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コラム「広報で差が出る企業の危機管理」

危機発生時には初期の広報対応が決め手

駒橋恵子 東京経済大学コミュニケーション学部助教授

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■参天製薬のリコール対応
■オリエンタルランドの謝罪会見


■参天製薬のリコール対応

 不祥事が発覚した時、あるいは事故・事件が発生した時、企業のクライシスマネジメントが不十分であると、事態は社会的大事件に発展する。早期に解決するか大事件に発展するかの分岐点は、初期の迅速な広報対応である。

 危機発生時の広報対応の好事例として有名なのは、参天製薬のリコール対応だろう。事件は2000年6月14日朝、同社社長宛に、現金2000万円を要求する脅迫文が届いたことから始まる。「応じない場合は異物を混入した目薬をばらまく」と書かれており、異物を混入した現物が添えられていた。同社はすぐに警察へ通報し、出張中の社長に連絡して帰社を促し、夕方には対応チームを立ち上げている。リコールにかかる直接経費を見積もり、新パッケージの開発に着手。記者会見や社告の準備にも取りかかった。

 翌日午後3時、犯人は現金授受の現場に現れなかったが、同社は厚生省にリコール決定を報告し、午後7時には記者会見を開いて、社長自らが事件の概要と一般目薬約250万個を回収すると発表した。自社のWebサイトにも社告を掲載する。

 事件発生3日目(16日)には朝刊各紙に社告を掲載し、お客様相談室の回線を増設して照会に応じた。4日目には店頭からの全対象製品の撤去を完了。医薬部門のMR(医薬営業担当者)も応援に回り、全社を挙げての緊急体制である。同日にはWebサイトの情報を更新して回収状況を掲示している。更に事件発生9日目(6月22日)、Webサイトで、店頭撤去完了の報告と新パッケージの製品を6月末から製造開始すると発表した。

 ニュースで事件が大きくなることも多いが、参天製薬の場合はニュースが事件を解決してくれた。犯人はコンビニの店内で脅迫文をコピーし、そのメモを忘れていたのを店員が保管していたのだが、ニュースを見た店員が警察に届けたのである。23日夜に犯人は逮捕された。事件発生から10日目である。犯人が逮捕されたが、消費者の不安を完全に払拭するために、その5日後(28日)に新パッケージの生産が開始され、7月4日(事件発生から20日目)に全国で販売を再開した。リコールに伴い、13億円の減益修正が行われたが、同社の株価はすぐに回復した。参天製薬には何の落ち度もなく、むしろ被害者ともいえる事件を契機として、消費者の安全を最優先する企業姿勢を社会に示すことができたといえよう。

参天製薬の新パッケージの目薬 参天製薬への脅迫事件によって導入された
新パッケージの目薬。
透明フィルムで熱収縮ラッピングされ、
容易に改ざんできないようになっている。

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■オリエンタルランドの謝罪会見

 東京ディズニーリゾートを経営するオリエンタルランドの場合も、迅速な謝罪会見で不祥事報道を最小限に食い止めた好事例である。

 2005年5月20日、オリエンタルランドが右翼関連企業に清掃業務を委託していたことが読売新聞の朝刊でスクープされた時、同社は迅速に謝罪会見を行った。正午のニュースに間に合うタイミングで、社長自ら頭を下げ、「疑われても仕方がない部分があった」と事実関係を認めた上で、委託契約満了後の取引停止を表明したのである。各紙は夕刊・翌朝刊で報じたが、他紙に抜かれたネタであり、すでに会見が開かれているせいか、ニュースの扱いは小さい。

 スクープから5日後の25日、同社は全取引業者の調査を行うと発表し、更に翌26日には再発防止策をまとめて発表。また委託企業から右翼幹部への報酬が支払われていたことが確認されると、6月2日に取引の即時中止を発表している。更に不適切な取引を反省して17日には社長と役員21人が役員報酬を返上するなどの処分を発表するなど、矢継ぎ早の対応だった。

 注目企業の不祥事にもかかわらず、一連の報道スペースは小さめで会見内容以外の情報はあまり入っていない。広報が迅速に対応し、取材される前に先手を打って事実関係と対応策を発表すれば、事件は最小限のダメージで抑えられるという好例といえよう。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第5号(2006年7月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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