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コラム「広報で差が出る企業の危機管理」

「風評」のネガティブな影響力を認識しよう

駒橋恵子 東京経済大学コミュニケーション学部助教授

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■風評はネット上を駆け巡る
■情報が曖昧だと噂は大きくなる


■風評はネット上を駆け巡る

「風評」のネガティブな影響力
 インターネットの普及により、パソコンや携帯電話を通じて「噂」が飛躍的に速く広く拡散するようになった。かつては少数の友人同士の噂話として語られていたような内容が、転送機能や一斉配信機能によって多人数の知人に送信されている。また、根拠のない推測話がネット掲示板や個人ブログに書き込まれ、不特定多数の目に触れることもある。

 噂にはプラス・マイナス両方の側面がある。プラスの側面を活用し、ポジティブな内容の噂だけを意図的に流す方法が「口コミ・マーケティング」で、今やプロモーションの一方法となりつつある。主婦や女子学生を「モニター」として登録し、試供品や新商品情報を送付して意見を聞いたり、知人に商品を紹介してもらったりする方法であり、ネットを活用した双方向コミュニケーションなら、企業側の通信費もそれほどかからないし、情報の受け手にとって、「友人の体験談」はテレビCMや店員の勧誘より地味だが信憑性が高い。

 これと同じ効果がネガティブに発揮されるのが「風評」である。特に近年は、「あの会社は危ないらしい」「会計処理に不正があるらしい」など、ネットの中で企業を誹謗中傷する書き込みが後を絶たない。「噂がある」という事実をマスコミが取り上げることも多い。

 もちろん「風説の流布」は証券取引法で禁じられている。しかし、株価の動きと噂の因果関係と、噂の流布に株価を変動させる目的があったかどうかが立証されなければならないため、証券取引等監視委員会に調査を依頼しても刑事告発に至ることはほとんどない。

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■情報が曖昧だと噂は大きくなる

 [噂の大きさ=事象の重要性×情報の曖昧さ]である。重要な事象に曖昧さがあれば、風評は当然に大きくなる。実際、戦争時や地震発生時には、情報遮断による不安感が引き金となって虚偽の風評が流布しやすいことが確認されている。1991年の雲仙普賢岳噴火時や、1995年の阪神・淡路大地震でも、余震や津波などの二次災害の噂が住民の不安をあおった。

 原子力発電所の建設についても、周辺の農民・漁民は「放射能にからむ風評で本業に被害が生じるかもしれない」という理由での反対運動が根強い。どんなに科学的に安全であると証明されていても、近隣で収穫した農産物や魚介類について「危ないかもしれない」という懸念を消費者が持つ可能性があれば、流通業者は入荷しない。それは生産者にとって売り上げの減少につながる。類似のケースとして、昨年は鳥インフルエンザの風評被害で、多数の養鶏業者が打撃を受けたことは記憶に新しい。

 「あの銀行がつぶれるらしい」という噂も、古くからある。歴史的には、昭和金融恐慌時(1927年)、渡辺銀行の破綻が有名である。当時の大蔵大臣が「渡辺銀行」の休業の内報を早まって報告し、これが噂として広がって取付騒ぎ(預金解約のために多数の人々が窓口へ殺到すること)となって破綻した。しかもこの騒動を新聞が報道したことで全国に「うちの銀行も危ないのではないか」という風評が拡散し、わずか半年で37行が破綻している。また、1973年12月の豊川信用金庫のケースでは、オイルショック直後の「信用金庫は大丈夫だろうか」という素朴な不安が風評を呼び、ついには地域のアマチュア無線で「豊川信金がつぶれるらしい」という情報が流れて、大量の預金が解約される騒ぎとなった。2004年末にも「佐賀銀行がつぶれるそうです」という携帯メールが大量に転送配信されて、個人預金が大量に解約されている。

 「悪い風評がある」ことは消費者の購買行動に影響があるだけではない。企業間取引や銀行融資の際の懸念材料となる。したがって、事実の有無にかかわりなく、風評があるというだけで株価は敏感に反応する。そのような購買行動や投資判断は、ほんの少しの動きかもしれないが、確実な市場の動きとしてニュース報道の対象となる。つまり、単なるウワサだと侮っていると、風評は関連する事実を付加してどんどん拡大していくのである。

 「噂はメディアを経由するたびに信憑性を与えられ、多数の家庭に入り込む」といわれる。ネット掲示板の書き込みは、たとえ削除申請が通ったとしても、それを読んだ人々の心に焼き付く。一般週刊誌が「○○の疑惑」などという見出しをつけて電車の中づり広告にすれば、何十万人もの乗客がその「疑惑」を目にし、ときには同僚や家族に話を伝えていく。噂が拡大していけば、一般新聞やワイドショーも取り上げて、更に噂は全国に広がる。

 このように、虚偽の風評は業績や資金調達に悪影響を与える。危機管理項目の「コミュニケーション・リスク」だと認識すべきであろう。口コミのネガティブな影響力を考慮し、火種を早期に発見して明確に否定していくという積極的な広報姿勢が望まれる。ただし、噂は本当に虚偽なのかを確認しなければ、「火消し広報」にすぎない。昨今の粉飾決算や談合事件のように、「隠しておきたかった事実」が漏洩したのであれば、それは事実であって「風評」ではない。最も有効な風評対策は、曖昧さのない情報を正直に発信して透明性のある企業となり、悪い噂の発生する余地のない信頼性を確保することである。
このコンテンツはNTTアドのPR誌『目黒発』第3号(2006年3月発行)からの転載です。
発行時から内容/見解/肩書などに変更のある可能性がございますので予めご了承下さい。

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