調査・研究/発行物

目黒発 vol.22

SPECIAL REPORT
老舗に学ぶ企業コミュニケーション
[株式会社吉徳・鳩居堂製造株式会社のケース]

COLUMN
映画で学ぶ広報・コミュニケーション力 第1回
相手の全身をよく観察して交渉に当たる

OPINION
わかりやすくニュースを伝え、世の中を透明にしたい
岡部 央 社団法人共同通信社 編集局 経済部 副部長

AD LETTER
次世代マーケティング研究レポート6
環境に対応するものが生き残る
商品・サービスを売るためには、顧客の価値観とのマッチングが重要

OUR FINDER
老舗から学びたい

老舗に学ぶ企業コミュニケーション
歴史や伝統を正しく伝えることが社会的責任。
そのための変化を恐れない企業姿勢を
-株式会社吉徳のケース-

企業が事業を継続していく過程で、商品開発にまつわる逸話や顧客とのエピソードや、 商品およびサービスがもたらす社会的影響など、さまざまな無形の財産が生まれてくる。 企業広報は、会社の歴史から生まれたこの財産を、いかに掘り起こして効果的に社内外へ伝えればよいのだろうか。 今号では、その長い伝統の中で、数多くの無形財産を育んできた老舗企業の姿勢や取り組みに注目し、 企業コミュニケーションについて改めて検証する。

■創業300年の老舗が見せた『ダース・ベイダー』の挑戦

ダース・ベイダー鎧飾り
『ダース・ベイダー鎧飾り』
© 2009 Lucasfilm Ltd. & TM. All rights reserved.

2007年2月に発表された『ダース・ベイダー鎧兜飾り』は、斬新な五月人形として、テレビや新聞・雑誌、ネット等数多くの媒体でニュースとして取り上げられた。映画『スター・ウォーズ』最大の敵役をモチーフにしたこの人形は、ユーザーブログにも多数書き込まれて話題が広がり、同年6月の発売から半年間で、鎧飾り・兜飾り合わせて200体近くを売り上げるヒット商品となった。企画製作・販売は「人形は顔がいのち」のCMでおなじみの日本人形の吉徳。同社は1711年創業の、言わずと知れた老舗である。まもなく創業300周年を迎えるという、歴史と伝統を誇る同社が、意外ともいえるコラボレーションに踏み切ったのは、五月人形に対する消費者の意識を高める狙いからであった。家庭での購買決定権を持つのが母親というケースが多く、ひな人形に比べて五月人形の購買意欲はややトーンダウンするという傾向がある。「五月人形の格好良さや文化的な意味を子ども達に伝えるには、母親よりも父親に向けてアピールし、活性化を目指すべきだと考えたのがきっかけです」と山田純一郎社長は語る。山田社長は、同製品の開発段階では専務取締役として、プロジェクトの最前線で開発業務にあたっていた。

吉徳は、伝統的な五月人形・ひな人形を作る部門のほかに、ぬいぐるみを取り扱う部門もあり、早くからキャラクター製品並びにその版権を取り扱う土壌があった。過去には、『ハローキティ』や『スヌーピー』などのキャラクターとコラボレーションしたひな飾りを製作し、ひな人形という伝統的文化と現代文化を融合させた実績もある。しかし『ダース・ベイダー鎧兜飾り』の場合は、そのキャラクター特性を五月人形のフォーマットに落とし込むという困難な作業があった。開発中は「ダークなキャラクターを生かしつつ、きちんとした飾りが作れるのか?」、「作れたとしても“お祝いもの”が悪役でよいのか?」といった社内での議論が尽きなかったそうだ。もちろん、吉徳が手がけるからには、 吉徳らしさもきちんと保たなければならない。吉徳のフォーマットへ落とし込む作業としては、曲線を多用したデザインを重視、面頬・前立・弓太刀など五月人形の意匠を十分に生かすという方向が必要だった。もちろん、キャラクターライセンサーとのせめぎ合いもあったが、ジョージ・ルーカス監督を筆頭に先方が日本文化を尊敬していることが幸いし、想定していたよりもスムーズに話が進んだという。また、映画『スター・ウォーズ』が公開30周年という節目を迎えていたこともあって、数多くのメディアに取り上げられて大きな話題となったのである。

コラボレーション事業の経験があるとはいえ『ダース・ベイダー鎧兜飾り』は、伝統的な人形製作の技法と意匠をキャラクターに融合させた最初の取り組みである。こうした提案を社内で受け入れる進取の気性や革新の土壌は、もともと吉徳の中にあった。しかし、それは、 新奇な趣向で話題づくりをして購買につなげるという単純な意図だけではない。同社には、 斬新な切り口から人形の伝統を今に伝えたいという企業姿勢がある。それが、このプロジェクトにおいても重要な目的のひとつとなった からこそ、確実な成果を上げたのであろう。

■節句を、廃れさせない。老舗の情報発信とは?

株式会社吉徳
(上)株式会社吉徳 代表取締役社長 山田純一郎氏
(左)現会長の十一世・山田徳兵衛氏による著書『語りかける人形たち』(東京堂出版)。(右)『ひいな頌』は、毎年募集している「ひな祭俳句賞」の入賞作品をまとめたもの。

吉徳による斬新な取り組みは、人形の伝統を今に伝えると同時に「節句という文化をきちんと伝える」(山田社長)という意図も込められている。この意図は、単に製品づくりに注がれるだけではなく、桃の節句にまつわる俳句を一般から募集する『吉徳ひな祭俳句賞』を毎年開催したり、『吉徳これくしょん』として知られる古今東西の人形や、その関連資料を集めた資料室を社内に設けるなど、情報発信や消費者とのコミュニケーション施策にも色濃く反映されている。同資料室には、人形に関するあらゆる質問に答えられるように、専任の学芸員を配置している。これも、人形の業界では他に例のない取り組みだという。300年の歴史から育まれた逸話は数多くあり、昭和初期にアメリカから贈られた「青い目の人形」の話もそのひとつ。当時の日本政府は、これに対し答礼人形を贈って国際交流を図ったのだが、その58体の日本人形の製作指揮を執ったのが、山田社長の祖父にあたる同社十世・山田徳兵衛である。人形製作時の苦労話、戦時中の話、さらには現在も続く答礼人形の里帰り修復作業など多くのエピソードが無形の財産として同社に蓄積されている。こうした逸話を未来に伝えていくことが、ブランド構築やステータス維持には大切と考え、吉徳では書籍を刊行したり、東京・浅草橋にある本店内で定期的に展覧会を行うなどして積極的に紹介している。

インターネットを介した口コミが大きな影響力を持つ現代においては、こういった情報発信はブランディングにもプロモーションにも効果がある。もともと節句の人形や飾りは、長男・長女のために買う物という消費者意識が強いため、少子化の影響もあまりない。少ない子どもに対して、多くの親族が投資するため、不況下であっても、逆に高額商品が売れるという傾向さえある。しかしながら、未来永劫続く市場とは言い切れない。なぜなら節句という文化・風習自体が廃れてしまっては存続しえないからである。老舗として、業界最大手として、節句を守り伝えていくことが同社の情報発信の基礎であり、さらには社会的責任でもある。「インターネットは利便性をもたらした一方で、節句に関する間違った情報も溢れさせてしまっています。ですから、せめて吉徳から発信する情報だけは、正しい歴史や伝統に基づいた確かなものであることを心がけています」 (山田社長)。

また、文化や風習は、人々の情緒面との関係が強いということから、同社は「商い」という視点よりも、「お客様のお祝いをお手伝いする」というマインドを大切にしている。顧客それぞれの考えを汲み取るために対面販売を重視したり、節句にまつわる顧客の感想を集めた小冊子を配るといった試みは、そのマインドの表れだ。単に伝統や歴史という形式的なものだけではなく、何のために祝うのかといった気持ちの部分も含めた顧客コミュニケーションを図ることが吉徳の姿勢の根底にあると言える。

■歴史に裏打ちされた正しい情報発信が強みになる

「歴史にとらわれて保守的になることを最も恐れています」と山田社長は強調する。歴史の中で時には立ち止まり、新しい提案やチャレンジを考える時間を大切にしているのである。「“300年の伝統”といいますが、たとえ1年目の会社であっても、そこには1年分の伝統があるはずです。それを踏まえて、次の年にまったく新しい1年を迎えるのです。そういった革新の積み重ねが、生き残るための要素となって、300年という歴史につながったと考えています。歴史や伝統がプレッシャーになって動けなくなるのは本末転倒だと思います」

300年の間に吉徳は時代の空気を敏感に捉えて、様々なトレンドを生み出してきた。人形玩具店として創業し、節句品販売店から人形専門店へと進む中で、革新を現代の伝統につなげてきたのである。だからこそ、今日も伝統と革新という両面で企業メッセージを発信していく取り組みが重要なのだろう。現代は、インターネットの隆盛により企業が自ら発信するチャンスがあるが、誤った情報や誇張された情報が多数あって混沌としているのは確かだ。だからこそ、吉徳のように、正しい情報を積極的に発信していくことが、無形の価値を消費者の心へ響かせる結果を生むのだろう。

-鳩居堂製造株式会社のケース-

■老舗には、CSR活動の原点がある

木版刷
四代目・熊谷直恭が自費で発刊した木版刷

今や企業にとって、CSR活動が常識の時代となった。しかし老舗の中には、数百年も昔から、社会と深く関わり、貢献し続けている企業がある。京都に本店を持ち、香・筆・墨・和紙などの製造販売で知られる鳩居堂製造株式会社(以下、鳩居堂)もそのひとつだ。

鳩居堂の起源は、寛文三(1663)年にまでさかのぼる。『平家物語』などで知られる武将・熊谷直実の子孫、熊谷直心が、現在の京都市中京区で薬種商をはじめた。1700年代には香や墨・筆など書画用文具へと事業を拡大していった。

同社の社会貢献活動がはじまったのは四代目・熊谷直恭の時代である。直恭は事業の傍ら医学を習得し、飢饉救済のために自ら筆を執り『飢饉せざる心得書』や『いもがゆの作り方』といった書物を作り無料で配布した。天保の大飢饉の際は、同七(1836)年に三条大橋の河原に自費で数棟の小屋を作り、飢えた人々を収容して食物を与えた。またワクチンがオランダから長崎に渡来したことを知るや否や、人を派遣し勉強させ、京都に種痘所を開いてほうそうの予防に貢献した。直恭の息子、直孝は教育にも力を入れ、京都で教育塾を開く。この教育塾が、後の近代小学校の母体ともなった。

常に社会と関わり、社会に貢献し続けてきた鳩居堂。同社のこうした歴史は、ホームページ、あるいはパンフレットなどで、今なお社内外に伝えられている。歴史を共有することが、経営者と従業員はもちろんのこと、顧客との間に信頼性を築くことにつながっている。1968年に発刊し、12版を重ねている冊子『維新のころの鳩居堂』には「鳩居堂と熊谷家の為に、豊かな土壌を培ってくれた偉人傑物の輩出により、後世の私たちまでが、恵まれた環境の内に、類例少ない栄誉に包まれて、精神的にも物質的にも豊かな日常を持つことができ、感謝の念を忘れることができないのであります。」と記されている。

今なお語り継がれている同社の社会貢献活動とは、決して営業利益を目的としたものではない。一企業市民として、社会に何が成せるのかといったことを純粋に突き詰めた結果と言えよう。ここから企業のCSR活動に対する姿勢を、改めて学びとることができはしないだろうか。

■「老舗に学ぶ企業コミュニケーション」4つのポイント

1 変革の積み重ねこそ、伝統を生む
2 顧客とのエピソード等、無形の財産はブランディングに有効
3 インターネット隆盛の時代だからこそ、正しい情報を発信すべき
4 CSR活動を度外視して、歴史を築くことはできない

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COLUMN
映画で学ぶ広報・コミュニケーション力 第1回
相手の全身をよく観察して交渉に当たる
『交渉人』-The Negotiator-
1998年 米国 サミュエル・L・ジャクソン、ケビン・スペイシー

広報力を磨くということは、メッセージ力や表現力を身につけることに 他なりませんが、これは理屈ではなかなか身につきません。 映画は、シナリオ、アクター、会話、 演出から成り立っており、企業の中の演出家である 広報担当者にとっては面白く学べるまたとない教材です。 そこで、今回から数回、広報・コミュニケーション力を高める視点から映画を解説します。

石川慶子氏

石川 慶子(いしかわ けいこ)
広報コンサルタント。有限会社シン代表。映画製作会社、PR会社を経て独立。 企業広報支援の他、自治体や学校にもメディアトレーニングなどのサービスを提供。

■目の動きから感性タイプを見分ける

映画のストーリーは、シカゴ警察東地区の ナンバーワン人質交渉人ダニー・ローマンが、横領事件の濡れ衣を着せられ、真相を知っていると思われる内部関係者のニーバウム他数名を人質にとって警察ビルに立てこもり、真犯人を突き止めるというもの。ダニーは、人質にしたニーバウムに尋問をする。ニーバウムは答える時にさっと目を左に動かした。人間は目が左に動くときは過去の経験を思い出そうとしている、反対に右に動くときは想像している、とダニーはあえて説明することでさらに相手を追い詰める。

この目の動きは、アメリカのNLP(神経言語プログラミング)の考え方をベースにしています。 NLPとは、目の動きから感性を分類するもので、視覚タイプ、聴覚タイプ、全身感覚タイプがあります。目の動きを見ると相手が何を感じているかがわかるというのは非常に興味深いことです。相手の感性がわかれば、その感性に合った言葉を使うことで理解を深めてもらうことができるからです。

例えば、視覚タイプの人には、絵や映像が浮かぶ言葉を使うように心がけ、聴覚タイプには感じのよい声を出すと印象がよくなります。全身感覚タイプには近づいて握手をすることが効果的ということです。メディアに当てはめると、テレビのディレクターは外見重視ですから、ゼスチャーを交えた動きのある表現が好まれ ます。新聞記者は顔を見ずにひたすらメモを とる聴覚タイプが多いので、落ち着いた声で論理的に話す演出がよいでしょう。雑誌記者、編集者は視覚も聴覚も合わせたタイプか全身感覚タイプが多いのでバランスが大切ということになります。

■ウソは手と脚に出る全身の動きを観察する

交渉人

ダニーに自分の目の動きでウソを見抜かれたニーバウムは、以降の質問には目を動かさずに答える。今度は手と脚のアップ。目だけではなく、全身の動きを観察するべきと説くダニー。

日本の心理学者が欺瞞を見抜く実験をした結果があります。人のウソを見抜く時にどこを手がかりにした人の正答率が高いのかを実験したところ、「発言内容や話し方を手がかりに する」よりも「手の動きや脚の動きを手がかりにする」と回答した人の正答率が高かったのです。「手の動き」「脚の動き」に話し手の本心が出やすいということです。

プロカメラマンは直感的にそのことを知っているのでしょう。彼らは手や脚の動きをよく追いかけています。不祥事にウソは許されませんが、M&Aや企業機密など回答を避けなければならない場合には、インタビューや会見場は、手が隠せる、脚が見えない机にするなど工夫をしたいものです。

この他にも、映画の中には相手を追い詰める、油断を与える、ハッタリを使うなど、心理学を駆使した優れた技術が盛りだくさんです。広報現場での役立て方をディスカッションしてみてはどうでしょうか。

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OPINION
わかりやすくニュースを伝え、世の中を透明にしたい。
岡部 央 社団法人共同通信社 編集局 経済部 副部長

ブロック紙・地方紙を中心に、 さまざまなメディアにニュースを配信する通信社。 どんな仕事をし、どんな姿勢でニュースを伝えようとしているか、その素顔に触れる機会は多くない。今回は、日本を代表する通信社のひとつ、共同通信社で、経済部の副部長として、経済報道の方向性を決定する立場にある岡部 央さんに、報道に対する思いや姿勢をうかがった。

岡部央氏
岡部 央(おかべ ひろし)
社団法人共同通信社 編集局 経済部 副部長。北海道大学卒業後、1983年に共同通信社入社。高松支局を経て、86年大阪経済部、89年から本社経済部。97年から3年間、アメリカ・ワシントン支局に駐在。デスクを経て2008年6月より現職。

■通信社はニュースの「卸売業」。加盟社とともに紙面を作る

通信社の仕事を一言で言えばニュースの「卸売業」ですね。ブロック紙や地方紙といった全国各地の加盟新聞社や放送局に、記事や写真・映像を配信することが主な仕事ですが、最近ではインターネットへのニュース配信にも力を入れています。読者が求めている情報、たとえば経済部なら、東京の大企業や官庁の動き、経済政策、国際経済、マーケットの動向などを取材、多くのニュースを提供しています。各地方紙の発行部数をすべて合わせると2000万部近くにも達し、全国紙を上回ります。放送、ネットの読者まで含めると、とても多くの人々にニュースを提供しています。

まず通信社に欠かせないのは、速報性。一分一秒でも速く情報を伝えられるよう、さまざまな努力を続けてきました。共同通信社と加盟社は回線で常につながっていて、大きなニュースが入ると瞬時に情報を伝える仕組みになっています。それを受け、加盟社はすぐに記事を差し替えるなどの作業を行うことができるのです。さらに号外が出るような大きなニュースの時はチャイムが鳴ったりもします。社内に緊張感が走り、バタバタと記者が走り回る…。まさに通信社ならではの光景ですね。  私が若い頃は携帯電話などありませんでしたから、裁判結果を知らせるために、10円玉を大量に集めてきて近くの公衆電話をつなぎっぱなしにして、判決をすぐに伝えられるようにするとか…。今考えると信じられないような努力もしたんですよ(笑)。

通信社は情報を流すだけ…、というイメージがあるかもしれませんが、私たちは加盟社と一緒に紙面を作っているという気持ちで取り組んでいます。たとえば、最近の経済の悪化に伴い、工場閉鎖や百貨店の撤退などのニュースが相次いでいます。こうしたニュースは、その工場や百貨店がある地域にとっては大きな影響があり、地域の人々の暮らしに直結するニュースとなります。そのため、東京で記事を書く記者は、そのニュースが配信される地域の人々の目線で記事を書くことが求められます。そこが通信社記者の腕の見せどころでもあるでしょう。

共同通信社では、海外のメディアにも英語や中国語でニュースを配信しています。グローバル化の時代には、日本の今を世界に知ってもらうことが大切だと言われますが、共同通信社はその「日本発」の情報発信の重要な役割を担っているわけです。また『47ニュース』という インターネットの情報サイトでは、47都道府県にある52社の新聞社と共同通信社が連携して、全国のニュースを網羅して配信しています。  メディアの世界にも大きな変化が訪れていますが「正しい情報を一秒でも速く伝える」という私たちの使命はこれからも変わることがないでしょう。

■不況下、経済ニュースへの関心は高まっている

私は入社以来、経済部で金融や財政記事全般を担当してきました。デスクを経て、現在は副部長として経済部全体をまとめる仕事をしています。

ジャーナリストになりたくてこの世界に入ったのですが、大学での専攻は海洋生物学。経済とはまったく縁遠い世界にいたので、自分の専門が生かせるような科学部に行けたらいいなと思っていたんですが、支局を経て配属されたのは大阪の経済部でした。最初は戸惑いもありましたけれど、一つ一つの企業への取材を地道に積みかさねていく仕事に面白さを感じるようになり、それから二十数年、経済畑一筋に歩んできています。

岡部央氏

大阪、東京の経済部に勤務し、その間三年ほど、アメリカ・ワシントン支局にも駐在しました。ちょうどアジア金融危機の真っ直中。米財務長官への取材などを通じて、アメリカの視点から日本やアジア諸国を見られたことは、とても貴重な経験でした。バブル崩壊で厳しい経済情勢が続いていた日本に対し、アメリカが思い切った景気対策を取るよう注文を突きつけたりしていました。今はそのアメリカ自身が金融危機に苦しみ「日本の反省を踏まえて」と言いながら、景気対策に追われてます。歴史の変化を感じますね。

最近、経済記事に対する関心が高まっていると肌で感じています。特に百年に一度と言われる経済危機以降「今一体何が起こっているのか知りたい」という読者の声が数多く寄せられています。実際、リーマン・ショックは非常にわかりにくかった。そこでQ&Aでの用語解説を加えたり、実態をえぐり出すような分析記事を増やすなど、わかりやすいけれど、読み応えのある紙面を作るために試行錯誤を続けています。記事をわかりやすくすることとは、決して情報のレベルを落とすことではないと思っています。

坂道を転げ落ちるような経済状況の中、雇用や生活の問題は深刻さを増しています。経済の好況・不況がすぐ人々の生活に影響しかねない今、もはや経済ニュースだ、社会ニュースだと区別している場合ではありません。たとえば、現在、大きな社会問題になっている「派遣切り」にしても、経済危機の問題、社会保障の問題など、いろいろな問題が複雑に絡み合っています。人々が本当に知りたいことは、経済ニュースと社会ニュースの境界にあるのではないかと感じることもあります。そういう意味では、社会部や経済部といった垣根を越え、セクションごとの連絡を密にし、ある意味ジャンルを壊していくような試みも今後ますます必要になっていくことでしょう。

■説明できなくてもいい。広報は、向き合って欲しい

近年、政治資金や企業のコンプライアンスなど、政治や企業内部の透明性が大きな問題になっています。ジャーナリズムの重要な役割のひとつは、こうした政府や企業などの権力を監視し、透明性を高めていくことであると言えるでしょう。

「企業は何のためにあるのか」という議論がありますが、私は「企業は社会の公器である」と考えています。従業員、株主だけでなく、顧客、地域の人々を含めて貢献するべき社会的な責任があると思うからです。企業のトップは本来、自らが社会に向かって、自分たちの経営の考え方や事業、活動の内容を説明する責任を負っているのだと思いますが、一人でそれをすべてこなすのは難しい。そこに企業広報の役割があるわけです。広報担当者には、社長に代わって、企業を代表する立場として話をするんだという責任感を持っていただきたいと考えています。「自分は社長の分身。社長に代わって社会に向かって話をしている」という気概をもった広報担当者にお会いすると、こちらの気持ちも引き締まりますね。記者会見の段階でオープンにできない情報があるのは仕方がないとしても、どんな場合でも、逃げないで欲しい。質問をはぐらかしたり、ノーコメントで通すといったやり方では、社会に対して責任を果たしたとは言えません。記者の方も、世の中の透明性を高め、民主主義の土台を担っているんだという強い使命感を肝に銘じ、真摯に取材活動を行っていかなければならないと思っています。(談)

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環境に対応するものが生き残る
商品・サービスを売るためには、顧客の価値観とのマッチングが重要
NTTアド コミュニケーションプランニング局長 中山順文

おかげさまで、本レポートも6回目(1周年)を迎えました。今回は、経済が深刻化する中で企業はいかに生き残るべきかといったテーマを考えてみたいと思います。

■環境に対応したものが唯一生き残る

上記のテーマについてお話をさせていただく前に、ひとつ参考になる名言があります。『種の起源』を著したイギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンが残した言葉に「もっとも強いものが生き残る訳ではない。もっとも賢いものが生き残る訳ではない。唯一、変化できるものが生き残る」というものがあります。この言葉は現代のマーケティングに深い意味を与えてくれるものではないでしょうか。

まずマーケットの変遷を考えてみますと、右下の図表のように整理できます。

現代は一人が多様な価値観を持ち、それぞれの商品・サービスに対応して選別しているような気がします。膨大な情報が流通し、簡単に入手でき、発信できる現代において、企業の戦略立案の根幹がシフトしなくてはいけない時代を迎えているといえるのではないでしょうか。その時に思い出していただきたいのがダーウィンの言葉です。つまり企業は環境に対応して変化することが、唯一の生き残る道だといえるのではないかと思います。


■変えていくもの、変えてはいけないもの

環境に対応するというと「すべてを一新しなくては」と考えがちです。しかしながら、今まで培ってきたものや企業の精神など、すべてを変えるというのは、果たして環境に対応することといえるのでしょうか。

企業が発信する情報には、大きく2つの要素があります。ひとつは「変えていくもの」=「時代や顧客の価値感の変化に対応したコミュニケーション」、もうひとつは「変えるべきでないもの」=「企業の精神やコミュニケーションの軸」。顧客は、それらの融合によって発信された情報を受け取り、企業や商品・サービスに対するイメージを形成していきます。

軸となる要素を変えてしまうと、企業の姿勢を変えることにつながり(ただし未来永劫変えなくてよいという意味ではありません)、ひいては企業の存在価値を揺るがしかねません。そのようなことを避けるためにも、軸は変えずに、表現や訴求テーマを変えながら、環境や変化に対応したコミュニケーションを実施することが重要であると考えます。変化に対応せず、企業の主張だけを押し出していくと、顧客に拒絶される可能性があるのです。繰り返しになりますが「唯一、変化できるものが生き残る」のです。

時代の変化ばかりを意識していると「逆に対応が遅くなるのではないか」といった懸念があります。しかし時代の流れを無視して企業活動を営むことはできません。例えば今日において、環境問題や食の安全性を無視した商品やサービスは顧客に受け入れられません。つまり時代の潮流をいかに早く察知し、対応できるかが大切なのです。

■企業と顧客の価値観の食い違いを無くす

しかしながら、企業と顧客との間に、価値観の食い違いが生じる場合があります。送り手(企業)と受け手(顧客)との価値観の食い違いは「意識プロセスの中で起こる場合」⇒「ユーザーによる発見」、「評判形成の繰り返しの中で起こる場合」⇒「時代の流れによる周辺価値の変化」の2系統で起こると考えられます。特に後者を検証することは、前回お話しました企業と顧客の距離を縮めるためにも必要です。このような価値観の食い違いをそのままにしておくと、商品やサービスの売れ行きを左右することにつながりかねません。ではこのような食い違いを、どのように修正したらよいのでしょうか?


図1

一言でいうと「木も見て森も見る」です。先の読めない社会では、小さな物事から大切なものを見通すことが重要です。また逆に大きな流れを感じ取り、小さなプロセスを大切にすることも重要となります。「一人多色」の時代においては、小さな変化が大きな結果をもたらす重要な要因となりますし、変化に対応することが、食い違いを生じさせないことにつながります。

マーケティングや企業戦略を構築するうえで、その担当者はたくさんの事例を知っておくべきであり、発想をする際、参考にできるよう準備を整えておくことが必要です。現在のような不安定な社会において必要なことは、時代を感じ、時代を読むことであり、顧客の変化に対応していくことです。そのうえで、社会に価値観を醸成し、変えていく下地作りを行い(価値の気づきを与える⇒関心。最終的には買いたい気持ちにつながる)、広告コミュニケーションを実施することが効果的であると考えます。今こそダーウィンの言葉を、再度熟考することが求められているのではないでしょうか。


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老舗から学びたい
Text by 編集部

日本は歴史ある企業が多く、老舗大国とも言われる。中には世界的に最も古い創業だと伝えられる企業も存在する。一度この称号を得れば、老舗が好まれる日本では商売上大きな武器となる。

老舗という言葉が適さない商材分野でもそれは同じである。ビジネス誌などで「業界随一の伝統を誇る」とか「業界でも古株の」と形容されたら、広報の面目躍如だろう。もちろん、こうした評価は広報力だけで得られるものではなく、企業の総合力の賜物である。CSR活動が企業の基本常識となったいま、信頼や伝統を醸成してきた老舗から学ぶ好機と言える。

老舗企業は、長い時間をかけて商品やサービスへの信頼感や普遍性、それに企業市民としての存在感を獲得してきた。今回ご紹介した企業のケースからは、充実したコンテンツを揃えて伝統への理解浸透を図る一方で、絶え間ないイノベーションによって新しくユニークな商品を積極的にアピールすることの重要性が再認識できる。さらには、豊富なコンテンツの利用で店舗そのものを情報発信メディアとして生かしている点にも注目したい。

企業寿命30年とも言われる時代、世紀を越えて生き残ってきた老舗から、コミュニケーション面で学ぶべきことは多いのである。

このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第22号(2009年5月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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