調査・研究/発行物

目黒発 vol.21

SPECIAL REPORT
広報と宣伝の両輪で心を動かす
[株式会社岩波書店・ライオン株式会社のケース]

COLUMN
「かたちのないもの」を広報する 第3回
「人」「手法」「メディア」を組み合わせる

OPINION
いつからか、「主語」が消えた。
山田ズーニー 文章表現・コミュニケーションインストラクター

AD LETTER
次世代マーケティング研究レポート5
2009年度のコミュニケーションのキーワードは“ゼロ”!?

EVENT REPORT
「目黒発」とのコラボレーションにより、NTTグループ会社広報連絡会を開催

広報と宣伝の両輪で心を動かす
「ことばの危機は、社会の衰退」。社会問題と向き合った広辞苑の広報戦略
-株式会社岩波書店のケース-

「広報」と「宣伝」でシナジー効果を狙う。話題性を高め、人々からの理解を得て、売上増に貢献した成功例は珍しくない。しかし、社会に新しい価値や習慣を確立したという事例までというと…。今回は、岩波書店、ライオンという老舗企業2社が、新たな価値の創出に成功したコミュニケーション事例をひもときながら、広報と宣伝を結び付け、シナジーを生み出すために広報担当者が意識することとは何かを検証する。

■ネット時代だからこそ、紙の辞書の有用性を訴求

広辞苑

岩波書店の「広辞苑 第六版」は、第五版から10年ぶりに改訂されて2008年1月に発売された。1955年の初版から累計1100万部を誇るロングセラー国語辞典であり、ある新聞社の調査では知名度100%を記録するなど、広辞苑は名実ともに日本を代表する辞書として認知されている。しかし、第五版から第六版までの10年間で、辞書を取り巻く環境は大きく変貌した。紙の辞書全体では、10年前は年間売上が約1200万冊だったが、06年には700万冊を下回ったと推測されている。それに代わるように電子辞書が売上を伸ばし、かつ無料で利用できるネット辞書の台頭もあり、紙の辞書市場は縮小の一途を辿っている。

広辞苑は、92年の第四版で電子辞書に対応、01年には携帯電話でも利用可能になるなど、比較的早い段階から電子化対応している。しかし、「広辞苑 第六版」の発売に際して、岩波書店はあえて“紙の辞書であること”の有用性を訴求する広報戦略を展開した。「確かに電子化によるロイヤリティ収入もありますが、私たちはデータ作りのために改訂するわけではありません。あくまでも冊子あっての広辞苑ブランドと考えています。言葉に関心を持つすべての方に手に取っていただくため、紙の辞書の存在意義にこだわったのです」(株式会社岩波書店 営業局宣伝部 部長 宮本哲男氏)。

■「国語力が落ちている」。広報は、教育に着目した

岩波書店は、広辞苑のキャンペーンを展開するにあたり、広報と宣伝それぞれの役割を明確化した。広報施策としては、「教育的な文脈から、紙の辞書の有用性を訴求する」ことをコンセプトに掲げた。具体的には、OECD(経済協力開発機構)による「生徒の学習到達度調査」で日本人の読解力が落ちていると報告されたことや、国語教師を対象にした調査で「辞書を引くことが、国語力向上に効果がある」という回答が95%を占めたといった情報を継続的に報道発表した。また、07年10月の第六版の刊行発表会では、「辞書引き学習法」の提唱者である立命館小学校・深谷圭助教頭(当時)をゲストに招き、「紙の辞書を引くことによって記憶が定着すること」や「一覧性が知識量を増加させる」といった内容の講演を実施。その甲斐あってか、当日夕方のニュース番組での第一報を皮切りに、数多くのメディアで紹介された。刊行にまつわる報道は発表会から1年間で、新聞・雑誌760件、テレビ・ラジオ104件にも上っている。国語力低下というニュース性の高い内容が記事化を促したといえる。なお、刊行発表会には販売会社も参加しており、紙を大事にすることで、書店の利益になるといった企業姿勢も示した。

広告
「ことばには、意味がある。」をキャッチコピーに、各界の著名人にその人自身を象徴する言葉と一緒に登場してもらい、広辞苑第六版のコンセプトを強く訴える広告を展開した。さまざまな施策が認められ、08年度の「PRアワード」(日本PR協会主催)でグランプリを受賞した。
宮本哲男氏
岩波書店 営業局宣伝部 部長 宮本哲男氏

一方、宣伝では「言葉が持つ意味の大切さを伝えたい」といったコンセプトのもと、その趣旨に賛同した著名人8名を起用。それぞれに合った言葉を添えて、全国・地方紙合わせて44紙に出稿した。また、広辞苑の内容に直接触れてもらおうと、第五版に掲載した23万語・全3010ページを横15mに達する巨大ポスターにして、若者の多い新宿駅や渋谷駅で掲出した。

広報と宣伝、それぞれ表現のアプローチは異なるが、最終的に紙の広辞苑の存在意義を伝えることに帰着させている。結果的には、潜在顧客の掘り起こしにつながり、販売目標の30万部に対して実売34万部を達成した。初日の店頭売上は、テレビCMを展開した第五版の4倍にも達しているという。「広辞苑の価値よりも、言葉や紙媒体の大切さを伝えることを重視した」(宮本氏)ことで、辞書市場全体を活性化し、さらに企業価値の向上をも実現したといえるだろう。

研究部門と広報の連携で、生活者目線を忘れないコミュニケーションを確立する
-ライオン株式会社のケース-

■分かりやすいキーワードを開発せよ。「部屋干し」「山羊乳チーズのにおい」

部屋干しトップ

01年10月から発売されているライオンの「部屋干しトップ」は、室内で干した時に発するにおいを抑えるという洗濯用洗剤である。発売当時、ライオンの調査では、主婦の84%が部屋干しすることがあるという調査結果があった。部屋干しをする理由は、夜の洗濯、天候、花粉など異なっていたが、干した後で“生乾きのイヤなにおいが気になる”という問題は共通していた。そこでライオンは、この「部屋干し臭」の原因となる成分を解明し、除菌・除臭効果のある同商品を開発したのだ。発売からわずか11か月で1100万個を販売するヒット商品となり、現在も同社の主力商品となっている。

発売時期が10月ということもあり、まず北海道・東北など天候の悪い寒冷地で好評を博した。そこで次に、翌年の梅雨時期に向けて情報発信を強化するという戦略をとり、02年5月に、においの成分とメカニズムを解明したという研究結果をリリースする。独特のにおいを発する物質は「山羊乳のチーズにも含まれている」といった分かりやすく、記事にしやすい表現を選んだことで、生活情報誌を中心とする雑誌や新聞で相次いで紹介されるという成果を上げた。一方、商品のテレビCMでは、地域や季節ごとに部屋干しする理由に合わせ、4パターンを放映する工夫をした。同年10月には、売上好調であることを報道発表、ニーズを発掘して新分野を開拓したことなど、ヒットの要因を自己分析する情報を発信した。

■研究成果、市場分析など堅い情報でおさえる

難しくなりがちな研究結果やマーケティング分析を発表したのは、「文字媒体できちんと伝えてもらうことで、商品の信頼性につなげようとした」(ライオン株式会社広報部 主任部員 伊野波美恵子氏)という狙いがある。

部屋干しトップCM
(上)「部屋干しトップ」発売時に放映されたテレビCM。 「寒いから部屋干し」、「昼間は家にいないから部屋干し」など、季節ごと、地域ごとにパターンを変えることで、消費者のインサイトを刺激するような 工夫をしている。
伊野波美恵子氏
(右)ライオン 広報部 主任部員 伊野波美恵子氏。

実際に、新聞・雑誌、TVで紹介された件数は発売後1年で100件以上を数えた。新製品情報だけでなく、ニオイの原因、部屋干し方法など切り口はさまざまで、同社の狙い通りの結果だったという。驚くことに、発売から7年が経過した現在でも、梅雨時になると干し時の洗濯方法に関する取材依頼があるという。これは、イノベイティブ商品として、部屋干しという新しい生活スタイルを定着させた効果である。また、他業界から部屋干しに適した衣類や洗濯機など関連商品が登場した(当時)など、まさに“部屋干しマーケット”を創出したのである。こうした現象を生み出した背景には、秀逸なネーミングが一役買っていることも事実のようだ。今でこそ普通名詞のように「部屋干し」という言葉が使われているが、これはライオンの造語。本来は「室内干し」だが、より身近に感じられることが共感を得たのだろう。今では朝の天気予報などで、“今日は部屋干しがおすすめです”と使われるようになり、すっかり人々の日常生活に浸透している。

ライオン広報部で特徴的なのは、商品を開発する研究所との綿密なやりとりからコミュニケーション手法を形成していることだ。「どういう視点から伝えれば、生活者の共感が得られるのか?」という難題を、商品を一番よく分かっている部門とともに考えているのである。そこから、商品を理解してもらうストーリーを作ることが広報の仕事だと伊野波氏は語る。「商品の背景にある価値や世の中を映し出せる情報を文字にして伝えるよう心がけています。メディアに露出される場合は、たとえば「部屋干しトップ」の場合は、部屋干しというライフスタイルが広がっていることや、部屋干しのにおいの原因といった周辺の情報が掲載されれば、仮に商品に言及されなくてもよしと考えます」。部屋干しという言葉から、すぐに連想される商品があってこそ有効になる手段だが、商品に至るまでのストーリーでどれだけ共感を呼べるかがコミュニケーションの根底にあるのだろう。

■伝えたいテーマをシンプルに明確化したコミュニケーション

2社の事例の共通点は、“紙の有用性”、“言葉の力”、“部屋干しの価値”など分かりやすいテーマを設定しておきながら、広報と宣伝でアプローチを変えたところだ。宣伝ならば、時間や文字量の制約があるなかで印象的に伝えること。逆に、広報では、専門家の意見や研究結果などで十分な情報を分かりやすく発信して信頼感を高めている。その掛け合わせが企業価値・商品価値となり、メディアを通じて消費者に響いているのである。また、商品自体ではなく、周辺の有意義な情報を強調したという共通性もある。さらにいえば、生活者の願望や本音といった心の部分を強調したのではないだろうか。広報と宣伝の特性に応じて最適な表現を選定し、媒体特性を考えて分かりやすく伝えていったのだ。こうしたコミュニケーションのトータルコーディネートが消費者の感情を揺さぶる結果となったのである。

■「広報と宣伝の両輪で心を動かす」4つのポイント

1 商品・サービスに関して最も伝えたいテーマを分かりやすい言葉で設定する
2 伝えたい言葉を軸にしながら、広報と宣伝それぞれで最適な表現を用いて、効果的な訴求を図る
3 “売る”ためのメッセージのみならず、周辺に隠れる有益な情報も発信する
4 生活者の本音や心情、いわゆるインサイトを拠り所にしたコミュニケーションに徹する

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COLUMN
「かたちのないもの」を広報する 第3回
「人」「手法」「メディア」を組み合わせる

「かたちのないもの」=「無形商品」をいかに広報するか。 そのノウハウをお伝えしてきた本コーナーも今回をもって一段落。 第3回は、「人」を媒介にして商品を語る手法について考えます。

石川慶子氏

石川 慶子(いしかわ けいこ)
広報コンサルタント。有限会社シン代表。 国会職員として参議院事務局勤務を経て独立。企業広報支援の他、自治体や学校にもメディアトレーニングなどを手がけている。

■スポークスパーソンを複数選び、組み合わせる

サービス(無形商品)広報において一番難しいのは、見える素材を用意することでしょう。見たり触ったりすることができないため、視覚的な訴求が弱くなりますし、記事のスペースも小さくなりがちです。そうならないようにするためには、サービスの仕組みをわかりやすく説明した図や競合他社との比較表を報道用資料として準備しておくといったことは既に日常的に行っていると思いますが、それだけではどうにも広がりのあるものとなりません。そこで見える宣伝素材として「人」も活用していきます。

「人」の探し方の視点としては、自社内だけでなく、取引先、一般顧客、専門家などです。あるポイント発行サービス会社のスポークスパーソンは、社長、広報担当者、サービス担当者、サービスを導入した取引先のEC企業担当者、サービスを使っている一般ユーザーの5人。1回ずつの露出だけでも5回のチャンスを作り出すことができます。これらのスポークスパーソンとメディアリレーションズの手法を組み合わせてプログラムを組んでいきます。

■顔を見せることで情報のインパクトを強める

新サービスの記者発表会では、社長とサービス担当者が前面に出て会社の戦略とサービス内容について詳細に語ります。これによってまず一斉露出を図ります。その後、社長単独インタビューを経済紙や業界メディアなどで数回組み込み、より深いメッセージの浸透を図ります。次に、事例紹介を目的とした記者説明会を実施し、導入先の取引先EC企業の担当者からの説明の機会を作ります。これにより、説明会そのものの露出だけでなく、その後の事例紹介としての記事露出を狙います。事例紹介は経済紙というよりは、業界別にメディアを選択することでより大きなスペースを確保することができるでしょう。なぜなら、メジャーな経済紙(誌)は個別の事例紹介にスペースを割けないからです。

一方、業界紙(誌)はさまざまな視点で、より深く紹介できるだけの紙面があり、事例紹介にはスペースをある程度割くことができるという事情があります。とくに、成功事例の紹介は業界読者に喜ばれますので、事例は大歓迎なのです。編集部訪問は情報交換することでさまざまな新しい企画を生み出すきっかけとなります。たとえば、「日経情報ストラテジー」にサービス担当者と訪問し、内容説明をした際には、その場で寄稿という形で企画を決めることができました。しかも執筆料も支払ってくれるというおまけつきです。サービス利用者に著名人がいる場合には、その方へのインタビューやレビューの企画ができますし、主婦系雑誌では、こちらが一般ユーザーをご紹介するという条件を持ち込み、ポイント使いこなし特集を実現したこともあります。

宣伝素材として「人」に着目し、手法、メディアの3つをうまく組み合わせていくと、無形商品であっても立体的なパブリシティをすることができ、多角的な視点での露出がパブリシティ特有の波及力を生み出し、相対的にサービスの認知度を高めていくことになるでしょう。

イラスト

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OPINION
いつからか、「主語」が消えた。
山田ズーニー 文章表現・コミュニケーションインストラクター

「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載中の「おとなの小論文教室。」で7年間、読者と「コミュニケーションについてのコミュニケーション」を続けている山田ズーニーさん。いわゆる「表現者」にとっての表現方法ではなく、私たちの日常生活の中でどのように自分を表現すべきかを見つめてきた。そのまなざしの原点をうかがった。

山田ズーニー氏
山田 ズーニー(やまだ ズーニー)
岡山県生まれ。株式会社ベネッセコーポレーションで小論文編集長をつとめた後、2000年独立。ワークショップ・大学講義・企業研修・執筆・講演活動などを通して、表現力・考える力・コミュニケーション力の育成に幅広く活躍中。著書に『あなたの話はなぜ「通じない」のか』(ちくま文庫)、『理解という名の愛がほしい』(河出書房新社)ほか多数。慶應義塾大学にてライティング技法・プレゼンテーション技法の2コマを開講中。
『ほぼ日刊イトイ新聞』にて「おとなの小論文教室。」連載中(http://www.1101.com/essay/)。
ラジオ「おとなの進路教室。」放送中
(http://www.jfn.co.jp/otona/)。

■「思い」を外に出せない若者たち

長年、出版社に勤め、高校生のための小論文雑誌の編集などを経験してきました。 フリーランスになってからは、文筆業のほか、子どもから大人までを対象とした文章表現やコミュニケーション力育成のための講座やワークショップなどを行っています。

そこで感じるのは、いまの若者は素晴らしい内面世界を持っていることです。音楽でも美術でも映画でも、世界の一流のものに触れて育ってきています。ものごとに対する理解力も高く、私が子どもの頃とは比較にならないほど多くの情報をインプットし、豊かな内面を築いている。でもそれをどのようにアウトプットしていいかわからず、そのギャップに苦しんでいると感じる場面が多いのです。

かつて高校生の小論文コンクールの審査委員をつとめたことがありました。多くの小論文を読み進めるにつれて、私はゾッとしました。どれもこれも、同じような内容だったんです。テーマは「いのち」でしたが、ほとんどの論文がテロや少年犯罪を例に書き進め、「だから命を大切にしよう」と紋切り型のオチ。それはセンセーショナルに事件を伝え、最後にコメンテーターがオチをつけて何事もなかったように次に進む、テレビのワイドショーと同じやり方だと思いました。何度読み返しても、それを書いた高校生の顔はまったく浮かんでこない…。おそらく彼らは、本当の思いや気持ちにフタをして、論文として大人から“期待されるもの”を一生懸命書いたのでしょう。胸が塞がれたような苦しい気持ちになりました。

自分の心にブレーキをかけている若者たち。内面にある考えや思いをアウトプットする術を知らず苦しんでいる彼らに、その方法を伝えたい――それがいまの私の仕事の原点になっています。

書くことだけでなく、自分の思いを人前で発表するようなことも、大学で教えています。

■自分と向き合い「言葉」を掘り出す

偉そうなことを言ってきましたが、私も外に向かって自分を表現することが苦手な人間でした。

最近の若者は地元志向が強く、進学も就職も自分の生まれた場所を離れたがらない傾向にあるようです。つまり、意思が狭い範囲で完結してしまっている。岡山で生まれ育ち、進学も就職も地元の私もまさにそうでした。

山田ズーニー氏

大学進学の際に地元を出る道もあったのでしょうけれど、姉が早く実家を出てしまったこともあり「実家に留まるべき」と自分を抑え込んでいたんでしょうね。あとで母はそんなことまったく期待していなかったことを知ったんですけど(笑)。私は母の思いを勝手に取り違え、それに流され、自分の本当の気持ちを抑え込んでいたんだと思います。だからまわりの期待に応えたいと一生懸命に頑張る高校生たちの気持ちがよくわかるのかもしれません。

大学卒業後、出版社へ就職し、高校生のための小論文雑誌の編集をすることになった私の問題意識は、次第に入試小論文という枠をこえ、高校生の自己発見や自己表現のサポートに向かっていきました。

自分でも気付かないうちに、自分の思いにフタをしている高校生。親やまわりに流され、「自分のやりたいこと」をやれないでいる。そんな彼らの思いに、風穴を開けることができたら。小論文を通じて、自ら考え、 自分らしい選択をできるようサポートしたいと強く思うようになったのです。

こうした「考える力の教育」は、高校生だけでなく、この社会に生きる多くの人が必要としています。自分が何を考え、何を伝えたいのか――自分自身と向き合い、自分の頭でしっかり考えること。それが一番大切だと思うのです。ですから文章表現の講座やワークショップの際は、氷山のように沈んでいる自分の内面と向き合い、そこにある考えを見つけ、言葉を掘り出す作業を行います。文章を書く以前に自分が何を伝えたいのか、じっくり考えてもらうのです。

■「主語」のある広報を

社員研修の場合も、この方法論は変わりません。まず社員一人ひとりに自分の思いを掘り出すところから始めてもらいます。会社と自分との関係を知る意味で、「会社の方針についてどう考えるのか?」というワークをします。会社と自分の方針が合わなかったらどうするのか。突き詰めるのが、コワイ。でも、合わないならどこが合わないのか考えればいい。自分の立脚点を明らかにした上で、会社の方針に沿った目標を立てればいいんです。一番危険なのが、企業の方針に合わないのに、無理やり自分を合わせてしまう人。会社の方針と自分の考えのズレに気づかず、何年も何十年も経ってから“裏切られた”と感じたとしたら、そんなのとても不幸じゃないですか。

社会人になると皆、一人称で語らなくなります。弊社、私ども、○○部では…と主語をいろいろ使い分けているうちに、当の自分自身の考えがよくわからなくなってしまうのではないでしょうか?どんな場合も“個”としての自分を持っておくこと。企業の一員として一人称で語れることが大切だと思います。自分の考えや立ち位置をしっかり認識した上で、会社としてのゴールを追い求めればいいのです。そのほうがずっと楽だし、長続きするはずですよ。

最後に企業広報について一言。いまどきの若者はものすごい量の情報のインプットがあるというお話をしましたが、学生にわかりやすいようにと“学生レベル”まで腰をかがめると「バカにするなよ、そんなこと知ってるよ」と言われてしまう。学生は私が考える数倍の情報と理解力を持っているけれど、それを外に向かってアウトプットしていないから気づかなかっただけなんですね。それは大人も同じだと思うんです。CMなどでメッセージを伝えるときも、顧客に対し必要以上に腰をかがめてしまってはいないでしょうか。アンケートをとってもそっけない反応しかなかったら、「わかってもらえただろうか?」と不安になるかもしれません。でも実際、顧客はとてもよく理解しているんじゃないでしょうか。もっと企業は顧客の内的世界を尊敬し、信頼すべきだと思いますね。(談)

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2009年度のコミュニケーションのキーワードは“ゼロ”!?
NTTアド コミュニケーションプランニング局長 中山順文

桜が咲き始め、いよいよ新年度が始まる季節です。そこで今回は、私が考える2009年度のコミュニケーションのキーワードについてお話したいと思います。

昨年は飲料系をはじめ、“糖質ゼロ”とか“カロリーゼロ”といった、いわゆる“ゼロ系食品”が、メタボ検診とともに話題になりました。しかし、いずれも大型のヒット商品までには至っておらず、自社の商品やサービスを顧客に対しどのようにアプローチしていけばよいのかという課題は、ますます大きくなっているようです。

■コミュニケーション・ギャップをゼロに -企業と顧客との距離感を縮める

このサブタイトルを読んで、従来から言われている「お客様志向」を想起される方が多いと思います。しかし私は、企業と顧客との距離感を縮めることとは、企業が発する“ブランドパワー”と顧客が形成する“ブランドバリュー”を一致させることであると考えます。企業は、商品やサービスが顧客にとってどのような価値をもたらすのかといったベネフィットを伝えます。顧客が、そのベネフィットを自分にとって価値のあるもの、商品の利用シーンを 想像できるものとして全て受け入れたとき、初めてコミュニケーション・ギャップがゼロになります。


図1

企業が考えた商品やサービスのコンセプトが顧客に受け入れられない場合には、顧客がどのような使い方をするのかを改めて把握し、顧客の形成している“ブランドバリュー”にコンセプトを合わせる必要があります。


図2

ここで忘れてはいけないことは、あくまでも“ブランドバリュー”とは、顧客が作っていくものであるということです。


■マスメディアへの先入観をゼロに -固定観念を捨てたコミュニケーションへ

ここ数年の傾向として、テレビを中心とするマスメディアの広告費が減少しています。従来のマスメディアの広告効果が低下していると言われて久しいですが、果たして的確なコミュニケーション設計が行なわれているのでしょうか。つまり、ターゲットの行動に合ったパブリシティやメディアの活用、いわゆるタッチポイント設計がされているかどうかです。この点は、今後ますます重要になってくることでしょう。

ただし、それだけで良いというわけではなく、いかに情報を発信していくべきかといった情報発信のフローを考える必要があります。通常は、ニュースリリースを発信し、メディアを活用した展開をするというプロセスを踏みますが、現代は情報があらゆるところから入手でき、CGM等で口コミが広まっていく時代ですので、いかに発売前を盛り上がらせるか、話題に上らせるかということが重要になってきています。つまり、ターゲットとなる層を中心にコミュニケーションの流れ(話題にさせる方法)と接点を検討し、そこで何を経験させるかということを吟味することが必要ではないでしょうか。

まとめますと、顧客との距離を縮めるためには、1.共感性のあるクリエイティブ 2.実感に合わせたクリエイティブ 3.話題にさせ、経験効果を高めるためのタッチポイントの設計 4.情報フロー(PDAサイクル)の設計といった口コミの拡がりを強く意識したコミュニケーション・デザインが重要になると思います。

■“ゼロ”発想が、顧客とのコミュニケーションを活性化する

今回のコラムでは、新年度が始まる時に“ゼロ”にする、“ゼロ”から物事を考えるということに基点をおいてみました。コミュニケーションは、相手がいるということを忘れては成り立ちません。一方通行のコミュニケーションは、コミュニケーションとは言えません。相手に受け入れられてこそ成り立つものであり、企業コミュニケーションもそうであるべきだと私は考えます。企業が相手にするのは、あくまでも顧客が構成する社会です。顧客や社会の価値観に合わせ(迎合することではありません)、従来のやり方やマスメディアに対する先入感をゼロクリアにして、効果的に情報を発信し、企業と顧客のコミュニケーション・ギャップをゼロにするという発想が2009年度には必要ではないでしょうか。


※“ゼロ系食品”に関する分析は弊社のホームページに掲載予定です。ご興味のある方は是非ご覧ください。

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「目黒発」とのコラボレーションにより、NTTグループ会社広報連絡会を開催
Text by 編集部

去る2月18日、東京コンファレンスセンター・品川において、NTTグループ各社の広報ご担当者を招いて、「第七回グループ会社広報連絡会」が開催された(NTTアド第四営業局主催)。今回は本誌とのコラボレーションにより、前号(vol.20)の鼎談に登場されたダイヤモンド社取締役・辻広雅文氏による講演「経済危機における広報発想」を実施。

辻広氏
辻広氏の講演の様子

辻広氏は、100年に1度とされる世界的な経済不況について、円安・低金利を背景にした、いわゆる日本の「輸出バブル」は完全に崩壊し、以前のような経済状況に戻ることは極めて困難であると予測。こうした状況下であるからこそ、NTTグループの広報担当者は、自社のビジネスモデルや経営戦略の見直しポイント、さらにNTTグループのブランド力である「信頼性」を改めて理解することが重要であると指摘した。

このほか、NTTアドメディア局長・樺沢正人による講演と、参加者全員による懇親会が行われ、連絡会は盛況のうちに幕を閉じた。

このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第21号(2009年3月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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