった課題を掲げさまざま取り組んでいます」。住宅という商品の性質上、まず施工側への信頼が問われる。信頼は長い時間をかけて少しずつ積み重ねていくものだ。同社も信頼醸成を大きな目的の一つとして、環境への取り組みを強めてきた。

しかし2年ほど前までは、こうした環境への取り組みが同社の想像以上に浸透しておらず、あるメディアの調査では、他の住宅メーカーに比べ環境イメージが低いという結果となってしまった。そこで環境への取り組みを訴求するため、Webを含めたさまざまなメディアを通じて社会の理解を得てきた。

「単に取り組みを紹介するのみの告知サイトでも良かったのかも知れませんが、Webを使って『ユーザーと一緒に考えていく』ことを目的としたサイトを作りたいと思いました」。そこで作られたのが特設サイト『未来惑星(ミライボシ)』。ユーザー一人ひとりに、Web上で星が与えられる。毎日の「エコ活動」をサイトに記録することで、バーチャルな星を育てることができ、環境のことを考えるきっかけが生まれるという仕掛けだ。本年4月までオープンしていた第一弾は、11,962人もの参加があり、ユーザーからの高評価を獲得した。7月から第二弾として再開している。「ブログパーツなどのCGM的なアプローチも取り入れています。コーポレートサイトではなかなか敷居が高いことですが、特設サイトならトライできると思ったからです」。

ユーザーを巻き込み、ユーザーが本当に必要としている情報を的確に把握し提供することは常に意識していると大島氏は語る。「お客様は本社からの情報発信だけではなく、住みたい地域や購入を検討している商品に近い場所にいる“現場”からの情報を必要としているのです」。一例として挙げた『まちなかxevo(ジーヴォ)』は、現場からの情報発信を目的に作られたブログサイトだ。主力商品の注文住宅『xevo』のモデルハウスを各地の街中に計66件(2009年6月24日現在)建てて公開展示し、それぞれブログを開設。各地で営業担当者が毎日、建設中の様子から建物の使い勝手、周辺環境への配慮など、現場ならではの情報を詳細に発信した。「ユーザーからの反響はとても多く、高い評価を得ました」と大島氏。お客様視点でサイトを見つめ、必要な情報を提供する。Web広報のあるべき姿がここにあるのではないだろうか。

■「Web広報で、いま何を伝えるべきか」4つのポイント

1 Webサイトは、あらゆるステークホルダーに向け一気通貫して伝えることのできる唯一の自社メディア
2 Webコミュニケーションは、徹底したユーザー視点という横串を通すべき
3 自社の考えを社会に理解してもらいたいという強い姿勢を持ちつづける
4 サイトを訪れたユーザーが、異なるフェーズの情報を回遊しやすい仕組みを構築すべき

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COLUMN
映画で学ぶ広報・コミュニケーション力 第2回
対立軸を立てて注目度を高める
『アマデウス』-AMADEUS-
1984年 米国 F.マーリー・エイブラハム、 トム・ハルス/アカデミー賞受賞

主観的視点だけでなく、 客観的視点をうまく盛り込めれば、 注目度も高くなります。今回は、対立軸を立てることで印象が強まった映画から学びましょう。

写真:石川 慶子氏

石川 慶子(いしかわ けいこ)
広報コンサルタント。有限会社シン代表。 映画製作会社、PR会社を経て独立。企業広報支援の他、自治体や学校にもメディアトレーニングなどのサービスを提供。

■2つの異なる個性をぶつける

映画は、クラシック音楽の歴史に残る作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトの生涯を、同時代に生き、彼の才能を妬んだ サリエリの視点で描いたもの。ストーリーは、ウィーンの街で1人の老人が自殺を図るショッキングなシーンから始まる。精神病院に運ばれたその老人は、神父の前で自分の見たモーツァルトの音楽のすばらしさと低俗な人間性を語る。

歴史上の人物を描いた映画は数多くありますが、この作品を際立たせ、印象を強めているのは、2人の異なる個性を対立させて描き出している点です。下劣だが神に選ばれた類まれな才能を持つモーツァルトと、努力家で信仰深いが才能のないサリエリ。この2人の個性の違いが、わかりやすさとドラマ性を高め、見る人を惹き込んでいくのです。

広報活動においても、この対立軸は演出手法として重要です。例えば、報道資料として自分達の主張だけを用意しても、メディアは関心を示しません。競合他社情報や比較資料を用意する、あるいは、マーケットのガリバー的存在に挑んでいく姿を見せる方が、チャレンジする姿を際立たせ、注目度を高めます。ジャーナリズムには、「両論併記」「弱者救済」の義務や使命があるからです。

この対立軸のドラマ性を広報現場でうまく活用したのが小泉元総理です。対立する政敵に「抵抗勢力」のレッテルを貼り、改革者である自分を際立たせる。郵政民営化反対の造反組に「刺客」として対立候補を立てる。ベテラン議員の地区に話題の若手を送り込む、といった具合に。この対立軸を立てる演出でドラマ性が高まり、メディアからの注目も高まりました。

■意外性を創出する

「対立」やギャップを演出、ドラマ的な手法で印象に残る情報提供を

演出に必要なもう一つのポイントは、意外性。この映画の中では、彼の美しい音楽を聴いた人は誰もが美しい作曲家を想像するのですが、会ってみると全然違うために、そのギャップや意外性に唖然としてしまいます。これを、モーツァルトの美しい音楽の響きと彼の下品な笑い方という2つの音の対比でうまく表現しています。この意外性が見る人を楽しませ、飽きさせない要素となっています。

小泉元総理は、意外性のメディア訴求力を理解しており、サプライズを取り入れました。派閥を無視した直前まで誰にもわからない入閣人事、北朝鮮電撃訪など前代未聞の行動を取ったため、メディアは追いかけざるを得ないのです。ところで、あるフィンランド系企業は、在日大使館の中のサウナで裸の記者会見をしたことがありました。この意外な展開には 記者も驚きながらも大いに楽しみ、記事の露出にもつながったとか。

おそらく広報の専門的勉強などしていないはずの小泉元総理が広報「演出」に長けていたのは、オペラや映画などドラマをよく鑑賞していたからではないかと私は思っています。

映画『アマデウス』が、アカデミー賞を8部門も受賞するような一級の作品に仕上がったのは、意外な視点や展開、対立の組み合わせにあります。みなさんも一級のエンターテイメント作品を分析しながら、演出力を磨きましょう。

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OPINION
町中を「ゲームのある風景」に変えていきたい。
米光 一成 ゲームデザイナー、ライター、立命館大学教授

『ぷよぷよ』などの大ヒット作を手がける ゲームデザイナーは、文学やカルチャーをライトに語る評論家でもあり、企画や発想法を教える先生でもあった。 米光一成さんが持っているいくつもの顔は、蓄積された「ゲーム作り」の経験から生み出されたものだった。

写真:米光 一成氏
米光 一成(よねみつ かずなり)
『ぷよぷよ』、『BAROQUE』、『eMotion e-Mail』、『おえかきでドン』等、ゲームの企画・監督・脚本を多数手がける。ネットワークゲーム・携帯コンテンツなども多数制作。立命館大学では映像学部教授として、ゲームデザイン、発想法などを教える。著書に『仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本』、『ベストセラー本ゲーム化会議』(共著)、『日本文学ふいんき語り』(共著)他。

■当事者意識を引き出す足し算の発想法「Yes, and」

ゲームデザイナーとして、20年以上仕事をしてきました。この世界に足を踏み入れた頃は、まさにコンピューターゲーム黎明期。当時ゲーム作りの現場にはゲームデザイナーと呼ばれるような職種はなくて、プログラマーやデザイナーが集まり、「こんなのいいんじゃない?」と意見を出しあって作っていく、というスタイルが主流でした。僕は企画職としてゲーム制作会社に入社したのですが、当初期待されていたのはどちらかというと進行管理的な役割でした。

でも少人数で一気に作っていくやり方は、僕には合っていたみたいです。人数が少ないのでコミュニケーションも取りやすく、自分のアイデアも通りやすいですし、相手とアイデアを分かち合い、活かしていくことも簡単にできました。『ぷよぷよ』や『魔導物語』といったゲームは、そうした環境で生まれたものです。

その後ゲームの世界はどんどん広がっていき、スタッフの数もどんどん増えました。一つのゲームを作るためのスタッフが100人規模になり、いくつものチームができ業務が細分化されていく。それぞれのチームをまとめ上げるリーダーシップを持った「誰か」が必要になりました。『BAROQUE(バロック)』というゲームは、そうした方法論で作ったものです。しかし『BAROQUE』を作り終えて感じたのは「多くの人と楽しく仕事をするためには、一人の強力なリーダーシップに依存しない、別の方法論があるんじゃないか」ということ。あれこれ考えてたどり着いたのが、いまワークショップなどで実践している発想法であり、ブレインストーミングの方法なのです。

僕の考える発想法にはいくつかの要素があるのですが、たとえば大きなものとして「Yes, and」の考え方があります。まずは相手の話をじっくり聞き「Yes」と受け止める。仮に自分の意見と異なっていても、相手の意見を認め、自分の中に取り入れたうえで、「and」として、自分の意見を足し算していく。いきなり「No」と頭ごなしに言ってしまっては、相手のやる気を奪い、それ以上のアイデアや意見を引き出せなくなってしまいます。

明らかにおかしいと思われる考えや、的外れな意見の場合は「Yes, Q(question)」でもいい。「あなたの意見は受け取りました〈Yes〉。 ではなぜそう考えたのか説明してもらえますか?〈Q〉」と聞く。相手が説明していく中で矛盾点や問題点に気づくかもしれない。自分が変化し、相手の意見を受け入れることができるかもしれない。企画や発想の芽を摘まないことが何より重要なのです。言葉をつなぎ、キャッチボールを繰り返していくうちに、企画やプロジェクトはどんどんブラッシュアップされ、面白くなっていくんです。

大事なのは、プロジェクトに参加する人の当事者意識をいかに引き出すかということ。全員が当事者意識を持って一つの目標に向かって知恵を絞り、企画をまとめていく。実はゲームも同じことで、いかにプレイヤーたちに当事者意識を持たせることができるかが一番大切なのです。

■どうしたらスタートボタンを押してもらえるのか?

写真:米光 一成氏

発想法やプロジェクトの進め方だけでなく、ゲームの作り方そのものから学んだことも、ビジネスをはじめとするさまざまな分野で役に立つと考えています。

たとえばゲームを企画する時、まず最初に考えるのは「どうしたらスタートボタンを押してもらえるのか?」ということです。プレイヤーに「面白そう」と感じてもらい、みずからスタートボタンを押してもらえなければ始まりません。また一度プレイしてくれたからといって、次もまたスタートボタンを押してくれるとは限りません。飽きさせず、何度でも遊びたいと思わせるゲームを作るには、さまざまな仕掛けが必要です。

 「Yes, and」の発想も、ヒントの一つになります。敵が向かってきたけれど、どうやって攻撃すればいいかわからないという時、多くの人は「とりあえず、どれでもいいから操作ボタンを押してみよう」と考えるんですね。試しにAボタンを押してみたら、ジャンプして敵から逃げることができた―それこそがゲームの面白さにつながると思うんです。よくわからないけれどAボタンを押してみたことに対し、「No」と言わず「Yes」と受け入れ、「and」として次につなげてあげる。そうすることでプレイヤーの当事者意識がぐっと増し、やる気になるんです。

もう一つは「発見する楽しみ」を与えることです。敵が向かってきた時Aボタンを押してみたら、うまく逃げることができた。そうなるようにプログラムしているけど、プレイヤーが自分で見つけ出したと感じるようにデザインする。「Aボタンを押せ」と教えるのではなく、発見し成長する喜びを与える―それがさらにプレイヤーをやる気にさせるのです。

こうした考え方は、たとえば携帯電話のインターフェイスにも取り入れることができるかもしれません。携帯電話にはボタンがいっぱいあって、機能を細かく説明した、分厚い説明書がついてきます。でも果たしてボタンが多い方が便利なのか、説明が細かい方が親切なのか? ゲームを楽しむ感覚で考えたら、答えは明らか。説明を読みこんで「暗記する」のではなく、操作自体を楽しみながら、知らないうちに操作方法が身に付いているようなものがあったらいいですよね。

もう一つ感じるのは、使う側の本当の要望というものを見つけるのはとても難しいと言うこと。実は使っている本人もわかってないことって結構多いんです。

たとえば、昔のゲームで次へ進む時、ロード時間がすごく長くなったりする。ゲーム機の性能的にどうしても長くなる。そうすると遊ぶ人はつまらなくなる。でもロード時間を短くすることはできない。じゃあどうするのか、待っている時間にプレイヤーにとって有益な情報、たとえばそれまでのクリア成績とか…を表示することで、待ち時間を待ち時間でなくしたんです。ゲーム制作ではできる限りプレイヤーにテストをしてもらい、表情や反応を細かくチェックするようにします。そうやって言葉で表すことのできない要望を汲み取ることは大切なことだと思います。

■ゲーム的な発想は、町にあふれている

僕がゲームから学んださまざまなことを、ゲーム以外の領域で実際に活かしてもらうために開発に協力したのが、ソニー銀行の『人生通帳』です。複数の銀行口座情報の一覧表示、マイレージポイントなどの管理や交換シミュレーションができるほか、金融の仕組みを学ぶこともできます。ゲームのようなわかりやすさと利用者を夢中にさせる仕掛けを組みこんだ結果、多くのお客様から支持されているそうです。

昔、ぼくが夢中で遊んだようなゲームは減ってきているのかもしれません。でも広い意味での「ゲーム的な発想」は、町のあちこちに入りこんできていると思うんです。これからますます広がって、町自体がいわば「ゲームのある風景」に変わっていくといいな、と考えています。(談)

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CSR活動の一環として、NTTアドがWWFジャパン様のOOH広告およびバナー広告を制作。

「つなぐ。それは、ECO」を合言葉に、NTTグループが一丸となって取り組む環境活動。これまでもNTTアドは、NTTグループの総合広告会社として、環境コミュニケーションに関するソリューション提案を推進してまいりました。このたびCSR活動の一環として、WWFジャパン(財団法人世界自然保護基金ジャパン)様のOOH広告およびバナー広告を制作・出稿いたしましたのでご紹介させて頂きます。

ご存知の通りWWF様は、100を超える国々で環境活動を展開する世界最大級の民間自然保護団体です。WWFジャパン様は、世界で16番目の事務局として1971年に設立されて以来、石垣島の珊瑚礁をはじめ国内外の貴重な生態系の保全や、CO2の排出削減を目指した各国政府や企業への働きかけなどを推進されてきました。NTTアドはこうした諸活動に心から敬意を表すとともに、環境コミュニケーションの創造を通じて何かお手伝いできないものかと考えました。そこで日頃からお付き合いのあるクリエイターに声掛けをし、ご賛同頂いた皆様とともに、WWFジャパン様のOOH広告およびバナー広告をボランティアで制作・出稿させて頂くこととなりました。

OOH広告につきましては、3種類の表現を1シリーズとして、第一弾と第二弾を掲載。中でも第一弾は、写真家・本城直季さんに無償で写真をご提供頂き実現した作品です。掲載場所は自然保護に関心の高い方々に訴求するため、動物園内やその最寄り駅を中心に展開いたしました。

バナー広告の表現につきましては、人気のパンク・キャット『TAMALA』を採用。制作するにあたり、アーティスト・ユニット『t.o.L』さんに同キャラクターの使用権利を無償でご提供頂きました。

今回のプロジェクトを通じて実感したことは、環境問題に取り組むという一点で、様々な垣根を越え、心がひとつに結ばれたということ。この場をお借りしてWWFジャパン様をはじめ、ご賛同頂きました関係者の皆様に心より感謝申し上げます。これからもNTTアドは広告会社として環境問題にどう取り組むべきかを追求してまいりたいと考えています。


OOH広告第一弾シリーズOOH広告第二弾シリーズ OOH広告
企画制作:NTTアド+HOT LINE
CD+C :小室市太郎(2009年度TCC賞 新人賞受賞)
AD:豊島幹夫 P:本城直季 PL:五月女孝一
企画制作:NTTアド+HOT LINE
CD+C:小室市太郎 AD:豊島幹夫 PL:五月女孝一
バナー広告
バナー広告
企画制作:NTTアド+t.o.L
PL:古賀絵美子、鍜治倉聖
掲載サイト:テレビ朝日on the web

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Web広報の巧拙
Text by 編集部

「自社サイトを更新したいが、新しいネタが見つからない」と嘆く広報担当者がいる。確かにニュース価値の高い社内情報を発見することは難しい。しかし企業コミュニケーションを司る広報は、発信すべき新しい話題を常に創造しておくべきであろう。

Webが企業広報の要となるにつれ、巧拙が鮮明になってきた。これまでも社会啓発型の本格連続ドラマを配信して大きな反響を得た医薬品会社や、漫画等を用いて楽しく読める開発ストーリーを人気コンテンツに育てた電機メーカー、地域貢献策を考えるサイトを提供して高い評価を得たIT企業、自社の施策に反対する意見(!)を公式サイトで紹介し議論の場を設けた金融機関など多くのユニークな事例があった。特にある自動車会社は、ユーザーの商品評価情報を積極的に掲出し、自社サイトが購入の決め手となる例を増加させた。将来は自社サイトが雑誌や新聞より影響力を持つとみて、クルマ以外のコンテンツも含めた幅広い情報提供を行っている。まさに自社メディアの面目躍如である。

Web広報が巧みな企業は、常備すべき基本的な情報と注目度の高い新鮮な話題をバランス良く配している。自社メディアなので当然だが、内容や配置を常に更新して興味を抱いてもらえるサイト作りを試みている。

Web広報の担当者は、自ら記者と思って取材に励むべきだ。時には誌面構成を決めるデスクでもある。「ネタが無いから取材しない」という新聞記者がいないのと同じく、広報担当もネタを探し、創り出すべきなのだ(捏造ではない)。記者の立場を知れば、取材側が求める話題や資料が容易に想像できるようになり、取材対応に生かせる。Web広報が巧みな企業は、メディア対応にも強いのである。

このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第23号(2009年7月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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