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コラム「広報で差が出る企業の危機管理」

危機管理と広報戦略は表裏一体である

駒橋恵子 東京経済大学コミュニケーション学部助教授

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■企業事件は10年前の2倍以上に
■法律だけでなく世論を意識せよ
■全社員が広報マインドを持とう


■企業事件は10年前の2倍以上に

 近年、企業不祥事や企業事件の報道は急増している。毎日のように特定企業の不祥事や問題点が指摘され、解決する間もなく次の事件が発覚する。それも社員の私利私欲による横領などではなく、長年続いた談合や粉飾決算の露呈が多く、経営陣が逮捕・起訴されたり深刻な事態が相次いでいる。

 ちなみに、記事データベース「日経テレコン21」で「不祥事」をキーワード検索すると、日経・読売・毎日・朝日の4紙合計で年間1万件以上の報道件数(10年前の4倍以上)である。また、企業事件は更に多く、「事件」と「社」をキーワードにして検索すると、前述の4紙合計で年間4~5万件に上る。同時期から企業の謝罪も増加しており、「謝罪」と「社」をキーワードにしてクロス検索すると、2005年には前述の4紙合計で年間4000件を超える。事件も謝罪も、10年前の2倍以上の件数である。

 これだけ毎日、大量のネガティブな企業事件が報道され、トップ経営者が頭を下げた謝罪風景とともに、一般家庭へ配信されているという事実を、トップ経営者はまず認識すべきだろう。

 企業不祥事のニュースはネガティブなイメージにつながる。しかも最近はテレビニュースやワイドショーでも、企業事件は大きく取り上げられている。そのうえ経済事件は視覚的に仕組みが見えないので、一般人はマスコミの背景解説を通して事情を理解する傾向が強い。テレビや新聞の情報を鵜呑みにした半可通が、ネットに「関係者に聞いた話」と偽り、自分の意見を交えて針小棒大な書き込みをすることも多い。

 パソコンや携帯電話の普及でネットによる情報が氾濫し、匿名によ もちろん不祥事や事件は、広報部門の力だけで抑止できるものではない。危機発生時には、トップ経営者の即断がなければ迅速な謝罪や原因究明ができないし、全社員が問題意識を共有して再発防止に邁進しなければ、いつまでもニュースの続報が続き、ネガティブな情報が流通してしまう。危機を抑止する際にも、全社員が広報マインドを持ち、透明性の高い経営を実現することが重要である。  謝罪会見の反省の弁で一番多いのが、「風通しの悪い社風だった」というものである。トップ経営者が現場の声を聞いていない、業務が縦割りで社員間の仕事内容が見えない、役員間に確執がある、関連会社との情報伝達が悪い…など、長引く事件の謝罪会見では、必ずといっていいほど、社内コミュニケーション齟齬の問題が原因として挙げられる。  危機の根本原因は、コミュニケーション齟齬があっても日常業務には支障がないし、法に触れず業績が上がるならどんな方法を駆使してもよい、という発想である。全社員が広報マインドを持ち、積極的に部門間で連携を保ちながら業務を進めていけば、何か不具合が発生した時に誰かが問題意識を持つはずである。その芽を吸い上げ、前向きに改善策を打ち出し、事業戦略を修正していくのはトップ経営者の責任である。  不祥事や事件が長引けば、ブランドイメージは低下し、業績は下方修正され、株価は下落し、人的資源は流出する。大きな経営資源の損失につながるということを認識すべきである。「情報開示」というと会計数値だけが先立つ傾向があるが、企業行動を積極的に社会に示し、透明性が高い経営を行うことが最大の危機管理である。それは企業の広報戦略そのものであり、トップ経営者が筆頭に立って進めていくべき課題である。危機管理と広報戦略は表裏一体だということを認識し、社会常識に照らして後ろ暗い部分がない経営を目指して全社員が共有意識を持つことが、最大のリスク防止策といえよう。る内部告発が容易になったことで、不祥事や事件が増加しているという一面もあるだろう。情報社会での爆発的な情報伝達力を考慮すると、何らかの不祥事の萌芽を早期に発見し、よほど真剣に対応しなければ、事実が露呈し、傷口が広がるのは時間の問題である。

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■法律だけでなく世論を意識せよ

法律だけでなく世論を意識せよ
 コンプライアンス(法令遵守)の徹底が強化され、当局は経済犯罪の取り締まりに本腰を入れている。しかし最大の問題は、近年の不祥事や事件はリーガルチェックだけでは解決しないことである。法的には無実でも、社会的に非難を浴びた事件は多数ある。

 最近では、日本銀行の総裁が村上ファンドへ出資して利益を得たことで、現行の法律や行内規定に違反していないのにバッシングを受け、衆議院の財務金融委員会に参考人招致されて陳謝し、更に報酬を返上した。雪印乳業は食中毒事件の謝罪会見で当時の社長が失言を繰り返してスノーブランドの信頼感にダメージを与え、大阪工場長も取締役も無罪判決を受けたが雪印グループは解体された。社会的制裁は法的裁きよりも重い。

 法律違反や刑事責任がなくても、「社会の常識」に違反し、庶民感情を逆なですれば、バッシングを受ける。だからこそ社会の常識を常に「広聴」する双方向コミュニケーションの感覚が必要になる。迅速で正確な情報発信や、関係者への連絡、マスコミの取材対応や謝罪会見など、広報戦略の基本が試される項目も多い。不祥事や事件が発生したとき、緊急対策本部は広報部に置かれることが多いのは、そうした理由である。

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■全社員が広報マインドを持とう

 もちろん不祥事や事件は、広報部門の力だけで抑止できるものではない。危機発生時には、トップ経営者の即断がなければ迅速な謝罪や原因究明ができないし、全社員が問題意識を共有して再発防止に邁進しなければ、いつまでもニュースの続報が続き、ネガティブな情報が流通してしまう。危機を抑止する際にも、全社員が広報マインドを持ち、透明性の高い経営を実現することが重要である。

 謝罪会見の反省の弁で一番多いのが、「風通しの悪い社風だった」というものである。トップ経営者が現場の声を聞いていない、業務が縦割りで社員間の仕事内容が見えない、役員間に確執がある、関連会社との情報伝達が悪い…など、長引く事件の謝罪会見では、必ずといっていいほど、社内コミュニケーション齟齬の問題が原因として挙げられる。

 危機の根本原因は、コミュニケーション齟齬があっても日常業務には支障がないし、法に触れず業績が上がるならどんな方法を駆使してもよい、という発想である。全社員が広報マインドを持ち、積極的に部門間で連携を保ちながら業務を進めていけば、何か不具合が発生した時に誰かが問題意識を持つはずである。その芽を吸い上げ、前向きに改善策を打ち出し、事業戦略を修正していくのはトップ経営者の責任である。

 不祥事や事件が長引けば、ブランドイメージは低下し、業績は下方修正され、株価は下落し、人的資源は流出する。大きな経営資源の損失につながるということを認識すべきである。「情報開示」というと会計数値だけが先立つ傾向があるが、企業行動を積極的に社会に示し、透明性が高い経営を行うことが最大の危機管理である。それは企業の広報戦略そのものであり、トップ経営者が筆頭に立って進めていくべき課題である。危機管理と広報戦略は表裏一体だということを認識し、社会常識に照らして後ろ暗い部分がない経営を目指して全社員が共有意識を持つことが、最大のリスク防止策といえよう。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第6号(2006年9月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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